渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

53 / 55
年越し(1)

 31日。俺と凛は結局、旅行とか行かないで凛の家に泊まることになった。ハナコ様は相変わらず狂犬で、家に上がろうとすると襲い掛かってきたが、なんとか凌ぐことが出来た。

 で、今は風呂と夕食を終えた所。飯中はご両親(特に父親)から小機関銃のような尋問とも言える質問攻めに遭い、正直言ってかなり気を使った。

 まぁ、大事な娘さんと少なからずお付き合いさせていただいてるわけだし、そこは仕方ないと認めざるを得ない。

 そんな事を思いながら、鞄を持って凛の部屋に入った。直後、二人揃ってニヤリと微笑む。

 

「「さー、二次会だぁー!」」

 

 そう言って、まずは部屋のベッドにダイブ。凛は折り畳みの机を出し、俺は鞄の中からオヤツとジュースをサモン。

 そして何より、必要なのはゲーム。今日のゲームは、マリオオ○ッセイ。ついに買ってしまいました。2人でお金を半額出しあったので、そこまで響かない。

 すると、準備を完了した凛が俺の膝の上に座った。

 

「んー……ナルの匂い……」

「お前は犬か」

「犬で良いよ……。ナルの犬なら」

「……犯罪っぽい発言は止めような」

「さ、始めよっか。二次会」

「そうな」

 

 そう言って、二人でジュースをコップに注いで乾杯した。

 

「いやー、はしゃごうね、今日は」

「ああ。何やる?」

「まずはゲームでしょ!」

「良いね。あ、ティッシュ用意しとこう。ベタベタになった手でコントローラ触りたくないでしょ?」

「それもそうか」

 

 凛がティッシュを取りに行ってる間、俺はマリオを起動する。おお……ワクワクする音楽だな、なんか。

 膝の上の凛が、俺の胸に頭を置きながら呟いた。

 

「私、マリオって初めてなんだよね」

「え、そうなの?」

「うん。ほら、ゲームに興味出たのが今年からだったから」

 

 あーなるほど。なら、言うべきだ。

 

「マリオって思ってるより難しいから」

「え、そ、そうなの? 小学生向きなのかと……」

「いやいや。全クリはさほど難しくなくても、それなりだから」

「そうなんだ……」

 

 まぁ、昔のマリオは全クリすら難しかったからなぁ。それか比べれば随分と最近のは楽になった。その分、やり込み要素がえげつないけど。

 ゲームを開始すると、まずはムービー。船の上から、いきなりクッパとマリオの戦闘シーンだ。

 

「うわあ……ちゃんと見るのは初めてなんだけど、クッパって思いの外、カッコ良いんだね」

 

 凛がそんな事を漏らした。流石にマリオシリーズをやったことのない子でも、クッパって名前は知っていたようだ。

 

「まぁ、ゲームのレベルが上がるにつれて、キャラデザも徐々に変わっていくからな」

 

 ファミコンのマリオしかやったことない人が今のマリオ見たら、それはもう驚くだろう。

 そうこうしてるうちに、ムービーではマリオがぶっ飛ばされ、帽子が細切れになった。

 

「……え、負けたの?」

「まぁ、最初はマリオ負けるからな。負けないとピーチ連れて行かれないし」

「あ、なるほど……」

「で、ここから冒険の旅でしょ」

「え、でも帽子は?」

「それが今回のマリオのキーだって」

 

 絶対面白いね。ファイヤーとアイス以外の遠距離攻撃なんて初めてだし。

 で、今回のゲームのオリジナルキャラクター「キャッピー」に帽子を拾われ、二人は初めてのご対面を果たす。

 が、キャッピーが逃げてしまい、そこでようやくマリオが動かせるようになった。

 

「あ、マリオどっちやる?」

「私」

「はいはい……」

 

 凛が張り切ってコントローラのボタンを押した。3D操作はなかなかに難しいが、モンハンで慣れてるため、とりあえずは大丈夫そうだ。

 

「ふーん……ジャンプとか段階があるんだ」

「そうだね。今のうちに基本操作覚えておいた方が良いかも」

「やっぱりマリオだから踏むだけ?」

「踏めない敵も出て来るらしいよ。その辺はキャッピー投げれば良いと思うから」

「なるほどね」

 

 ポテチを摘み、ティッシュで拭くと、再びコントローラに戻して動かす凛を眺めながら、俺もポッキーを摘んで齧った。

 すると、再びキャッピーと合流した。なんかお話しして、とりあえず一緒に旅することになった。

 

「あ、これもう二人でできるんじゃない?」

「そっか。どうやるんだ……?」

「オプションからじゃない? あ、ほらあった」

「おお、さんきゅ……って、うおっ。もう分離出来んじゃん」

 

 マリオの帽子が縦横無尽に駆け巡り、あたりのコインを獲得する。

 

「わ、帽子でコインも取れるんだ」

「敵も倒せるらしいんだよね」

「なんか、あれだよね。ずっと昔からある帽子とようやく戦えるって感じだよね」

「まぁ、感じっつーかそうなんだけどな」

 

 そんな話をしながらゲームを進める。が、マリオ慣れしてない凛はさっさと進めてしまう。

 

「あ、凛。その辺でコインとか探索しない?」

「いいよ、ここはチュートリアルでしょ?」

「そりゃ、まぁそうなんだけど……」

 

 まぁ良いか。サクサク進めていると、カエルを見掛けた。

 

「あ、CMで見た……」

「そうそれ」

「やりたい」

「任せろ」

 

 帽子だけ出発し、カエルに乗り移った。初めてだからか、口に吸い込まれるムービーが入った。

 

「おぉ〜……すごい」

「それな。どんなカラクリなんだろうな」

「細胞が……適合した、的な?」

「いや真面目に答えなくて良いから」

「なんか、マリオって便利だよね」

「一家に一台欲しいみたいに言ってやるなよ」

 

 笑いながらそんなふうな会話をし、ゲームを進める。扉の中に入り、塔の上にいる船を討伐しに行かなければならない。

 

「あれボス? いきなり?」

「チュートリアルなんてそんなもんだよ」

「へぇー。勝てるの?」

「勝てないわけないでしょ。凛次第だけど」

「任せて。瞬殺するから」

「フラグにしか聞こえねえ」

「うるさいよ」

 

 まあ、マリオは基本、ジャンプで全ての敵を倒せるからな。深呼吸して戦闘を開始した。

 

 ×××

 

 一時間後、ようやくボス倒した。最初の。や、まさか冒険に出るのに一時間かかるとは……。

 俺が殺そうとすると「私がやる」の一点張りで押し倒してくるし……。そういうのどきっとするからやめて。未だにくっつくと少し心臓がうるさくなるんだから。

 で、一方の凛は項垂れていた。膝の上で。子供用のゲームで手こずったのが恥ずかしいんだろう。まぁ、よく勘違いされるけど、マリオって子供用ゲームじゃないんだけどな。

 たまにいるんだよねー、モンハンからゲーマーデビューしてる奴とか特に。マリオカービィドラクエとかの有名どころを見下す奴。

 まぁ、とにかくそれで凛はショックなんだろう。

 

「……私、マリオのセンスないのかな……」

「マリオっつーか、ゲームの……」

「……何?」

「いだだだだ! 抓るな! 抓るなって!」

 

 結構、力強いんだから!

 

「はぁ……なんかもう疲れた」

「や、チュートリアルなんだけど」

「少し休憩」

 

 自由気ままにそんなことを言うと、俺の胸を背もたれのように使って体重をかけて来た。

 

「んー、ナル暖かい……♪」

「はいはい……」

 

 凛の事を抱き抱え、後ろに倒れた。寝転がりながら、凛のことを抱きかかえて、肩をポンポンと叩く。

 

「凛さぁ」

「何?」

「ポニテにして」

「なんで」

「ん、好きだから。今なら全力で愛でられる気がする」

「……」

 

 言われて、凛は無言で髪を束ね始めた。愛でられたいんだぁ、可愛いなぁ。

 ポニテにした凛は、再び俺の胸に頭を置き、その頭を撫でてあげた。

 

「んー、甘く見てたマリオのチュートリアルクリアに1時間かかった凛ー、良い子良い子」

「……そういうこと言う子にはお仕置きかな?」

「いだだだ冗談ですすみません!」

 

 やっぱり勝てなかった。ちょっと調子に乗ってました。

 

「大体、あんないきなりボス戦とかおかしいでしょ。勝てるわけないじゃん。しかもファンネル装備とか……普通に考えて無理だって」

 

 俺がそのファンネルみたいに動く帽子を迎撃したんだけどな……。

 

「大体、3Dゲームで攻撃が踏むだけっておかしいよね。xyz軸全部合わせなきゃいけないのに」

 

 そのために俺が崩すんだけどな。

 

「で、結局はつまらなかった?」

「超面白かった。今日は寝ないからね」

「……あそう」

「でも、今は休憩」

 

 うん、まぁ素直でよろしい。実際、操作が簡単なだけあって慣れればスイスイ進むから、なんとかなるだろう。

 そんな事を思いながら不貞腐れ気味の凛の頭を撫でてあげてると、何か良いこと思いついたようで、ニヤリと微笑んだ。

 

「ね、ナル」

「何?」

「ポッキーゲームしない?」

「突然⁉︎」

「うん。ね、良いでしょ?」

 

 言いながら、机の上のポッキーを手にとって咥えた。チョコの方を咥えやがった。別にどっちでも良いけど。

 

「んっ」

「……どうしても?」

「んっ」

「……」

 

 たまにそういうことしたがるんだよなぁ、この子。いや、今はいいようにいじられて悔しかっただけか?

 そんなわけで、渋々反対側から咥えた。チョコの付いてない部分をカジカジと齧る。

 前を見ると凛の顔が近いので、つい目をそらしてしまう。可愛いのがまた困るんだよなぁ……。

 

「……んっ」

 

 両頬に手を当てられた。目を逸らすな、ということだろうな。無理言うな。

 一人、焦ってる間に凛はどんどん接近して来る。

 キスしたくないわけではないが……でも、何? 恥ずかしいじゃんやっぱり。

 ……うん、折ろう。ポッキー。じゃないと死んじゃう。

 そう決意した時だ。凛がスマホに文字を打ち込んで画面を見せて来た。

 

『負けた方は罰ゲームだから』

 

 考えを読まれた上に封じられました。歳下に考え読まれる彼氏って本当なんだろう……。

 不思議に思ってる間に、凛との距離は鼻と鼻がくっ付く距離に来てしまった。

 

「……ふふっ♪」

「っ……!」

 

 まずいな……主導権を……! こ、こうなったら……!

 奥歯を噛みしめ……ることは出来ないので、悔しげに凛を睨み付けると、覚悟を決めて凛の後頭部に手を当てた。

 そして、鼻と鼻が触れ合う距離感から一気にゼロ距離に押し込んだ。

 

「んっ⁉︎」

「んっ……!」

 

 これならイーブンだろ……しかも、俺がされた側ではなく、した側だからダメージもそれなりに少ない。

 ーーー何より、凛は受けに回るとめっぽう弱い。

 

「んっ……んん……」

 

 顔を真っ赤にしてショートし始めたので、口を離した。

 

「……俺の勝ちで良いな……?」

「……は、はひ……」

「……まぁ、うん。なんかごめん……」

「別に……まぁ、目的は果たせたし……良い」

「……マリオ、進めようか」

「う、うん……」

 

 そのまま照れを誤魔化すように徹ゲーして、知らない間に年は開けてた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。