ちょっと、長いですが、最後まで付き合っていただければありがたいです。
延々と続く巨大な石造りの螺旋階段を上る、リタと銀時。
暗い階段を上り続けこと、数分……。螺旋階段を登りきった先には、また、扉が設置されていた。
その扉にも宝石のようなもの……魔核《コア》が取りつけられている。
リタは指輪を扉の魔核に向け、先ほどと同じ手順で、魔核に光を照射し、扉を起動させた。
徐々に開かれる扉、開く扉の隙間からは光が漏れ、差し込む量はどんどん増えていく。
小手を翳す銀時、リタも眩しいのか眉間に小さなしわを寄せ、目を細くする。扉が完全に開かれる。
それを確認すると二人は、歩き出し外に出ていく。
外に出た銀時たちを出迎えるかのように心地よい風が吹き、銀時とリタの体を撫でる。
外は、雲一つなく、頭上には、透けるような勿忘草色の空が広がり、太陽の光が燦々と降り注いでいた。ずっと暗い場所にいたせいか、まだ、日光が銀時の目に沁みる。だが、長い時間、地下にいた銀時にとって、太陽の光と新鮮な風は有難いものだった。心なしか溜まっていた疲れも少しとれたような感じがした。
銀時たちが出てきた出口の周辺には地下の遺跡内と同じようにガレキや謎の文字が刻まれた石盤が転がり、風化した建造物が複数、そびえ立っている。
どうやら、表のここも遺跡のようで、遺跡は地下と地上の二つに分かれていたらしい。辺り一帯は森で囲まれ、人の気配もなく物淋しい雰囲気が漂う。
銀時は「外だ」と、一言。安堵する銀時の横でリタは両手を上にあげ、大きく背筋を伸ばす。
「一時はあそこに永住するしかねぇと思ったが……」
呟く銀時。
「あたしがいて助かったわね」
リタは口元を緩めながら言う。
「……まぁな……とりあえず、世話んなったなガキ、またどっかで会えたら……」
言いながら去ろうとする銀時、それにすかさず、リタは銀時の両足の前に自分の右足を突き出し引っ掛け転ばせる。
「ぐほぉっ!!」
足を崩されバランスをなくした銀時はそのまま倒れこみ鈍い音を立てながら岩の地面に顔面を強打してしまう。
「いだだだだ! 鼻折れた! 鼻折れたぁ~んっ!」
鼻を押さえながら、銀時は悲痛な声を上げる。
「てんめぇ! 何しやがる!」
「あ、ごめ~ん。足が引っかかっちゃった」
リタは白々しい笑顔で謝罪する。
「何がしてーんだァ、てめーは」
起き上がり、額に青筋を立たせながら、ドスの利いた声でリタに詰め寄る銀時。
「あんた扉の前であたしに最後何か聞こうとしたわよね? それが気になったから聞きたいだけ」
リタは引き止めた理由を話す。
「聞いてたのかよ……。あの~、あれだよ……星食みってのォ、知ってるか? お前」
「星食み? なにそれ……」
唐突に星食みなどと言う、聞いた事のない言葉が出てきたせいか、思わずリタは首をかしげる。
「知らないのか…………ならいいやァ、忘れてくれ。」
当てが外れた銀時は、少し沈んだ声でそう言うと、再び一人で歩きだそうとするが、「待ちなさい」と、リタは再度、銀時の無防備な足を引っ掛けた。銀時は、またもそのまま真っ直ぐ倒れ、顔を硬い地面に打ち付けると共にぬおォォォォッ! と、痛ましい叫び声を上げる。銀時はすぐさま起き上がると、鼻を押さえながら、リタに怒鳴り声をぶつける。
「何なんだよ、お前はッ!? 俺の鼻になんか恨みでもあんのかァ、てめぇーッ!!」
耳を劈くような声で抗議する銀時にリタは表情一つ変えることなく、抗弁する。
「まだ、質問の途中なのに勝手に去ろうとするあんたがいけないんでしょ……。星食みって、何よ? なんかものすごい意味深な感じだったし……気になるじゃない」
「星食みっつーのは、災厄だよッ、災厄! 答えたぞ、これで満足か?」
ぶすっとした声と顔で、銀時は投げやりな答えを返す。
「災厄?」
穏やかではないその言葉にリタは眉を寄せて、疑問を投げかける。
「あんた……なんで、そんなもん探してるのよ?」
「決まってんだろ、そりゃあ――」
答えようとした銀時は言葉を途中で切ってしまう。
「そりゃあ?」
と、リタは訝しげな表情を見せる。
「いや、いいわ。どうせ笑われんのがオチよォ……」
銀時はバツが悪い様子でそう呟いた。
「そんな言い方されたら、ますます気になるんだけど……。笑わないから早く言いなさいよ」
躊躇う銀時の様子を見てリタは急かす。
「いや、いいって……絶対、信じてくれないし、笑われるだけだし……」
銀時は頑なに喋ろうとしない。そんな様子に溜息を漏らしながらもリタは言った。
「じれったいわねぇ……信じるし、別に笑いもしないわよ」
そう言われた銀時は少し間を置くと、リタに顔を向け、聞いた。
「……本当に笑わねーか?」
銀時の問いにリタは頭を縦に振る。
「お前、絶対に笑うなよ、神に誓えよ」
念押しする銀時。それに対しリタは「誓う誓う」と、煩わしそうな体で、返事をする。
「笑ったらあれな、デコピンとしっぺだかんな、絶対笑うなよ」
まだ、疑ってるのか銀時はしつこく念押しを続ける。それにリタは若干イラつきながらも「はいはい」と頬に青筋を立たせながら相槌を打つ。
「あと、絶対に他の男子や女子に言い触らしたりすんなよ、お前にだけ話すんだから……バラしたらあれだかんな、絶交だかんな、あと――」
そこで限界だった。リタは銀時の声をかき消すようにイラついた声を上げる。
「いや、もういいわよ、しつっこいのよ、あんたは! くどいなんてもんじゃないわ……というか、途中から何で恋バナみたいなノリになってんのよ、腹立って仕方ないわ! いいから、さっさと、話しなさいよ!」
「うるせェーなー、わーったよ、話すよ、話せばいいんだろ……話すと、長くなるが、あれは――――」
そう言って、腹を据えた銀時は、ようやく今まであったことの細かい経緯を話し始めた。
朝帰りの道中、拉致され、異空間に引きずり込まれたこと、そこで、バ神にテルカ・リュミレースを救ってほしいと懇願されたこと、災厄のこと、バ神がどれだけバカだったか、何一つ隠し立てせず、全ての事情を話した銀時だが、リタは怪訝な表情を変えない。
「ふ~ん、つまり、あんたは星食みっていう、災厄を退けるためにこの世界に飛ばされてきた救世主様ってわけ?」
リタは確認をとる。
「まぁ……概ねそんな感じだわ。救世主ってわけじゃねぇが……」
そう言って頷く銀時。
「そう……銀時……良い医者紹介するから一度そこで診てもらったほうがいいんじゃない?」
リタは哀れんだ目で銀時を見ながらそう提案する。
「ほーらァ、来た! そのリアクション! 絶対、そういう反応されると思ったから喋りたくなかったんだ。違うからねッ、そういう感じじゃないからァ、 確かにとち狂った話かもしれないけど、本当のことなんだってェ、なんか、神様っぽい奴に無理やり飛ばされてきたんだよッ! 断じて頭おかしくなったわけじゃないからね! 頭おかしいのは俺をこんなところに飛ばした奴だから!」
巻き舌気味になりながら、必死で釈明する銀時。
「そんなに必死にならなくてもいいわよ。冗談だから」
澄ました顔で言うリタ。
「いや、冗談に聞こえねーから!」
銀時は青ざめた顔で叫ぶ。
「本当に冗談よ……今更、あんたの口からなに聞いても驚かないし……とにかく、災厄とかはよくわからないけど、どうせ、あんた行くあてなんてないんでしょ? ならついてきなさいよ。あたしの拠点があるアスピオって街ならその『災厄』のことも分かるかもしれないし……」
「災厄のことがわかるって……どういうこった……」
言いながら怪訝な表情をする銀時。
「来ればわかるわ」
そう言って、リタはスタスタと先に歩きだす。
「あ、おい! チッ……しゃーねぇなァ……おい、ちょっまてよ!」
銀時は焦り気味にリタの背中を追う。
リタについて行き、歩くこと30分ほど、ようやく目的の場所に着いた銀時。
眼前には、大きな洞窟の穴がそびえ立ち、その洞窟の穴の中には薄っすらと街の影が見てとれる。
「着いたわ。ここよ」
リタが到着の合図をかける。
「おいおい、街って洞窟の中にあんのかよ……」
たまげた顔をする銀時。
「本当にこんなところに災厄の手がかりがあんのか?」
銀時は疑った目をしてリタに聞く。
「あるんじゃない? きっと……多分」
そう答えたリタは軽い足取りで、先に洞窟の穴に入っていく。
「適当だな。おい……本当について行って大丈夫なのか? これ……」
リタのいい加減な答えに銀時はさらに不安な表情を強めるながらもゆっくりとした歩みでリタについていく。
洞窟の中に入った二人。日の光が届かないせいか、少し冷える洞窟内。
リタが少し前を歩き、銀時はそのあとをついて歩く。
街に続く道の少し先には、街の門が見え、その門のさらに先に西洋風の大きな建築物がいくつも建っているのが目に入る。
そのまま黙々と歩き、街の門を抜け、階段を上がる銀時とリタ。階段の先には中央広場のような場所が見て取れる。
その広場にはリタが身に着けているローブと同じものを着た人々が疎らに居るのが確認できた。立ちながら無表情で本を読んでいる者や何か険しい顔つきでブツブツ独り言を呟いている者、フードをかぶって表情が読み取れない者など、最初に洞窟の中に入った時からそうだが、どことなく街全体の雰囲気が暗く少し異様に感じる。
銀時はそんなことを気にしつつもリタと一緒に階段をそのまま上がり、中央広場に着く。
広場の人間たちが、二人の存在に気づく。次の直後、広場の人間たちは驚いたような表情をしたかと思うと、ひそひそと呟きながら奇怪な物でも見るかのような視線を銀時たちに送ってくる。
「おいおい、なんか、あんまり歓迎されてる感じじゃねーなァ。つーか、なんで俺たちこんなに避けられてんの?」
街の住民の態度に不快感を表す銀時。
「……さぁ? あんたの頭の毛玉が怖いんじゃないの?」
さらりと毒を吐くリタ。
「張っ倒すぞクソガキ! どうみても原因はお前だろーが。病人みてぇな青白い面してっからそういう目で見られんだよ」
リタを指差し、言う銀時。
「周り見てみなさいよ……どいつもこいつも病人面だから、てか、アホ面のあんたには言われたくないし」
「あぁ? 誰がアホ面だって? こんな二枚目、この世に二人と居やしねーだろーが」
自信満々に戯言を抜かす銀時。
「はぁ~、バカっぽい……」
そう呟きリタは呆れた表情を見せる。
「ていうか、周りの奴らの目なんか気にしなくていいのよ。どうせいつものことだし……」
リタは銀時にそう言い、腕を組みそっぽを向く。
「いつもって……いつもこんな目で見られてんのか?」
銀時は濁った眼でリタを見ながら問いかける。
「そうよ。なんか文句ある?」
リタは冷えた声で答える。
「いや、別に……ただ、おめぇはよく平気でいられるなって、思っただけ」
「くだらないわ……もうこの話やめにしない? 陰気くさいったらありゃしないわ」
不機嫌な表情でリタはそう言った。表情だけでなく、その声からも彼女の苛立ちが感じて取れる。
「そうだな……ただでさえ陰気くせぇ雰囲気なのにこれ以上陰気くさくなったら、頭にカビが生えちまう」
その事にはあまり触れてほしくないという、リタの心情を察したのか、銀時もそれ以上聞くのをやめ、リタに同調する。
「そういうこと。広場から右に向かうとあたしの住処があるからそこまで行きましょ。話はそれからよ」
そう言って、リタは広場から右に少し離れた家に向かって歩き出す。銀時も無言でリタについていく。
木で作られた小さい橋を渡ると、街の端っこにあるリタの住処がすぐそこにあるのが見える。
そして、リタの家のドアの前に着いた二人。ドアには、絶対 入るな モルディオ と、書かれた貼り紙が貼ってある。
リタは鍵を取り出しドアを開ける。
「入って」
「おう、じゃあ、お邪魔しまァ……あ……」
そう言って、銀時は部屋に入ろうとするが、その足が止まった。
荒れている……いや、荒れているなんて生易しいものじゃない。
周りは夥しい数の本が散乱し、そして積み上げられ、岩がむき出しの壁にガレキと、遺跡内で見かけたようなガラクタがいくつも放置され、床からは謎の大きな物体が床から天井に突き抜けている。
とてもじゃないが、人が住むような部屋には見えない。
「あれ? これ、どゆこと……お前の住処って魔境だったの?」
銀時は困惑した顔でリタに問いかける。
「誰の家が魔境よ」
低い声でつっこむリタ。
「だって、人が住めるような感じじゃねーだろ、この部屋ッ! 魔が取り憑いてるものォ! 見つめてると飲み込まれそうなんですけど!」
銀時は戦国乱世並みの荒れっぷりの部屋の中を指差し、大きな声を出す。
「大げさすぎよ……ちょっと散らかってるってだけでしょ」
リタはだるい声で銀時を宥める。
「ちょっと、散らかってるなんてレベルじゃねーよ。今すぐにでも匠達の手が必要なレベルだよ、これ」
戸惑った口調で銀時は部屋の惨状を指摘する。
「あぁ~ッ! いいからうだうだ言わず部屋に入れってーのッ!」
ぐだぐだ抜かす銀時に痺れを切らしたリタは、銀時の尻を蹴飛ばす。
「い゛いッ!」
尻を蹴飛ばされた銀時はそのまま散らかった部屋の中に倒れこむ。部屋の中に銀時が入ったのを確認し、リタも部屋に入りドアを閉めローブを脱ぎ捨てる。
「いつつ……なにすんだ、てめー」
言って、銀時は手を地面につけたまま後ろを振り返り、リタを見る。
「素直に部屋に入らないあんたが悪いんでしょ」
そう銀時に返すリタの声には呆れと疲れが聞いて感じられた。
そんなリタの状態を知ってか知らずでか、銀時はマイペースに喋り続ける。
「ゴキブリとか出ねェよなァ? この部屋……ていうか、こんな部屋でちゃんと生活できてんのか?」
「別に……暮らしてて、特に困ったって感じたことはないけど?」
疑問をぶつける銀時にリタは事もなげに答える。
「だけど、見たところキッチンとか、寝床とか、風呂場も生活に必要なもんが何一つ見当たらねーんだけど、そういうのはどーしてんだ?」
「寝床なら二階にあるわ」
そう言って上を指差すリタ。
玄関のすぐ横には二階に続く梯子があり寝るところはそこにあるようだが、その二階も見た分にはかなり散らかっている。
「じゃあ、その他は?」
「キッチンや風呂場はないわ。だって、必要ないもの。食事なんてパンとかバナナで済ませればいい話だし、お風呂も街の公共浴場を使えばいいから家の中には必要ないしね……ここに必要なのは研究のための道具と本と魔導器 《ブラスティア》だけ――って、なにやってんのよ!!」
説明を途中で切り怒鳴るリタ。それもそのはず、質問をした当の本人銀時は説明を最後まで聞かず、勝手に散らかった本を片付け始めている。
怒鳴るリタに対し、銀時は落ち着いた口調で返答する。
「なにって……こんな部屋じゃ落ち着いて茶も飲めやしねェだろ。とりあえずこの無造作に散らばってる本だけでも片付けようと――」
「やらなくていいのよ! 勝手にいじるなってーの!」
言って、リタは銀時が持っていた本を無理やり取る。
「おいおい、俺がせっかく片付けて、シャレオツな部屋にしてやるって言ってるのによォ」
眉をひそめる銀時。
「いらん世話よ! とにかく部屋のもの勝手に移動させないで! わけわからなくなるでしょ!」
リタは必死の形相でまくし立てるが、銀時は意に介さない。
「わけわからないって、最初っからわけわからないだろ、この部屋。なんか謎の物体が部屋ぶち抜いてるし……」
そう言って、銀時は謎の物体に目線を移す。
「うっさいわよッ!! もう、あんたと話してると疲れるわ……調子は狂うし、大体、部屋のこと話すためにここに来たわけじゃないでしょ……アンタもあたしも!」
銀時のペースに振り回され疲労困憊といった様子のリタは手っ取り早く話の本題を持ち出す。
「あんたは元の世界に戻るための手がかりを見つけるためにここに来たはずでしょ!」
リタの言葉を聞いて、銀時は本来の目的を思い出す。
「あぁ、そういやそうだったな。部屋のインパクトがでかすぎて、忘れてたわ。わりィ」
頭を掻き、へらへらした顔で謝る銀時の顔に反省の色はない。
「全く反省してないわよね?」
リタは頬に青筋を立て、口元を引き攣らせるが、これ以上怒っても銀時のペースにハマるだけと判断したのだろう、「まぁ、いいわ……もう……」と力なく呟き、怒りを静める。
そんなリタを尻目に銀時は悪びれた様子もなく話を切り出す。
「で、この街に本当にあんのか? 災厄の手がかり?」
その問いにリタはフフッと、不敵な笑みをこぼす。
「ここをどこだと思ってるの? 学術閉鎖都市アスピオよ。アスピオにはありとあらゆる所からかき集めた書物や文献、資料が保管されている知識の宝庫と言っていい場所、もちろんその中には、過去の出来事とか、大災害や災いの記録が載ってる書物や文献もあるわ。それを片っ端から読んで、見て、探せば手がかりの一つや二つ出てくるって話よ」
自信ありげに言うリタ。
「読んで、見て、探すのはいいが……それ探して、手がかりが出てくる保証なんてあんのか?」
銀時は納得のいかない表情でリタに問う。
「ないわね、でも、当ても保証もなく外を放浪するよりはましだと、あたしは思うけど?」
リタの意見は的を射ていた。この世界のことをなにも知らない異世界の住人である銀時が、当ても、保証も、金すらも無い状態で、このテルカ・リュミレースを放浪するなど、松○○モ子が生肉ドレスを身にまとった状態で、サバンナを横断するようなもの。野たれ死ぬのは目に見えていた、反論するための言葉が銀時には、見つからない。
「まぁ、確かにそうだけどよォ……俺、そういう小難しい記録見ながら探す、地道な作業、苦手なんだよなァ~……。つーか、その書物ってどれくらいの量あんの?」
不安げな表情で、銀時はリタに聞いた。
「ものすごい量よ」
と、リタは答えるが、その適当な答えに釈然としない銀時は聞きなおす。
「だから、その、ものすごい量ってどれくらいよ?」
「うーん……口で説明するより目で見させたほうが早いわね。書物や文献がある場所まで行かない?」
提案するリタ。
「別にそりゃあ、いいんだけどよ……」
「じゃあ、行きましょ」
そう言うと、リタはドアを開け部屋を出て行く。銀時も少しの沈黙の後、リタの後を追って部屋を出る。だが、この時、銀時の脳裏には嫌な予感がよぎっていた。そして、その予感は的中することになる。
~アスピオの第一書庫室~
書庫には、大きな本棚がいくつも設置され無数の書物や文献がみっちり収まっている。保管されている物は、テルカリュミレースの歴史や過去に起きた事件、災害、などが記されたものが主である。書庫室にはかなり人がいるようだが、そのほとんどは、愛想の無い表情をした魔導士達だ。
書庫のドアが開かれ人影が二人入ってきた。銀時とリタだ。
入ってすぐ、銀時の瞳には絶望的な光景が目に映し出される。それは書庫にある無数の分厚い本だ。
辺りを見渡すだけで、銀時の低スペックな脳でもそれが途方もない数だということはすぐに理解できた。
見ているだけで、脳のブレーカーが落ちそうな銀時は青い顔でリタに確認を取る。
「おい……まさか、これ全部調べろとは言わないよな……?」
聞かれてリタは答える。
「そのまさかよ。ここのいくつもの大きな本棚に保管されている物、全部、過去の事件や災害が記された記録よ。言ったはずだけど? ものすごい量だって」
リタは「それに……」とさらに絶望的な言葉を言い放つ。
「ここに保管しきれなかった書物が他の書庫にも保管されてるから、そこも調べないといけなくなるかも……」
この書庫のほかにも調べないといけないところがあるらしい。まさに絶望である。
「冗談だろ……」
沈んだ声で言う銀時。
「大真面目よ」
と、リタが言った時、一人の魔導士がリタに気づき、ぎょっとした表情を見せ声を上げる。
「うわっ! リタ・モルディオ!」
書庫室に声が響く。周りにいた魔導士たちも銀時とリタに気づき、二人に一斉に視線が送られる。
その視線を浴び苦々しい表情を浮かべる銀時に対し、リタは動じず、涼しい顔をしている。
周りの魔導士たちは驚いた表情を見せたかと思うとすぐに不愉快な表情に変わり、顔を背けそそくさと、皆、書庫を出て行ってしまう。
最初に気づいた魔導士も逃げるように書庫のドアに向かって行ってしまった。
「一体何だってんだ、ここの連中はァ。なんで人の顔見るたびに逃げ出すんだ?」
頭を掻いて言う銀時。
「ちょうどいいじゃない、邪魔者共がいなくなって、すっきりしたわ」
と、リタ。
「まぁ確かにそうだけどよォ……」
と、言って銀時は近くの本棚にある、分厚い本を手に取り、椅子に腰かける。
「とりあえず、この記録とやらを少し目に通そうかね……」
「そう、じゃあこれ、渡しておくから」
リタは懐から紙のようなものを一枚取り出し銀時に手渡す。銀時は紙を持ちながらリタに聞く。
「なにこれ?」
「通行書よ。それがあれば、あんた一人でもこの街に出入りできるから渡しておくわ。疲れたら、あたしの家の一階を寝床として、提供してあげる。2階には勝手に上がらない、断りもなしに上がったら殺すから。じゃあ、大変だけど、頑張りなさい、銀時」
そう言って、リタは書庫を出ようとする。
「え……? お前も手伝ってくれるとかそういうんじゃないの?」
少し焦り気味な口調で言う銀時にリタは溜息をつき言い放った。
「あたしにはあたしの用事があるのよ。ここまで協力したんだから十分でしょ。これで、遺跡での貸しはなしよ」
リタは銀時に背中を向け出て行こうとする。
「そうかい……おい!」
銀時は大きい声でリタを呼び止める。呼び止められたリタは銀時に顔を向ける。
「なによ? まだ何かあるの?」
「いやァ、その……なんていうか、あれだ……サンキューな。なにからなにまで世話になっちまった」
珍しく素直に礼を言う銀時。
「いいわよ、別に……あたしも命助けられてるし……じゃあ……先に戻ってるから」
リタはそう言うと、再び銀時に背中を向け、書庫室を出て行った。
銀時はそれを見送った後、書物に手を伸ばす。
銀時はテーブルに両足を組んで乗せ、眠たそうな顔で、書物を調べる。
「え~と……あのバカ、確か空から赤黒い災厄がどうたらこうたらって言ってたな……たくっ……本当にそんなんここに乗ってるのかね?」
ブツブツ言いながらも調べること1時間半、銀時の集中力は完全に切れていた。正確にいえば30分ぐらいから、もう切れていた。
そんな銀時は本を何冊も積み重ねてタワーを作る作業というか遊びの最中。目的が完全に脱線している。
高く積み上げられたブックタワーのてっぺんに銀時は震えた手で、本を置こうとしている。
「慎重……に、慎重に……とっ、よ~し……」
本を慎重にタワーの上に乗せた後、銀時はふぅ~っと、額の汗を拭う。その時、
「あの~……すみません……ちょっといいですか?」
銀時は突然、後ろから声をかけられる。
声をかけられた銀時は振り向く、すると、そこにはローブを身につけ眼鏡をかけた、地味そうな男性がいた。
「あ、すんません……今、作業の途中なんで、集中してるんで、話しかけないでもらいますか?」
銀時は取り合わず、またタワーに視線を戻した。
「いや……あの、話しかけないでじゃなくて、貴重な文献や書物で、そのような遊びをされるのは困るんですけど……一応、私、ここの書庫の管理を任されているので、このような行為を見過ごすわけには……」
どうやらこの男性ここの書庫の管理人らしい。
「いや、でも、まだ、作り終えてないんでー……」
「いや、作り終えてないとかじゃなくてですね……他の人の迷惑になりますので……」
管理人はそう言って、タワーの乗ったテーブルを掴み銀時から引き離そうとする。
「いや、まだこれ、作り終えてないって言ってるじゃないスか……」
言って銀時はテーブルを掴み管理人から引き戻す。
「いや、ちょっと、だから、他の人の迷惑に……」
管理人も負けじと、さらに力を込めて引っ張る。
「いや、ちょっと、待ってください、作り終えてないから……」
管理人の引っ張る力が強くなり、銀時の両腕にも自然と力が入った。
「いや、ちょッ! そッ……」
「いや、待ッ、ちょッ!」
銀時と管理人が激しく引っ張り合う中、テーブルに乗っている積み上げられた本は、ぐらぐら揺れ、今にも崩れそうである。
そして、ついに銀時の苛立ちが頂点に達し、大きな怒鳴り声を上げた。
「ちょッ! まだ! タワー作り終えてないって言ってるでしょうがァァァァァァ!!!」
その怒鳴り声と同時にリタのキックが銀時の後頭部にクリティカルヒットする。
「グホォォォォォォッ!!」
キックを食らった銀時はそのまま壁に激突し土煙を起こし、ブックタワーもテーブルと一緒にバラバラに吹っ飛ぶ。
突然の出来事に管理人も驚倒し、床に尻もちをつく。
「まったく……人が様子を見に来れば……」
リタはそう言うと、伸びている銀時の後ろの襟を掴み、引きずりながら書庫を出ていってしまった。
書庫の管理人は呆気にとられながらそれをただ、見送ることしかできなかった。
~リタの自宅~
「あんたを一人にしたあたしが馬鹿だったわ……てか、あんた災厄のこと調べてたんじゃないの? 何で騒ぎになってるのよ? なんで、本なんか積み上げてたのよ!?」
リタは目を三角にして銀時に問いただす。
「いや~、なかなか手がかりが見つからなくて、気晴らしに本を積み上げてたら止まんなくなっちゃってよォ、そしたらいつの間にかあんな騒ぎに……まったく困ったもんだ」
そう説明する銀時の顔にはもちろん反省の色はない。
「困ってんのはこっちよ! 気晴らしに大切な文献や書物積み上げて遊ぶなってーのッ! つーか、本積み上げて遊ぶって、あんた子供!?」
「まぁ、自慢じゃないけど、頭はずっと中二の夏の人ってよく言われます」
したり顔で銀時はそう返す。
「自慢にならないわよ、馬鹿にされてるわよ、それ……」
リタが冷静につっこむ。
「はぁ~……あんた……調べるのは、どうすんのよ?」
溜息をつきながら、リタは銀時に聞いた。
「あぁ……それね……今日は、ここらでやめにして休むわ。色々あって、疲れがたまってんのか、身が入らねーしよォ、あと腹も減ってるし……ということで、飯食うわ。」
銀時は物憂げな様子で、そう言った。
「あんた……大丈夫なの? そんなんで……」
そう言って、リタは半目で銀時を見る。
「大丈夫もなにも、焦ったって、元の世界に戻れるわけじゃねーしなァ……気長に探すしかねーだろ。そのためには、まず、腹ごしらえをして、十分休みを取らないといけないわけだよ。わかりますかァ? リタ君」
「あ、そう……まぁ本人がいいならいいけど……。あんたが元の世界に戻ろうが戻れまいが、あたしには関係ないし……」
「そういうこった。で、物は相談なんだが……」
銀時は言葉を途中で切る。
「なによ? 相談って……」
怪訝な顔をするリタ。
「いやーその……あれだよ。俺はこの世界に来たばっかで、ここの通貨は持ってねーわけだ……つまり……」
「お金を貸してほしいと……?」
リタのその言葉に銀時は頷く。
「食材買うお金なんて借りなくても、ここにある食べ物食べればいいじゃない」
リタは銀時にカビの生えたパンを投げ渡す。
「食べろって……これカビ生えてんじゃん! 青カビィ!」
銀時はパンにカビが生えているのを指摘する。
「カビが生えてる所、取って食べれば、いいじゃない」
反論するリタ対し、銀時はリタの平らな胸を見ながら言う。
「アホか……おめぇは、成長期にこんなもんばっか食ってるから成長するもんも成長し――ゴハァッ!」
銀時の言葉は最後まで続かなかった。リタが投げた本が、銀時の顔面に直撃したからである。鼻から血が滴り落ちる。
「どこ見て言ってんのよッ!」
怒るリタの顔は、少し赤くなっている。
「す、すんません……と、とにかく、金……貸してくれ……じゃなくて貸してください……お願いします」
銀時は鼻血を垂らしながらリタに懇願する。
「はぁ~、たくっ、しょうがないわね。貸してあげるけど、ちゃんと返しなさいよ」
溜息をつきながら、リタは懐から財布を取り出し1000ガルドを小袋に入れ銀時に渡す。
「わーってるよ」
そう言って、銀時は玄関を開けて、買い出しに行ってしまった。
静かな部屋に一人取り残されたリタ。
「あたしも研究に戻ろう……」
そう呟くとリタは二階に上がり途中でやめた研究にまた手をつけ始める。
それから、15分程経ってからだろうか、ドアからバタンと音が鳴る。リタが玄関のほうに顔を向けると、両脇に紙袋と調理用の鍋を抱えた銀時がいた。
銀時は二階にいるリタに目を向けると、怪訝そうな顔をする。
「お前、何やってんだ? そんなところで……」
「あたしが何しようが、あんたには、関係のない事でしょ」
銀時の問いかけにリタはそっけない態度であしらう。
「そっけねーなァ……おい。まぁ、いいけどよ。火ィ出す機械とかねーか? 調理してェんだけど……」
「あるわよ、実験で使うものだけど。」
リタは自分の隣に置いてある一つの丸い円盤型の魔導器を手に取ると、わざわざ2階から1階に降りて、銀時に手渡した。
「2階から投げて渡しゃあいいのに……ご丁寧だな」
「そんな乱暴な真似するのはあんただけよ……」
渡すものを渡したリタは梯子を使って再び2階に上がっていく。その一方で、銀時は魔導器をジロジロ見ながら、いじくり回す。
「なんじゃこりゃ……おい、リタ、どうやって火ィ出すんだ?」
「円盤の裏に作動させるボタンがあるはずだけど……」
ボタンの位置を教えるリタ。それを聞いた銀時は裏を覗き込む。
「裏ァ……? 裏……裏…………おおっ、これかァ」
ボタンを見つけた銀時は「ポチっとな」と、言って、軽くひと押し。すると、円盤の中心から銀時の顔めがけて火が勢いよく噴き出す。
「あっぶッ!!」
銀時は顔をそらし火をギリギリで避ける。
「あっぶねぇ……危うく顔、丸焦げになるとこだったぜ。まぁこれで火は出せる……、気合い入れて作ろうかね」
銀時がそう言った時だ、2階から身を乗り出し、リタが叫んだ。
「ちょっ!? 燃えてるっ!!」
リタの目には銀時の髪がメラメラと燃え盛っている光景が映っていた。噴き出した火は銀時の顔にこそ当たらなかったが、銀色の髪にはしっかり燃え移っていたらしい。
「ああ、燃えてるぜ、俺の鉄人魂がよォ」
頭の事態に気づいていない銀時は、アホ面で的外れな返事を返す。
「アホッ! そうじゃなくて、頭よ! 頭ッ!」
リタは必死の形相で銀時の頭を指差す。
「あ? 頭……? い゛っ! 燃えてるゥゥゥゥゥッ! 頭燃えてるよ、おいッ! どうすんのォこれ! どうしよう!?」
事態に気づいた銀時は脂汗を掻きながら、慌てふためく。
「落ち着いて! とにかく消さないとッ!」
言って、リタは急いで1階に下り、近くに落ちている本を手に取ると、その本で銀時の燃える頭を思いっきり叩いた。
「ゴハァッ!!」
銀時の頭に重い衝撃が走る。
「てんめぇ……なにしや――いだっ!」
「近くに水がないのよ! 叩いて消すしかないでしょッ!」
そう言いながらリタは分厚い本で銀時の頭を何度も叩く、その甲斐あってか銀時の頭の炎はすぐ鎮火する。燃えた頭髪は、火が入って、弾けたポップコーンのようになっていた。
「ハァ……ハァ……なんとか、消えたみたいね」
火が消えて、とりあえず胸をなでおろすリタ。
「いつつ……おい! もうちょっとマシな火の消し方してくれてもいいんじゃねぇの!?」
「うっさいッ、消してあげただけ、感謝しなさいよ。全く騒ぎばっか起こして……ていうか、あんた、髪の量増えてない?」
もっさり膨らんだ銀時の髪を見て、リタは呟いた。
「気にすんな……2~3行経てば、元に戻ってるから」
首を揉みながら、慣れた様子で銀時はそう言った。
「どういう、システムよ」
と、リタ。
「そういうシステムだ。ともかく時間食っちまったし、早く作らねーと……」
銀時は円盤状の魔導器を床に置き、その魔導器の上に鍋を乗せた。紙袋から食材を取りだし、手際良く調理の準備を進める銀時。
「作るのはいいけど、もうボヤ騒ぎは起こさないでよ」
横から注意するリタに、銀時は「わかってるっつーの」と、ダルイ声で返事を返す。
そんな銀時の適当な様子にリタは不安げな表情をしながらも、梯子を使い2階に戻って、再び研究に戻るのであった。
火にかけられた鍋、その中からは何かが煮込まれ、沸き立つ音が聞こえる。その鍋の中身はと言うと、人参、ジャガイモ、玉ねぎ、鳥もも肉がたっぷり入ったピンクのクリームシチューだ。銀時は鍋の蓋を開け、シチューの煮込み具合を確かめる。
大きめに切ったジャガイモやニンジンが熱で溶けだし、煮始めた時は、少し水ぽかったシチューが、絶妙なとろみ具合をつけていた。
銀時は鍋の火を止め、木製の皿に出来立てのシチューをよそい、スプーンを添える。
「おい、できたから降りてこい」
銀時はシチューが入った皿を持ちながら、2階にいるリタに気だるい口調で声をかける。
だが、リタは手は止めず、言う。
「いらないわ。今、作業に集中してるから……」
そのリタの言葉に眉をひそめる銀時。
「いやいやー、いかんよォー、そういうのは。人間、食えるときに食っとかねぇと。そんなんだから、寸胴みたいな体になるんだ」
「もう一回、顔面に本、ぶち込まれたいの? あんたは」
デリカシーのない銀時の発言にリタは、額に青筋を立てながら、凄む。
「とにかく、あたしはお腹なんか空いて――」
と、リタが言い足した時、突然、唸るような大きな音が、リタの声を遮った。腹の鳴る音だ、だが銀時の腹の音ではなかった。
この部屋には銀時とリタの二人しかいない。つまり、銀時ではないなら、音の発生源は、どう考えても一人しかいない。そう、その腹の音の持ち主は、リタだ。
大きな腹鳴りを部屋に轟かせたリタの顔は、テールランプのように真っ赤になっている。
そんなリタとは対照的に、事態をすぐに把握した銀時の表情には、ニヤニヤと笑みが見てとれる。人を小馬鹿にしたような目付きで、思わず殴りかかりたくなるような、憎たらしい笑みだ。
「あっれ~~? 今、なんか変な音がしたんスけど~? なんか腹の鳴る音みたいだったんスけど~? なんスか~? 今の?」
銀時はふざけた口調でリタを冷やかす。
「な、なにが……?」
リタは声を引き攣らせながらも、とぼけるが、当然、銀時には通用しない。
「とぼけてんじゃねーよ。あんだけクールぶっておいて、こんな盛大に腹の音鳴らすとはねぇー……腹減ってんなら素直に言やぁいいのによ」
銀時は意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「う、うッ、うっさいッ! 偶々よッ、偶々、鳴っただけッ!」
リタは声を荒げて取り繕うが、体は素直なもので、再びリタの腹から唸るような音がひねり出されてしまう。
「……ッ!?」
その音を聞いてリタの顔はさらに赤みを帯びていく。
「うっわッ! 恥ずかしいッ、また、腹からいやしい音鳴らしてるよ、あの子。ぷぷッ、大丈夫ですか? 顔、茹でダコみたいになってますよ、お嬢さん」
ここぞとばかりに手で口を押さえながら、銀時はリタを小突きまわす。そして銀時の弄りと、羞恥に耐えきれなくなったリタは顔を赤くさせたまま大声で銀時に言った。
「わかったわよッ! 食べりゃあ文句ないんでしょッ! 食べるわよッ、食べさせていただきます!」
リタは勢いよく1階に降り、刺すような視線を銀時に浴びせたかと思うと、銀時が持っている、シチュー入りの皿を荒らかに奪った。シチューを奪ったリタは、仏頂面のまま壁にもたれかかる形で床に座る。
「そうそう、そうやって、意地張んないで素直にしてりゃあ、恥かくことなんてねーんだ」
銀時は間延びした声でそう言うと、自分の皿にもクリームシチューをよそって床に座り、ゆったりとした動作でシチューを口に運んだ。
だが、リタは食べると言っていたはずなのに口を付けていなかった。神妙な面持ちで、ただシチューを眺めている。
そんなリタの姿を見て不思議に思った銀時が聞く。
「どうした? 食わねーのか?」
そう聞かれたリタは、スプーンでシチューを掬い、銀時に聞き返す。
「このシチュー……なんで、こんなピンク色なの? なんで、こんな甘ったるい匂いがするの?」
リタの言うとおり、本来、真っ白であるはずのシチューが、なぜか、桜のようなピンク色を帯び、甘ーい香りを放っている。
リタの疑問に銀時は、何食わぬ顔で答えた。
「なんでって、当たり前だろ。いちご牛乳で作ったんだから」
しれっと、とんでもない事実を吐く、銀時。
「いや、あんたバカでしょ! どこにいちご牛乳でクリームシチュー作る奴がいるのよ!」
シャウトするリタ。
「仕方ねーだろ、普通の牛乳が品切れだったんだよ。でも、いちご牛乳あったから、それで、代用できるかなって」
止むを得ない事情を話す銀時。だが、リタは納得などできない。
「代用できるわけないでしょ、こんなもんで!」
「バカヤロー、いちごって、言葉に惑わされてんじゃねェ。下に牛乳って付いてるだろうが! なら、クリームシチューの材料になり得るはず」
「なり得ないわよ! バカ!」
無茶苦茶な銀時の理論に大声を張り上げツッコむリタ。そんな大声を張り上げ、口論する二人を差し置き、外はもう、日が沈み、夜になっていた。
そして、喧嘩をしていた二人はと言うと、長いくだらない口論を終え、結局、鍋のクリームシチューの三分の二は銀時が平らげ、リタもまずい、まずいと言いながら、パンと一緒に二杯、完食し、鍋は空になった。
食事を終えた後、銀時は真っ先に横になり、就寝し、リタも疲れたのか、研究を放り出し寝床についた。
そんなこんなで、銀時及び、リタの長ーく、散々な一日にとりあえず、区切りがついたのである。
7話は出来次第、投稿したいと思います。