もう一つのペダル   作:ユーチャロー

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第21話 最速!最強!

 

インターハイ全国大会が遂に開幕。3日間かけて東京の大手町から神奈川、静岡、山梨を通り大手町に戻るコースである。総合距離は約350km。この距離を3日間かけてロードバイクで走る。3日目の大手町のゴールに一番先に着いたチームが総合優勝になる。この過酷なレースを走ることが出来るのは難しい。全国の強豪校達はこの3日間を完走し、優勝を目指すのである。

 

その1日目のコースは東京の大手町から東海道で神奈川県の横浜や、湘南海岸、小田原の長い平坦道を走り、小田原から箱根山の山頂を登る。山頂を過ぎるとすぐ芦ノ湖があり、1日目のゴールがある。1日目のポイントは長い平坦道でどれだけ速く走れるか。そして、標高872mある箱根山をどう攻略するか。1日目の優勝を目指して各高校の選手達は走る。このインターハイは1日目のスプリントラインを速く走った選手が所属するチームは先頭で集団をコントロールすることが出来る。コントロールすれば優勝する可能性が高くなるからだ。だから、この1日目のスプリントラインは各高校の最速屋を出すのである。それぐらい最初のスプリントラインは大事な場面である。そこで、沼津南高校はエーススプリンターの菅原勘太を出す。

 

「そろそろパレードランも終わり各高校のスプリンター達が出ます。勘太さん! よろしくお願いします! 」

 

「ああ。任せろ。一つ質問いいか?」

「なんですか?」

「今日のスプリントラインは横浜だよな。」

「はい。」

 

「そのあとは湘南海岸を通り小田原までの長い平坦道。ここでは誰がチームを引くんだ?」

 

「中嶋君に引いてもらいますよ。」

「え?多村。正気か?」

「正気ですよ。」

「クライマーの彼を何故…長い平坦道を走らせるんだ。アホか?」

「中嶋君。行けますよね?」

 

「ああ!! 行けるさ!」

 

「おい。中嶋。コイツになんか弱みでも握られてるのか?」

 

「いえ。そんなんじゃないですよ。勘太さん。安心してください。あとで見せますから…。話しているうちにパレードランが終わっちゃいましたよ!各高校のスプリンター達が動いてますよ!勘太さん! 行った方がよろしいのではないですか!! 」

 

「あっ…。オレとしたことが…… 多村。オレがこのスプリントラインを走ってきたら理由を聞かせてもらう。行ってくる!! 」

 

山中が勘太の肩を叩く。

 

「勘太。純太のために必ずグリーンゼッケンとってこいよ。約束だからな。」

「ああ!! 」

 

山中は勘太の背中を押した。

勘太は先頭にいるスプリンターを追いかける。勘太は各高校のスプリンター達を次々と抜いていく。

 

「なんだあいつ! 最後尾の沼津南高校のスプリンター! クソはえー!」

「追いつけねー!! 」

 

その時。勘太の横に宮崎浩輔が近寄る。

 

「あれれ…? あなた1人で先頭に追いつくつもりですか〜? 」

「宮崎! テメェ!」

 

「なんであなたが1人で走ってるんですか〜?ツインスプリントで有名なあなたが…弟君無しで走ってるなんて珍しいですね〜。」

 

「うるせー! お前は引っ込んでろ! 」

 

勘太は宮崎を置いていこうとするが…宮崎は勘太に引っ付いてくる。

 

「お前。オレをブロックする気か。それとも…お前がこのスプリントラインを走るのか?」

 

「いいや。ブロックする気もないし…スプリントラインも狙いにいきませんよ〜。少しあなたと話したかっただけですよ〜。元箱学のエーススプリンター候補さーん ww 」

 

「てめっ…!! 」

 

「それに… ウチからは桐谷君がスプリントラインを目指して走ってるので。パレードランが終わったらすぐ行きましたよーw 僕たちが先頭にいたから今頃もう遥か先に走ってるかもねー ww 」

 

勘太はその言葉を聞いた瞬間に加速する。 勘太の背中を見ながら宮崎は笑っていた。

 

「ははは!!! 落ちこぼれのスプリンターがあの桐谷君に勝てる訳ないじゃん!! 後ろでゆっくり脚を休めたほうがいいのにね!! あの桐谷君はあなたがいた時とは違いますから。桐谷君の方が実力は上だよ。」

 

勘太はひたすらペダルを回し先頭にいる桐谷を追う。しかし、なかなか先頭が見えない。

 

〔くそ!! 8割ぐらい力を使っても追いつけない…。あの桐谷さんが…。ここまで速くなってるとは思ってもいなかった!〕

 

 

勘太がまだ箱根学園に所属してた頃の話になる。

 

当時の箱根学園は部員が100人を超えており、その中でインターハイメンバーに選ばれるのはごくわずかであった。勘太が高校1年の頃は純太と同様に将来有望なスプリンターとして先輩から賞賛されていた。

 

「菅原兄弟! 早すぎだろ! 」

 

「1年と思えないあの走り! こりゃ! 2年後か…いや…1年後にはインターハイメンバーに選ばれるんじゃないか! 」

 

当時は菅原兄弟は新人戦で勘太が1位で純太が2位と優秀な成績を残していた。

 

「今回の新人戦! 1位と2位おめでとう!」

「部長。ありがとうございます!」

 

「それと…宮崎! 3位おめでとう! 新人戦で箱学の1年がワンツースリーで入賞!これは前代未聞の快挙だ! 3人ともよくやった!」

 

「ありがとうございます!」

「兄さん! やったね! 」

「………。」

 

「おい! 桐谷! こいつらに表彰状を渡してやれ!! 」

「はい! 」

 

当時の桐谷英二はインハイメンバー候補でもなく…チーム内で最弱な方であった。これといった成績も残してもいなく…ただ箱根学園の自転車競技部に所属してるという感じであった。

 

桐谷は3人の表彰状を渡した。

 

「3人ともおめでとう。」

 

「桐谷さん。ありがとうございます。」

「先輩! ありがとうございます!」

「ありがとうございます。」

 

「よし! お前らもあの3人に負けないように日々精進しろよ!! 」

 

「はい!!! 」

 

この日の練習後。箱学の部員達は自分達が着ていたジャージを桐谷に渡す。

 

「おい! 洗濯当番! 今日もよろしくな!」

「桐谷! これ! 洗濯しといて。」

 

「……はい。」

 

そう。彼はチーム内では洗濯係であった。

 

桐谷は1人で渋々と洗濯機にジャージを入れて洗濯を開始する。

 

〔くそ!! なんで……。オレが洗濯係にならなきゃいけないんだ! おれだって……インハイに行きたい! けど……あの1年の3人が新人戦でワンツースリーで入賞したら…オレにインハイに行けるチャンスなんかないじゃないか! オレは…なんのために箱学に入学して自転車をやってるのか…わからなくなってきた…。もう…。やめようかな…。毎日のように洗濯係やらされて疲れた…。〕

 

 

「桐谷先輩! まだ残ってたんですか?」

「なんだ…。宮崎か…。洗濯物なら預かるよ。」

「洗濯係になってるんですか!? 初めて知りましたよ! 」

「洗濯係だよ…。入学してからずっとな!」

「そうなんですか! ははは! 」

「おい。オレをバカにしに来たのか!」

 

「いやいや〜!バカにはしてませんよ! ただ…あなたに丁度いいやと思っちゃいました!! 」

 

「なんだと? 」

 

「ちなみに…桐谷先輩はインターハイに出たいに思いませんか?」

 

「出たいさ!! 洗濯係なんてやりたくない!オレはこの箱学で自転車がやりたくて入ってきたんだ!! 」

 

「そうですよね…。なら…。あなたがインターハイに出場出来るようにしましょう!僕が!! 」

 

「どーやって!! 」

 

「僕があなたを鍛えさせる。それだけですよ! やりますか? やらないですか?」

 

「オレがお前の指導を受ければインハイに出れるんだろうな?」

 

「その点は保証しますよ。その代わり…あなたがずっと洗濯係になってた事実を顧問に言っちゃっていいですか? それが…僕があなたの先生役になる条件ですね。」

 

「ああ! チクッてくれ! それで来年か再来年にインターハイに出れるようなら何でもするさ!! 」

 

「そうですか。なら。交渉は成立ですね。」

 

それから桐谷は宮崎と共に特訓をするようになった。宮崎が顧問に桐谷が今まで洗濯係をずっとやらされてた事実を話した。この事は知らなかったという。桐谷にずっと洗濯を押し付けていた部員は1カ月間部活に顔を出すことがなかった。

 

そんなある日。

 

「桐谷さん…。菅原兄弟に勝ちたいと思いませんか? 」

「あの菅原兄弟か…。同じスプリンターだからな…勝ちたいな。」

「なら。僕が次の大会であなたが勝てるようにしますよ。」

「そうか! 頑張るわ!! 」

「では…そろそろ練習に行きますか。」

「ああ!」

 

結果的に桐谷が出場した大会は菅原兄弟が途中で落車をし…他のチーム達も集団落車が起きたため…初優勝を果たす。

 

 

 

〔残り2キロ…。そろそろ横浜だ…。〕

 

勘太はついに先頭で走っていた桐谷をとられた。勘太は更に加速し一気に距離を縮める。

 

「来たか。菅原。」

「桐谷さん…。お久しぶりです…。すみませんが…お先に失礼します…。」

 

勘太は更に加速したが…桐谷はついてくる。

 

「待てよ。菅原。少し話そうぜ!」

「グリーンゼッケンをとってくるので…邪魔しないでくださいよ。」

 

〔この人に構ってる時間なんてない。残りの1.5km! 全力で走ることだ!!〕

 

「うおおおお!!!! 」

 

勘太はダンシングをして桐谷の差を開く。しかし、また桐谷が追いつく。

 

「息が上がってるね! 最後尾から先頭まで全力で走ってきたから疲れが溜まってるんじゃないのか!! 」

 

〔オレの今の状況をわかってる…。この人はこの1年間で何があったんだ…!〕

 

「お前が本気出すなら…。オレも本気だそうかなー。ちなみにオレ…5割しか力使ってないから。オレの別名…。何か知ってる? ダイヤモンドスピアだよ!! 」

 

桐谷は鋭い槍が一直線に突進するかのように空気抵抗がないかのように力強い走りをする。 その様子を見た勘太は驚きを隠せなかった。

 

〔なんだ…。この異様な走り方は…。しかも…すごい速い…! 1年間でこんな走りが出来るとは… 相当練習したんですね…。桐谷さん!〕

 

「負けてたまるかよ!! 」

 

勘太は更に加速し、桐谷を更に縮める。

 

「ははは! 必死だね! もう限界だろ!! 今はオレが最速で最強なんだよ!」

 

「くそっ…。なかなか縮まんね…。残り1km…。少しでも縮まらないと勝機がねー!! 」

 

勘太は必死にペダルを回すが…差は縮まるどころか…開いていく。勘太は最後尾から先頭の桐谷まで全力でペダルを回していたため脚に痛みがきてた。

 

〔くそ…。ここまでかよ!! あと少しだったのにな…。正直もう限界だ…。〕

 

勘太は気持ちが弱っていたせいか失速。前に走ってた桐谷は勝利を確信する。

 

〔菅原は堕ちた!! オレのスプリントを見て諦めたか!! オレは…このインターハイに出るために必死に練習し努力した!! オレがお前に勝った日からオレは注目されるようになり…それからは更に練習した!自分が強くなっていくのが快感に思えた。 こうしてインハイの初日で先頭に走っている。それは!! オレが1番最強のスプリンターという証だ!〕

 

 

「純太…。大地…。すまん…。オレはもう限界だ…。力が入らね…。」

 

その時。沿道に純太が叫んでいた。

 

「兄さん!!! ここで諦めるな!!! まだ行ける!!! 」

 

純太は手を差し伸べて勘太は純太の手をタッチする。純太の手に温もりを感じた。 まるで…勘太の心のタスキのように。

 

〔……! 純太!! 兄ちゃんは…バカだな…。まだ決まったわけでもねーのに…諦めてた。諦めたらそこで終わりだよな…。オレは……ここで諦めるような男ではない!! まだ行けるぞ! 菅原勘太!〕

 

「残りの500m!限界突破でペダルを回して必ずグリーンゼッケンをとってくる!純太!! 大地!! 菅原勘太の底力を見せてやるよ!! 動け! 俺の脚!! 」

 

勘太は更に加速。100mも離れていた差を縮めるために限界に近い脚を全力で回す!

 

〔見てろよ!! 箱学! お前らに絶対グリーンゼッケンを渡さない!! 〕

 

 

「このまま行けば俺の勝ちだ! 念願のグリーンゼッケン!! この時のためにオレは人の5倍ぐらい練習してきた! 」

 

後ろから車輪の音が聞こえる。桐谷は後ろを向いた。

 

「来たか…。菅原。そう簡単に勝たせてくれないか…。ならば…蹴散らすだけだ! 」

 

「追いついたぜ!! 桐谷さん!! 」

 

1日目のスプリントラインまであと200m。勘太と桐谷の最期のスプリントライン対決が始まる!

 

〔オレは…インターハイに出るために必死に努力した! そして! 今ここでお前とスプリントラインを賭けた勝負をしてる! 気持ちが高ぶるね!! 〕

 

〔オレは誓ったんだ…!インターハイの初日にスプリントラインをとって純太にグリーンゼッケンをつけてあげると!オレが沼津南高校のエーススプリンターだ!!〕

 

「オレが勝つ!!! 」

 

「絶対に勝つ!!!」

 

両者のプライドを賭けて残りの数十m走る!

そして、決着が着く。

 

 

「インターハイ1日目! 最速でスプリントラインでゴールした選手は204番!沼津南高校菅原勘太選手です!! 2位の桐谷英二選手とは0.5秒差です!」

 

 

「はっはっはっ………。やったぞ……。やったぞ!! 純太!!!! 」

 

「そんな……。嘘だろ……。オレが…負けた……。 そんなバカな!! オレが先にゴールしたはずだ!! 認めない……。 認めないぞ!! 」

 

「桐谷さん…。ようやくあなたとゆっくり話す時が来ましたね。あなたが負けた理由を教えます。それは…想いです。」

 

「想い……。どうゆうことだよ!」

 

「僕は仲間の想いを背負って走っていたからです…。何より…気持ちで負けなかった。」

 

「気持ち……。仲間の想い……。そんな物でオレに勝てた……。そんなのオレの辞書に存在しないんだよ!! 」

 

「いつも洗濯係だったことは知っています…。それに…あなたが去年の秋の大会で優勝した後に貴方の態度は変わってしまった!憎しみと復讐にしか感じなかった。今までオレのことをバカにしてた部員達に見返すかのように。」

 

「お前に何がわかるんだよ……!オレがこの1年半洗濯係にされて…どれだけ辛かったことか!! 入学した時から…先輩に期待されてたお前に… オレの辛さがわかるのかよ!!」

 

「僕には貴方の辛さはわからないかもしれない。しかし、あなたは…洗濯係でいた時は誰よりも優しく…困っている部員がいたら励ましていましたよね…。あの頃の貴方は…今より素晴らしいものを持っていた。力を得たかわりに…失ってしまった貴方の心!! 」

 

「心……? そんなもんは捨てた!インハイに出るならどんな手段を使ってでもチームメイトを蹴散らす。そんなんじゃ…お前みたいな才能あるヤツに勝てないてわかったんだよ!! お前と話してたらイライラしてきた。自分が勝ったからって…敗者に話しかけるんじゃねーよ…。今回は…お前の勝ちだ…。あと2日もある。次は勝つからな。」

 

「最後にこれだけ言わせてください。桐谷さん。貴方の心の底に眠ってる優しさは無くさないでください。」

 

「ちっ…。いちいちうぜーんだよ。」

 

このスプリント勝負の結果は山中達に伝わる。

 

「勘太…!!! 」

「勘太さん! やりましたね!」

「やっぱすげーよ! 勘太さん! 」

「勘太さーん! さすがですね!」

 

「勘太さんのおかげで集団の先頭に行けます。では皆さん先頭に行きましょう。」

 

沼津南高校は最後尾で走っていたが…勘太がグリーンゼッケンをとってきたことで…集団の先頭で集団をコントロールすることが出来る。 沼津南高校の後ろに走るのは箱根学園である。

 

「あらあら〜。最後尾にいた沼津南高校さんが僕たち箱学の前にいるなんて〜ありえないでしょー。」

 

「宮崎さん。これはこれで良かったのではないでしょうか?」

 

「俺たちが…山岳区間に入るまでにこの集団の先頭にいるのも…疲れるしね〜。ま。良いでしょう。しばらく休ませてもらいますか。」

 

〔しかし…沼津南高校の6番の選手…。僕のデータベースにないけど…どーゆうことかな〜? 多村ー!!! 〕

 

沼津南高校は勘太の活躍により、優位なポジションをとることが出来た。そして、小田原までの長い平坦区間に突入する!

 

次回話に続く…。

 

 

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