テルカ・リュミレース
人や魔物、あらゆる生命が生を育み躍動するこの世界。
テルカ・リュミレースにも数え切れないほど豊富な種類の植物たちが自生し、広大な海もあり、陸には川、山、森、といった雄大な自然が、地球と変わらず、存在する。だが、その陸と海がどこまで続いているのか、この世界に住む人間たちは知る由もない。なぜなら、世界にうごめく魔物たちに比べ、人はあまりにも弱かったからだ……しかし、そんな魔物たちが闊歩する恐ろしい世界でも人間たちは生き残り続けてきた。
魔物たちにはない知恵と言う武器を使い、文明を築き、そして、魔導器《ブラスティア》というこの世界の文明の象徴たる器物を生み出した。テルカ・リュミレースに満ちる根源の力、エアルを使い、魔導器は、火や水や光、繁栄に必要なありとあらゆるものを人に与えた。魔導器の恩恵によって、文明は飛躍的に発達、人々が暮らす街には、魔導器によって生み出された、魔物を退ける結界が張られ、人々には安寧が約束された。
こうして、魔物の脅威とは無縁の結界の張られた街の中でこの世界の人々は魔導器と共に繁栄し、生き残り続けてきたのだ。そんな、人、魔物、魔導器、エアル、自然といったあらゆる要素によって、複雑に織り成される世界、テルカ・リュミレースに……ある一匹の侍が放り込まれる。
~テルカ・リュミレースのとある遺跡~
「うっ……う~ん……」
重い瞼を上げ覚醒した銀時。
「うっ……痛つつ……あぁ……目を覚ましたらまた知らない場所か……どうやらまだ悪夢の延長線上らしいな」
目を覚まし、上体を起こした銀時の眼前に広がるのは明らかに人の手が加わっていると思しき、建造物と水路、そして、あちらこちらにまるで荒らされたかの様に散乱している砕けた岩やガレキたち。
その中に何か道具のようなものが散らばり落ちているが、銀時にはただの汚いガラクタにしか映らない。
人工的に作られた水路に流れる水の音を聞きながら、銀時は上を見上げる。天井は厚い岩盤で覆われて、空を拝むことはできなさそうだ。
「どこだここ? 見た感じただの洞窟って感じじゃねーなァ、……ていうか、あ~んのクソドアホォ~! 結局、強制的に異世界に飛ばしやがって!」
バ神の理不尽な振る舞いを思い出し銀時の怒りが再燃する。
「しかも碌な説明すらされないまま飛ばされたからね、星食みって何なんだよ! 手がかりがふあふあしすぎだろうが、もっと具体的に手がかりを指し示してくれてもいいだろうがァ!! こんなん知識ゼロのまま、全裸ひのきの棒でドラ○エのラスダン攻略するようなもんだよォ、ハンターナイフでラ○シャンロンに挑むようなもんだよォ、ナイフでタイ○ントに真正面から挑むようなもんだよォ、どう考えても無理ゲーだろうがァァァァ!!! …………」
いくら叫んでも銀時の声は反響し虚空に消えるだけ、誰の耳に届くわけでもない。大声を出した後の遺跡内の静けさと水の音が余計に銀時に虚無感を覚えさせる。
「……チッ」
軽く舌打ちをすると銀時は立ち上がり背伸びをする。
「ここでボヤいててもしゃーねぇ、まずは地上を目指すか」
どこに行けばいいのかもわからないまま銀時は動き出した。地上を目指して。
遺跡内を歩き始めてからすぐだろうか、銀時の目の前にカエルに似たような生物が現れ立ち塞がる。
「なに? この不細工な生き物は?」
銀時はその生物を不思議そうに見る。だがそのカエルは1匹ではなかった。また1匹、また1匹と、どんどん増えていく……カエルたちはいつの間にか銀時の周辺を囲むように様子を見ていた。そのただ事ならぬ雰囲気に銀時も気づき警戒する。
「おいおい……ずいぶんお友達がいっぱいいるんですね……」
そう言いながら銀時は腰の洞爺湖に手を伸ばす。次の瞬間、穏やかだった表情を変えカエルたちが銀時に襲いかかった。
「うおっ!」
銀時はあわてて洞爺湖を構える。
「なに!?」
恐るべき速さでジャンプしたカエルたちは集団で銀時の頭上から押しつぶすように襲いかかる。カエルの集団に覆われ銀時の姿は視認できないほど。こうなればもう助かることはないだろう。残念ながら彼の旅はここで終わりを迎えてしまった……次の次回作にご期待ください! と、なるのは坂田銀時が常人だった場合の話である。
「ウラァァァァァァ!!」
銀時の大声と共に覆いかぶさっていたカエルたちがすさまじい剣圧で、まるで綿ぼこりのように飛散する。
「おいおい容姿的にブサカワ系を期待したんだけどな……まさかちょい悪系だったとは思わなかったよ!」
カエル……というか大量の魔物に囲まれてる状況だが銀時の表情には笑みが表れ余裕が感じられる。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァ!!」
洞爺湖が右へ左へ薙ぎ払われ次々とカエルたちが斬り伏せられていく。
しかし、物怖じしないカエルたちは数にものを言わせ四方八方から襲いかかる。
「なめんじゃねェェェ!カエル共ォォ!!」
銀時は目にもとまらぬ速さで、木刀を乱舞させカエルたちを斬り飛ばす。壁に減り込むカエルたち。
何十匹もいたカエルはあっという間に数えるほどしかいなくなっていた。
するとカエルたちが鳴き出し銀時のもとを離れていく。残ったカエルたちは、大きな水しぶきと音を立てながら下にある巨大な水路の中に飛び込み水中に消えていく。
どうやら勝てないと判断した残党ガエルたちは慌てて水の中に逃げ込んだようだ。
「ふぅ……どうやら逃げたみてぇだな」
そう呟いた銀時は一先ず警戒を解き洞爺湖を腰に戻す。
「しかしなんだったんだあの生き物共は……つーか何であんなに集まってきたんだ……ああ! 俺が大声出してたからか」
自分の疑問に自分で答えを出した銀時は遺跡内を駆ける。
「ここかァ、出口は? ……んだよォ、行き止まりか……次探すか……」
どうやら岩で道がふさがれているらしい諦めて次の箇所に行く銀時。
「ここはァ……橋が崩れて渡れないか……はぁ~……」
次の箇所も通行止めらしい。溜息を吐くと銀時はまた別の場所へ。
「ここは通じててくれよ、頼むから……うん?」
銀時の目の前に重く頑丈そうな大きな扉が現れる。
「扉か……あ、もしかしてこの道が地上に続いてるんじゃないの!?」
と、勝手に妄想を膨らませ嬉しそうな声を出す銀時は扉に手をつき、押し始める。
「ふんごォォ~!! フン! フン! フフフフフン!! う゛~んっ! はぁはぁ……駄目だびくともしねぇ」
重く頑丈そうな扉は見た目通り重く頑丈だ。1ミクロンたりとも動きはしない。
「次の通路を探そうか……」
肩を落とし、元来た道を引き返す銀時だが体が止まる、ある不安がよぎる。
「てか、この遺跡本当に出口あんのか? ……も、もし……もし、なかったらぁ……」
銀時は遺跡から出れずに餓死し、白骨化した自分を思い浮かべる。
「ア゛ぁア゛ぁア゛ぁア゛ぁーーー!! 最悪だよ! 最悪の未来予想図立てちゃったよ!」
シャウトする銀時。
「考えるな、銀時! ネガティブな事は、一切考えるな! ポジティブだ! ポジティブになれ、銀時ィ! 大丈夫だ、まだ探索してない通路はあんだ。希望を捨てるな銀時ィ、気をしっかり持て!」
自分に無理やり自己暗示をかけた銀時は走り出し探索を再開する。が、銀時の不安は的中することになる。
探索を再開したはいいが、通路は案の定行き止まりだったり、やっと通れる通路を発見してそこを通ってもいつの間にか元いた場所に戻っていたりと地上に続いてると思しき道は全く見つからない。
遺跡内をぐるぐる回ること小一時間。銀時は一つの答えを悟ることになる。
「ハァ……ハァ……あ、あれ~……? もしかして本当にこの遺跡、出口がァ……ない?」
銀時の表情には笑みが出ているが、顔は青ざめ、完全に引き攣っている。
「ふ、ふはっ、ハハハ……つまりー、俺はァ……ここから出られずに飢え死にすると……」
震え声で銀時は自分の運命を口にした。すると銀時はカッ! と、目を見開き叫ぶ。
「冗談じゃねぇぇ!!! 誰かァァァ助けてくれぇ! 新八! 神楽! 定春! ヘルペス! ヘルペスミー!!」
その大きな叫び声は遺跡内に轟く。あまりに大きいその叫び声に遺跡内に隠れている魔物たちも反応する。
「ふざけんじゃねーぞ!! なんで、俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ! 神様! 俺、何か悪いことしたか!? 俺、ただ飲み屋梯子して朝帰りしただけだよ!? いや、まぁ、確かに居酒屋で隣で飲んでる顔見知りのオヤジの枝豆勝手につまんだりしたけども! それがバレてオヤジと乱闘になったけども! 止めに入った店主のズラを引き剥がしたけども!」
自分の罪を洗いざらい吐いていく銀時。
「だからってこの仕打ちはあんまりなんじゃないの!? なんで枝豆盗んで、店主のズラ剥ぎ取ったぐらいで、こんなところに閉じ込められなくちゃいけないんだよ! もうわかったから……オヤジには謝罪するし枝豆も返す。店主のズラも返す」
そう言うと懐から店主から剥ぎ取ったものと思しきズラを取り出す。
「だから、元の世界に帰してくれェェェェ!」
裏返った声で叫ぶが、遺跡内には銀時以外に人はいない……当然答えなど返ってこない。
銀時の声は遺跡内に反響し消え……残るのは静寂だけだった。
「はぁ~……答えなんざ帰ってくるわけねーか……」
溜息を吐き、悲しい独り言をつぶやく銀時。だがその声に答える者たちがいた。
「……!」
銀時もその者たちの気配に気づく。
そう、魔物たちだ。銀時の叫び声に反応し吸い寄せられるように集まってきている。
しかもカエルの魔物だけでなくトカゲと半魚人を足して二で割ったような風貌の二足歩行の魔物やオタマジャクシに似た魔物もいる。
「またこいつらか……新しいお友達も引きつれて来やがって……」
嫌気のさした声でそう言うと銀時は腰の洞爺湖を引き抜き構える。
戦闘態勢に入るそんな銀時の後ろに魔物が忍び寄る。
魔物は銀時の後ろからフックに似た形状の武器を振り下ろすッ! が、その攻撃は銀時には届かない。
「油断も隙もありゃしねーな」
後ろの気配にとっくに気づいていた銀時が魔物の攻撃を木刀で防いでいたのだ。
「離れろ!」
そう言うと、銀時は腕に力を入れ木刀を振り上げ敵の武器を弾く。
さらに体勢を崩した魔物の無防備な腹に蹴りを一発入れる。魔物は大きな水しぶきをあげて水中に落ちる。
間を開けることなく他の魔物が横から噛み付こうとするが銀時は右に体を少しずらし、回避し、空中にいる無防備な魔物を一瞬のうちに真っ二つに切る。そして、そのまま体を回転させ後方にいる魔物に回し蹴りをお見舞いする。
止むことのない魔物の攻撃。今度は数匹の魔物が銀時の頭上に飛びあがり攻撃を仕掛けるが銀時はそれも難なく飛んで避け隣の足場に移る。
魔物たちはそのまま銀時がいなくなった地面に衝突し土煙を上げる。
「しつけーんだよ……てめーらもよォ……」
落ち着いた口調だが銀時の低い声には、苛立ちと怒りが垣間見える。
「まぁ、いい……どうせこっからはもう出られないんだ……全員憂さ晴らしついでに地獄に送ってやらァァァァ!!」
そう叫んで大きく地面に足を踏み込んだ瞬間だった、銀時が立っていた足場が崩れたのだ。
「ホヘェッ!?」
突然の出来事に素っ頓狂な声を出す銀時。
「ど~してこ~なるのォォォォォ!! アアアァァァァァァァ!!!」
悲鳴を出しながら水路の中に落ちた銀時は強い水の流れにもがくことすらできず、水を飲み込む穴の中に吸い込まれるのであった。
4話は明日、投稿したいと思います。