多村と佐々木抜きの6人で芦ノ湖から甲府までの約100kmの距離を走る。沼津までの長い下りは純太が独自に開発したダウルヒルの引きにより、兄の勘太にプレッシャーを与える。そして、富士宮までの平坦区間を勘太がチームを引くことになったが、しかし、純太が多村からこのスプリント対決でメンバーを決めるということで、勘太と純太はインハイメンバーを賭けたスプリント対決が始まる!!
「楽しんでこいよ!! 」
「ああ。大地。」
「はい。山中さん!」
勘太と純太はチームを残し、インハイメンバーを賭けたスプリント対決が始まる。
「なぁ。純太。市街地を抜けるまで少し話さないかい?」
「いいよ。」
「なぁ。オレのことをどう思っていたか?自転車を始めたころから。」
「兄さんはカッコイイし、誰よりも一番速いと思っているから。」
「そうか……。 いつもそれしか言わないが…それはお前の本音か? それともお世辞なのか? この際だからお前が思っていることをこの市街地を抜けるまで間接的に言ってほしい。」
「…………。嫉妬してた……。」
「嫉妬…? なんでだ? 」
「兄さんは…。小学生の頃から地元の大会で良い成績を残し、中学生になると静岡県の自転車競技の中で名が知られるようになった…。 僕はほとんど2番目。何故なら… 兄さんを勝たせるために…。」
「それは…オレらが開発したツインスプリントで純太が引いて俺が取りに行くというスタイルだろ。」
「僕は……兄さんみたいに天性のスプリントセンスはない。何故なら…脚質が違うから!!逆に僕がゴールを取りにいくことも出来るさ…。でも…。ゴール前の勝負強さは僕にはないんだ…。どちらかというと…ルーラータイプだからさ…。」
純太が泣きながら喋る。勘太は純太の本当の気持ちを聞いて考えていた。
〔たしかにな…。双子だけど…脚質が違う。オレはスプリンターみたいに瞬発力重視かもしれんが… 純太はある程度の速度で平坦を走る。スプリンターでもあるが…ルーラーぽい要素はある。ゴール前で競うとなると難しい部分はある。〕
「そうか…。お前はやっぱりオレと同じ血が流れていて感心したよ。」
「だって。双子じゃん。僕たち。」
「それもそうだけど… 誰よりも最速で走りたいという個々の気持ちはな。」
「えっ…。」
「オレはな。純太の引きは最強だと思うし、純太は昔から柔軟な思考を持ち、かつ、ツインスプリントの産みの親も純太だ。覚えているか? 小学生の頃のあの大会?」
「いろんな大会に出てるからわからないよ。」
「小4のころ。オレが先頭で走ってたが、道路の石に車輪があたり落車した。後ろからドンドン後続の自転車もくる。脚に思いきり擦り傷を負い、治療してもらったろ。その時、医師にはレースは続行するなと言われたが、後ろから純太が来て 兄さんを優勝させる!と言ったろ。医師に無理やりお願いして純太のあの引きで先頭まで追いつき最後の50mぐらいで純太はわざと失速しオレに勝たせた。 本当はお前が優勝していいはずだ。だが、しかし、お前はケガしてる状態のオレを優勝に導いた。
あの時の純太は本当にかっこ良かったし、スプリンターとしての闘争心に溢れていた。」
「そんなことあったよね…。」
「オレは思う。オレにはあるが、純太にないもの。オレにはないが、純太にあるもの。それがあって俺たち2人じゃないのか? だからよ…。ツインスプリントやらないか? 富士宮まで。 引き分けになれば多村も決める要素がないだろ。これが菅原勘太と菅原純太というスタイルがあるんだからさ。」
「兄さん…。わかったよ。ツインスプリントやろう!! 」
「それでこそ! 菅原兄弟のスタイルだ。」
2人はツインスプリントの態勢になり、隣に走っていたスクーターより速い速度で走り、富士宮市まで走る。 富士宮市の看板が見えてきた。
「よし。並ぶぞ。こうして並んでゴールすれば良い。そうすれば引き分けになるだろ。」
「わかった。」
富士宮市の看板下の寸前に来て、引き分けになったかと思いきや…。
勘太は看板を通りすぎた時に違和感を感じた。それは同着するはずの純太がいないこと。後ろに振り返るとそこに看板の手前に純太が止まり、涙を流しながら勘太を見ていた。
「なんでだよ……。なんでだよ!! 」
その声は周りにも聞こえるぐらいでかい声。
「やっぱり……。兄さんは……。インターハイに出てほしい……。」
「だから…。引き分けにすればいいと言ったじゃん!! 多村に言えば説得できたというのに!! 年に一度しかないインターハイ!!
純太は出たくないのか?」
「出たいさ!! でもっ。兄さん! 兄さん1人でインターハイに出て、有名になってほしい。僕は兄さんが活躍する姿を見たいんだ!! 全国に兄さんの名が広がるように応援してるよ! 」
「純太…。 お前っていうやつは…。」
勘太は自転車を止めて純太に抱きついた。
勘太は弟の言葉に涙が出た。
「お前の分を背負ってインターハイ走る。そして、お前が欲しいグリーンゼッケンを取ってくるから。約束しよう。グリーンゼッケンをとったらお前につけてやる。」
「うん!! 約束だよ。」
こうして2人のスプリント対決はついた。兄の勘太に希望を託した純太。勘太は弟の純太にグリーンゼッケンを取りにいくと約束をする。 後ろから、山中と熊野、北上と中嶋が来た。 山中は結果を聞く。
「どっちが勝ったんだ?」
「大地。オレが勝った。だから、任せろ。」
「そっか…。細かいことは練習が終わったあとにきこう。今は甲府に行くぞ。」
山中達は富士宮市街地を走り、平坦区間を終えて国道139号線を北上する。右を見ると富士山が見えて、周りには茶畑がある。それを抜けると林道を走る。この区間は坂道が多いため、クライマーの中嶋と北上が交代しながら、チームを引っ張る。 林道をつっきると、富士五湖の西湖が見える。そこから国道358号線を登り、甲府方面に向かう。山のてっぺんが山岳リザルトになる。山を下ると甲府盆地が見え、アルプスの山々が見える。甲府市街地が2日目のゴールになる。
山を下る途中に勘太が最後の指揮をとる。
「クライマーの2人は御苦労だった。あとは下ってすぐゴールだ。ここからはエースとアシストの見せ場だ。純太のダウンヒルで下り終えたらアシストは熊野。エースは大地。お願いできるか? 」
「山中先輩のアシストなら任せてください!今、ここが僕の最大の見せ場ですから!!」
「勘太。任せろ。」
「お前らは自由にやってくれ。オレらはダウンがてらにホテルまでゆっくり走って帰るから。」
そして、甲府盆地に突入し、熊野と山中はホテルに向けて1秒でも早く到着するためにチームを残して走る。
「行くぞ!! 熊野! ラスト数何キロ頼むぞ!! 」
「はい!! 任せてください!! 」
市街地に入り、信号やクルマの交通量を気にしながら出来るだけ全力で走る。
山中は熊野に質問する。
「なぁ。熊野は前エースアシストにこだわっていたが…理由はなんだ?」
「それは…。最初から最後まで話すと長くなるので省略しますが… 間接的に言いますと… 僕の当時の師匠のおかげです。」
「そうか…。お前にとってエースアシストとはなんだ?」
「なんで急にそんなこと言うんですか?まだ練習中ですよ! 」
「そうなんだけどさ…。よく一緒にこの3カ月過ごしていたからさ。こうゆう話はこの場でしか話せないから。」
「そうですね…。 エースを優勝に導く。最後の数キロぐらいしか活躍する場所ないけど…見えないところの縁の下の力持ちっていう感じがして、やりがいもあり僕にむいてるポジションかなと。」
「そうか。なら。昨日、地図で見たことさ。ホテルの300m前まで信号がある。それを過ぎるとホテルまで信号がない。その信号までオレを引いてくれないか? 」
「わかりました。あと3km弱全力で引きましょう!! ついて来てくださいね! 」
すると、熊野は下ハンを持ち、更にダンシングをし始めた。
〔なんだ…。熊野が風除けになり、列車のような轟音が鳴る。しかも、すげー楽に走れてる。〕
あっというまに残り1kmをきる。運が良く信号にあたることなくストレートに進んだ。
「すごいじゃん!! 熊野!」
「………。」
「無反応かよ。集中してるのかな。」
〔もしかしたら… こいつがエースアシストに選ばれた理由はこれなのか…。これだとは断言出来ないが… 詳しいことはまた後ほど聞いてみよう。今は残りの300mのことを考える。〕
熊野は残りの300mまで全力で引いて、力が抜けるように山中の腰に手をそえた。
「残り……。300m。 しっかり…引きました!! 1秒でも早く多村君のところへ!! 出し切ってください!! お願いします!」
「残り300m!! 出しきる!! 」
300m先には先に到着してた多村と佐々木が待っている。山中の姿が見えていた。
「来るぞ!! 山中さんのゴールスプリント!! 君が今日走らせなかった最大の理由は今、この瞬間を君の別人格の記憶にインプットしてほしい。この何秒間のために。」
「えっ…。そうなの!!」
「話してるヒマはないぞ。ちゃんと目ん玉に焼き付けるんだな。」
山中はダンシングして山中の闘争心を最大にあげ、目の前のゴールに向けて走る。
あっというまにホテルの前に到達し、佐々木は山中のゴールスプリントのあの気迫に鳥肌がたった。佐々木は山中の姿を間近に見たのは初めてだった。
「はっはっはっ。多村。タイムは?」
「このぐらいですね。予想通りのタイムでした。お疲れ様です。」
「そうか…。でもロスしなくて良かった。」
熊野が到着する。
「お疲れ様です。熊野君。」
「君にはいくつか話したいことがあるんで!飯が食い終わったら一緒に話しますよ!」
「ああ……。わかりました…。」
数分後に菅原兄弟や北上と中嶋が到着した。
「お疲れ様です。皆さん。2日目はなかなかハードだったと思いますので、これからの時間は自由に過ごしてください。あと、マネージャー達がポカリとおにぎり、お菓子を買ってきてくれたみたいなので食べてください。運動後の食事は大事ですので。」
6人は地面に座りながら、ポカリとおにぎりとお菓子を食べながら、話してた。
「今日の練習はハードだったな…。北上。」
「久々だよ…。こんなに走ったのは…。中嶋も脚プルプルやないか…。」
「あったり前じゃん…。お前もな!」
菅原純太は多村にスプリント対決の報告をしにいった。
「多村君。僕の負け。兄さんが勝った。」
「そうですか。ちなみにどれぐらいの差でしたか?」
「僅か数メートル単位。」
「そうですか…。結構良い勝負をされたのですね…。純太さん。すみませんが… 明日はマネージャー達と一緒に行動してください。」
「わかった…。」
山中達と喋っていた勘太は純太の様子を見ていた。
〔純太…。お前の分まで頑張ると誓う。〕
多村は皆んなを集めて明日のコース説明をする。
「みなさん。お疲れ様です。明日のコース説明だけしますね。 明日は甲府から東京、大手町まで走るコースです。ちなみに国道20号線。甲州街道で東京方面へ走り、半蔵門で皇居の周りを走り、大手町がゴールになります。このコースは特殊で、山岳リザルトが、東京都と神奈川県の県境。スプリントラインが、東京都調布市味の素スタジアム前となります。 山岳とスプリントリザルトが逆になるという異例なコースになっております。
明日はクライマーが先に仕事をして、スプリンターの勘太さんが東京都に入った引っ張るという形になります。今日はゆっくり休んでください。」
多村の総括が終わり、合宿2日目の幕を閉じた。