第4話 菅原兄弟vs佐々木山中ペア
山中のジャイアントを賭けたスプリント勝負のスタートをきる。国道414号を右折し、街中の車道は乗用車やバス、トラックが走っているため車間距離を保ちながら両者はゆっくり走る。
「山中さん。この街中は山中さんが前を走ってもらっていいですか?僕は後ろで走りますから。」
「わかった。」
「純太。お前はずっと前を走れ。」
「わかった。兄さん。」
「なぁ…。菅原よ。お前は転校生か。」
「ああ。そうだ。山中大地。」
「街の区間は少ししゃべらないか?」
「………。良いだろう。車も結構走ってるし信号も多いからな。」
「クラスはどこだ? オレはAだ。」
「オレはBで、純太はCだ。」
「お前は何故ジャイアントを狙うんだ?」
「フレームがカッコイイからな。あと…お前。彼女いるよな。」
「お前… そういうの興味あるとは思ってなかったが… 意外やな。」
「純太はもう彼女いるが…オレはできない。モテないんだ。同じ顔なのに…。」
「やめろよ。兄さん!! 兄さんもいつかはできるよ!! 僕はそう信じてる!!」
「オレは…ロード以外はクズなんだ…。モテないんだ…。◯Tなんだ…。」
「兄さんも卒業できるよ!! 兄さんロードではめっちゃカッコイイよ!!」
この双子のやり取りに山中も笑いを堪えることができずに笑ってしまった。
「はは!! 面白いな!! 双子でも性格が正反対だな!! なんか安心したよ! 」
〔ネガティヴ思考の勘太にポジティブ思考の純太か。こいつらにもお茶目なところあるんだな。〕
「そろそろお話は終わりにしようか。」
「そうだな。兄さん。」
〔急にスイッチが入った!! ここから真の勝負が始まるんだな!!〕
「山中さん!! 後ろについてもらっていいですか!! 僕が引きます!!」
「純太。全力で引き離せ。」
街中を抜けて、海沿いの道に入る。 気候が晴れで気温は4月並みで西から強風が吹く。海沿いの道であるため風が自転車乗りにとって強敵である。
佐々木は身長が高い分風の抵抗がすごいが、持ち前の手脚の長さとケイデンスを武器に走る。 平坦でも力強い走りを見せる。 後ろで走ってた山中は佐々木の走りを見て圧感。
〔すげー。佐々木の後ろについてるが… 前の佐々木が風避けになってクライマーのオレだけど…凄く早く走れてる!!〕
「ここからカーブが続く。純太。バイクコントロールをしっかりしろ。あと… 風に気をつけろ。」
「兄さん。しっかりついてきてください!」
「……。で。中嶋悠斗…。いつまでついて来てる。」
「あなた達のツインスプリントを見たいからついて来てるんですよ!!! 僕はクライマーで平坦は早く走れないんで!」
「お前がいると…。ツインスプリントが出せない。まだやらないが…。」
「そうなんすか!! トリプルスプリントのほうが早いすよ!!」
「そういう問題じゃない。」
「佐々木……。変わろうか?」
「いや。山中さんは前に出ないでください!僕の後ろにくっついてもらえば心配いらないです。」
〔しかし…。山中さん…。よくついていますね…。初心者ならついていくのに精一杯だと思いますが…。〕
カーブ道が終わり17号線に入るまではほぼ直線であり信号があんまりないためここで菅原兄弟が動く!
「やるか。」
「兄さん。」
後ろについていた中嶋は前を走ってる双子の様子が変わったと感じた。横で走ってた佐々木山中ペアの後ろにつく。
菅原兄弟の異変に気付いた佐々木山中ペアは警戒態勢に入る。
「中嶋悠斗。お前が見たかったツインスプリント。見せてやるよ!」
「!!!?」
菅原兄弟が下ハンを構えて2人同時に体勢を更に低くしタイムを競うタイムトラベルみたいに風の抵抗を最大限になくし走る。何より前を走る純太の後輪と後ろの勘太の前輪がほぼくっついている。タイミング、速さが少しでもずれると落車の危険性が高い。見事にシンクロして走る…その姿は菅原兄弟しかできない。至難の技である。
その光景を見た佐々木、山中、中嶋は目の前に走る菅原兄弟を見て驚愕。
「あれが…『ツインスプリント』。すげー!! ハコガクのインターハイ候補に選ばれる理由がわかりますよ!!!」
「すごいねー。ゆう君。山中さん…。」
だが、山中はこの不利な状況で菅原兄弟のツインスプリントを見て感動してる佐々木と中嶋に怒鳴る。
「オレのこのジャイアントが!! やつらの手に渡ってしまうぞ!! そうなったらオレは…自転車競技部に入れなくなるぞ!! それでいいのか? お前ら! 」
この山中の言葉に佐々木の闘志が燃える。
「すみません! 山中さん! 僕… 全力で引きます!!」
「山中さんのスイッチが入っちゃいましたね!! あなたの本気は僕が1番わかります!」
この山中の言葉が佐々木の別人格が現れてしまう。
「おーーい!! 先輩ヅラしてるんじゃーぞ!初心者がよ!! おめー オレの引きについていくのが精一杯のくせによーー!! テメェーのジャイアントが奪われようがオレには関係ねーんだよ!!」
別人格の佐々木が現れ口調が悪くなっても山中は冷静に言う。
「お前は。あの2人に勝ちたいと思わないのか?」
「!!?」
〔佐々木の別人格が… 山中さんの言葉に反応してる! あの別人格の佐々木は中学時代。誰の言葉も聞かずに味方を捨てていく。〕
「オレはあいつらに勝ちたい。佐々木。お前はエースだ。エースなら誰よりも早くゴールしたいと思わないのか?エースの誇りとプライドを持て!」
〔なんだ〜? こいつ? 初心者のくせに… オレのことをわかっているかのように… 言いやがって!! うぜー!!! だけど! たしかにこいつが言ってることも一理ある。仕方ねー!! 今回は特別だ!! 犬っころ!!〕
「おいっ…。お前。気に入った!!! オレの引きについていける自信はあるか!!?」
「ああ!! オレはお前と一緒に勝ちたいからな!! 」
「振り落とされるなよ! 初心者!!!」
この2人のやり取りに後ろで見てた中嶋はあの別人格の佐々木を説得することができた山中のカリスマ性に驚きを隠せなかった。
〔山中さん!! あなたっていう人は!! あの別人格の佐々木の心を動かした!! 何よりあなたの負けたくないという一念!!その想いが波及してる!! 〕
佐々木の力強い走りに山中もしがみつく。
一瞬にして中嶋は置いていかれた。
「佐々木!! 山中さん!! 必ず勝ってください!!! 」
その頃。菅原兄弟は残り2.5km地点にいた。
「淡島が見てきたね。兄さん。」
「ああ!!」
勘太は後ろをみたが… 佐々木山中ペアが見えずに少し寂しい顔になった。
〔山中大地。お前と闘いたかった。最後のゴールスプリントで…。残念だ…。〕
「純太。まだ引けるか? このまま離してゴールする。」
「……。兄さん…。いいんだな?」
「ああ……。ロードレースは1番速いやつが勝者だ。それ以外は… 無意味だ。」
はるか後ろで走ってた佐々木山中ペアは…。
「おーーい!!! 初心者!!! お前の脚は大丈夫か!!?」
「お前が速すぎるから楽に走らせてもらっているよ!!」
「初心者のくせになかなかやるじゃなーい!!? やつらが見えねーな!!!」
「ああ!!! 佐々木!! オレのことは気にせず…… 思い切り走れ!! 」
「おいおい……。 お前……。死ぬぞ!!」
「死んでもよ……。負けたくねーんだよ!」
〔この初心者!!! 正気か?? オレのケイデンスは今120回転だ。これでも7割ぐらいしか力を出してない。全力でやったら…こいつの心拍数といい…脚がいかれるぞ!!〕
「お前の想いを託してオレが単独でゴールをとってくるよ!!! これ以上お前が走ったら危険だ!!! 」
佐々木の言葉に山中は笑ってしまう。
「よせよ…。最初に言ったろ…。佐々木とオレと一緒にゴールするんだよ……。1人でゴールしても意味ねー。2人でゴールしてこそ!! 勝利なんだ!!! 」
〔こいつ……。なんとゆう初心者だ!!! 〕
「死んでも知らねーからな!! 行くぞ!!」
佐々木は全力で菅原兄弟を追いかけ山中もついていく。
「あと500m。兄さん。」
「ああ…。オレらの勝ちだな…。」
「兄さん。山中大地は初心者なんです。初心者に無理がありますよ。この勝負。いくら佐々木竜司がいても僕達のツインスプリントに追いつけません。」
「ああ…。そうだな。」
その時。後ろからロードバイクの車輪の音がわずかに聞こえる。この道沿いを自転車で走る人はなかなかいない。
「兄さん…。車輪の音がしますよね。別のロードバイク乗りが走ってるんじゃないんですか??」
「だと…いいが…。 そのまさかの場合もあるぞ……。」
「いやいや。ありえませんよ! 兄さん!だいぶ差がひらきましたよ! 」
その時。後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
「おおおーーーい!!! 追いついたぞ!! 双子やろう!!!」
「ああ……。 そうだな……。」
「「!!!!!?????」」
「おいおい…。嘘だろ…。」
「なんで!! あなたたちがここに!」
そして、残り400mの地点で両者が並ぶ!!
「おいおい…。早すぎだろ!! ツインスプリント!!! オレを全力にさせたからな!」
「さすが…。佐々木竜司。」
「さすが…。佐々木竜司。」
ここにいる3人はここまでついて来てる山中のことを共通して感じてることは…。
〔この男!! ただの初心者じゃね!!〕
「おい…。菅原勘太…。最後の勝負だ…。」
「山中大地。期待以上の男だ。ここまで来たことは褒める。」
「山中大地。あなたは…。すごいです!」
「初心者!!! オレのケイデンスに良くついてこれた!! だが… オレはここまでだ!」
佐々木は正気に戻り疲れ切った表情をしてた。
「山中さ…ん。あなたがゴールしてください…。別人格の僕があなたを引いてくれました…。ロードレースは仲良く2人でゴールするというのは…できないんです…。誰が一番にゴールするか…。そういう競技なんです!」
佐々木は全力でハイケイデンスをしたため、膝にかなりの苦痛があった。その姿を見た山中は察した。
「佐々木……。すまん…。約束守れそうにないか…。また次は一緒にゴールしたい…。ここまでありがとう…。別人格の佐々木にも感謝する!」
「菅原勘太…。お前…。オレとサシで勝負したいんだろ? 本当は…。」
「!!!?」
「なら… 残りの200m!! 全力で行くぞ!菅原勘太!!」
〔お前の脚も…やばいじゃないか…。息もすごい上がってるのに…。まだやるのか!!!山中大地!!!〕
「この時を待ってたぞ!! 山中大地。」
「そうこないとな!!」
「純太…。行ってくる…。 佐々木竜司は膝がやられてるから一緒に引いてくれ。」
「兄さん!! 勝ってよ!!」
「ああ!!! 」
「竜司!!」
「は…い。」
「絶対勝ってくる!!」
150mのゴールスプリントが始まる!!!
山中は僅かな力を振り絞り走る。勘太もゴールスプリントの体勢になる。
〔中嶋はたしか… 言ってたな…。下ハンをもってダンシングしたほうが早く走れるって!
菅原勘太のようにスプリンターじゃないし… ロードレースの経験もないが…だが…俺にはこれしかない!! 絶対に負けたくねーー!という気持ちだ!! 〕
〔山中大地…。最初は興味半分でお前に勝負を挑んだが… 期待以上の男だ!! ヤツの勝ちたいという執念! 何より! やつはロードレーサーだ!!〕
山中は膝が苦痛になるぐらいハイケイデンスで回した佐々木やオレたちの勝利を一番願っている中嶋の気持ちを背負いゴールを目指す。
菅原勘太は純太と一緒に生み出した『ツインスプリント』の誇り。スプリンターなら誰よりも速く先にゴールしたい。2つの気持ちが上がりゴールを目指す。
残り50m。 40m。 30m。
両者とも僅かな差!!!
〔勝ちたい!! 絶対に負けたくない!! 最後まで回れ!! 俺の脚!! 〕
〔純太!! お前は最高の弟だ!! 兄さんはゴールをとる!! 誰よりも先に!!〕
そのころ…県道17号線に入ったあたりでゆっくりとペダルを回してた中嶋。
「今頃…。 ゴールしたかな。 山中さん! 僕はあなたが勝った姿を見たいです!!」
そして… ついに決着がついた。
勝者は勝ち誇ったように片手をガッツポーズし、敗者は敵に称賛の握手をおくった。
「山中大地…。 キミは…。ロードレーサーだ!!! この勝負…。 参ったよ…。」
「やった……。初めて……。 レースに勝った!!! 」
山中は興奮と疲労があり力が抜けて横の草むらに落車した。 勘太はブレーキをかけて山中のところに駆けつける。
「おいっ…。 大丈夫か?」
「すまんな…。 なぁ…。 菅原勘太よ。」
「なんだ。」
「自転車って… 楽しいな。」
「ああ。 そうだな。」
すぐに菅原純太と佐々木が到着した。
「兄さん!! どうだった?」
「………。 すまんな…。」
「………。兄さんはカッコイイよ!! 悔しいけど… また頑張ろう!」
「ああ!!」
「山中さん…。勝ちましたね!」
「ありがとう…。竜司…。お前の別人格の佐々木竜司にも感謝するよ…。」
佐々木、山中、菅原兄弟と共にクールダウンしながら近くのコンビニでドリンクを買い、近くのベンチに座り込んだ。
「山中大地。実はさ…。」
「なんだ?」
「もしお前が負けた場合ジャイアント奪うって言ったが… あれは嘘だ。」
「はっ…。えーー!!」
「 昨日の放課後に中嶋悠斗が佐々木竜司を連れてお前のクラスの教室に行っただろ。それで自転車競技部というワードを聞いたから…気になったんだ。だから… 先回りしてお前のジャイアントの前で待機してたんだ。」
「なんで… オレの自転車がジャイアントとわかったんだ?」
「純太がお前の彼女と一緒にイチャイチャしてるところを裏の山道で見たからだ。青のフレームのジャイアントと確認したからな。」
「なるほどな……。 なーんだ!! あの時のお前らガチな目してたからビビったよ。」
「すまんな。山中大地。」
「すまんな。山中大地。」
「気にすんなって…。でも… お前らと勝負して自転車の楽しさがわかった…。 何回も言うが… 被るなよ…。」
「オレたちを自転車競技部に入部したい。いいか? 山中大地。」
「兄さんと同様に!!」
「ああ!! もちろん! 歓迎だ!!」
「よろしくな。大地。」
こうして菅原兄弟と佐々木山中ペアのジャイアントを賭けた勝負?のスプリント対決は佐々木山中ペアが勝利し幕を閉じた。
山中はこの勝負で自転車の楽しさを知る。彼の成長の第一歩を踏み出す。
「 皆さん!! なんで いないの!!!?」
淡島ホテル前に着いたが1人だけ取り残された中嶋悠斗であった。