渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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事務所では(2)

 事務所。奈緒と加蓮は二人でコーヒー(砂糖入り)を飲みながらお話ししていた。

 

「でも、やっぱあたしは思うんだよ。なんだかんだ言ってプリキュアは初代が最高だなって」

「もう分かったよ………。お願いだからもう少しJKっぽい話しよう」

「な、なんでだよ。クラスの男子はウルトラマンの話とかしてるぞ!」

「いや、男子は女子より精神年齢が2歳下って聞くし………。ていうかそれ、ネタとして話してるんじゃないの?」

「うぐっ………」

 

 確かに、なんか「3分しか保たねえとか戦えんのかそれwww」とか言ってたのを思い出した。

 

「な、なんだよ!加蓮はプリキュアとか見なかったのかよ!」

「んー、私はセーラームーンとかのが好きだったからなぁ」

「古っ。加蓮って歳いくつ?」

「………奈緒より歳下だよ」

「いっ、いふぁふぁふぁ!頬を引っふぁるふぁ!」

 

 なんてやってると、凛が入ってくるのが見えた。イヤホンの繋がったスマホを見ながら。

 すぐに奈緒は声をかけようとした。

 

「あ、おーい。り……」

「奈緒、待った!」

「いふぁふぁふぁ!頬から手を離ふぇ!」

 

 その奈緒の頬を引っ張って加蓮は止めた。手を離すと、奈緒は涙目で赤くなった頬を押さえながら加蓮を睨んだ。

 

「………い、いふぁい……」

「ちょっと凛の様子おかしくない?」

「いやまず謝れよ!」

「あの子、あんなにスマホ使うような子だったっけ?」

 

 一切、無視されて奈緒は仕方なくため息をつき、話題にのることにした。

 

「別に音楽くらい聞くだろ。自分達のライブ見てるんじゃないか?」

「でもさ、最近はライブがあったわけでもないし、そんな歩きながら見るほどのなんてある?」

「………気になるなら声かければ良いだろ」

「うん、そうする」

 

 加蓮は楽しそうに凛の後ろに近付いた。凛は椅子に座り、そのままスマホを見つめている。そーっと加蓮はその画面を覗き込むと、モンスターをハンターが討伐していた。クリア動画というものだ。

 

「えっ」

 

 思わず声を漏らし、加蓮は気付かれないように退散した。

 

「どうだった?」

 

 奈緒に聞かれ、加蓮は気まずそうに答えた。

 

「………いや、その、なに。よく分からない」

「は?」

「………ゲーム実況動画見てた」

「………ハ?」

 

 奈緒も思わず眉をひそめる。「ゲーム実況?あの凛が?」みたいな顔だ。

 

「え、何のゲーム?」

「なんか、モンスターを人と猫が討伐しようとしてる奴。どこかで見た気がするんだよなぁ」

「………モンハン?」

「あーそれそれ!それのゲーム実況見てた!」

「………凛が?」

 

 奈緒に疑わしそうな目で見られ、加蓮は珍しく慌てた様子で言った。

 

「本当だって!奈緒も見てきなよ」

「………嘘だったら?」

「ジュース一本。ほんとだったら奢ってもらうからね」

「よし、のった」

 

 言われて、奈緒は凛の背後に歩いた。スマホを覗き込んだ。自販機に向かった。

 

「コーラで良いからねー!」

 

 注文すると、加蓮は凛の隣に座った。最近の凛はゲームにハマっているようで、それは間違いなく最近知り合ったという男の先輩の影響だ。その話を聞き出そうと思った次第である。

 

「凛」

「? あ、加蓮。いたんだ」

「何見てるの?」

「ん?モンハンの実況動画」

「またあの先輩の影響?」

「まぁね。面白かったから買ってみたんだけど、やっぱ難しくて」

「えっ、か、買ったの?」

「買ったよ?ほら」

 

 鞄から3○Sを取り出した。

 

「わ、わざわざ買ったんだ………」

「まぁね。で、実況動画見ようと思ってさ」

「そこまで本気で………」

「だって面白いんだもの」

 

 そのセリフに加蓮は若干、引きながら苦笑いを浮かべた。すると、奈緒が飲み物を持って帰ってきた。

 

「おーい、加蓮。買って来たぞ」

「はい、どーも」

 

 奈緒は飲み物を加蓮に渡すと凛の隣に座った。

 

「凛、モンハンやってるのか………?」

「一応ね。まだまだ下手だけど」

「お、おう………。なんていうか……凛って、意外とハマりやすいタイプだったんだな……」

「奈緒はやってるの?」

「やってないよ………」

「加蓮は?」

「やってない」

「二人共やんないの?人生の半分損してるよ?」

「凛、待って落ち着いて」

 

 あんまりな言い様に、流石に加蓮が口を挟んだ。

 

「凛、そんなにゲーム好きだったの?」

「うん、私もびっくりしてる。だってゲームなんて全然興味なかったもん。あったんだね、私にもゲーマー心って奴が」

「うん、その言い草がもう呆れるを通り越して面白いんだけど……」

 

 困り顔で加蓮は奈緒を見ると、奈緒も「そうだな」と相槌を打った。

 

「凛、待て。お前はゲームにハマるとダメなタイプだ。なんというか、ハマり過ぎて自己を壊滅させそうな気がする」

「どういう事?」

「具体的に言うとだな、1週間やり込んだ後に急に冷めて『私はこの1週間何をしてたんだろう………』って絶望するタイプだ」

「…………はい?」

「奈緒、何言ってるか分からないけど、私もその絵が何となく想像出来る」

 

 加蓮にまで賛同され、凛は何となく不愉快そうに眉を吊り上げた。

 

「………別に、その時はその時だし」

「ま、まぁ、凛がそれが楽しいって言うなら別に良いけどよ………」

「なら良いよ。二人もやれば良いのに」

「「やらない」」

 

 声を揃えられても、凛は特に反応しなかった。

 その凛に加蓮はため息をつきながら言った。

 

「しかし、よくその男の人のためにわざわざゲーム機まで買ったね」

「別に水原くんのためじゃないよ。ただ、私が楽しかっただけ」

「ふーん………?ちなみにきっかけは?」

「まぁ、色々あったんだよ。一緒にゲームしたりして」

「へ?ゲームを?」

「うん。この前、ゲーセンで会ったから、色々あって水原くんの家でモンハンを………」

 

 そこまで言って、凛は「しまった」といった顔になった。それと共に、ニヤリと微笑む加蓮と奈緒。

 

「水原くんの部屋で⁉︎」

「どういう事だ凛⁉︎男と二人で部屋にいたのか⁉︎」

「色々の部分を詳しく!」

「なぁ、凛っ?本当に友達同士なんだろうな?」

 

 流れるような二人からの質問攻め。凛はそれを真顔で受け止めた後、俯いてため息をついた。

 やがて二人を見下ろして、ニコッと微笑んだ。直後、椅子から下りて逃げ出した。

 

「あっ、逃げた!」

「待てええええ!」

「無理無理無理無理。面倒臭いわもう」

 

 小声でぼやきながら逃げ出す凛。だが、突き当たりに出たところで歩いてた卯月とぶつかった。お互いに後ろに尻餅をつき、凛は恐る恐る前を見た。

 

「きゃっ!」

「っ!ご、ごめん卯月!」

「い、いえ………凛ちゃん?何かあったのですか?走ってるなんて珍しいですね………?」

「ちょうど良かった!助けて!」

「は、はい………?」

 

 キョトンと首を捻る卯月だったが、尋常じゃない凛の様子に何かを察し、凛の手を握った。

 

「付いてきてください」

 

 すると、後ろから奈緒と加蓮が追い付き、それに気づいて卯月と凛は走り出した。

 

「待て、凛!何があったか教えろ!」

「絶対嫌だ」

「卯月!凛は男の子と一緒に一つ屋根の下でゲームした過去を隠蔽しようとしている!」

 

 直後、卯月は驚く程、ピタッッッ‼︎と足を止めた。お陰で手を握られていた凛は卯月の後頭部に鼻をぶつけた。

 

「凛ちゃん、どういう事か詳しく!」

「加蓮!それはいくら何でも卑怯でしょ!」

「知らない、関係ない」

 

 凛はとりあえず個室に連行された。

 

 ×××

 

 観念した凛が大体のことを話すと、三人は「おおーっ」と声を漏らした。

 

「………付き合ってないのそれ?」

「ないよ」

 

 加蓮に聞かれ、ノータイムで答えた。実際、付き合ってないしお互いにその気はない。

 

「まぁ、確かに私も少し距離近いかな、とは思うけど。でもお互いにそういう対象じゃないから」

「確かに、凛はそういうのドライそうだもんな」

「………二次元に恋してる奈緒に言われたくない」

「なっ、何をうっ⁉︎」

 

 その二人のやりとりを聞いた直後、卯月は少し引いたような苦笑いを浮かべた。

 

「えっ………奈緒ちゃんって、そういう人なのですか………?」

「ま、待て待て!違うぞ卯月!あたしはちゃんと三次元の男の人が好きだ!」

「プロデューサーみたいな?」

「そうそう、ああいう気遣いのできる大人の………って、かっ、加蓮!」

 

 顔を真っ赤にしてうがーっと食い掛かる奈緒を片手で制しながら、加蓮は凛を見た。

 

「なーんだ、つまんないのー。付き合ってるとかだったら面白いのに」

「残念だったね」

「でも、最近凛ちゃん楽しそうですよ?」

 

 卯月が口を挟むと、凛の耳が微妙に動いた。

 

「未央ちゃんも言ってましたけど、スマホでその人と連絡とってる時とか、とても楽しそうな表情をしてますよ?」

「………ほほう?」

「なっ、何バカ言ってんの卯月。そんなの、ありえないから」

 

 少し頬を赤らめてぷいっと目線を逸らすが、そこで加蓮が反応した。

 

「へー?そうなんだ?私達の前だとあんま表に出さないのに」

「っ………そ、それは……」

「卯月の前だと、あまり恋愛ごとに興味無さそうだから油断しちゃうんでしょ?でも、そういうのに未央は鋭そうだからなー」

「っ、ち、違うってば!」

 

 訂正するも、加蓮はニヤニヤを止めない。その時だ。凛のスマホから着信音が鳴った。画面には「水原鳴海」の文字。無視することにした。

 

「凛ちゃん、誰からですか?」

 

 卯月が逃がしてくれなかった。

 

「家」

「水原さんからですか」

 

 逃げでも無駄だった。まぁ、バレた以上は仕方ないので、応対する事にした。

 

「もしもし?」

『ああ、渋谷さん。実はさ』

「今忙しいから後でね」

『え?ちょっ』

 

 即行で切った。

 

「え、もう切ったのか?」

 

 奈緒に引き気味に言われたが、凛は無視してスマホをしまった。

 

「ま、とにかくそういう事だから。残念ながら、三人の期待してるようなことはないよ」

「でも、そうなのかな。その男の子の方は案外、凛のこと気に入ってるかもよ?」

「ないってば」

「ふーん、まぁ会ったことないから私にはなんとも言えないけどさー。もう少し何かこう、面白い事があっても良いのに………」

「でも、凛ちゃんがゲームにハマるのはなんだか意外ですね」

「それみんなに言われるよ………。そんなに意外?」

「そりゃそうだろ。実況動画まで見て勉強してるんだもんなー」

「でも、この実況動画の人の動き、すご過ぎてあんまよく分からないんだよね」

「そうなの?」

「うん。だから、やりづらいというか参考にならないというか……」

「あ、そういえばあたし、メチャクチャ面白いゲームプレイ実況の人達知ってるぞ」

「kwsk」

「なんだっけな、名前は確か………」

 

 凛はこの後、帰ってからそのプレイ動画を見た。モンハンのプレイ実況は残念ながらやっていなかったが、とりあえず凛はそれを見ながら心の中で呟いた。

 

(………ゲーム実況、か……)

 

 


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