気が付いたら人気が出てた。
モンハンをやり始めてから一ヶ月が経過した。
人にはそれぞれ得意不得意があり、別に渋谷さんがモンハン下手くそなのは悪い事ではない。まぁ、自分のハマったものなら上手くなりたいという気持ちは理解出来るが。
しかし、それは何も無理にやる事ではない。ゲームなら尚更だ。上手くなりたいなら地道な努力が大事だ。特に近道のために荒療治なんてするものではない。
だから、本番に強いタイプ(自称)だからって生放送で全員に見られながらモンハンをやったって上手くなるわけがない。
そう、今の俺達のように。
「ちょっ、待ってよ!なんで私ばっかブレス吐いてくんの⁉︎」
「渋谷さんなんでそっち逃げんの!そっち行ったら逃げ場ないって」
「上野さん投げて投げて閃光玉投げて投げて閃k………死ぬって!あああああああ‼︎」
【 渋谷 が力尽きました】
「ちょっ、マジあり得ないんだけど……。なんで私ばっか……」
「ぷふっwww」
「あんた何笑ってんのぶつよ?」
あれ以来、モンハンにハマった渋谷さんは、Swi○chを買ってうちに持って来て、二人でモンハンを買った。俺は自分の3○Sな。
で、二人でやってるうちになんか面白いゲーム実況者を見つけたのか、突然「生放送で自分を追い込みたい」とか言い出して、現在に至る。
名前は本名は出せないので、渋谷さんの「渋谷」に合わせて正反対の「上野」を俺は名乗っている。コンセプトは、山手線で正反対の駅の渋谷と上野は余り交流がないので、仲良くしようということになり、上野がゲームを持ってきて一緒にプレイをすることにしている。まったく意味分からない。
で、これがまた無駄に好評で、特に渋谷さんのリアクション芸と低過ぎるプレイヤースキルが上手くマッチしていて、控えめに言ってメチャクチャ人気だ。
「てか渋谷さん、次死んだら終わりなんですけど分かってます?」
「うるさいって。次はあいつ倒すから」
「いやもう大人しくしててもらっても良いんですけどね……」
「……………」
「痛いから!死ぬからぶたないで」
言いながら、俺は銀レウスの突進をエリアルで躱しながら踏み台にし、上から斬りつけて乗りを成功させ、ダウンを取ってから尻尾を切断した。
俺も渋谷さんとやってるうちに少し上手くなり、銀レウスくらいの攻撃は何とか見切って躱せる。銀レウスが飛んだ直後にまた閃光玉投げてハメ、何度もエリアルで飛びながら舞い上がり斬りまくった。
「上野さん待った!まだ私何もしてないから!」
「いやいや、来たら負けますから早めに殺しとくね」
「ちょっと、ほんと待ってって待ってくれないとマジあれだから!」
「アレってなんだよ」
すると、レウスが足を引きずり始めた。それでも俺は容赦なく後ろから緊急回避で飛び上がり、レウスの上に乗った。
「ほほっ、ついてる」
「待て殺さないでって!」
「分かりましたから早く来なさいよ」
「ちょっと待って……よし、来た!」
「あ、ダウン取れた。早く殴ってね」
言いながら太刀で袋叩きにし、渋谷さんは片手剣で斬りまくった。レウスのダウンが終わり、立ち上がって足を引きずり始めた。
「いや逃がさないって」
言いながら閃光玉を投げて怯ませた。そのまま鬼神斬りを繰り返す事数秒、討伐完了した。
「ハー……終わった……」
「あのさ、渋谷さんもう少し頑張ってくれないと毎回危ないんですけど」
「うるさいって。勝てば良いんだよ勝てば」
「いや、まぁそう言われりゃそうですけど」
ていうか、プレイヤースキル上げるためにやってるんじゃないのかよ………。全部俺がやっちゃってんじゃん。
「まぁ、そういうわけで今回の放送はここまでということで、皆さん長い時間、ご視聴ありがとうございました」
「いや何も語らずに終わるんですか!」
「まぁ、今回も私の独壇場だったと言うことで」
「何言ってんのこの人」
「では、皆さんまた今度!山手線でした!」
そこで放送を終えた。カメラとマイクを切って、俺と渋谷さんはそのまま後ろに寝転んだ。
「ふぅ、疲れたぁ………」
「お疲れ様、疲れたね」
「いや、銀レウスに普通、2時間もかかんないからね」
この人死に過ぎなんだよ………。俺がどんなに頑張ってもこの人すぐ死ぬからなぁ………。
「………片手剣も合わないんじゃねぇの?」
「そう、かな………」
「太刀はどう?」
「武器は別々の方が楽しいじゃん」
「なら、俺が別の武器にするからさ」
「………えっ、良いの?」
「良いよ。下手な方に合わせるのは当たり前だから」
「水原く………あれ?今、下手って言ったでしょ」
「…………あっ」
直後、俺の頬を抓る渋谷さん。
「いっ、いふぁふぁふぁふぁ!引っふぁるのはふぁふぇろ!」
「………まぁ良いよ、下手なのはほんとだし」
渋谷さんは手を離した。ヒリヒリした頬を押さえながら、ボソッと呟いた。
「下手なのは認めるんだな」
「認めないと、次に進めないから」
「………ホラーにビビっていたのは認めない癖に」
「なんか言った?」
「あふぁふぁふぁふぁ!分かったから脇に指を差し込むなっはっはっはっはっ!」
謝ると渋谷さんは手を抜いた。どーでも良いけど、そこで反撃して来るのはあの時ビビってたことをバラすのと同じ事だけど大丈夫?
「しかし、モンハンってほんと難しいね。私、未だにジンオウガ倒すのがギリギリだもん」
「あー、まぁ分かるわ。確かに難しいよな」
「うん。………うん、じゃあ、太刀試してみるよ」
「じゃあ……俺は片手剣でも試すか」
「よし、じゃあもっかいレウス行こうか」
「………え、今日まだやるの?」
「明日休みだし良いじゃん。今日は寝ないでやるよ」
「お、おう………」
あれ以来、たまに渋谷さんうちに泊まるようになった。始まりはお互いに寝落ちしたことから始まり、案外「別に泊まっても問題なくね?」みたいにお互いに流れるように泊まるようになった。
向こうの親も俺が助けて以来、全面的に信頼を寄せてくれてるようで、最初の泊まりの時も特に何も言われることはなかった。むしろ、「娘をよろしくお願いします」とか言われた。なんだったんだろうな。
まぁ、そんなわけでも今日も慣れた様子で泊まりになった。渋谷さんは鞄の中からパジャマを取り出し、俺の背中に立って着替え始めた。あの、窓から反射して丸見えなんですけど………。前々からこういうことは何度かあったが、最近は罪悪感を覚えるようになって来た。
「渋谷さん、着替えるならバスルームでしなよ」
なので、今日は一言忠告しておくことにした。
「見たの?すけべ」
「ホントのすけべだったら黙って見てるよ」
「最初の頃みたいに?」
「ブフォッ!き、気付いてたの⁉︎」
マジかこの女!ヤバイ、かっこつけないでやっぱ前みたいに見て見ぬ振りをするべきだったか………‼︎
「呆れた、本当に見てたんだ」
…………カマ掛けられてるだけだった。
「まぁ、別に水原くんになら見られたって良いし」
「えっ?い、良いの?」
「気にならないってだけ。良くも悪くもね」
それは、信頼はしてるけど男としては見てないということだろうか。まぁ、確かに襲う勇気なんか俺にはありませんけどね。パジャマに着替え終えた渋谷さんは、再び俺の横に寝転がった。
「よし、再開しようか」
「着替えてから言って悪いんだけどさ、先に風呂入っとく?」
「あー、どうしよっか。そういえば少し小腹も空いたよね」
「じゃあ、先に風呂入ってて。俺、コンビニでお菓子買って来るから」
「あ、ならせっかくだし一緒に行こうよ」
「わざわざ?」
「行ってもらうのは申し訳ないし」
「なら、ゲームの電源切ろうか」
「………そういうところはしっかりしてるんだ」
「使ってない電気ほど勿体無いものはないじゃん」
「まぁ、分かるけど」
と、いうわけで、一度テレビやゲーム機の電源を切った。ここから長期戦になるなら今のうちに3○Sを充電しておいた方が良いと思い、コンセントに挿すと二人で出かけた。
渋谷さんに変装用の帽子を念のために被せて出掛けた。なんかもう当然のように渋谷さんと二人で夜に出掛けているよなぁ。まぁ、友達同士でこういう事するのは初めてだからとても楽しいんだけどね。
こういう事してると、ほんとに良い事はするものだと思う。あの時、渋谷さんのお母さんを助けた俺はマジで良くやったと思う。
「水原くん」
「? 何?」
「ありがとね、あの時お母さんを助けてくれて」
「…………はっ?」
「私、こういうの友達とするの初めてだから、すごく楽しい」
「…………」
俺と同じこと考えていたようだ。その事が面白くて「くすっ」と微笑むと、渋谷さんはムッとした表情を俺に向けた。
「今、笑うとこあった?」
「いや、何でもないよ。同じ事考えてたから」
「………ふーん」
「おふっ!ちょっ、なんで脇腹突くの!」
「何となく。コンビニ着いたよ」
鼻歌を歌いながら、渋谷さんはコンビニに入って行った。
…………なんか楽しそうだなー、渋谷さん。渋谷さんなら友達多そうだし、ゲームじゃなくても友達とお泊まり会くらいしてそうなのに。
しかし、ああやって楽しそうにしてる渋谷さんは、あれはあれで可愛らしい。アイドルだからそりゃそうだけど、テレビの中とは違ってナチュラルというか……こう、素の笑顔だから尚更可愛く見える。
そう思うと、そんな笑顔を毎日見れる俺はある意味幸せ者なのかもしれないな。そんな、少しおっさん臭いことを考えながら、俺もコンビニに入って渋谷さんとお菓子を選んだ。
「何にしよっかー」
「んー、あんま太らない奴の方が良いでしょ?」
「そういう事女の子に………いや、まぁ良いや。この時間からなら何食べても一緒だよ」
「じゃあ安いのにしとくか。ポテチとか」
「うん。飲み物は?」
「なんでも良いよ」
「じゃあお茶」
好きなものを手に取ってレジに並んでると、店内の壁にモンハンのポスターが貼ってあるのに気付いた。よく見れば、USJの広告だった。
「へー、モンハンUSJに来るんだ………」
渋谷さんがボソッと呟いた。目が「行きたい」と語っていた。いや、でも6月25日までって書いてあるし無理だろ………。
「まぁ、毎年来てるし、行くなら来年だよね………」
控えめにそう提案すると、渋谷さんは開催期間を見て小さくため息をついた。
「…………ほんとだ。もう終わるじゃん」
「来年行く?」
「うーん……来年までモンハンハマってるかわからないし………」
「大丈夫、来年はプレ4でモンハンの新作出るから」
「えっ、そ、そうなの?」
「う、うん………」
すごい目が輝き始めた………。まるで少年の目をしている………。
「発売したら、一緒にやってくれる?」
「いやーどうだろう。プレ4買う金があるかどうか………」
「あー……うん、だよね」
「っ…………」
そ、そんなにショボンとするなよ………。仕方ないな。
「ま、まぁ、今から金貯めればなんとか買えると思うから………」
「! ………うん。楽しみにしてる」
そう約束して、とりあえず商品を買ってコンビニを出た。
×××
コンビニから帰って来て、ゲームを再開し1時間ほど経過した。渋谷さんのアバターがキャンプから動かなくなり、ふと横を見ると完全に寝息を立てていた。
その寝顔にドキッとしながらも、俺は小さく深呼吸して気を落ち着かせると、エリア移動してモンスターのいないエリアに逃げると、お菓子や飲み物を片付けて布団を敷き、渋谷さんを寝かせてあげた。
「………おやすみ」
小さくそう言って頭を撫でると、とりあえずクエストだけクリアして俺と渋谷さんのアバターに剥ぎ取りをさせ報酬を受け取ってセーブして電源を切ると、床の上に寝転がって電気を消して寝ることにした。