結論は言うまでもないが、戦況は最悪だった。何しろ、戦う装備をほぼ持ち合わせていない艦娘など、敵にとっては良い的だ。
はぐれ深海棲艦なら対処は容易だが、それが徐々に数を増やすとなると、戦闘よりも恐怖心が勝ってしまうのだ。
吹雪は速度を緩めたり、無理に敵を撃沈させずに、見逃して弾薬を節約させたりして進行していたが、ここで限界が来てしまった。徐々にスピードが落ち始め、やがて完全に止まってしまったのだ。
「どうしよう…」吹雪は海上の上でたたずんでいた。陸の上であれば、まだ自分の足が使えて逃げることはできる。だが、ここは海であり、燃料がなければ動けない。
「お腹…すいたな」
彼女は空を見上げながら、弱々しくつぶやいた。
やがて目がかすんできた。
(もう…駄目だ。…ごめんね、皆…)心の中で謝ったのを最後に、彼女の意識は途切れてしまった。
同じ頃、一隻の船が波しぶきをあげて水平線を進んでいた。乗り込んでいるのは、大本営より派遣された、一人の男と憲兵団の一行。
柱島にあるとある鎮守府の提督が、艦娘に対し過度な出撃を繰り返し、暴行を加えている可能性がある、という報告があったのだ。
船長である男は、連合艦隊司令長官から調査の指令を受け、渡された書類を持って、青い海を見つめていた。
「船長、船長!こちら監視係です。聞こえますか?」双眼鏡で海上を見ていた若い船員の声が無線に入った。
「こちら船長。何か見えたか?」
「はい。浮遊物を発見しました。ここより8キロ先です」
「了解。深海棲艦のはぐれ者かもしれん。注意しろ」
しばらくすると、今度は船長室のモニターにもはっきりとその姿が映った。
「これは…!」男は思わず立ち上がった。
「こちら監視係!浮遊物は、艦娘の模様!繰り返す、浮遊しているのは艦娘の模様!」
「船を止めろ!ボートを出せ!」男は憲兵たちに強い口調で言った。
艦娘はうずくまるようにして、倒れていた。船員や憲兵などが協力して艤装を外し、ゴムボートに乗せて自分たちの船に運んだ。
船長は複数の部下とともに、彼女が寝ている仮眠室へ入った。目を閉じたままの彼女は、女医の診察を受けているところだった。
「彼女はもしかして…」男が部下の一人に聞くと、彼はこう言った。
「はい。恐らく、特型駆逐艦吹雪型の一番艦、吹雪で間違いないかと思います」
「そうか…。しかし、写真とはずいぶん違うな」
男が事前に手渡された写真の中の吹雪は、少し緊張しながらも、しっかりとカメラに向かって敬礼していた。
ところが、目の前にいる吹雪は、かなりやつれていて痩せていた。
「栄養失調の可能性がありますね。服もぼろぼろだから、きっと戦闘中に気を失ったんでしょう」
診察をしていた医師が、ため息をつきながら言った。
「あとは彼女が目を覚ますのを、待つしかない、ということか…」
男は静かに言った。その目はまるで、父親のようであった…。
今回はとりあえずここまでです。来週からは、土曜日と日曜日に更新します。