渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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キャラがまだ微妙に分からないので、セリフと趣味から想像してみました。


新入り(1)

 新年の仕事が始まり、二週間弱が経過した。さすが、みんなアイドルと言うべきか、仕事始めのスイッチオンの切り替えが早く、みんなレッスンも仕事も上手くこなしていた。

 それは当然、私も例外じゃない。毎日、バラエティだったり朝のニュース番組だったりCMだったりライブだったりと色んな仕事が回ってきているのを何とかこなしていた。

 そして、今日もまた大事な仕事の一つだ。何せ、四千人が見てくれているし、中には接続をスムーズにするために放送局に対してお金を払っている方々もいる。

 何より、この仕事は私の唯一無二の恋人と一緒に出来る仕事だ。絶対に失敗なんかしたくない。

 

「ちょっ、死ぬ! 死ぬって! 逃げ切れないって! 誰オープンワールドにした奴!」

「渋谷さん、死なないでくださいよ! 俺も今、行きますから」

「ミツムシ! 死ね! 回復寄越せよ!」

「プフッ、酷い言い様だな……!」

「あんた何笑ってんの? 早く来ないとリアルで討伐するよ?」

「怖いわ。って前前前前! ドスジャグラス来とるがな!」

「き、来とるがな⁉︎ それどこ弁……あっ」

 

 ち、力尽きた……。報酬がゼロに……。

 今日の仕事は生放送、モンハンワールドの実況だ。今更だが、仕事じゃなくて趣味だ。

 

「渋谷さん、頼みますよ。もうアンジャナフ5回目じゃないですか」

「うるさいっ。大体、オープンワールドでキレたら無限に追い掛けてくるとか理不尽でしょ」

「や、それ逃げるためにスリンガーとかあるわけでね?」

「あんなの欠陥商品だから。当たらないでしょ」

「そりゃ的の部分がオレンジ色になってない時に撃っても当たりませんよ」

「え、オレンジって何?」

「ガイドの説明スキップするから分からないんでしょそれ!」

 

 茶化すように笑いながらそんな事言ってきた。相変わらず笑い声が腹立たしいなぁ……。

 

「とにかくもっかいだから。上野さん、ちゃんと援護してね」

「これ以上にないくらいはしてるつもりなんですけどね……」

「さっき助けてくれなかったじゃん」

「いやすぐピンチになるから、はじけクルミがいくつあっても足らないんだよ!」

「だったら、自分で斬り込んでよ」

「え、さっき『私の緊急の時は私メインでやるから剣使わないで』って言ってなかった?」

「言った。引っ込んでて」

「どうすりゃ良いんだよ!」

 

 なんて会話をしながら、アンジャナフに挑み続けた。

 しばらくしてようやくアンジャナフを討伐し、今日の放送は終わりになった。

 

「あー……疲れたぁ……」

 

 放送マイクを外し、後ろに寝転がる。今日はナルの家で放送していた。

 

「凛さぁ、もう少し頑張ってよ……」

「や、頑張ってるでしょ。強過ぎるんだって」

「凛が猪突猛進すぎるんだよ。攻撃モーション入ってる相手に斬りかかるなよ……」

「むー……でも、ナルは攻撃モーションに入ってても攻撃一発当ててから避けられるじゃん」

「ワールドではまだ動き慣れてないからやってないよそれ。まだ慣れてないうちは、確実に当てられる時だけ当てた方が良いって」

 

 なるほど、それはそうかも……。でも、それじゃあナルばっか目立っちゃうからなぁ……。

 どうしたものか悩んでると、私の頭にナルの手が置かれ、優しく撫でてくれた。

 

「まぁ、放送は明日もやるんだし、モンハンワールド自体、やるのは初めてなんだし、のんびり慣れていけば良いよ」

「うー……そうやって、ナルが甘やかすから……」

「何?」

「何でもない」

「なら、もう寝よう。明日、俺は休みだけど凛は仕事でしょ?」

「うん……」

 

 ……私も美嘉の彼氏とやらに弟子入りしようかなぁ……。

 そんな事を考えながら、ナルの布団に入って二人で寝転がった。

 

 ×××

 

 翌日、事務所に到着した。この前の新潟での仕事で、新しいアイドルが入ったので、今日はその子に事務所の案内をしなければならない。

 多分、プロデューサーの机にいると思うのでそこに向かうと、やっぱりいた。

 

「おはよう、プロデューサー」

「ん、ああ、凛。おはよう」

「おはようございまーす」

「あきらもおはよう」

 

 砂塚あきら、新しいアイドルの子だ。白いマスクに黒髪のツインテール、クールな雰囲気で尚且つ何処か童顔っぽさも残した子だ。ちなみに、私と同い年である。

 ……だから、仲良くしたいんだけどー……こう、前に初めて会った時からすごい見てくるんだよね……。ジトーッと。

 

「じゃ、凛。あと頼むよ。それから、今日のレッスンも二人一緒だから」

「あ、うん。分かった。よろしくね、あきら……で良いかな?」

「よろしくデス。それで」

 

 スマホをポチポチいじりながら、チラ見しつつそう返事してきた。なんだろ、コミュ障って奴なのかな? 別に私は気にしないけど、プロデューサーの前ではやめた方が良い気もするけど……まぁ、そういうのは少しずつ教えてあげれば良いかな。

 

「あー、えっと。私の事も『凛』で良いからね。それから、同い年だしタメ口で全然平気だから」

「分かった」

 

 ……気難しい子だなぁ。まぁ、乃々とか輝子でも今はみんなと仲良くやってるし、大丈夫でしょ。

 

「じゃ、行こっか」

「うん」

 

 部屋を出て、二人で事務所内を歩いた。

 

「えーっと、今の場所がプロデューサーとかちひろさんが働いてる部屋ね」

「うん」

「で、多分、一番多く使われるレッスンルームまで案内するから……」

「うん」

 

 ……もう少し反応してくれないかなぁ。ロボットと話してるんじゃないんだからさ……。

 廊下を歩いてレッスンルームに到着した。

 

「ここがレッスンルームだよ」

「……ねぇ」

「っ、な、何? 質問?」

 

 聞くと、控えめに頷いた。なんだろ、使い方かな? 中は鏡と手摺しかないし、そんな悩む事ないんだけど……。

 まぁ、聞きたい事があったらなんでも言わせてあげた方が向こうも安心すると思う。

 あきらはマスクを人差し指で顎までズラし、キラキラした瞳で私の両手を握り込んできた。

 

「凛さんって、もしかして……山手線の渋谷さん、なのでは⁉︎」

「ブフー!」

 

 と、唐突の身バレだと⁉︎ な、なんで⁉︎ ドユコト⁉︎ 何処からバレた⁉︎

 

「実は、自分……や、山手線の大ファンで!」

「ええええっ⁉︎」

「以前、一度お見かけした時から思ってたけど……同じ声デスね⁉︎」

 

 し、しまったああああああ! ここに来て、バレたか……⁉︎ 前までは声とか少し高くしたりしてたけど、最近は全然そんな必要ないと思って地声に戻してたらこれだよ。

 

「……ち、違うヨ?」

「実は自分もようつべでFPSの動画配信とかしてて! 山手線さんはニ○ニコで、活動場は違うけど……でも、大ファンで……! 昨日の生放送も見てて……!」

 

 ……や、ヤバい……。こんなにピンチなのに、嬉しい……。よく動画のコメントで「ファンです」とか流れてきて、それはそれで嬉しいものがあるけど……でも、やはり生の声も超絶嬉しい……あ、やばっ、ニヤける……。

 落ち着いて、私……。ニヤけたら、身バレ確定で正体を認めるようなものだ。……よし、落ち着いた。

 

「あっ、こ、これっ……私のイ○スタの垢デス。も、もしご迷惑でなければ……!」

「お、落ち着いて、あきら」

「っ、ご、ごめん……取り乱した……」

「声、よく似てるって言われるけど、別人だから。ね?」

「え、そ、そう、なの……?」

「うん」

 

 私は別に……いや、私もアイドルがゲーム実況してるなんてバレたらマズい気もするけど、もっとマズイのはナルの方だ。一般人の高校生が顔バレなんて、一生オモチャにされるのがオチだ。

 ファンの子に心苦しいけど、ここは嘘をつくしか無い。

 

「そ、そっか……ごめん、取り乱して……」

「ううん、私もあの二人組好きだから」

「あ、そ、そうなんだ……。アイドルも、ゲーム実況とか見るんだ……」

 

 ……あー、来たばかりのこの子には新鮮に感じるかもね……。何処かの誰かの所為で、事務所の子の半分以上がpso2やってるなんて知ったらどうなっちゃうんだろうか……。

 まぁ、そっちの方はどうせいつかバレることだし、今言っても良いかもしれない。

 

「まぁ、結構ゲームやってる子も多いからね。あきらは、ゲームが好きなの?」

「あ、うん。FPSが、特に」

「ああ、銃撃つ奴ね。そういうゲームやってる子もいるからさ、もしかしたら仲良くなれるんじゃない?」

「……そっか。良かった。実は、少し不安だったんだ。友達が出来るか……でも、ゲームやる子が多いなら……私でも、友達出来る、よね?」

「うぐっ……!」

 

 流石、プロデューサーが目をつけたアイドルだ。やっぱり可愛い……!

 

「イ○スタ、フォローしとく」

「うん、ありがとう」

 

 そのうち、実は本人ですって教えてあげよう。

 

「ちなみに、凛サンは山手線の二人はどっちのファン?」

「え? わ、私……?」

 

 ファンどころか本人で彼女なんだけど……まぁ、どちらのファンって言うなら……。

 

「……う、上野、かなぁ……」

「そ、そう? 実は、自分も上野サンの大ファンで!」

 

 ……は?

 

「どんなゲームをやってもハイレベルなプレイをこなし、ゲーマーから見たら少しイラっとするほどヘタクソな渋谷をフォローし、最終的にはクリアさせることのできるあの技量……かなり憧れちゃうよね!」

「……そうだね」

 

 前言撤回、絶対に会わせられない。そう思った時だ。

 卯月とすれ違った。私の顔を見た直後、パアッと顔を明るくして、小走りに駆け寄ってきた。

 

「凛ちゃーん!」

「あ、卯月。おはよう」

「おはようございます! 昨日の実きょ」

「卯月ぃいいいい⁉︎ ちょーーーっと来ようか!」

「んぐっ⁉︎」

 

 口を塞いで、卯月を少し離れた場所に連行した。

 

「卯月、ごめんね? 今、新人さん連れてるからね? 山手線の話はまた今度ね?」

「んっ、んっ」

 

 コクコクと頷く卯月。それにホッとため息をついて、手を離すと、キョトンとした顔で聞いてきた。

 

「……でも、なんで言わないの?」

「そ、そりゃほら……私はともかく、ナルの方が、ね?」

「あ、なるほど……」

「……何より、あの子ナルのファンらしいから。絶対に会わせない」

「ふふ、妬いちゃうもんね? 凛ちゃん可愛い」

「私の友達、卯月の彼氏が働いてるコンビニの店員さんカッコ良いって言ってたよ」

「……コンビニのバイトもやめさせなきゃダメかな……」

 

 え、今「も」って言った? 卯月、彼氏の話になると怖いから……。

 まぁ、とにかく約束はした。大丈夫なはず……。あきらの待つポイントに戻ると、ジト目で私を睨んでいた。

 

「……今の、島村卯月サン?」

「そうだよ」

「島村卯月です、よろしくね?」

「どーもデス。砂塚あきらデス」

 

 ところで、とあきらは私を見てジト目のまま聞いてきた。

 

「……今『昨日の実況』って言いかけなかった?」

「い、言ってないよ! ね、卯月?」

「は、はい!」

「じゃあ、なんて?」

「え、えっと……じ、実行したって……」

「何を?」

「う、卯月の授乳教室だよ!」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

 な、何言ってんのこの子……?

 

「……え、えっと……」

 

 あきらもどうしたら良いのかわかってないじゃん……。てかなんでそんなパワーワードが……。

 

「まさか、卯月昨日……」

「……」

「え、アイドルって恋愛良いの?」

「……まぁ、うちの事務所は、平気だけど……」

「……」

 

 卯月は顔を真っ赤にして逃げ出した。

 二人でその背中を眺めた後、私はあきらの肩に手を置いた。

 

「……他言無用で」

「……はい」

 

 さて、気を取り直して案内に戻さないと。レッスンルームの扉を開けた。

 中では、トレーナーの青木明さんが文香、奏、美波のレッスンをしていた。なんで彼氏持ちばかりいるの……。

 

「お邪魔します」

「わ……思ったより何も無い」

「で、あそこの人が青木明さん。レッスントレーナーで、あの人に私達はダンスとか教わってるんだ」

「なるほど……」

「凛さん、新入りの子ですか?」

 

 明さんが声を掛けてきた。他の三人はW○i fitトレーナーみたいなポーズをしたまま動かない。

 

「うん」

「あ、砂塚あきらデス……」

「プロデューサーさんから聞いてますよ。今日のレッスンは私じゃなくて妹だけど、よろしくね」

「あ、は、はい」

 

 少し緊張してるようで、小さくお辞儀をした。

 すると、明さんは笛を吹いた。それによって、四人とも脱力してその場で座り込んだ。

 

「よし、休憩」

 

 ちょうど良いタイミングかな……いや、みんな死にそうだし、紹介だけにしておこう。

 

「えっと……みんな疲れてるから私が紹介するね。あそこの一番の巨乳が速水奏、17歳」

「凛? 巨乳って何?」

「で、あそこのエッチなタレ目が新田美波、今年でハタチ」

「だからエッチなタレ目って何?」

「その隣のヘアバンドが鷺沢文香、そっちも今年でハタチ」

「ーっ……ーっ……!」

 

 文香の方は本当に死にかけてるようで、肩で息をしてる。が、チラッとこっちに顔を向けると、笑顔を作って挨拶してきた。

 

「……あ、凛、さん……。昨日の、実きょむぎゅっ」

 

 直後、奏と美波が文香の口をペットボトルで塞いだ。流石、大人と外見大人。全てを察してくれた。

 

「もう、文香ったら。喉乾いたからってそんながぶ飲みする事ないのよ?」

「そうよ、文香ちゃん。落ち着いて」

「ごぼっ、ごぼぼっ……」

 

 ……すごい、拷問されてるみたいになってる。

 とりあえず、間を持たせてる間に、私はあきらの手を引いた。

 

「で、あきら。あそこの扉が更衣室ね。更衣室の中にシャワールームもあるから」

「あ、うん」

「使い方はレッスンの時に教えてあげる。じゃあ、お邪魔しました」

 

 さっさと切り上げてレッスンルームを出た。

 

「……あの、やっぱり山手せ」

「違うから」

 

 スパッと切り捨てたものの、ジト目のままだ。……うーん、苦しい。でも、声が似てるというだけで本人である証拠は、上野……すなわちナルが現れない限りは存在しない。このまま押し通すしか無い。

 続いて衣装室やら常務の部屋やらと、とにかく色んな場所を案内して回った。

 で、最後に来たのはラウンジ。色んなアイドル達が飲み物とかここで買ってのんびりする場所だ。仕事前の待ち合わせ場所にも使われる。

 

「ここがラウンジだよ。休憩とかみんなここでしてる」

「……なるほど」

「あ、リン!」

 

 明るい声が聞こえた。振り返ると、アーニャと美嘉が飲み物を手に持って走ってきた。

 本当に彼氏持ちばかり……!

 

「アーニャ、美嘉」

「おはよー★ お、誰その子?」

「ん、新しい子。はい、挨拶して」

「砂塚あきらデス。……って、城ヶ崎美嘉サン?」

「何、あたしのこと知ってるの?」

「は、はい! ファッション誌で何度か見たので……! あ、そ、そうだ……!」

 

 スマホをいじり始めるあきら。で、自分のイ○スタの垢を開いた。

 

「じ、自分のファッションを見て欲しいデス……!」

「ん、どれどれ……おお〜、可愛いじゃん」

「み、美嘉サンにお褒めの言葉をいただけるなんて……!」

「あ、あたしのも見る?」

「は、はい……!」

 

 と、割と仲良くお話しし始めた。

 ……ふぅ、この二人ならなんとかなりそうかな……。良かった、美嘉で。

 そう思って、ほっと胸をなでおろしたときだ。私は忘れていた、もう片方は空気を読む達人かつカリスマギャルだが、もう一人は空気を壊す達人でピュアっピュア中身ロリ少女であることを。

 

「そういえば、リン。昨日の実況見ましたよ!」

「えっ」

「むっ」

「とってもヘタクソで面白かったです」

 

 いらんこと言うな、と、負け惜しみしか出なかった。

 核爆弾の投下によって、美嘉と仲良く話してたあきらがギギギッとこっちを向く。

 

「……やっぱり、実況を?」

「違うよ?」

「昨日、生放送でモンハンワールドを?」

「ハイ♪」

 

 アーニャ、余計なことを……! ……あ、ダメだ。笑顔が純粋過ぎて怒れない……!

 

「やっぱり、山手線の……!」

 

 くっ、背に腹は変えられない、ここは……!

 

「ところであきら」

「何?」

「その城ヶ崎美嘉、ファッションだけでなく彼氏とゲームもやってて、P○BGでもフ○ートナイトも何度も二人でスクワッドに殴り込みしてドン勝つやビクロイを取っています」

「ちょっ、凛……!」

 

 人差し指を立てて真面目な顔でそう言うと、あきらの視線は美嘉の方に向いた。

 その間、私はアーニャの肩に手を回し、耳元で囁いた。

 

「リン? どうしました?」

「……私の実況の事は言わないで」

「どうしてですか?」

「アーニャの彼氏に女の子のファンがいたらどう思う?」

「……分かりました」

 

 彼氏持ちで良かった、説得が容易い。……しかし、慣れるまでは大変そうだなぁ、これ。

 

 ×××

 

 レッスン後、あきらは寮暮らしなので、別れて帰宅し始めた。

 ……あー、神経使った。あの後もすごくあきらに追求されたし、その度に同じレッスンだった奈緒と加蓮にフォローしてもらってしまった。今度、晩御飯奢らないとなぁ……。

 まぁ、そんな話はともかく、今日もモンハンワールドだ。それを思うと少し楽しみになってくる。

 そうだよ、ゲームだよ……。ゲームで心を癒そう……疲れを全部。

 そんなことを思いながら電車を降りて、改札口を出た。駅の階段を降りると、ナルがハナコを連れて立っているのが見えた。

 

「あ、ナルとハナコ?」

「凛、迎えに来たよ。……ハナコ様に威嚇されながら」

 

 微笑みながら手を振ってくれた。そういえば、昨日は帰ってないしハナコにほとんど構ってあげられなかったんだよなぁ。

 そういう気遣いはとてもありがたいけど……でも、なんだろ。その微笑みが少しむかつく。そもそも、ナルの所為ですごく神経使ったのに……!

 

「……むー」

「いだだだだ! なんで、抓んの!」

「ムカついたから」

「理不尽!」

 

 うるさい。

 ナルの頬を抓りながら、ハナコのリードを手に取って、抓った手をナルの腕に絡めた。

 

「少し散歩して帰ろ」

「うー……なんなんだよ」

「返事」

「あ、はい」

 

 少し遠回りして帰宅した。

 

 


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