第23話 箱根の勝負!!
小田原までの平坦道まで先頭集団に追いつく中嶋と菅原勘太。先頭には箱根学園の2年で主将を務める宮崎浩輔とエーススプリンターの桐谷英二。総北高校3年のエーススプリンターの門倉翔と2年のエースである真中勇気。箱根の山岳区間を競うことになる。
後ろの集団をコントロールする沼津南高校と京都伏見高校。この2校が集団を引っ張ることにより沼津南はポジションを現状維持することが出来る。 新たなオーダーを多村が出す。
「そろそろ山岳区間に入りますし…クライマー達は前で引っ張ってほしいと思います。僕達オールラウンダー組は後ろから各高校のクライマー達が出ないようにブロックします。京伏さん達も出てください。」
「ああ。わかったわ!岸と若林!! 山岳区間はオレらを引いてくれや。万が一なことが起きたら…阻止してこいよー!それで…沼津さんは誰が引くん?」
「こちらからは…北上君と山中さんを出します。2人は優秀なクライマーなんで。」
「そりゃ! 安心やな。わいらも関西では名が知れてるクライマーや。岸! 頼むで!」
「慶喜!任せろや! こんなどデカイ大会で大暴れ出来るやんて胸が高ぶるわ! 」
彼は京都伏見3年の岸吉宗。関西では1番のクライマーとして名が知られている。そのスタイルはシンプルで息も切らすこともなく…傾斜がある坂道でもスイスイ登れる。天性のクライマーである。
「あなたのことは知ってますよ! 去年のインハイに出場していましたね! 2日目の山岳賞とって凄かったですよ!」
「見にきてくれたんや! おおきに! 君は…沼津南のエースクライマーなんやって? 」
「そうですよ! あなたと一緒にインターハイで走れると思ってもいなかったです!」
「そりゃ良かったな! しかし…今年の京伏は慶喜や家斉を筆頭に良いチームになったで。あんたらのチームは初出場でありながら予選大会で単独で優勝したと聞いとる。そのチームが団体のデカイ集団を引いとる。こりゃ…凄いチームやな…。なんか秘訣でもあるん?」
「岸! お話しはそこまでにせいや! そろそろ山に入るで! そろそろ準備せなあかんやろ。」
「すまん!すまん! 今日のレース終わったらゆっくり話そうや! 」
「時間があったらですね…。」
「北上君。山中さん! 前に出てください!後ろは任せてください! 」
「任せろ! 多村!」
「なぁ! 多村! 一つオレのワガママを言っていいかい?」
「山中さん…。なんでしょうか?」
「オレがこの山岳賞をとりにいく! 勘太がグリーンならオレはレッドをとりにいくよ!」
「それはダメです。さっきも言いましたが…この集団を引いてコントロールしないといけない状況。もし…あなたがこの場にいなくなると北上君の負担が大きい。3日間を350kmを走るインターハイ。配分を考えて3日間を走破しなければならない。このチームは誰1人も欠けてはいけないのですよ。特にあなたはこんなところでリタイアなんかされたらたまらないです。」
「それがどーした?」
「どーゆうことですか?」
「多村は気づいていないのか?オレの後ろにくっついてるヤツがいるんだ。なぁ…。光輝!! 」
「バレてたか…。 大地!! 」
山中の後ろについてたのは杉山光輝。彼は山中とこの山岳賞勝負を挑むために沼津南の後ろについていたのである。
「なるほど。そーゆうことですか。山中さん。しかし…それでも許可はしません!あなたの役目は今日じゃない!」
「沼津南高校の多村純太郎君。キミのことは知ってるよ。キミの実力は勿論だが知的なプレイヤーというのも知ってる。しかし…思うようにいかせないよ。これは…キャプテンからの指示だからね! 」
〔なるほど。後ろにいる100人のデカイ集団をコントロールしてる沼津南と京伏。その中にはゴールまで残りわずかなこの山岳区間でクライマーを出し、ゴールを狙いにいくチームも少なからずいる。つまり…ここが勝負というわけか。しかし… 先頭は今頃箱根の中腹あたりを走っているだろう。ならば…最良の方法は……。〕
多村は考えた末に答えを出す。
「ならば…… 杉山さんと山中さんの2人で先頭に追いつけというのはどーでしょう?」
「先頭に? 多村君。キミは僕と手を組むつもりかい? 」
「いや。杉山さん。あなたの本音は山中さんと勝負したいだけですよね? 」
「……。 」
「それに……あなたのチームにとっても都合で良いと思います。win-winになると思いませんか?」
「まー。そーなるかもね。ウチも優勝を狙いにいく気持ちはあるから。」
「嵐山さんもよろしいですか?」
「………。良いだろ。」
「ならば…山中さん。行ってください。先頭にいる中嶋君と勘太さんまで必死にペダルを回してください! そして!! 山岳賞を! とってきてください!! 」
多村は山中の背中を押して送り出す。
〔多村……。ありがとうな……。オレのワガママを聞いてくれて…。多村的には…いかせたくなかった。けど…オレは…自転車が純粋に楽しい。年に一回しかないインターハイならば…楽しみたい。つまらないインターハイはやりたくないだ!だから…オレが3日間走破出来ようか否か関係ない!!オレを送ってくれたチームに感謝する!そして!絶対山岳賞をとってくる!〕
山中を見届けた北上は後ろで感じていた。
〔あの時と全く一緒だ! 合宿の1日目。あなたが僕と中嶋に山岳勝負をしてこいと言ってくれたように。あの時はあなたが僕達を送り出しましたが…今日は僕があなたを送り出します!山中さん! 箱根山のヒルクライム! 存分に楽しんできてください! 良い結果が聞けるよう期待してます!!〕
京伏の嵐山が多村に話しかける。
「あんたも鬼畜な人やね。先頭とは3分弱も離れているのに…あんたらのクライマーを先頭に追いついて…さらに標高872mの山頂にある山岳賞をとりにいくとか…出来はしないわ!99.99%無理やわ!」
「ならば…僕はその0.01%の可能性を信じたいと思うんです。」
「そんなこと出来る人は過去に1人しか見たことがないわ〜。」
「その1人が達成出来てるのならば…彼は2人目になります。」
「ははは!! そんなアホな!! あの人みたいな独特なクライムセンスがあればえーんやけどな!! 」
「彼は正直。平凡なクライマーです。」
「平凡なクライマーを出すなんて!! キミも変な賭けに出たんやな!! 」
「しかし…。あの人は全国のどの選手にも持ってない…。逆を言えば彼にしか持ってない潜在能力がある。それを僕が良く知ってますから。」
「そんな…マンガみたいな能力がある奴が沼津さんにおるのならば…尊敬しますわー!正直無理やと思うけどね。」
「不可能を可能にする。それが…彼なんです。結果を楽しみにしましょう。嵐山さん。それでわかると思うので。」
「いやー。結果は既にわかりきってることや。期待はせんぞ。 ははは。」
その頃。先頭集団は中嶋が勘太を引いてた。
「やっと箱根の中腹あたりです! 勘太さん!この長い坂道で疲れてませんか!」
「ああ! お前のおかげで楽に登れてる! オレのことは気にせず登ってくれ! 」
「はい!!」
「あらあら〜。中嶋くーん! キミは…去年の中学生静岡県大会の山岳賞をとってることは知ってるんですよ〜。キミがこんなところにいてもおかしくない話だけどさ〜。僕〜。キミ以上にもっと速く登れるんですよ〜。」
宮崎はダンシングをして中嶋を離す。それを追うように総北の真中も箱学を阻止する。
「こうすけ! オレはお前の実力も走り方のクセも研究してるんだぜ! お前達に行かせるかよ! 」
「キミはいつも邪魔ばかりするー。キミと同じことは僕もやってるんだよ! 」
「お互い様だな!」
宮崎と真中は並行するように登っていく。後ろで見てた中嶋は感じる。
〔すげーや!! エースの2人がこの箱根を登ってるなんて滅多に見れない光景だな! このシチュエーションにいるオレ!! すげー楽しい! この2人に負けたくないて思う!〕
「待ってくださいよ!! お2人共! オレも混ぜてくださいよ!! 楽しみましょうよ! もっと!! もっと!!」
宮崎と真中は中嶋の姿を見て感じる。
〔中嶋くーん。なんでキミは笑いながら登っているんだーい? しかも…ギアを上げて登ってる!! こいつ……。この状況を楽しんでる。可笑しい中嶋くーん。〕
〔なんだ? この子。さっきから俺たちについてきてるけど…並みのクライマーではないというのはわかった。しかし、これからゴール争いになるというのに普通ならピリピリする場面だけど…それを楽しんでる? 彼は一体何を考えているんだ? 予測不能だ。〕
「キミらに用はない。バイバーイ!」
宮崎は更に傾斜が上がる坂道でギアを上げて登る! 真中も負けじとしがみつく!
「こうすけ! まてよ!!」
あっという間に差が開いてしまうが…中嶋は笑顔を見せる。後ろで走ってる勘太は中嶋の姿に引いてしまう。
〔何回もアタックされても…笑顔を見せる…。普通なら…勘弁してくれと思う場面だけど…ヤツはアタックされても構わないという思考だ。それで…更にギアを上げ…すぐ追いついてしまう。さっきからその繰り返し。これが中嶋悠斗の真骨頂なのか!〕
「うっは!!! 楽しすぎる!! 興奮するよ!! この状況! 傾斜も更に上がると同時にアタックを仕掛けるなんて! さすが…箱学と総北のエースだ!! もっとアタックしても良いんですよ? すぐに追いつきますから!」
宮崎と真中はゾッとする。中嶋の姿にドン引きするというより脅威を感じた。
〔ぷぷぷ。更に気に入ったよ! 中嶋くーん!キミの望み通りアタックしまくって! 堕としてやるよ!! 〕
〔なんなんだ! まさに狂人!! 〕
この3人の駆け引きがしばらく続くのである。
山中と杉山は先頭に追いつくように必死にペダルを回す。
「絶望的だけど…楽しいな! 光輝!」
「あったり前よ! お前とまた箱根の山を登ってるなんて! 奇跡だよ! 」
「そう来ないとな! 山頂までバテるなよ!光輝!! 」
「お前もバテるなよ! 楽しみは最後にとっておくべきだよな!! 」
2人はひたすら回す。全力で回す。そこにはコイツに負けたくないというプライドしかない。どんな状況であろうが関係ない。純粋に楽しんでいるからだ。
しばらくしてついに箱根の山岳勝負がクライマックスを迎える!!
次回話に続く…!