消された男   作:バハーム

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遅れて申し訳ありませんでした!待っていた人ごめんなさい!このエピソードは他の人もやっているかも……?
それではどうぞ!



第五章 ケアと新たな試み

その日の朝から、長岡の艦隊運営が始まった。と言ってもまず初めに行うのは、この鎮守府全体の掃除からだった。彼は吹雪に秘書艦を頼んだ。

 

「汚ねぇ部屋だ。こんなのでよく元帥が務まるぜ」

 

ぶつぶつと文句を言いながらも、ごみを入れた袋を丁寧に縛る彼に、吹雪は器用な人だなぁ、と感心していた。

 

執務室にはあの部屋のほかにもう一つ隠しボタンがあり、そこには『無い』とされてきた大量の燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトが見つかった。そのうえ、執務室に飾られていた肖像画が入れられた金縁や、宝石等を売りさばくと、かなりの額になった。

 

「すまないな。俺が着任してからの初仕事がこんなので」

 

「い、いえ!そんな事ありません!むしろ、みんな司令官に感謝していますよ」

 

「感謝?あんな当たり前のことでか?」

 

長岡は着任式の直後のことを思い出しながら聞いた。

 

 

 

 

あの後、妖精から『例の作業』が終わったことを伝えられた彼は、動くことができる艦娘たちを引き連れて敷地内のとある場所に向かった。

 

『提督……失礼を承知で申し上げます。一体どこに向かっているのでしょうか?』

 

警戒心を緩めていない長門型戦艦一番艦、長門が睨みを利かせた。

 

『付いて来れば分かるさ。……ここだ』

 

長岡はそう答え、やがて歩みを止めた。

 

『なっ!?……これは……!』

 

長門を始め、その場にいた艦娘全員が驚きの声を上げた。赤煉瓦の鎮守府のそばに建てられた和式建築物……真新しい木目の看板には達筆な文字でこう書いてある。

 

 

 

 

 

 

 

『甘味処 間宮』

 

 

『ま……み……や……』その言葉をかみしめるようにつぶやく長門。

 

『さすがは妖精さんだ。後で飴でもやろうかな』

 

長岡は彼女の隣に立ち、ふっと笑った。

 

 

 

 

 

「『当たり前なこと』で終わらせないでください!あれがあったから、今みんなが笑顔なんですよ!」

 

なかなか自己評価をしない長岡に、吹雪は怒ったような声を出した。

 

吹雪は忘れないだろう。震える手で障子を開けた長門の表情を。

 

中から出てきた間宮に思わず両手で『アイスをくれ』と信号を出してしまい、赤面した彼女のことを。

 

長門が急いで鎮守府に戻り、残っていた艦娘に『間宮だ!間宮が来たぞ!』と嬉しそうに叫んでいた姿を。

 

着任してから初めて甘味に、艦娘たちは笑顔よりも先に、涙が溢れていた。

 

「かつての大戦で、兵士たちの士気を高めたのは彼女だったからな。前提督は、彼女の着任で艦娘たちが反乱を起こすのを危惧して、わざと迎え入れなかったそうだし、俺はできることをしたまでだ」

 

長岡はそう言いながらも手を休めることはなく、最後のごみを自らの手で、鎮守府の玄関先へと運んだ。

 

「よし、ゴミ出しはこれくらいでいいだろう。入渠室も妖精さんに直してもらってるから、もう少しの辛抱だ。吹雪、しばらくしてからでいいから全艦娘を広場へ集めてくれ」

 

「わ、分かりました」

 

吹雪は首をかしげながらも、マイクを使って艦娘たちを呼び出した。

 

「全員、集まったな。時間通りだ」長岡はそう言いながら感心したように艦娘を見つめた。

 

縦一列に並んでいるのは、長門型の二人を始め、航空戦艦、伊勢、日向、戦艦大和、武蔵。

 

金剛姉妹四隻、扶桑姉妹、阿賀野型の阿賀野、矢矧、酒匂。ビスマルク級戦艦プリンツ、一航戦赤城、加賀、二航戦、飛龍、蒼龍。

 

五航戦、翔鶴、瑞鶴。吹雪をはじめとする全駆逐艦、これが現在のこの鎮守府における全戦力だ。その後ろには、長岡の部下たちも控えている。

 

艦娘たちは甘味処の時とは違い、戸惑いや諦めの表情を見せている。

 

「急に集まってもらって済まない。今からお前たちには、通常任務のほかに、新たな試みを試してもらいたい」

 

「新たな試み……?何よそれ、また単艦で出撃しろって言うんじゃないでしょうね?」

 

綾波型駆逐艦八番艦、曙が怯えながらも長岡を睨んだ。

 

「曙だな。残念だが出撃はまだできない。疲労や精神面の治療中だからな。代わりにお前たちには、自らの身を守るための訓練をやってもらう」

 

「自ら身を守る……?」

 

曙は意外という顔を見せた。『艦娘は提督の所有物であり、命令は絶対』それが前提督が定めた暗黙のルールだった。そのために自分たちは行動を制限されていたのだから。

 

「お前たちが前提督に逆らえなかったのは、あの男がクソだったことだ。今後は、相手を気絶させ尚且つ、確実に逃げるための訓練を行う。……最近は、艦娘のことをよく思わないやつもいるからそのことも頭に入れておいてくれ」

 

長岡は含みのある発言をした後、こう宣言した。

 

「それではただいまより、CQCの訓練を執り行う」

 

「CQC?何よ、それ?」曙が腕組をしながら聞いた。

 

「簡単に言えば、敵に対する近接攻撃だ。いろいろな技があるが、どれも逃げる時間が稼げる。まずは、俺が手本を見せよう。おい、頼むぞ」

 

「はい!」

 

部下たち数人が長岡の前に立つ。

 

「青葉。ビデオカメラでの撮影を頼む。後でみんなに見せてやりたいからな」

 

 

「りょ、了解です!恐縮です!」

 

青葉はほかの部下から、最新鋭のビデオカメラを受け取った。それだけで彼女の顔はほころんだ。

 

「まずは相手が一人の場合だが……」

 

長岡はそう言ってCQCのレクチャーを始めた。他にも、相手が複数の場合の連携方法や、武装した相手の武器を奪い、ホールドアップさせる方法など、艦娘が得意であろう技を見せては彼女たちに実践させてみた。もちろん、体のずれや技の修正などは女性の部下が行った。

 

そのすべてが終わるころには、日が完全に傾いていた。

 

「今日はここまでとする。各自、ゆっくり休んで明日に備えるように。解散!」

 

「全員提督に敬礼!」

 

所定のあいさつを終えると、艦娘たちはそれぞれの感想を言い合いながら、自室へと戻っていった。

 

吹雪は慌てて長岡の後をちょこちょことついて来た。

 

「吹雪、お前ももう部屋に戻っていいんだぞ?」

 

「いえ、私は司令官の秘書艦なので」

 

「いや、だが……」

 

「秘書艦なので!」

 

ぷくぅっと頬を膨らませる彼女に彼は、「お、おう」としか返せなかった。

 

その後は、心の傷が癒せていない艦娘の確認などで、あっという間にヒトマルマルマルとなった。

 

「吹雪、今日はもう戻れ。お疲れ様だったな」

 

その言葉だけで吹雪は泣きそうになったが、何とかこらえた。

 

「で、ではおやすみなさい」

 

吹雪はそそくさと部屋を出ていき、廊下で部下の男に会釈してから廊下をパタパタと走った。

 

「隊長……いえ、提督、お疲れ様です」

 

「あぁ、お前もな……。艦娘たちはどうだ?落ち着いたか?」

 

「いいえ、まだ時間がかかります。彼女たちは出撃ハッチに向かわなければ、武装は出来ませんが、今回提督がレクチャーしたCQCを使われれば、どうなるか分かりません」

 

「そうか……」

 

長岡は立ち上がり背を向け、闇に染まる窓を見つめた。部下は彼の方が震えていることに気づいた。笑っているのだ。普段感情を表に出さない彼が。

 

「提督……?」

 

「俺は必ずここを変える。そして奴らに代償を払わせる。それが俺の戦う理由だ」

 

稲光が闇を照らす。雷鳴とともに机に置かれた写真立てには、笑みを浮かべる長岡と、それを取り囲む数百人の部下たちが写っていた。裏面にはこう記されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『陸軍第13連隊隊長任命式記念、大本営本部にて』

 




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