銀魂×TOV   作:takowasa

10 / 10
10話が出来上がったので、投稿します。

基本この回はボケと会話しかなく、ストーリがあんまり進んでません。

すみません次から進めます。では、どうぞ


知らないやつから……特に胡散臭そうな天然パーマの奴から、物は貰っちゃダメ

シャイコス遺跡での用を終え、無事にアスピオに帰還した銀時一同。

朝早くから出発した銀時たちだったが、アスピオに戻った、今、時刻は気づかないうちに、もう正午を通り過ぎていた。

しかし、アスピオを離れていたのは、たった、数時間だけだというのに銀時は随分と懐かしい感覚を覚える。

なんというか、ほっとするというか……。街の住人は、こちらを睨んでは陰口ばかり叩く、腹の立つ奴ばかりで、街の雰囲気も住人共と似つかわしく、暗く、陰気くさい。

お世辞にも好きとはいえないはずなのだが、なぜか戻ってきて安心している自分が、銀時の中には居た。

多分、そう思ってしまうのは、それだけあの地下遺跡が酷い場所だったからだろう。いや、地下遺跡だけではなく、銀時は前の遺跡でも散々な目に遭っていた。

だから、遺跡と相対的に見て、アスピオの評価が上がっているのかもしれない。

まぁ、つまり、銀時の心中をシンプルに表すなら、もう遺跡は、懲り懲り……この一言だろう、もうちょっとした遺跡恐怖症だ。遺跡と名のつくものには碌な場所はない。遺跡を破壊したい衝動に駆られる。

アスピオの街の門へ向かいながら、そんな感慨に銀時が耽っている時、後ろにいたエステルが口を開く。

「結局、シャイコス遺跡にフレンはいませんでしたね……」

盗賊団に関する情報は手に入り、ユーリの目的は達せられたものの、エステルの尋ね人、フレンはシャイコス遺跡にはおらず、その後の行方の情報を手に入れることも叶わなかった。

結局、シャイコス遺跡での奮闘は、無駄骨を折るという形に終わってしまったエステルは失意の念を表していた。

「そのフレンって騎士のこと、随分、気にかけてるみたいだけど……どういう関係なの? 知り合いみたいだけど……」

何度も何度も同じ名前を呟くエステルを見て、フレンという騎士に少しだけ興味をそそられたのか、側にいたリタが、エステルに尋ねる。

「知り合いというか、ユーリの友達です」

リタの質問にエステルが、そう答えた。驚くべきことに前日にリタの家を訪ねてきた、あのフレンという騎士、ユーリの友人らしい。

真面目そうで礼節正しく、如何にも優等生タイプといった、あの金髪の騎士フレンと、それとは、まったく真逆の素行を持つユーリ。

その二人が友人……どうにも不釣り合いなコンビだが、まぁ、性格が正反対でも、絶対に気が合わないなんてことは、ないのだから、不思議なことではないのだろう、きっと。

「ふ~ん、あいつの友達なんだ。そりゃ、相当苦労してるでしょうに……」

あの金髪の騎士がそこの長髪の男、ユーリと友人と言うことを聞いて、リタは半眼でユーリの背中を見つめながら、哀憐を含んだ声で、そう呟く。

「なんの話してんだよ」

後ろでなにか、さがな口を叩かれているような気がした、話題の中心人物であるユーリが、見返りながらリタ達に言う。

聞かれたリタは「なんでもないわ」と、訝しむユーリの言葉を軽く振り払うと、言葉を継ぎ、エステルに再び問いかけた。

「で、そのフレンってやつが、なんでこの街に居るの?」

「花の街、ハルルの結界魔導器《シルトブラスティア》を直すために魔導士を探し、ここに来ていたようで……」

エステルの口から出た、ハルル、結界魔導器、直す、という単語たち。

その単語を聞いて、前の日の夕方に来た騎士が、シャイコス遺跡の件以外にハルルの結界魔導器の修理に関する用件も話していたことをリタは思い出した。

そこで、ようやくリタは、フレンと言う騎士が、前日に自分の家に訪ねてきた騎士と同一人物ということに気づく。

「ああ! あの堅物そうで、青臭い奴……あたしのとこにも来てたわ」

「フレンの様子はどうでした? 元気そうでしたか?」

と、エステルは胸に両手をあてながら、煩慮した表情で、リタに聞いた。

「さーね……。多分、元気だったんじゃない?」

エステルの問いかけにリタは、どうでもよさそうな様子で、いい加減な応えを返す。

「多分って……適当すぎでしょ」

呆れた声で言いながら、カロルは細くした目で、リタを見た。リタはそんなカロルを歯牙にもかけず、話を続ける。

「騎士の要請ならとっくに他の魔導士が動いてるだろうし、そのフレンとかいう奴、もうハルルに戻ってるんじゃない? もう一度戻ってみれば?」

リタはハルルの街に一度戻る提案をエステルに持ち出すが「……そうでしょうか……」と、エステルは覇気のない暗い声で、そうたった一言だけ返す。

そんな彼女の様子を察するに、まだこれからの行動の指針をどうするかに思い悩んでいる最中なのであろう……。

自分の雑然としている考えをまとめ、次なる行動の方針を決めるための時間がエステルには必要だった。

そんなエステルから、リタは視線を外しユーリに向けると、当初の目的である、盗人の濡れ衣の払拭を果たすため、ユーリに確認をとる。

「で、あたしたちの疑いは晴れたわけ?」

そう、リタに聞かれたユーリ本人はというと、背中を向け、黙したままだ。そこで、エステルが言う。

「リタたちは泥棒を働くような、悪い人たちではないと思います」

エステルがそう言うと、ユーリはリタたちに向き直り、眉をひそめながら言い放つ。

「思うだけじゃ、こいつらがやってないっていう証拠にはならねぇな」

そう発言するユーリの様子は、疑いの念をリタたちに向けているというよりは、どことなく意固地になっているだけのように見えた。捻くれ者の彼自身、引くに引けないのだろうか。

「そんな――」

頑なに認めようとしないユーリにエステルが抗言しようとした時、リタがそれを遮る。

「いいよ、無理に庇わなくて……。でも、本当に盗みなんてしてないから、あたしたち……」

リタは真剣な表情を浮かべ、改めて、自分たちの身の潔白をユーリに訴えた。

言われたユーリは流石に悪気を感じたのか、リタから顔を背け、

「……まぁ、お前らは泥棒なんかより、二人で漫才してるほうがお似合いだもんな……」

と、ユーリは二人を冷やかしつつ、リタたちの潔白を認めるようなニュアンスの言葉を口から出す。

そして、一人で、先にアスピオの門の前へ向かって行ってしまった。そんなユーリの背中を見つめる銀時とリタにエステルが頭を下げる。

「ごめんなさい……ユーリは根は優しくていい人なんですよ。ただ素直じゃなくて……人に誤解されるというか……」

「素直じゃねーにも程があるがな。ひん曲がり過ぎだよォ彼、有吉が憑依してるんじゃねーのかってぐらいのひん曲がりっぷりだよォ、あれは……」

銀時は腕を組みながら、気だるい表情でエステルに言う。

「盗賊のこと警備に連絡してくるから、あんた達だけ、先にあたしの研究所に戻ってて」

そう言って、リタは、立ち止っている銀時とエステルを横切り、門へ向かう。

「そう言われても、あの怖ーいおじさん達が通してくれないんだよなァ……」

門の両端に立っている街の兵士を横目で見ながらユーリが呟く。

「銀時が、街の通行書を持ってるから通れるわよ」

リタはそうユーリに応えたが、そこで、後を追ってきた銀時が予想外の言葉を言い放った。

「あ、わりぃ、あれ、便所紙に使っちまった」

「は……?」

貴重な街の通行書を用足しの紙に使ったと、銀時に言われ、目が点になるリタ。

「……便所紙ィ!? あんたッ……通行書、便所紙に使ったの!?」

両目を剥きながら、リタは叫ぶ。

「ああ、トイレットペーパーが切れてよォ、ストックもなかったし、ケツにう○こ付けたまま厠出るわけにもいかねぇから、しょうがなく……。あ、でも、心配する必要はねぇよ、ちゃんと詰まらずに流れたから」

そう報告して、銀時は親指を立てた。

「便器の詰まりなんて、心配してないのよ! てか、あんたの頭ん中のほうが、よっぽど心配だわ!」

頬に青筋を立て、銀時に怒鳴るリタ。その隣でエステルが安堵する。

「よかったです! トイレが詰まってなくて……」

「いや、胸撫で下ろすところじゃないから、それ。確かに詰まったら大変だけど」

と、カロルも冷静にエステルの天然ボケにツッコミを入れた。

そんなボケが飛び交う、混沌とした空間をユーリは神妙な顔で眺めている。

銀時のペースに巻き込まれていては、事態がいつまでたっても動かないと考えたリタは、大きく深い溜息をついた後、懐から自分の通行書を取り出し銀時に言う。

「もういいわ……。銀時、これ貸すから、こいつら連れてって」

疲弊した様子でリタは、通行書を銀時に投げつけ、銀時は、それを片手でキャッチする。

銀時が通行書を掴んだのを確認すると、リタは街の門の先に足を踏み入れる、そして向き直り、

「それじゃ、行くから。あと、あたしの許可なくこの街を出ないこと……出たら、ひどい目にあわすから。銀時、あんたはちゃんと、こいつらを監視してなさい」

顰めっ面で、そう言い捨てるだけ言い捨てて、リタは階段を上がり街の中へ消えて行ってしまう。

門の前に残された、銀時、ユーリ、エステル、カロル、ラピードの一同。

そこで、銀時は一度、頭をゆっくり掻くと、まとめるようにユーリ達に言った。

「まぁ、そういうことみてぇだから、とりあえず、あいつの研究所に行こうや」

「そうですね。行きましょうか」

と、エステルが銀時に賛意を示し、ユーリとカロルは頷き、ラピードは吠えて返事をした後、一行はリタの家へと向かい始めたのである。

 

 

 

 

銀時を先頭にリタの家へ向かい、木製の橋を渡る最中、エステルが心嬉しいといった様子で、ユーリに声をかける。

「でも、本当によかったですね、リタやギントキが、魔核《コア》泥棒じゃなくて」

エステルの顔には喜びの笑みが現れていた。しかし、そんなエステルとは違い、ユーリの表情は冷ややかだ。

「俺は、別によくもねぇがな……。むしろ銀時たちが犯人だったら、楽に終わってよかったのによ」

またまた、憎まれ口を叩く、ユーリ。

「おーい、ユーリくん、聞こえてるからそれ。俺の堪忍袋の緒も切れかけてるからァ」

言って、銀時は顔を後ろに向けながら、鋭い目つきで、ユーリを睨みつけている。額に筋が浮き出ているのを見るに、彼の忍耐も限界にきている模様だ。

気の長い方ではない銀時にしては、よく持っている方だが。

「ちょっと、銀さん怒ってるよ、いらないこと言うんだから……」

眉をひそめながらカロルが、ユーリに囁く。が、銀時に睨まれようが、カロルに注意されようが、ユーリの態度が崩れることはなかった。

そんなやり取りしている間に、もう、リタの家の前に到着していた、一行。

銀時が家の扉を開け、入っていく、それに続きながらエステル、ユーリ、カロル、ラピードの順で、三人と一匹もお邪魔をする。

帰ってくるなり銀時は、洞爺湖を腰から抜き、家の壁に立てかけると部屋の奥に行き、今更と言った感じだが、頭の怪我の処置に入る。

ユーリは腕を組みながら壁にもたれ、カロルは床に座った。エステルは姿勢を崩さず、立ったままリタの帰りを待つ。

それから、四~五分経った時、頭に包帯を巻いた銀時が、トレイを持ちながらユーリ達に近づいてきた。トレイの上にはいちご牛乳が注がれたコップ二つと、ガラス瓶にポロナミンGと書かれたラベルの貼ってあるドリンクが乗っている。

「ギントキ……傷は大丈夫だったんですか?」

エステルは、銀時の頭に巻かれている包帯を憂患した表情で見ながら、銀時に聞く。

「なんともねーよ、これぐらい」

銀時は涼しい顔で、エステルにそう返事をすると、コップの乗ったトレイをエステルの前に差し出す。

「こんなもんしか出せねーが……飲めよ」

銀時に言われ、エステルは「ありがとうございます」と、いちご牛乳の入ったコップを手に取る。

エステルがいちご牛乳を受け取った後、次はカロルにいちご牛乳を渡す銀時。

カロルもいちご牛乳を受け取り「ありがとう」と、銀時にお礼を言う。

そして、その二人の後、銀時は最後に残ったガラス瓶のドリンクをユーリに手渡そうとした。

「いちご牛乳二人分しかなくてよォ……わりぃけど、ポロナミンGで勘弁してくれ」

言われ、ユーリは手をドリンクに伸ばすが、直前で止まった、訝しんだ表情をするユーリ。そんなユーリの様子を見て、銀時は片眉を上げながら言う。

「心配すんなよ。陰険なOLみたいに裏で雑巾の絞り汁、混入させるようなベタな真似はしてねぇから……」

そう言った後、銀時は微笑んだ。そんな銀時の顔を見て、ユーリは警戒を解く、そして「わりぃな」と、無愛想に言ってドリンクを手に取った。

それを確認し、最後に銀時はラピードの側に普通の牛乳が入った皿を置く。置かれてすぐ、ラピードは牛乳を飲み始めた。

銀時に渡された飲み物を飲みながらリタの帰りを待つ、ユーリ達。

ドリンクを飲んでいる途中で、ユーリはふと疑問が浮かぶ。

このポロナミンGのGという文字だ……ビタミンCとかのCならわかるが、Gってなんだよ、と思ったユーリは、銀時に聞いた。

「おい銀時、このポロナミンGのGって、なんだ? 気になるんだけど……」

「G-ウィルスのG」

と、銀時。

「ブウゥゥゥゥーーーーーーーッ!!!」

聞いた瞬間、ユーリは口に含んでいたドリンクの液体を盛大に噴き出す。

「ゲホッ、ゲホォ……なんつーもん飲ませてんだッ! 雑巾の絞り汁なんかより、何兆倍も危険なもんが混入してるだろーが! つーか、どっから手に入れて来たんだよッ、こんな飲みもん!」

咳き込みながら、ユーリは大きくシャウトし、ポロナミンGを床に投げつける。これには、流石のユーリも動転していた。

「え? 何……いきなり怒鳴って……。なんか、駄目だった?」

言って、銀時は怒鳴るユーリに怪訝な表情を向ける。

「駄目に決まってんだろ! ドリンクもてめーの頭もッ! どうすんだよ、飲んじまったぞ! これッ!」

とぼける銀時に、ユーリは床に落ちたポロナミンGの瓶を指差しながら、声をさらに荒げた。

「まぁ、まぁ、落ち着けって……これは、めでたいことだよ? 君も晴れて、G生物たちの仲間入りを果たしたわけなんだから」

銀時は笑いながら、ユーリを宥める。

「めでたくねぇよ、俺の元の健康体返せよ!」

まぁ、こんな宥め方で、怒りが静まるはずもなく、ユーリは頬に筋を立てながら、銀時に叫ぶ。

しかし、銀時はそんなユーリにも動じず、マイペースに話を続けた。

「とにかくよォ、起きちまった事をいつまでも嘆いててもしょうがねぇ、嘆くより、これからG生物として、どう人生を歩んでいくか……それを考えた方が俺ァ、よっぽど有意義だと思うがね。ポジティブに考えようぜ? これを機によォ、G生物で夏デビューしろよ、応援するから」

「なんだよ、G生物で夏デビューってッ! 聞いたことねーよ! てか、なんで、諸悪の根源であるお前が、上から目線で俺の人生相談してんだァ!」

そんなユーリの捲し立てるようなツッコミも、銀時はやはり、華麗にスルーをきめ、相手に話の主導権を渡さない。

「いいから、怒らずに考えてもみろォ、真夏の海辺を変異した体で走り回る自分の姿を、ビーチの視線は、きっと、お前に釘付けだよォ」

「そりゃ、釘付けにもなるだろうよ! 変異した体で走り回ればッ! あと、なんでそんな、冷静なんだよ、他人の体、化け物にしておいて……ッ!」

そう怒鳴るユーリは、銀時の理不尽な振る舞いだけでなく、あの平然とした態度と澄まし顔にも腹が立っていたようで……。

だが、そう言ったところで、銀時の態度が変わるはずもなく、銀時は淡々とした口調で切り返し、ユーリにとどめを刺す。

「そりゃ、冷静だわな。だって、G-ウィルスのくだり、全部嘘だから」

「て、嘘かよオオォォォ!!」

そう大きくシャウトし、ユーリは床に手をつく。顔からは汗が垂れ、度重なるツッコミで体力は消耗していた。その場面を見るだけで、あのメガネの苦労が偲ばれる。

ユーリの脳内には、安堵、怒り、疲れが入り乱れ、正常に思考を働かすことが困難な状況だった。床に手をついたまま動くことも喋ることもない、ただ、ひたすら肩で息をするだけのユーリ。

それとは対照的に、銀時は勝ち誇った笑みを表していた。正にその様子は、威風堂々といった言葉がぴったり。

そんな二人の光景を目撃していた、カロルは思った。この坂田銀時と言う男、髪質の捻じれも性格の捻じれもユーリより数段上だと、しかも人を手玉にとり、からかう才能は一級品。

それを証拠にあのユーリが自分と同じ、弄られキャラのようになっている。

ユーリを短時間で、ここまで精神的に追い詰めた、その技量にカロルは身震いした。銀時の姿が悪魔に見えた。そして、エステルはいちご牛乳に夢中だった。

「どうだ、俺のバイ○ハザードジョークは? 気に入った?」

「気に入るわけねぇだろッ! 人を散々おちょくりやがって……!」

しつこく、嘲る銀時にユーリの怒声が部屋の中に響くのであった。

 

 

 

 

 

で、そんな銀時のバイ○ハザードジョークがあってから、もう一時間経っていた。

しかし、その間、家の扉が開かれることはなく、リタは一向に帰ってこない。

銀時に散々、からかわられたユーリはというと、すっかり落ち着きを取り戻し、両腕を頭の後ろにやって、床に寝そべっている。

カロルはその隣で座り、エステルは辛抱強く、ずっと立ったままだ。

銀時は自分の寝床のところに横になりながら、ケツを掻いていた。

森閑とした部屋の中、カロルがユーリに話しかける。

「ユーリは、これからどこに向かうか決めてるの?」

これからどこに行くのか、そう聞かれたユーリは、カロルに顔を向けながら、迷いなく答えた。

「決まってんだろ、魔核《コア》泥棒の黒幕がいる港に向かう。水道魔導器《アクエブラスティア》を盗んだデデッキっていう奴も、そこに向かってるはずだしな」

「じゃあ、ユーリはノール港に行くんだね」

ユーリの答えを聞いたカロルから、ノール港という言葉が飛び出す。

黒幕が潜伏しているのはトリム港……。

ユーリはその港に行くと、カロルに答えたはずなのだが、何故かカロルの口からは別の港の名前が出てきた。

ユーリは怪訝な顔つきでカロルに聞き返す。

「あ? いや、ノール港じゃなくて、トリム港って言ってなかったか? あの盗賊」

「え? あ、ユーリ、知らないんだ」

これから向かう港の事情について、なにも知らないユーリにカロルは破顔した。

「知らないって、どういうことだよ……」

と、そんなカロルの笑い顔にユーリは眉間のしわを濃くさせながら、さらに問う。

そして、聞かれたカロルは、ノール港とトリム港が、どういう港街なのかについて、したり顔で説明し始めた。

「ユーリは知らないみたいだけど、ノールとトリムは海を隔てた一つの街なんだよ。僕たちが、今、いるイリキア大陸にあるのが、港の街カプワ・ノール、通称ノール港。そして、お隣のトルビキア大陸にあるのが、カプワ・トリム、盗賊が言ってたトリム港ってところ。このノールとトリムは半分に分かれて、別々の大陸に存在してる、珍しい街で、イリキアとトルビキアを繋ぐ出入り口の一つでもあるんだ。だから、トルビキアにあるトリム港に行くためには、まず、ノール港に行って、船で海を渡る必要があるんだよ。ノール港に行くには途中、エフミドの丘を越えないといけないけど、西に向かえばすぐだから」

長々しい説明を終えたカロル。その顔は妙な達成感に溢れていた。

まぁ、カロルの説明を受けたユーリは、特に驚くようなリアクションも取らず、「ふ~ん」と、興味の無さそうな反応を少しばかり示すだけだったが……。

とりあえず、説明を聞き終えたユーリは、エステルに顔を向け、尋ねる。

「エステル、お前は、これからどうすんだ?」

ユーリにそう、突然問われ、エステルは「え?」と、間の抜けた声を出す。

不意のことに一瞬、質問の内容が飲み込めなかったのだろう、しかし、エステルはすぐに察し、答えた。

「あ、えっと、私は、ハルルの街に戻ろうかと……。リタの言う通り、フレンが戻っているかもしれませんし」

どうやら、エステルも、この待ち時間の合間に向かうべき場所を決めていたらしい。

「ふーん、そうか……」

答えたエステルにユーリは、トーンの低い声で、一言相槌を打つ。それから、ややあって、ユーリは言葉を継いだ。

「じゃ、俺もエステルと一緒に一旦、ハルルに戻ろうかね。俺もフレンのこと、少しだけ気になるし」

そうユーリが言った時、カロルがその言葉に反応した。

「え!? なんで? そんなのんびりしてたら、泥棒たちどっか行っちゃよ!」

カロルが不服そうな口調で、ユーリに言う。

ハルルに戻る……なんて言葉が、ユーリの口から出るとは思っていなかったのか、その表情には、激しい焦燥が表れていた。

「そんな、焦る必要はねぇって、あの男の口ぶりじゃ、港は黒幕の拠点っぽいし。それに西なら、どうせハルルは通り道だしな、ノール港に行くついでだよ、ついで。」

焦るカロルをユーリは、鷹揚に宥める。が、

「え~……でもぉ……」

と、ユーリの考えにカロルは納得がいかず、当惑している。

何か事情があるのか、とにかく先を急ぎたくて、しょうがないといった様子のカロル。

そんな様子のおかしいカロルにユーリは、片眉を上げ、からかうような口調で聞く。

「なんだよ、急用でもあるのか? 好きな子が不治の病で、急いで戻らないと危ない……とか?」

「そんな、はかない子ならどんなに……」

カロルは表情を曇らせ、暗い声を零す。その時だった、玄関先からドアノブを弄る音が鳴る、そして、リタの家の扉が開かれる。

部屋に入ってきたのは、この研究所の主、リタだった。

警備に無事連絡を済ませ、ようやく家に帰ってきたようだ。

エステル、カロルは帰ってきたリタに目を向け、銀時も扉の音を聞きつけ、起き上がる。

そんな中で、唯一ユーリは目を瞑り寛いだまま、寝そべった体勢を変える気配はない。

リタは、そんなユーリの姿を翡翠色の瞳に映しながら、低い声で、呟く。

「待ってろとは言ったけど……どんだけ寛いでんのよ」

家に帰ってきたリタの第一声がそれだった。低い声の中には疲れと呆れが感じられる。

「おかりなさい、リタ。泥棒の方はどうなりました?」

リタに出迎えの声をかけながら、エステルは、地下遺跡に居た泥棒の顛末について、尋ねた。

「さぁね、今頃、牢屋の中で、ひ~ひ~泣いてるんじゃない?」

リタは腕を組みながら、いい気味といった様子で、エステルに答える。

「随分と、帰りが遅かったなァ、一時間もなにやってたんだ?」

と、銀時は、子指で耳をほじりながら、気の抜けた声で、リタに問いかけた。

「アホの誰かさんが、通行書を便所紙に使っちゃったもんだから、再発行するために時間が掛ったのよ」

そう言って、リタは、銀時の目の前に立つと、服のポケットから新しい通行書を出し、銀時に手渡そうとする。

そして、銀時がそれを受け取ろうと、手を出した時だ。

何故かリタは、銀時の手に渡る直前で、通行書を持った自分の手を引く。

リタの謎の行動に顔を顰める銀時。そんな銀時にリタは、凄んだ声で、警告した。

「次、通行書を便所紙に使ったら、便器に流すから……あんたを」

そう、リタに脅された銀時は顔色を変えることもなく「わーってるよ」と、煩わしそうな様子で返事をする。

そして、わかってるんだか、わかってないんだか、よくわからない銀時の返事を聞いたリタは、半目になりながらも、とりあえず、通行書を銀時に渡した。

通行書を貰ったついでに銀時は小さな疑問をリタにぶつける。

「でも、よくこんな簡単に再発行できたな。結構、そういうところユルユルなのかァ? この街……」

「あたしが、脅しつけ――頼み込んで、特別に発行してもらったのよ」

平然とした様子で、そう答えるリタだが、一瞬、物騒な言葉が混じっていた。訝った顔で、銀時がつっこむ。

「あれ? 今、脅しつけたって言いかけなかった? ごまかしたけど……言ったよね、今」

「言ってないわ。気のせいよ」

リタは、即座に戸惑いの表情一つ見せず、事も無げにそう切り返した。黙りこむ銀時。

そんな様子を見て、頃合いと感じたユーリは起き上がり、リタたちに言った。

「疑って、悪かったな……銀時、リタ」

意外や意外、ユーリの口から出たのは、素直な謝罪の言葉だった。

いきなりの謝罪、そして、ユーリの素直さに銀時は、表情にこそ表さないが、内心、驚く。

あれ、なにこの素直な生物……。あれ、こいつ別人じゃね? といった自分自身の声が、銀時の脳内を飛び回っていた。

そんな銀時の側で、リタは無表情のまま驚くこともなく、抑揚のない声で、ユーリに言葉を返す。

「軽い謝罪ね。まぁ、こっちもそれなりの収穫があったから、別にいいけど……」

言いながら、リタは、何かを確認する様に謎の公式が書かれた黒板と、エステルを交互にまじまじと見る。

「どうしたんですか? リタ」

リタに視線を送られ、エステルは不思議そうな顔をしながら問うが、

「んじゃ、長居もあれだし、俺たち、もう行くわ。随分と世話かけたな」

と、そのエステルの問いは、ユーリの言葉によって、かき消される。

「なに? もう行くのあんた達?」

リタが、ユーリ達に聞く。

「ああ、連れが急用みたいだし、ハルルにも寄らないといけないしで、色々やることがあるんでな。出来るだけ急ぎたいんだ」

腰に手を当て、口元に軽く笑みをこぼしながら、ユーリはそう答えた。

「リタ、ギントキ、二人に会えて本当によかったです。急ぎますので、これで失礼します。お礼はまた後日」

エステルは、御辞儀をしながら、丁寧に銀時とリタに別れの言葉を送った。

「そうかい、達者でな。ユーリ、エステル、カロル、ラピード」

銀時も頬笑みながら、これから旅立つ皆の名前を呼び、別れの言葉を送る。

それに「うん!」と、カロルが元気良く、頷く。そして、銀時は続けた。

「絶対に一人たりとも欠けることなく、この地に戻ってこい。約束だぜ」

真剣な顔つきで、銀時はそう言った。口調も先より重くなっている。

そんな銀時の様子にオーバーだなと、少し、戸惑いながらも、カロルは「え? えっと……う、うん!」と、相槌を打ち続けた。

「特にカロル……お前は死ぬんじゃねぇぞ……家に嫁さんと、生まれたばかりの赤ん坊を……残して……るんだから……」

言って、とうとう、銀時はカロル達から顔を背け、その表情に暗い影を落とす。口調も滅茶苦茶、重々しい……。

「いや、嫁さんも赤ん坊もいないからッ!」

そこでようやく、カロルがつっこんだ。

「なんで、ボクだけ妻子を残して死地に赴く兵士みたいな扱いになってんのッ! 妻子もいないし! 戦場にも行かないからァァ! ボクッ!」

カロルは額から汗を垂らしながら、必死に叫ぶ。それを聞いた銀時は、驚いた顔をして、カロルに問いかける。

「え? そういうんじゃないの? 戦場に死にに行くとかそういうんじゃないの? 行かないの? 戦場に……」

「行かないよ! 行くわけないじゃん!」

怒鳴って、唾を飛ばすカロル。

カロルにつっこまれた銀時は納得がいかない様子で、嘆く。

「え~……だってよォ、二十一行前の地の文に『旅立つ』って書いてあるもんだから、俺ァ、てっきり……」

「いや、確かに旅立つって書いてあるけどもッ! 違うからね、旅立つって言っても天国に旅立つって、意味じゃないからね! 深読みしすぎだから! もう! ハァ……ハァ……」

休む暇なく、息を切らし、カロルはつっこみまくる。その間にも彼の疲労とツッコミスキルは、どんどん上昇していた。

「んだよォ……俺の勘違いか……無駄に疲れちまったよ」

「あんたの周りの人間の方が、百倍疲れてると思う」

疲れたと、気だるい声で、呟く銀時にリタは腕を組みながら、冷静に正論を吐く。

そんなリタに構わず、銀時はマイペースに仕切り直す。

「まぁ、悪かったなァ、俺の勘違いのせいで、場を引っ掻きまわしちまって。改めて、別れの言葉を言わせてもらうわ、元気でな、お前ら」

「元気でなって、言われても……アンタのボケのせいで、もうすでにカロルの元気がなくなってるんだけど……」

隣の疲れ切った、カロルを見て、ユーリが言った。そして、溜息をつきながら、言葉を継ぐ。

「はぁ~、まぁ、もういいわ、とにかく俺たち、行くから。来い、エステル、カロル」

ユーリは、そうまとめると、玄関の扉を開け、家の外に出ていった。

ラピードもユーリが、外に出たのを確認すると、それについていく。

「ボク、終始、銀さんに振り回されっぱなしだった気がする……」

カロルは力なく、そう言って、ユーリに続く。

そんなカロルにエステルは苦笑いしながら、リタの家を出る前に深いお辞儀をし、出て行った。

こうして、ユーリ一行は、銀時のいらないボケの餞別を受け取り、リタの家を後にするのだった。




11話は出来次第、投稿したいと思います。
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