もう一つのペダル   作:ユーチャロー

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多村と勘太のミーティング

2日目の夜。

沼津南高校が泊まってるホテルの一室で多村と菅原勘太は今日のレースの全体の総括を行っていた。キャプテンの多村淳太郎を筆頭にホワイトボードを使いながら話してた。

 

「今日の課題点は沢山あります。僕が感じたことはまず皆さんの脚のコンディション。そして、力の配分だと思います。」 

 

「確かにそうかもしれない。中嶋がこうなったのもコンディションが良くなかったことと、昨日のレースの力配分の管理が不十分だったからだ。それに…お前が提案したオーダーにも問題点がある。確かに中嶋を平坦でも力強く走る力とアウターの使い方が上手い部分があるかもしれない。しかし、そもそも中嶋はクライマーだ。無茶なオーダーを出したお前にも原因があると思うぞ。」 

 

「勘太さんの言う通りかもしれません。しかし、僕は中嶋君を1日目の箱根の山頂まで任せた理由は…来年のインハイで彼に暴れてほしいからです。」

 

「つまりそれはどういうことだ?」 

 

「中嶋君はクライマーのセンスもあって登板能力は長けているかもしれない。しかし…僕達は全員がエース級の選手に育てないといけない。それが僕が理想とするこのチーム像なんです。」 

 

「………。なぁ…。今までずっと黙ってきたけどお前のお兄さんのことは知っている。お前が沼津南でキャプテンを志願した理由もわかる。光太郎さんは僕達にとって頼り甲斐があるキャプテンであり、箱学自転車競技部を牽引してきた偉大な先輩だ。オレはあーゆう先輩になりたいと目標にしてた。しかし、宮崎のせいで去年のインハイ寸前で光太郎さんは下半身不随になってしまい…ヤツが1番部の中で期待された選手であったため自動的にキャプテンに任命されてしまった。そこからだ…ヤツの本心を表したのは…。数々の先輩達やオレを含む将来期待されてた同期の選手達も蹴散らした。2日間レースしてわかったが…今の箱学は当時補欠メンバーにも入らなかった選手やオレが知らない選手が沢山いる。ヤツの思うチーム像がイマイチわからない。ヤツは本当は何をしたいのか?箱学をどうしたいのか?オレには理解が不能だ。」 

 

「…。勘太さん。僕の兄と4カ月間同じチームメイトでやってきたからわかるんですね。僕の兄は…高校卒業したら実業団に入る予定だった。しかし…宮崎さんのせいで兄の将来が台無しになった。それを知った僕は彼のことが憎くてしょうがない!僕は…いつも…兄さんを目標にロードレースを頑張っていたから…。それに…兄さんはいつも笑顔だった。毎日のように「ロードは楽しいな!」と言ってた。その兄さんの笑顔をなくした宮崎浩輔!あれをぶっ潰すためにオレは…オレは…!このチームで優勝して…ヤツに見せつけたいんだ!!」 

 

 

勘太は多村の話を聞いて自分と照らし合わせていた。 

菅原兄弟も宮崎の陰険な計らいにより箱根学園を追放され沼津南高校に転校した。だが…勘太は多村に問いかけた。 

 

 

「憎しみのためにこのチームのキャプテンをやってるのか?」 

 

 

「!!?」 

 

 

「憎しみだけでお前はロードレースは楽しくないのか?」 

 

 

「それは…。」 

 

 

「お前の気持ちは良くわかる。オレも本当のことを言うと箱根学園で自転車をやりたかった。純太と共にツインスプリントをやって全国の選手達に通じるか試したかった。しかし…それだけでもなかった。箱学の先輩達も良い人ばっかりで居心地が良かった。そして、先輩達は強かった!優しさもあり強さもある。僕はそんなチームの一員に入れたことに誇りだと。1年しか箱学にいなかったけど楽しかった…。純太も同じ気持ちだと思う。そもそも自転車競技の世界に入ったのも憧れの先輩が箱学の選手にいたからその人みたいに速いスプリンターになりたいと思ったからだ。お前が兄さんのことを尊敬しているように…オレも尊敬する人がいたから自転車を続けている。大地はこんなこと言ってたな…。「自転車に巡り会えたから楽しい」と。オレはその言葉を聞いて初心に戻った感覚があった。本来…自転車競技をやる理由は楽しさだと。大地にそれを再確認された。だからこそ…オレはこのチームの一員として全国レベルの実力を持った選手達と競っていることが楽しい。だから…オレはこのチームが好きなんだ。オレの先輩達が後輩達に良い居心地でチームをまとめていたように…オレも副キャプテンとして引っ張りたいと思ってやってる。それが…少しでも1年達に感じてもらえれば良いと思う。」 

 

 

「……。」 

 

 

(勘太さんは前に進んでいる。今の状況も環境も楽しんでいる。だから…1日目のスプリントラインをとった。山中さんの影響で楽しいと思ってる。兄さんも…きっとこのことをさっき伝えたかったかもしれない。イマイチ理解が出来なかったが…勘太さんの話を聞いたら納得した。自転車競技…ロードレースは楽しい競技と……。) 

 

 

「勘太さん。明日は総合優勝に向けて作戦を練りましょう!!勘太さんに言われてわかりました。ロードレースは楽しい競技と。兄さんも箱学のキャプテンをしてた時に後輩達にそのことを伝えたかったのかなと感じてます。だからこそ!僕が1番楽しまないといけない!」 

 

「それに憎しみだけだと宮崎みたいになってしまう。何事も楽しむことが大事だ。それを実行するかしないかでだいぶ変わるとオレは確信をしてる。明日は…勝とうな! 多村!」 

 

「はい!」 

 

2人はその後。明日のレースについて1時間ぐらい話すのである。

 

 

次回話に続く…。


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