もう一つのペダル
第1話 山中大地 目覚める能力
静岡県沼津。この町は漁業が盛んでありちょっとした港町である。この町で暮らしている1人の自転車乗りの成長と青春が詰まった物語である。
沼津南高校。沼津の町から少し離れたところにある小さな高校である。ごく普通の高校。
そんな高校に通ってる1人の青年が元気良くロードバイクで登校し校門を通り、自転車置場に置く。 彼の名前は山中大地。
「今日からまた学校か…。 だるいな…。」
彼は二年生にあがり、学業も運動神経も、ルックスや人望など良くも悪くもなくごく普通の高校二年生である。
「春休み早すぎだし…。先輩の立場になるのか。俺は部活やってないから関係ないけどな w 」
彼の隣にロードバイクを止めた青年がいた。
彼は山中のバイクを見て急に話しかけた。
「そのロードはジャイアントですよね!!」
〔なんだこいつ。急に話しかけて…。〕
「そうだけど…。」
「ジャイアントはカッコイイですよね!! 俺もいつか欲しいんですよね!」
「ありがとう…。 俺そろそろ行くから。」
「あなたは自転車競技部の方ですか?」
「自転車競技部? そんな部ないし部活やってないから。」
「そうなんですか…。 インターハイに出たいんですよね!! あなたはロード経験者ですか!!?」
「インターハイ? 自転車であるんだ。知らなかった。このロードは最近買ったやつで運動部とか入ってないしたまに体を動かさないと太るからサイクリング行く時か登校の時にしか乗らないから。」
「そうなんですか!!? 自転車競技部がないなら一緒に部を作りませんか!!?」
「なんでよ。 そもそもお前。馴れ馴れしくて鬱陶しい。」
「すみません!! 失礼しました!ロードに乗ってる人がいると話しかけたくなるんですよ!!」
「そうなんだ。そんなに自転車好きなんだ。そろそろ授業始まるからまたな。」
「名前聞いていいですか? 僕は1年の中嶋悠斗といいます!!」
「1年か…。入学おめでとう。 俺は2年の山中大地だ。じゃあな。」
「山中さん!! よろしくお願いします!」
「おう…。 じゃあな…。」
〔変な1年だな…。初日からなんかついてないな。〕
山中は教室に向かう。
放課後。
授業が終わり自転車置場まで疲れたように歩いていた。
「はぁ…。 これからバイトとかだる…。みほと一緒にカラオケ行きたかったな…。」
「へぇ〜。山中さんて彼女いるんですね w」
そこには中嶋が山中を待っていたかのように
立っていた。
「うあっ!! ビックリしたな! 朝の1年かよ!! なんでいるんだよ!!」
「山中さんを待ってましたから。僕と少しだけ勝負しませんか?」
「勝負? なんの?」
「自転車です。」
「自転車? かけっこでもするのかよ! これからバイトだからさ。お前と遊んでるヒマないんだよ!!」
「この学校に小さな裏山がありますよね。昨日入学式のあとこの山を自転車で登ってみたんですけど。なかなか急でハードでしたね。」
〔げっ…。 この山道俺の通学路だし。しかも、この山を越えたら俺の家が近いしバイトしてるコンビニも近いんだよな…。〕
「ちょうどこの山道。俺の通学路だし少しだけ付き合ってやるよ。」
「ありがとうございます!! 結構ノリが良い先輩で良かったです!! やるなら何か賭けませんか? その方が本気になれますし!!」
「ほう…。 良いだろう。」
〔こいつなんかだるいやつだから。ここでこいつに勝ったら今後2度と関わらないようにしてやるか…。〕
「なら。俺が勝ったらお前は2度とオレに関わるな。」
「えーー。嫌ですよー。 なら僕が勝ったら山中さんと一緒に自転車競技部に入るというのはどうでしょうか。」
「そう言うと思ってた。オレはこの山を入学してから1年間ずっと自転車で登ってたから負ける気がしないがな。」
「そうなんですか…。僕も負ける気がしないので。」
「そうか。時間もないから早くやろうか。」
「その前にルールを言いますが、この山道の頂上がゴールでどうでしょう?」
「良いだろう。ここから山頂まで2kmある。
傾斜15°もある激坂だ。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。僕。山道慣れてるので。」
〔こいつ…。 闘う目になってる…。そして自信に満ち溢れている。やばいな…。これで負けたらこいつに自転車競技部っていうやつに入るハメになる。それは回避したい。〕
「やるか。」
「はい!!」
山中と中嶋は裏の校門前でスタンバイしてスタートを切る。 最初先頭で走ってたのは山中。 中嶋は山中のあとを追いかける。
〔対した自信の割に対したことないな。オレはこの山道に慣れてる俺の方が有利だ。〕
中嶋と山中の差がドンドン開いていく。
いつの間に残り1km。 山中は中嶋が後ろから追いかけていないかを確認し差が開いていたため勝ちを確信したかのように言う。
「対したことなかったな!! 1年坊主! この勝負もらった!! 」
100mも差がつかれており、中嶋の圧倒的不利であった。 激坂であるためそう簡単に追いつかない状況である。
「やっぱり… あなたの走りはクライマーだ…。僕が朝あなたが走っている姿を見て追いかけてしまった。だが…追いつけなかった。しかし、僕は本気を出していないからね。」
中嶋は目の色を変え、下ハンを持ちダンシングの体制になる。
「さて…。やるか! 」
中嶋はギアを上げて一気に山中に追いかける。一瞬で山中と並んだ。
「!!!?。」
山中は一瞬の出来事で理解出来なかった。 100mも差がついてたのにいつの間に中嶋が隣に並んでいたからである。
「追いつきましたよ。山中さん!!」
「お前…。いつからそこにいるんだ。」
「今ですよ。」
「………。」
山中も驚きを隠せず焦り出す。
「あと山頂までの500m…。 本気でやりませんか? あなたの本気を見たいんです!」
「本気? そんなもんない。」
「僕はあなたの走りを見て確信しました! あなたはクライマーの走り。この激坂を一般人は長く走ることは出来ない。だいたい途中で脚を止めて自転車を押してしまう。だが、あなたは今この激坂を登っている!! 何か隠し玉でもあるんですか!!?」
「隠し玉? そんなもんはないが… この高校はバイク通学禁止だからな。入学当初から1ヶ月前までママチャリでこの山を登って登校してたからな。最初はキツかったが慣れた。あと、ロードにした理由はママチャリより早く登れるし、時間短縮になるしな。」
山中の発言に更に中嶋は興奮してしまった。
〔ママチャリ!!? ママチャリはロードよりはるかに重い!! ママチャリで約1年間この激坂を登っていた!! しかも、息も上がっていなく普通に走っている!!〕
「なら…。山中さん! 更に早く登れる方法を教えますよ!」
「そうだな…。お前がここまで登ってきたのも早く登れる方法があるからだろ。競争ならフェアにやりたいからな。」
「ですよね!! なら、ハンドルの下ハンを持ってください! あと、ダンシングできますか?」
「これか?」
「そうです!! あとはダンシングです!」
「この下の奴何か気になってたからな。早く走るための下ハンか。立ち漕ぎすると登る時楽になるな。そういうことか。」
「そうですよ!! なら、行きましょう!」
「ああ。」
山中は下ハンを持ちダンシングの体制になる。その姿を見た中嶋は驚いた。
〔ロード初心者の方がダンシングできるなんて!! この人なら……。〕
「負けたくないから。先に行くわ。」
山中は一気に加速しさっきと違う走りになった。中嶋はその姿を見て更に興奮する。
「敵に塩を送ってしまったな…。だが!! 本気の勝負こそ!! 楽しい!!! 僕も負けませんよ!!」
中嶋はギアを更に上げて最大レベルで回す。
また山中と並ぶ。
「はははは!!! また追いつきましたよ!」
「!!!?」
「楽しいですね!! 勝負は!!」
〔こいつ…。勝負を楽しんでいるのか? すごく笑っている。こいつはやばい!!このままじゃ負ける!!〕
「お前…。どこまで本気になるんだ!?」
「僕はいつでも本気ですよ!!」
「…っ。」
「さぁ!! 残り150m! 行きますよ!!」
山中は中嶋の実力に驚いた。負けたら自転車競技部に入ることになる。 山中は目を色を変えて走る。
「いつぶりかな。去年の体育祭のリレー以来かな。競争するなんて…。あの時も本気で勝ちにいったからな。負けたが…悔しかったな。」
山中は負けず嫌いで勝負事になると燃えるタイプである。 山中の中のスイッチが入る!
「中嶋とか言ってたな!! お前…。オレの中の闘争心を燃やしやがったな!!」
山中は前を走っていた中嶋に並び、中嶋を見る。
〔!?。山中さん…。 さっきと違う雰囲気が…。 これがあなたの本気ですか!! その闘争心とプライド! あなたはやっぱりクライマーだ!! 〕
「中嶋よ…。 これが俺の隠し玉だ!」
「ははっ!! 最高ですね! おらーー!!」
「負けるかよ!!!」
残り50m!!
両者は必死に漕ぎペダルを回す。 汗が吹き出し車輪の音が響く。
〔心臓がやばいっ…。勝負してる時の高揚感!緊張感!そして…。勝った時の達成感!この快感をロードでしか出せない!! だからロードは好きなんですよ!! 〕
〔心臓がバクバクだし…脚も少し痛いが…負けるのは嫌だ。勝った方が嬉しいからな。負けてたまるかよ!〕
両者の想いとプライドを賭けて山頂を目指す。そして、勝敗がはっきりした。
勝者は天を見て両手をガッツポーズし、敗者は頭をさげて地面を見る。
「はは!! 決まりましたね!! この達成感!快感!! 最高!!」
「クソッ……。」
「勝ちましたよ! 山中さん!」
「くっ…。」
僅かな差で山頂に先に到達したのは中嶋。
「下り坂なんでスピードが出過ぎないように気を付けてください。」
「わかっとるわ…。」
「僕が勝ったので自転車競技部に入ってください!! 約束は約束なんで!!」
「くっ…。そうだな…。」
「僕の目に狂いはありませんでした。山中さんはロードにむいてる!! その登板能力にセンス。そして! その闘争心! クライマーに必要な要素が詰まってる!! 逆にその力を発揮しない方がもったいないです!!」
「そうか…。確かに久々に勝負して負けたが…楽しかったな…。」
〔こいつ…。少し変わってるヤツだが… 悪くないか…。 少しだけ付き合ってやるか…。だが… 勝負してた時すごく充実してた。心の中が燃えるあの感覚。今まで感じたことなかったな…。〕
「中嶋よ。」
「はい!!」
「自転車競技部っていうの入ってやるよ。」
「ありがとうございます!!」
「しかしな…。 自転車競技部作るには部員集めるのはもちろんだが…理事長とか校長、生徒会に申請しないと作れないぞ。」
「そうなんすか!!自分たちで勝手にできると思っていましたけど…。」
「そういうところは… バカなんだな…。お前…。 自転車バカかよ…。」
「はは! 自転車バカとか良い言葉ですね!」
「褒めてないぞ…。」
こうして山中大地と中嶋悠斗は自転車競技部の第一歩を踏み出す。