もう一つのペダル   作:ユーチャロー

42 / 48
3日目の山岳賞勝負 中編

山梨の山岳区間で勾配差が激しい中箱学の宮崎と総北の大坂、沼津南の山中の3人の山岳賞をかけたバトルが始まる。 

後方の集団も凌ぎを削ってチームがより速く山岳区間を攻略し東京に突入するかが勝負点であった。

 

「さて〜キミ。なんで…この山岳賞を狙いにいくの〜?お二人さんよ?」

 

「それは…総北キャプテンとしての務めを果たすためさ。俺たち総北は箱根学園と闘っている。あの小野田さんや今泉さん、鳴子さんがいた世代のように僕達も伝説を残したい。だからこそ…あなたと対戦している。そして、オレが山岳賞をとったことによって下の世代の模範となる成績を残すためにやるんだ。それがキャプテンとしての責務だからだ。」

 

「ふーん。伝説を残すか…。くだらないね。キミは〜?」 

 

「オレは約束を果たすために山岳賞を狙うんだよ。」 

 

「キミは…1日目の山岳賞をとり…ゴール争いにも絡んだ〜。それに…キミは1番目立っている。僕は…キミがどんなやつかを確かめてみたいんだよね〜。キミは無名の選手だ。そんなキミがインターハイという大舞台で暴れてるから不思議でしょうがない…!その力…。どこから出るのかな〜?」 

 

「それはきっと楽しいからかな。お前のことは菅原勘太からよく聞いてる。実力はありながら…卑劣な手を使って箱学のキャプテンを務めていると。お前は…ロードレースが楽しくないのか?ロードレースが好きだから箱学でプレーしてるんじゃないのか? 」 

 

「あの元エーススプリンター候補君にいろいろ聞いてるのか〜。キミ…。キモいな。何が楽しいだ? 楽しさを求めてロードを始めたの?そんなのはキミの自己満だ。そんなキモいキミに僕の実力でねじ伏せてやるよ。」 

 

 

「お前…。弱いな。勘太のいう通りだ。」 

 

 

「なんだと!! 僕が…弱い…。調子に乗るんじゃねーよ! 落ちこぼれ集団が!! 」 

 

「お前の心は荒んでいる。オレにはわかる。地位や名誉を求めて卑劣な手を使って上がろうとする。どんなに実力があっても心が荒んでいればこの山岳賞も箱根学園の優勝もないね。」 

 

「それ以上僕のことを〜バカにすると…キミを壊しにいくよ。」 

 

「さっきのあんたのチームメイトを落車させたようにオレにも落車をさせる気か。それはあんたの心が荒んでいる証だな!」 

 

「黙れ!! お前に何がわかる!! オレの気持ちが!」 

 

「わかりたくもない。それはきっとあんたの弱みだからな。」 

 

「クソやろうが!! 散れよ!!」 

 

宮崎は山中に肘打ちを入れようとしたが山中はそれをかわして登っていく。

 

「やはり…そうなんだな。あんた。過去になんかあったんだろ?それがキッカケでこのようなやり方で自転車競技をしている。」 

 

「…!」 

 

 

それは宮崎が小学生の頃だった。 

宮崎の家は父親がフランスの有名な大会の出場選手であり日本人選手では1番最強な選手であった。引退後は実業団の監督を務め日本で有名な大会で優勝に導いた名将であった。そのため…宮崎の兄と弟の浩輔は英才教育を受けていた。兄の大輔はジュニア大会で優勝を果たし数々のメダルを獲得していた。しかし、弟の浩輔は何も成績を残していなく父や兄からの評価がよくなかった。ある時父からこう言われる。 

 

「お前はロードレースの才能がない。オレの才能が大輔にだけ受け継いでしまったのか。このままだとお前。別な競技をしたほうが良いかもな。」 

 

「僕が兄さんのように…優勝してないのは…僕が弱いからだよね。でも!僕はロードレースが好きなんだ!」 

 

「ロードレースが好きか…。良く聞け。浩輔よ。父さんは今までロードレースは好きなんて感じたことはない。ロードレースは勝者が称え敗者は堕ちるんだ。だから…オレは1番になりたいから誰よりも努力し練習をして実力をつけているんだ。ロードレースは過酷なスポーツだ。サッカーや野球みたいにチームワークがあって成り立つスポーツではない。己の力が全てなんだ。それがロードレースというものだ。楽しさだけでは勝てない。オレはそう教わった。浩輔よ。そんな生半可な気持ちでやっているのならばやめた方が良い。それがきっとお前にとって良いことだ。」 

 

「……。確かに父さんはツールドフランスに出て強い選手なのはわかっている!でも…自転車は楽しい競技なんだ!! 父さんにそれをわかってほしいんだ!」 

 

「浩輔よ。それでは強くはなれんぞ。大輔を見習え!大輔は何十時間もペダルを漕いでジュニア大会で優秀な成績を残している。浩輔も大輔みたいに練習してもっと努力しろ! ロードを続けるのならば!」 

 

 

そこに兄の大輔が来た。 

 

 

「ねぇ! 兄さんはロードレース楽しくないの?」 

 

「浩輔。オレはもっと強くなってフランス留学して実力をつける。そのために今は自転車のために時間を費やしている。だから…楽しいも何ももっと強くなりたい。」 

 

「兄さん…。僕は兄さんと初めてレースに出て楽しかったよ!あの時の兄さんはかっこよかったよ!あの時の兄さんは笑ってたよね! そうだよね!!」 

 

「浩輔!!過去は過去だ!過去にしがみついているようじゃ…お前はいくらどんなレースに出ても結果は残せない! オレは未来を見ているんだ! 過去のことなど忘れろ!」 

 

「そんな…。」 

 

「わかったか。浩輔。大輔は未来に見据えて行動している。もし…お前がロードを続けるのならばそうするべきだ。」 

 

「………。」 

 

浩輔は黙って部屋に戻った。 

 

(父さんも兄さんも…。オレのことを認めてくれない!! ロードレースは楽しいんだ!! チームの力を合わせてエースの勝利のために全力でペダルを回すんだ! それが何故わからないんだ!) 

 

 

その後。大輔と浩輔は地区ジュニア大会に出場する。そこで目にしたのは…兄の大輔が的確なオーダーを出し兄の大輔を勝たせる作戦であった。浩輔は平坦区間を引っ張るオーダーであった。ゴールは小山の山頂地点がゴールであったため山に入る前までは浩輔が引っ張っていた。 

 

「兄さん! 山岳区間までは引いた! あとは頼むよ!」 

 

「浩輔!! お前はもう休んでろ。ここまでのお膳立てお疲れ様。」 

 

「兄さん!! 僕も山を登るよ! 競争しようよ!」 

 

「競争だと…。そんなくだらないことをやるつもりはない。」 

 

「久々に競争しようよ!」 

 

浩輔は兄に自転車の面白さや楽しさを教えたい想いで頼んだ。 

 

「これはレースだ!!そんな生半可なことはしない!」 

 

大輔は浩輔を置いていき山を登っていく。しかし…弟の浩輔は必死についていく。 

 

「はっはっはっ…。兄さん速いよ!」 

 

「お前の役目は終わったんだよ!」 

 

「役目は終わったとしても兄さんについていく!!」 

 

「言うことを聞かないやつだな!」 

 

その後…大輔と浩輔は山頂のゴールを目指し走るが…浩輔は途中でペースダウンをしてしまい順位は12位。兄の大輔は単独で優勝した。レース後。兄の大輔は浩輔に問いかける。 

 

「これでわかっただろ。お前とオレじゃ全然レベルが違うと。それに…楽しいだけでは何も残せないということを。この大会を通じてオレはフランス留学が決まった。来年からはフランスの学校に行き実力をもっとつける。」 

 

「兄さん…。自転車は楽しいんだよ!それをわかってほしい!」 

 

 

「お前…。何もわかってないな。父さんの息子だから日本選手で最強でなければないんだよ。それがオレの使命であり父さんの想いだから。期待を背負ってるんだよ! お前にはそれがわからないからそういうんだろ! 少しはオレの気持ちも理解してくれよ! それと…お前は弱すぎなんだよ!! 楽しいとか面白いとか言ってるからいつまでも強くなれないんだろ! 今日のレースもバテたじゃねーかよ! 」 

 

浩輔は黙ってしまった。兄の怒りに何も言い返せなくなった。 

 

「もう。お前と話をしたくない。敗者は敗者らしくおちるんだな。」 

 

そう言って大輔は去ってしまった。 

 

 

(父さんも兄さんも…オレのことを理解してくれない…。オレのことを認めてくれない…。なんで!! オレが弱いから? オレが変がことを言っているからか? オレが父さんや兄さんみたいになれば認めてくれるのか? ならば…そうするよ!! 父さんや兄さんの強さが正しいか否か…それを確かめてやる!!) 

 

 

彼の人生はそこから変わってしまう。楽しさを捨てることで父や兄に認めてもらうためにどんな手を使っても上に立ち自分の実力を証明するために。そして、それが正しいと感じるようになり中学時代で1年生でありながらキャプテンに任命し…自分より実力が強いチームメイト達も蹴散らしていった。自分の存在を認めてくれると思っていたからだ。

 

 

宮崎は過去のことを思い出しながら走っていた。 

 

(楽しさなんて…ないんだよ! 強さこそ正義!! どんな手を使っても僕が…1番だと証明するんだよ!!) 

 

すると、宮崎や大阪、山中は山岳リザルトまでの最後の峠道に入る。 

 

「残りの6.5kmの大垂水峠まで全力で行くぞ!!山の支配者の大坂坂道!! 悔いを残らず登る!!3年間の集大成であり真骨頂!! 山中君!宮崎君!勝負だ!!」 

 

「勝負事になると燃えるタイプなんですよ! だから…オレは後輩の約束のために全力で行く!! 」 

 

「伝説を残して後輩の模範となるモブキャプテンに〜後輩の約束のために走る206番君!! キミ達がそれぞれの想いがあるように〜僕は!!最強になって実力を見せつけてやるんよ!! それが宮崎浩輔という男だからな!!」 

 

3人はそれぞれの想いをぶつけるかのように山岳リザルトを目指して登っていく! 最初にアタックを仕掛けたのは大坂。彼は天性の勘と状況を見て試行錯誤しながら走る。しかし、宮崎も山中もしがみつく。 

 

「モブキャプテンくーん!! キミのことは勇気くーんから聞いてるんだよ〜。山岳争いになると本気の顔になるってね!! 僕はね〜そんなキミに支配されるようなひよっこじゃないからね〜!」 

 

「わかってはいるさ。じゃないと面白くないだろ!? 山の勝負は!だから…山は好きなんだよ!! 実力がわかりやすいからね!!」 

 

「ププププ! キモいな!! キミは!!」 

 

(だが…もっとキモいのいるな〜! 206番!!)

 

山中は2人の登りについている。山中は闘争オーラを全開に出し対抗する!! 

 

「……。」 

 

(コイツ…。1日目と一緒の眼をしとる。何か内なる闘争本能を全解放してる感覚! 周りにいる僕達に伝染してる!! 根岸さんと同じ匂いを彼からは感じる!!) 

 

(なんだ?この人!! 勇気や翔が言っていたのはこのことか? 沼津南の山中大地は要注意人物だと! オレの手が震えている…。まさか…オレが逆に支配されてるのか…。ならば! オレが主導権をとって山岳を制する!!) 

 

山中は更に加速して2人をあっという間に置き去りにするが…宮崎も大坂も己の力を使いついていく!  

 

「残りの4km〜。僕のとっておきだそかな。ここまで本気にさせるヤツは久々に見たな!!」 

 

「こんなところで負けるような大坂坂道ではない!! 出し惜しまず限界までペダルを回す!」 

 

山岳リザルトまでの4km。全力で3人は勝負をする! 

 

 

次回話に続く…。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。