渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

6 / 55
何事も言ってみなくちゃ分からない。

 ゲーム、というのは俺が思うに、ほんの息抜きのために作られたものだと思う。仕事や学校、そういったもののしがらみから少しでも解放されるためのものだ。

 それが、いつの間にかハイスコアを目指すだの、アイテムコンプリートするだのとレベルが上がり、それと共にゲームの目的もラスボスクリア以外にも目的が増えた。だから、やり込む人も増え、いつの間にかゲームをやる人にとっては「やらなければならないもの」となってしまった。

 別に、それは良いと思う。だって面白いもん。俺だってその「やらなければならないもの」をやってる人だし。

 だが、あくまで楽しむためにあるという事を忘れてはならない。そう、俺の目の前の人のように。

 

「………………」

 

 イライラを隠そうともせずに渋谷さんは鬼のようにjub○atをやりまくっていた。どうやら、フルコン出来ないらしい。

 ………どうしよう、ここで出会ったのは偶然なんだけど、アレ声かけた方が良いのかな。でも、なんか気まずいし………。悩んでると、渋谷さんの方がこっちを見てしまった。

 

「…………あっ」

「よ、よう……」

 

 ………あ、顔が赤くなった。何、そのゲームハマったの?いや、でもだとしたらもう少し楽しそうにやるよな………。あ、もしかしてこの前負けたのがそんなに悔しかったのか………?

 

「…………なんでここにいるの?」

「いえ、その……暇潰しに遊びに来まして………」

 

 何故か敬語になってしまったよ………。俺別に悪くないのになんでビビってんだ………?

 

「………ふーん」

 

 その冷ややかな視線はやめてくれませんかっ?怖いんです、いやまじで。

 

「………じゃあ、一緒に遊ぶ?」

「え、俺と?」

「うん。………水原くんのプレイとか見たいし」

 

 …………人の技術を奪う気満々ですねー。いや別に良いんですけどね。こっちも技術と言えるものは特に無いし。

 しかし、この人は一人でゲーセン来てるのか?いや、俺はよく一人でくるが、渋谷さんみたいな女子が一人でゲーセン来てるのなんてあんま見ないんだけどな。アイドルだからまとまってると周りにバレるかもってのも分かるけど、バレた時はむしろ一人の方が危険な気もするんだが………。

 ま、そういう意味でも俺と一緒にいた方が良さそうだな。

 

「まぁ良いけど。えっと……対戦?」

「は?ソロに決まってんじゃん」

 

 むしろソロの方が不自然だと思うのは僕だけでしょうか………。いや、まぁ別に良いけどよ。

 100円玉を入れて、jub○atをプレイした。とりあえず、うまるのopをテキトーにやってると、渋谷さんは俺の手元や画面を集中して見ている。………そんなに見られるとやりづらいんですが。

 フルコンでクリアして、二曲目を選び始めた。とりあえず有名な曲が良いと思って、血界戦線EDにした。

 

「……………」

 

 またもフルコンクリア。渋谷さんが何故か不機嫌そうな顔で俺を見てるのに気付いた。

 

「…………何?」

「別に」

 

 気になるんだけど………。最後はけいおん!の曲。いつも通りフルコンしようとしてる時だ。後ろからわき腹に指が突き刺さった。

 

「わひゃっ⁉︎しっ、渋谷さん⁉︎なんの真似っひゃはははははは⁉︎」

「………むかつく。簡単にフルコンしてるのが更に」

「そんな理不尽なあああはははははははは‼︎」

 

 振りほどこうと体をよじるが、指は的確に俺のウィークポイントを攻め続ける。こっ、この女ッ……!いじり慣れてやがる……!まだ会ったこともない神谷奈緒に心底同情しながら、くすぐられ続けた。

 ゲームが終わり、ようやく手を離してくれた。リザルト?聞かないで下さい。

 

「………な、何しやがんだお前……!」

「………簡単にフルコン出来ててなんか腹立った。反省はしてない」

「しろよ!」

 

 畜生………!誰のためにやってたと………!

 

「さて、じゃあ対戦しようか」

 

 この女鬼か⁉︎さてはこのために人を満身創痍にしやがったな……⁉︎

 

「ほら、何へばってんの?やろうよ」

 

 ニヤニヤしながら言われて心底腹立たしかったが、我慢して対戦開始した。完封勝利した。

 

「……………」

「……………」

 

 どうしよう、気まずいな………。でも、勝っちゃったもんは仕方ないような………。

 

「………水原くんさ」

「な、何?」

「少しは手加減とかしないの?」

「え、手加減されて満足するタイプなの?」

「全然?」

 

 じゃあ、今の何の問いなんだよ………。うーん……あまり年上だからって偉そうなことは言いたくないけど、このままじゃ渋谷さんが廃人になりかねないし、一応言うか。

 

「あの、渋谷さん?」

「何?」

「ゲームはほら、もちろん誰かと競うのも良いんだけど、基本的に楽しむものだからさ………。その、あんまり殺気立つと一緒にプレイする人も引いちゃうかもよ………?」

「……………」

 

 うっ、ちょっと言い過ぎたかな……。まぁ、渋谷さんが他に誰かとゲームしてるところは想像できないけど。いや、友達がいなさそう的な意味ではなく、ゲームやるような知り合いがいるようには見えない。

 

「せ、せっかくお金払ってゲームしてるんだから、楽しもうよ」

 

 なんとかフォローしつつそう言うと、渋谷さんは俺の顔色を伺うように上目遣いで聞いて来た。

 

「………水原くんは、そういう人は引く?」

「俺?俺は気にしないけど………」

 

 気にしないけど、他の人はどうだか分からない。………にしても、差し出がましかったかな。不愉快にさせてたら謝らないと。

 

「ご、ごめんねなんか。偉そうなこと言って」

「ううん。私もごめんね。なんか、気を使わせてたみたいで」

「いやいや、俺はマジで気にしないから。お金払ってるのは渋谷さんだし、渋谷さんの楽しみ方があるかもしれないし」

「………なんかさっきと言ってること違くない?」

「そ、それよりまだやる?他のゲームも見てみる?」

「……じゃあ、せっかくだし他の見るよ」

 

 正直、ホッとしたとは言えない。

 渋谷さんは俺の手を取って、ゲーセン内を見回り始めた。………女の子と手を繋ぐのなんて初めてなんだが。この子、その辺意識してるのかな。正直、渋谷さんだし意図してるようにも、してないようにも感じる。

 

「今、ドキッとしたでしょ」

 

 思いっきりされてた。

 

「し、してないから!」

「ふーん?ま、どっちでも良いけど」

 

 クッ……と、歳下の癖に………!いや、俺が情けないのが原因だが。ま、それもいじられキャラの宿命だ。

 そんな事を考えてると、俺の手を引いて歩いてる渋谷さんがふと立ち止まった。おかげで、俺はゴヌっと渋谷さんの後頭部に鼻をぶつけた。

 

「ブッ!」

「痛っ……ちょっと何してんの?」

「誰が急に立ち止まったと………」

 

 いや、反論しても無駄だし、ボンヤリしてた俺が悪い。

 

「なんかあったのか?」

 

 なので、話を逸らした。渋谷さんの視線の先にはメダルゲームがある。

 

「あれやりたいん?」

「いや、よくアレにお金かける人がいるなーって」

 

 こいつ、人前で………。

 

「何でそう思うの?」

「だって景品が出るわけでもないし、ICカードでデータを記録できるわけでもない。出てくるメダルは使い道なくて、むしろ消費し切るまで帰れなくなるし。意味分からない」

「いやいや、あれはあれで楽しいもんだよ。難しいけど」

「メダルを落とすだけでしょ?難しそうには見えないけど」

「なら、やってみる?俺がメダル買うから。半分あげるよ」

「良いの?」

「その代わり、面白いと感じたら後で飯奢って」

「良いよ、そう思うことはないから」

「よし、決まり」

 

 と、いうわけで、メダル両替機にとりあえず千円入れた。

 

 〜5分後〜

 

「来た!来た来たジャックポット!」

 

 興奮してる渋谷さんは、俺の身体をゆさゆさと揺さぶる。分かったから揺らさないで、たまに胸が肩に当たってるから。

 

「乗って来たね、ここは攻め時だよ。メダルたくさん入れよう」

「それは良いけど、ちゃんとタイミング狙えよ。さっきから結構、山作ってるから」

「大丈夫、もう掴んだ」

 

 そう言う通り、渋谷さんは10枚連続で山を作らないように左右に振って投入した。

 しかし、この人ツいてんなー。スロットの始まる穴に一発目で入れ、穴に入ったメダルが4枚までスロットを揃え、何度も当たりを連発し、開始5分後にはジャックポットか………。

 お陰で、周りのメダルゲーマーから羨ましそうな目線を感じる。さっき大きな声でメダルゲームをdisってた人と一緒にいることもあり、正直少しいづらいです。

 

「ちょっと、水原くん。何ぼさっとしてるの?仕事して」

「あ、ご、ごめん………」

「ほら、今メダル入れなきゃ!」

「あ、うん」

 

 言われてメダルを入れた。まぁ、その、何?超楽しんでるじゃん。そんな事言うと無粋な気がするし言わないけど。

 そのままジャラジャラと滝のようにメダルが出て来た。おい、これどうすんだよ………。今日中に消費できるんだろうな。

 

「………俺、別の台行ってくるわ」

「なんで?ジャックポットだよ?」

「この量のメダルはあと1時間は消えないよこれ」

「ふーん、増やして帰ってこないと許さないから」

「いや俺の金だし遠回しに減らしに行くって言ったつもりなんだが………」

 

 この人、人の話聞けないの?まぁ良いや、とりあえずさっさと発散しよう。メダルを大体、三分の一だけもらって別の台に向かった。

 

 〜10分後〜

 

 ………減らねぇ。天性のメダルゲーマーだったのか俺は……。スマホゲームしながらメダル入れたりと色々したけど、目を離せば離すほどスロットをスナイプする。なんだこれ。

 

「……………」

 

 自分は機械だと言い聞かせてメダルを入れ続けた。………もう増える一方だしやめようかな。

 そう思った時だ。隣に誰か来たみたいで振り向くと、渋谷さんが立っていた。

 

「………メダルは?」

「なくなった」

 

 はえーな。アレだけの量を………。ていうか、あの量まで増やしてたのって俺だったんじゃ………。

 冷や汗かいてると、渋谷さんが俺の手元をジッと見てるのに気付いた。うん、望んでるものが1発でわかったわ。

 

「………メダルいるか?」

「…………もらう」

 

 無くなるまでメダルゲームした。

 

 ×××

 

 ようやくメダルが無くなり、ゲーセンを出た。アレから1時間ほどメダルゲームをしていたが、終わってみれば虚無感しか生まれない。俺達は今まで何をしていたんだ、的な。

 今更になって疲労感がドッと出て来て、少し疲れた顔になってるかもしれない。………結局、千円投げて得たものは何もないのだから、渋谷さんの言ってた事はある意味では当たってるかもしれない。まぁ、ゲームってのは息抜きのためにやるもんだし!仕方ないネ!息抜きは出来たよネ!

 

「ね、水原くん」

「…………何?」

 

 カラ元気を無理矢理捻り出した俺とは違って、ご機嫌な渋谷さんは俺に声をかけて来た。

 

「この後、時間ある?」

「あるけど………どうかしたの?」

「ご飯食べに行こうよ」

「はっ?」

「ほら、楽しんだら奢るって約束したじゃん」

「あー……」

 

 そういや、そんな約束してたな。

 

「楽しかったから、ご飯奢るよ」

「いや、いいよ別に。歳下の女の子に奢らせるのは気が引けるし。アレは半分冗談のつもりだったし」

「約束は約束でしょ。私、そういうのはキッチリしたい方なの」

「まぁ、そうなんだが………」

「それに、一人暮らしの貧乏高校生より、アイドルの方がお金持ってるんだから、遠慮することないよ」

 

 まぁ、そう言われりゃそうかな。

 

「分かった。何処にする?」

「水原くんが決めて良いよ」

「いや、俺に決めさせるとサイゼかマックか丸○製麺としか言わないよ」

 

 安いからな。あの辺はマジで一人暮らしには神飲食店。まぁ、学食には劣るが。

 

「………遠慮することないってば」

 

 案の定、ジト目で睨まれた。うん、まぁそうなるよね。でも他の店は高校入ってからは行ったことないんだ。

 …………しかし、そうなると困ったな。別に食いたいものなんて無いし………。あ、一つあるわ。

 

「あ、じゃあこんなのは?」

「何?」

「渋谷さんの手料理」

「…………はっ?」

「…………あっ」

 

 やっべ、つい思った事を口にしてしまった。これ、セクハラじゃね?セクハラじゃないよね?

 とにかく、さっさと回避しよう。訂正しないとドン引きされて「アイドルの手料理食べたいとか身の程わきまえろよ」みたいに思われるかもしれない。

 

「な、なんて冗談だよ。サイゼにしよう。俺、あそこの辛味チキン好きなんだよね」

「良いよ」

「よし、じゃあサイゼだな」

「うちでも良い?」

「えっ?なんで?」

「手料理でしょ?」

「…………えっ?」

 

 …………マジで?

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。