渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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事務所では(1)

 鳴海とのお出掛けをした翌日、神谷奈緒と北条加蓮が二人で事務所で話していた。

 椅子に座って、足をブラブラとぶら下げながら奈緒が得意げに言った。

 

「でさぁ、カラオケでアニソン歌ったらクラスの子もノってくれてさぁ」

「奈緒ってどんなアニメ見てたっけ?」

「へ?プリキュアとかしゅごキャラとかだけど?あとはロボットものも好きだなー」

「………そういう曲ばかり歌ってるの?」

「ああ、この前はそうだな」

「………私、奈緒とは絶対カラオケ行かない」

「な、なんでだよ!」

「上手くノれる自信ないもん」

「あたしだって一緒に行く相手と歌う曲くらい選んでるよ!」

 

 そんなカラオケトークで盛り上がってると、スマホをいじりながら凛が入って来るのが見えた。

「おっ」と声を漏らした奈緒は早速、声を掛けようとした。

 

「あ、おーい。りぶっ⁉︎」

「待った」

 

 それを加蓮が奈緒の口を勢いよく手で押さえて阻止した。

 

「………おい、強く口押さえすぎだろ。鼻血出ちゃったじゃんか………」

「ご、ごめん……。ティッシュいる?」

「いる……」

 

 加蓮から受け取ったティッシュを詰めながら、奈緒は聞いた。

 

「どうしたんだよ」

「………凛の様子を見て」

 

 加蓮の指差す先では、凛が椅子に座ってスマホをいじっていた。

 

「………あれがなんだよ」

「………あれ、ゲームやってない?」

「…………?」

 

 そう言う通り、両手の親指を使ってスマホの画面を滑らせたりタッチしたりしている。

 

「凛って、ゲームとかやる子だったっけ?」

「あー確かに……珍しいな」

 

 納得する奈緒に、引き続き加蓮は呟いた。

 

「それにさ、最近なんか楽しそうじゃない?何というか……ご機嫌というか……」

「あー確かに。遠足が終わった後の小学生みたいだよな」

「うん、楽しい事があった後みたい」

「………最近、その……あたしをいじる事も減って来たし………」

 

 その奈緒の発言に、加蓮は引き気味に聞いた。

 

「えっ、何それ。もしかして、いじられたいの?そういう趣味?」

「そ、そんなわけないだろ!」

「え、だって残念そうに言うから……」

「そ、そんな残念そうになんて言ってない!」

「まぁ、奈緒の性癖は置いておくとして、ちょっと気になるよねー。最近の凛」

「待て!あたしは別にドMってわけじゃないぞ!」

「………ちょっと後ろから覗き込んでみようか」

「お、おい加蓮!」

 

 奈緒の反論を徹底的に無視した加蓮は楽しそうに凛の背後に忍び寄った。奈緒はそれを止めるように後ろをついて行った。

 背後に立つと、加蓮は胸前で両手を構えて一気に凛の肩に両手を置いた。

 

「わっ!」

「ひゃうっ⁉︎」

 

 突然、声を掛けられて凛の肩は震え上がった。お陰で凛は音ゲーのフルコン失敗した。お陰で恨みがましそうな目で睨まれてしまった。

 その事をあまり把握できてない加蓮は、何食わぬ顔でしゃあしゃあと聞いた。

 

「何してんのー?」

「……………」

「あれ?怒ってる?」

 

 凛は黙ってスマホをポケットにしまうと、加蓮の方を振り返った。

 そして、中腰になり、若干前かがみになって肘を腰に当て、両手を半開きにして前に構えた。いかにも「突撃します」といった構えだ。

 

「……え、なにその構え………」

 

 加蓮はビビって一歩後ずさったが、奈緒がいつの間にか自分の背中に隠れていて動けない。

 目を離した一瞬の隙を突いて凛は床を蹴って突貫した。直後、加蓮は横に身を翻して避けた。

 

「ちょっ⁉︎」

 

 後ろにいた奈緒がとばっちりに合い、脇腹に凛の指が突き刺さり、細かく動いた。早い話が、くすぐられたのである。

 

「り、りんっ!やめっ……あははははっ!あ、あたっ、あたしだから!あたしだか……あはははははっ!」

 

 すると、加蓮が奈緒の後ろに回り込み、後ろから脇の下に手を差し込んだ。

 

「っ!な、なんでお前までやってんだああああはははははは!」

 

 前後からくすぐられ、奈緒は全力で体をよじるが、2対1なのでかなわない。

 

「お、おまっ……!せめて凛は違うだろおおおお!」

 

 奈緒がそう言った直後、凛の腕は奈緒の腕と身体の間を通り抜けて加蓮の脇腹を掴んだ。

 

「あははははははっ!り、凛やめてええええはははははっ!」

「お前がやめろおおおおおはははははっ!」

 

 このくすぐり合戦はしばらく平行線を辿り、疲れ果てて三人で近くの椅子に座り込んだ。

 ハァ、ハァ、と三人揃って肩で息をしてると、とりあえず、と言った感じで凛が奈緒に聞いた。

 

「………なんで鼻にティッシュ詰めてんの?」

「……さっき、加蓮に口押さえられた時に、親指の関節が鼻の頭に直撃したんだよ」

「ご、ごめんね、わざとじゃなかったんだけど……」

「いや、別に怒ってないが」

「似合ってるよ」

「嬉しくないわ!」

 

 そこを指摘してから、奈緒は「で?」と仕切りなおすように聞いた。

 

「何やってたんだ?さっきスマホいじりながらここに来てただろ。それが気になって加蓮はあんなことしたんだから」

「ああ、あれ?」

 

 聞かれて、「えーっと……」と呟きながら凛はスマホの画面を二人に見せた。

 

「へぇー、jub○at?」

「そう。これに今ハマっててさ。見ててみ」

 

 そう言うと、1曲プレイし始めた。見事にフルコンし、ドヤ顔を見せると、見事に奈緒は目を輝かせた。

 

「へぇー、面白そうだな!」

 

 早速といった感じでアプリをインストールし始める奈緒を放っておいて、その隣の加蓮は凛に聞いた。

 

「………なんで凛はこのゲームを始めたの?」

「へっ?」

「だって凛ってゲームとかやるタイプには見えないもの。それにほら、最近は奈緒の事あまりいじらないじゃない?」

「……ああ、うん。ちょっとね」

「ちょっと?」

「最近、学校に友達が出来て。その人とこの前出掛けたんだけど、太達、jub○at、洗濯機、グルコスとか音ゲーやって全部完封負けして……それで練習してるんだ」

「へぇー。どんな子なの?」

「んー、男子なんだけどね」

「男⁉︎」

「そう、一個上」

「ど、どうやって知り合ったの⁉︎」

 

 男だと分かった時点で俄然食い付き始める加蓮に、半ば呆れながらも凛は説明した。

 

「ハナコって分かるでしょ?」

「うん、凛の家の犬だよね」

「そう。それがその人に噛み付いちゃってさ。そこから知り合ったんだ」

「へぇ〜。イケメンなの?」

「んー、そこそこ?イケメンといえばイケメンだけど、ジ○ニーズに入る程じゃないみたいな。身長も私より少し低いくらい……160くらいだから小柄な方」

 

 へぇ〜っと、加蓮は相槌を打ちながら重要な事を聞いた。

 

「中身は?どんな人?」

「奈緒っぽい子」

「へっ?」

 

 その一言過ぎる紹介に反応したのは奈緒だった。名前を急に呼ばれたからか、ハッと顔を上げた。

 それを見て、若干意地の悪そうに微笑みながら凛は続けた。

 

「なんかいじり甲斐があるって言うか、一々反応が面白いっていうか……可愛い人だよ」

「と、歳上をいじってるのか凛は……」

「まぁ、スペックは奈緒よりも高いから、奈緒よりもからかいにくい所もあるんだけどね」

「あ、あたしを比較対象にするのはやめろ!」

 

 奈緒が反論すると、加蓮が思いついたように別の質問をした。

 

「あ、だから最近、奈緒をいじらなくなったの?」

「んー、あんま意識したこと無いから分からないけど、そうなのかも」

「むっ……」

 

 その質問に平気な顔で凛が答えると、何故か面白くなさそうな顔をする奈緒だった。

 

「どうかしたの?奈緒」

「別にー?」

 

 凛に聞かれてもぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く奈緒。それを見て、加蓮がニヤリと微笑んだ。

 

「何々、ヤキモチ?」

「は、はぁ⁉︎違う!別にそういうんじゃ……!」

「奈緒ってば、本当はいじられるの大好きだったんだ」

「ち、違う!おいやめろお前ら!手をワキワキさせながらこっちに来るな!」

「掛かれー!」

「ちょっ、お前らっ……やめっ、あはははは!」

 

 再度、くすぐりが始まった。

 

 ×××

 

 レッスンが終わり、帰宅中に加蓮がふと思い出したように凛に聞いた。

 

「………そういえばさ、凛」

「? 何?」

「その奈緒っぽい男の人と出掛けたって言ってたよね」

「うん、そうだよ」

「………二人で出掛けたの?」

「うん」

 

 それを聞くなり、奈緒と加蓮は顔を見合わせた。「何?」と凛が首をかしげると、奈緒が言いづらそうに言った。

 

「………なぁ、それってデートか?」

「え、違うけど」

「………いや、でも異性と二人きりで出掛けたんだろ?」

「そうだよ?でもほら、だからってデートとは限らないじゃん」

 

 そう言われ、加蓮は思わず「その人、可哀想……」と呟いた。

 

「そんなことないよ。誘って来たのは向こうだもん」

「へぇ、凛ってモテるの?」

「いや、そういうんじゃないから。彼にはその気はないと思うよ」

「え?でも、向こうから誘ってきたんでしょ?」

「そうだけどさ、なんか特に何も考えずに誘ったら『よく考えたらこれデートじゃない?』って途中で気付いて、誘うのやめようとしてたし」

「あー……なるほどなー」

「ちなみに、もし告白されたら凛はどうするの?」

「ないない。優しい人だけど、私は男らしい人の方が良いから」

「ふーん……つまんないのー」

「そんなこと言ってるけど、凛ってツンデレって奴なんじゃないのかー?」

「346事務所ツンデレ部門最優秀賞の奈緒に言われたくない」

「な、なんだよ、そのコンクールは!そんな賞取ってないし、あたしはツンデレじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして奈緒が食いかかると、加蓮がマ○クにぶら下がってるポスターを指差して言った。

 

「ねぇ、今日ポテト150円だって!寄って行っても良い?」

「良いね、行こうか」

「お、おい凛!………ったく、お前ら……」

 

 三人はマ○クに入った。

 

 


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