消された男   作:バハーム

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おひさしぶりです。続きを書いてきます。


第二章 天国のような場所

現代の医術では、高速修復材を使わなければ、艦娘の怪我を完治させることはできない。それが無い船内では、ガーゼや布で応急措置を取るしかなかった。

 

「んっ……ううっ……あれ?」

 

吹雪はうっすらと目を開けた。白い天井に柔らかいベッド、ここは一体どこなのだろう?少なくとも目の前に人間がいるのだから、深海棲艦のアジトでないことは確かだ。

 

「あっ!」様子を見ていた医師が、吹雪が起きているのを見て、マイクに向かって話しかける。

 

「船長、こちら医療班です。吹雪さんが目を覚ましました」

 

「了解」男はそれだけ伝えると、仮眠室に向かった。何人かの部下が見舞いに行きたいと申し出たが、大勢で行っては混乱させるからと納得させて、代表として彼が行くことになった。部屋をノックして声をかける。

 

「俺だ。入っても大丈夫か?」

 

「どうぞ」吹雪の代わりに医師が答えた。

 

中に入ると、吹雪は緊張して立ち上がり、敬礼をした。

 

「お、お目に掛かれて光栄です!柱島鎮守府所属、特型駆逐艦、吹雪型一番艦の吹雪であります!」

 

「堅苦しい挨拶は良い。こちらこそ、起きたばかりの所を失礼する。

我々は大本営調査一課の者で、俺が団長を務める長岡圭太だ。お前はさっき柱島鎮守府の所属だと言ったが、あの海域で倒れていたのはなぜか聞いてもいいか?」

 

「はっ!…お恥ずかしい話ですが…」吹雪は今までの経緯を説明した。それと同時に涙が溢れてきて、言葉にならない時もあった。

 

「大破進撃、補給・入渠なし、よく今まで耐えて来たな。もう大丈夫だ」

 

泣き止まない吹雪を抱きしめながら、圭太は静かにった。

「…へっ?…どういう事ですか?」吹雪は涙目で圭太の顔を見上げながら聞いた。

 

「さっきも言ったように、俺たちは大本営調査団でな。鎮守府の運営に、提督が無茶苦茶な事をしていないかを調べるのが仕事だ。その様子だと報告は嘘ではないようだし、あとは現場を見てみるだけだ」

 

「お願いします!一秒でも早く柱島に向かってください!そうじゃないと妹や、大切な仲間たちが…!」

 

「分かってる。今、全速力で向かってるさ。お前の仲間は必ず助ける。そして…奴に代償を払わせてやるさ」

 

そう言って圭太はにやりと笑った。

 

「あ、ありがとうございます!」吹雪が頭を下げたと同時に、彼女の腹の虫が鳴った。

 

「あっ…」

 

「良いんだ。ロクに食べてないんだろう?食堂まで案内してやるよ」

 

「うぅっ…すみません」顔を赤くして、彼女は下を向いた。

「謝らなくて良い。ちょうど、昼飯時だからな」

 

ほら、と圭太は自然に手を差し出した。吹雪はそれを弱々しく握ると、食堂まで一緒に歩いて行った。

 

途中何人かの部下に会い、吹雪は自然と挨拶ができたが、対する彼らは吹雪と一緒に歩く上司を見て、『まるで親子か兄妹のようだ』と思ったそうだ。

 

食堂は何人もの人間が使用するとあって、鎮守府同様に広かった。白のテーブルクロスで統一され、中は日の光もあってか全体的に明るかった。だが、吹雪が驚いたのは、それだけではなかった。

 

部下たちが相席となり、料理を一心不乱に食べる者、女性の部下にちょっかいを出して、咎められている者、腹がいっぱいになり、椅子にあおむけで横たわっている者、その全員が笑っている事だった。

 

「これが…食堂なんですね」吹雪はため息を漏らした。

 

「あぁ、そうだ。いずれお前の鎮守府もこうなるさ」

 

「えっ?それはどういう…」

 

「まぁ今はそんな話よりも、腹ごしらえだ。腹減っては戦はできないだろ?」

 

吹雪はまだ首をかしげていたが、圭太に促されて食堂へ一歩入った。

 

「おっ!吹雪ちゃんじゃねぇか!」ひとりの部下が声をかけると、周りの視線が一斉に彼女へと向けられた。

 

「え、えっと…おっしゃる通り、私は柱島鎮守府所属の吹雪といいます。この度はその、大本営の方々にご迷惑をおかけして、申し訳ありません!しばらくの間、お世話になります!」そう言って深々と頭を下げた。

 

温かい拍手が送られる。こんな事は、鎮守府ではあり得なかった。

 

「吹雪ちゃん、こっちで一緒に食べましょ?」女性の部下に促されて彼女はテーブルの椅子に腰かけた。

 

「ここの食堂の料理は絶品だぜ?俺なんかここへ来てから、三キロも太っちまったよ」

 

隣に座っている大柄の男が、苦笑いをしながら言った。

「そ、そうなんですか…」

 

「吹雪ちゃんは何を頼む?なんでも良いわよ」黒髪で長髪の女性が声をかけた。

 

「じゃあ…鮭の塩焼き定食をお願いします」

 

「分かったわ。女将さーん、鮭定食一つー!」

 

「はーい!」

 

(あれ?…この声どこかで…)吹雪はどこか懐かしさを感じていた。

 

しばらくして料理が運ばれてきた。ご飯に、鮭の切り身、たくあんに味噌汁というシンプルなものだったが、吹雪にとってはごちそうだった。

 

「美味しい…美味しいです…!」吹雪は箸が止められなかった。

 

「そうだろ?美味いだろ?ほらもっと食べろ」

 

吹雪は言われるまでもなく、食べ続けた。だが、それと同時に妹たちや、親友たちの顔が浮かんでは消えた。

 

「こんなに美味しいもの、早く妹や皆に食べさせてあげたいです」

 

「食べさせてやろうぜ…。絶対な」男が言うと、吹雪は「はい!」と元気よく言った。

 

それと同時にチャイムが鳴り、圭太の声がスピーカー越しに聞こえた。

 

『まだ食べている者はそのままで聞いてくれ。こちら船長だ。間もなく柱島鎮守府に到着する。知っての通り、この鎮守府は艦娘に対する過度な出撃、提督による艦娘への性的暴行、資源の横領など、様々な問題を抱えている。我々の任務は現提督を更迭し、速やかにその身柄を確保することだ。だが、先述した理由から艦娘は人間に対し、恨みを抱えている可能性もある。気を抜かずに任務を遂行しろ。以上だ』

 

全員の顔が険しくなった。吹雪の顔も同じようになった。

 

彼女は外に出て水平線を眺めた。はるか彼方に明かりで照らされた島が見えた。

 

空はもう日がとっぷりと暮れていた。港を小さなランプのみが照らしていて、鎮守府がうっすらと見える程度だった。それはまるで、地獄への入り口のようであった。

 

(皆…必ず助けてあげるからね…!)吹雪は心の中でそう誓った。

 

 




今回はここまでです。また来週、よろしくお願いいたします。
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