銀魂×TOV   作:takowasa

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9話ができたので投稿します。

筆が進まず、大苦戦しました。更新遅くなってしまってすみません……。


死亡フラグはへし折るもの

粉塵舞う中、銀時の死が脳裏に過ったのはカロルだけではなかった。

リタやエステルやユーリ、ラピードも目の前に映し出された凄惨な光景を見て、その巨大な両腕の下に血まみれになりながら、絶命している銀時の姿があることが、容易に頭の中に浮かんだ。

あの叩き潰しを食らって、生きているはずが……仮にまだ、息があったとしても 半死半生、立つことすらできないだろう。

「銀時……」

リタが、小さい声で銀時の名を呟く。その時、

「ふんぬらばアアアアァァァァァ!!」

ゴライアースの腕の下から、男の大音声が発せられた。同時にゴライアースの巨大な腕が上に持ち上がり、銀時が姿を現わす。

右手で木刀の柄を持ち、峰に左手の平を当て支える形で、ゴライアースの両腕を木刀で受け止め持ち上げていた。

銀時の頭からは血が垂れ、顔には大量の脂汗が滲み出ている。あまり余裕がある表情ではないが、それでも死にかけとは程遠い、ピンピンしている様子の銀時。

「嘘っ! 生きてる!?」

潰されて、死んでしまったものと思っていたカロルはあんぐりと口を開け、目を剥く。

カロル以外のメンバーも愕然とした表情をし、二の句が継げない。この光景を見てリタは悟った。この銀髪の男を自分たちの常識で測っても意味はないと。

そうリタに思わせるほど、銀時の肉体は並はずれた強健さを誇っていた。

「勝手に殺してんじゃねぇよ、クソガキィ! こんなんでくたばってちゃあ、侍なんてやってらんねぇんだよ」

カロルの言葉に心外といった口調で、銀時は返事をする。

銀時の生存を確認したユーリは、内心その事に驚きながらも呆気にとられ立ち尽くすことはなく、即座にニバンボシを鞘から引き抜き、すぐにゴライアースと銀時の方へ駆けだす。

走りながらユーリは足に力を込めると、地面を蹴り、勢いよく飛び上がった。

ゴライアースの上に飛んだユーリは空中から、下に蒼破刃を放つ。

放たれた波動は下に真っ直ぐ飛んでいき、ゴライアースの頭に被弾した。波動は爆散して、ゴライアースの頭は煙で覆われる。

さらにユーリは着地すると、すかさずゴライアースの左脇腹に掬い上げるような形で右腕の突きを叩き込んだ。

ユーリの強烈な突きを食らったゴライアースの巨体は僅かに浮き上がり、両腕の押さえ付ける力が弱まる。

その瞬間を銀時は逃さない。

銀時は気張ると、自分を押さえ付けていた巨腕を一気に木刀で押し上げ、跳ね返す。

銀時に腕を押し返されたゴライアースは先の様に反撃もできず、体勢を崩し後ろへ倒れ、轟音を鳴らしながらその巨体を地に付けた。

その衝撃によって、周囲の地面が振動する。

ユーリのサポートもありゴライアースの忌々しい腕から脱出した銀時は、すぐさま後方に飛んで、エステルたちがいる場所に退避し、態勢を立て直す。

「ギントキ大丈夫なんですか!? 頭からたくさん血が……」

銀時の頭から垂れる夥しい血を見て、エステルが少し動転した声で聞く、表情は焦りと緊張で強張っていた。

心配をするエステルに対し、銀時は落ち着いた様子で答える。

「大丈夫だ……これぐれぇ。とりあえず、頭の血ィ拭わねぇと……え~と、ハンカチ……ハンカチ」

銀時は懐を弄り、ハンカチ……ではなく、なにを間違ったのか店主のズラを取りだし、気づかないままそれで頭の血を拭う。

「あれ、なんだこのハンカチ……。なんか、すっげぇモサモサしてるんだけど」

ズラだということに気づいていない銀時はズラの妙な質感に顔を顰める。

「ギントキ……あの……それ、鬘です」

少し当惑した声で、エステルが銀時につっこむ。

「やっぱ、全然大丈夫じゃないよこの人! 色々重症だよ!」

カロルがそう大きくシャウトした時、前方から岩がぶつかり合う様な大きな音が鳴り響き、銀時たちが立っている地面が揺れる。

何事かとメンバーが、前に視線を戻すと、倒れていたゴライアースが体勢を立て直し、いつの間にかその巨体が起き上がっていた。

ゴライアースが起き上がったのを見て、近くに居たユーリも後ろに飛び、一定の距離をとる。

しかし、ゴライアースは動く気配を見せず、ただ佇んでいた……狙う獲物を見定めているのか、不気味な雰囲気を放っている。

「これ、やばいんじゃないの! あいつ、起き上がってるよ」

うろたえるカロルの声は引き攣っていた。

「お目覚めみたいだなァ、奴さん」

言いながら、銀時は再び洞爺湖を構え、臨戦態勢に入る。

「あたしも戦う。エステリーゼ、離していいわ……」

そう言って、リタはエステルの肩に乗せていた自分の腕を離す。

「戦うって……。その体で大丈夫なんですか? リタ……」

「あたしの体のことは、あたしが一番わかってる。大丈夫よ」

リタの身を憂慮するエステルに平静を保ちながらリタはそう答えるが、実際のところ先のダメージはかなり体に響いていた。

治癒術を受けたとはいえ、まだ、痛みも体に残り、意識も少しだけぼやけている。

しかし、そんなことは彼女にとっては些細なことで、大した問題ではない。

そんなことよりも彼らの足手まといになり、自分だけ彼らに対して借りを作り続けるということの方が、リタにとってはよっぽど堪えられるものではなかったのだ。

リタは武器の巻物を取り出し、戦闘の準備を整え始める。そんなリタに銀時が問いかける。

「で、あいつを止める方法はあんのか?」

「あるにはあるわ……。一定のダメージを与えて動けなくして、動力源である魔核《コア》を取り外すか、暴れさせるだけ暴れさせてエネルギーの消費を待つかの二択……」

銀時に問われたリタは二つの選択肢を上げる。

そして、リタからゴライアースを止める手段を聞いた銀時は口元に笑みを浮かべると、大きな声で叫ぶように言った。

「聞いたか、てめーら! つまり、あいつを早く止めるにはタコ殴りにすりゃいいんだとよォ!」

「タコ殴りッて……そんな簡単に言われても……」

顔を青くしながら引き気味の口調でカロルがそう呟いた、ちょうどその時、ゴライアースが動きを見せる。

巨体とは不釣り合いなその小さな足を一歩前に踏み出すゴライアース。その動作が、戦いの火蓋を切る合図だった。

「くるぞ!」

ユーリは後ろの仲間に叫び警告すると、ニバンボシを握る手の力をさらに強める。

その直後、ゴライアースは地面を蹴り、銀時たちが居る場所目掛けて走り出し始めた。

巨大な体と地面を揺らしながら迫るゴライアースは、まず手始めに前に居るユーリを巨腕で薙ぎ払う。

ユーリは腕の払いを刀で受け止めるが、その衝撃と重みに耐えきれずまるで虫けらのように弾き飛ばされる。

しかし、ユーリは弾き飛ばされながらも空中で体勢を立て直すと、地面に手をつきながら受け身をとり、なんとかダメージを軽減した。

ユーリを軽々と退けたゴライアースは、その勢いのまま腕を打ち下ろし、銀時たちを潰そうとする。

銀時、ラピードは後ろへ……リタとエステルは右に飛び、カロルは「うわわッ!」と、悲鳴を漏らしながら左に前転し、皆バラバラの方向に移動してゴライアースの攻撃を回避する。

ゴライアースの腕はそのまま空振り、地面を叩きつけた。

衝撃で地面は割れ、強い風と煙塵が巻き起こり、粉砕された地面の破片が塵と共に空中に飛散する。

回避した後、銀時は時を移さず、走り出しゴライアースに斬り込む。

迎え撃つゴライアースは腕を前に突き出し殴るが、銀時にとって、ゴライアースの柔軟さのない機械的な攻めを読むのは容易いことだった。

ゴライアースが殴るより早く、銀時は上に跳躍しかわす。

上に飛び、攻撃を凌いだ銀時はそのまま降下してゴライアースの腕に着地し、さらにそこからもう一度飛ぶ。

銀時はゴライアースの頭上を飛び越え、足をスリップさせながら背後に着地し、ゴライアースの無防備な背中に横斬りを思いっきり食らわせる。

粉塵を起こしながら飛び散るゴライアースの体の破片、斬られたゴライアースの背中には横に大きく長い歪な斬撃の痕が刻み込まれた。

斬られた衝撃で巨体がぐらつき、ゴライアースは地面に片手をつく。

その横で、リタは魔術の詠唱を完了させていた。

「ロックブレイク!」

黄檗色の紋が浮かび、リタが魔術名を叫ぶとゴライアースの立っている下の地面から突如、先鋭した岩が複数連なった巨大な岩石が出現し、ゴライアースの体に直撃する。

ロックブレイクを食らい一歩、二歩と後ずさりをするゴライアース。

間を置くことなく、次はエステルが魔術を撃つ。

「エンジェルリング!」

エステルが魔術名を言い、魔術を発動させる。すると、ゴライアースの体の周りに大きな光の輪が展開した。

光の輪は中心にいるゴライアースに向かって、一気に収束し爆発を起こす。煙に塗れる巨体。

隙が出来、翻弄されるゴライアースにさらにユーリとラピードが挟むように攻撃を加える。

ユーリはただの蒼破刃ではなく青い波動を二連続で放つ蒼破追蓮を繰り出す。

ラピードは空中で縦に一回転しながら燃え盛る火の玉……紅蓮犬を打ち出した。

青い二連の波動は、ゴライアースの足に……火の玉は頑強な胸に飛んでいき、二つの技は見事にヒットし爆散する。

怒涛の猛攻に耐えきれず、後ろに倒れようとするゴライアースにフィニッシュを決めるのは坂田銀時。

ゴライアースの頭上高く飛ぶと、銀時は上段の構えをとり、両腕に込められるだけの力を込めた。膨れ上がる両腕の筋肉、上腕の表面には血管が浮き上がる。

「これで…………終めェェェだアアアアァァァァァァ!!」

銀時は雄叫びを上げながら洞爺湖をゴライアースの頭に叩き下ろした。

上段斬りを食らったゴライアースの上半身は、爆音のような音を鳴らしながら、地面を割り、めり込む。

尋常ではない衝撃と、上半身がめり込んだ反動で、ゴライアースの下半身が大きく上に持ちあがった。

そして、持ちあがった下半身が地面に落ちると、ゴライアースはそれっきり動かなくなる。

少しの沈黙の後、

「やったー! 倒した!」

と、カロルが嬉々とした声で言いながら破顔する。

「あぁぁ……こんなに傷ついて……」

喜ぶカロルと違って、リタは沈痛な面持ちで呟いた。

頭には大きな亀裂、背中には削られたような斬撃の痕、おまけに体中は爆発で焦げ跡だらけ。

そんな痛々しいゴライアースの傷だらけの姿を見ることは、魔導器を愛するリタにとっては、心苦しいことに他ならない。

「仕方ないだろ。こんなもん相手に加減もできねぇし」

心を痛めている様子のリタにユーリが低い声で言う。

「……わかってるわよ」

リタは小さい声でユーリにそう返すと、ゴライアースの近くに寄り、魔核を取り外して、動かないよう完全に動力を絶った。

「ごめんね……」

魔核を取った後、リタはゴライアースに柔らかな声音で、一言そう謝罪をした。

「おい、リタ。早く行くぞ、盗賊を逃がしちまう」

リタを呼びかけ、急かす銀時は盗賊を追うためユーリ、カロル、ラピードと共に先に歩き始めていた。

「言われなくても行くわよ!」

リタは大声で銀時に返事をすると、ゴライアースから離れ、銀時たちの元へ向かう。

そんな中、皆が動き始めてるというのにエステル一人だけは動く気配がなく、周りをキョロキョロと見回しながらなにかを探す仕草をしていた。

「あんたも早く!」

立ち尽くすエステルにリタが声をかけ、動くよう促す。

「でも、フレンが……」

そう呟くエステルは、フレンの姿が見当たらないことに戸惑っている様子。

「騎士団の姿がねぇんだ、フレンはもういねぇよ、とっくに遺跡を後にしてるはずだ。行くぞ!」

踏ん切りの悪いエステルを引っ張るような口調でユーリが言う。

言われたエステルは、半ば心を残しながらも立ち止っていた足を動かし、銀時たちの元へ向かい始める。

「はぁ~、あの子を調べられてたら、自立術式を解析できたのに……」

溜息を吐きながら、落胆した様子でリタが喋る。

「まさか……そのために僕らを利用したの?」

リタに恐る恐ると言った感じで、問いかけるカロル。

「何いってんの? 当たり前でしょ」

カロルの問いにそう平然と答えるリタに悪びれた様子はなかった。

「極悪人だよ!」

リタの非道な手口を聞き、カロルは大きくシャウトする。

「極悪人でもなんでもいいから、駄弁ってねーで早く行くぞ! もたもたしてたら本当に盗賊どっか行っちまうだろーが!」

痺れを切らしたのか、銀時は愚図愚図しているメンバーに声を張り上げ、急き立てるとリタ達を置いて、先に一人で行ってしまう。

それを見て、遅れながらも、ユーリ、エステル、カロル、リタ、ラピード、4人と一匹も銀時の後を追い走り始める。

こうして、ゴライアースを止めた銀時一行は、盗賊を追うため来た道を急いで引き返して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

走りながら道を引き返すこと10分程だろうか、銀時たちは最初の中央エリア付近まで、戻ってきていた。

その時、カロルが指を差して、声を上げる。

「あ、いたよ! あいつ!」

カロルが指差す方向を見ると、すぐ目の前にある中央エリアで魔物たちに囲まれ、立ち往生している盗賊の姿がメンバーの目に映る。

魔物の数は三匹、オタマジャクシのような魔物オタオタ二匹とカエルの魔物ゲコゲコが一匹。

一匹のゲコゲコが、盗賊を食べようと襲い飛びかかった、それに続くようにオタオタたちも盗賊を襲おうとする。

「ヒィ……!」

牙をむく魔物たちに反撃することもできない盗賊は、小さい悲鳴を零しながら蹲った。

そんな絶体絶命の最中、突如、盗賊に襲いかかろうとしたゲコゲコの胴体を凄まじい速度で飛んできた木刀がぶち抜く。

木刀を槍のように投げ、ゲコゲコを仕留めたのは銀時だった。

ゲコゲコの体を貫いたままその木刀は、地面に突き刺さり、亀裂を入れ、そこから小さな煙を立ち昇らせる。

木刀の刀身には魔物の紫の血が滴り落ち、怯える盗賊の姿を映し出していた。

残りのオタオタ二匹もユーリとラピードが目にもとまらぬ速さで切り刻み、あっという間に殲滅してしまう。

「た……助かった。へへ……」

死んだ魔物たちを見つめながら、盗賊が乾いた笑い声を出した時、銀時が男の頬を掴む。

「うぐッ!」

頬を掴まれ、男の口はタコの口のように変形した。

「助かったじゃねーんだよ……。てめーのせいで、泥棒の疑いかけられるわ、こんなところに来る羽目になるわ、壁に叩きつけられるわ、潰されそうになるわ、糖尿寸前だわ、天然パーマだわ、俺にこんだけ迷惑かけておいて、一体どう落とし前つける気だ? アァ、ゴラァ!」

銀時は額に筋を立てながら、低く太い声で脅しつけるように男に言う。

「あんたね? 遺跡を荒らしまわってる盗賊団っていうのは」

眉根を寄せながらリタは、男を睨み問いただす。

「さっ、さぁ……俺には何の事だかさっぱり……」

銀時たちを殺そうとし、挙句、ここまで追いつめられて尚、男は顔に冷や汗を垂らしながら白を切った。往生際が悪いったらありゃしない。

「だってよ、みんな! ここスキューバーダイビングの名所にしようぜ」

そう言って、銀時は男の両足を脇に担ぎ、地底湖に落とそうとする。

「ア゛ァア゛ァアァ゛ア゛ァア゛ァアァ゛!!」

逆さまになり、湖に落とされそうな男は叫びながら泡を食う。顔は恐怖で、更に汗まみれに……。

「さっさと本当のこと話せや。さもねーと、俺が離すぞー、地獄の底までダイビングさせっぞ」

「わかった! 話す、話せばいいんだろ!? 俺が悪かった。だから、やめてくれー!」

男は恐怖に顔を歪ませながら必死に銀時に助けを求め、唾を飛ばしながら叫ぶ。

「ねぇ、ユーリ……悪人ってどっちだったっけ?」

銀時と男のやり取りを引いた様子で、見ているカロルが聞く。

「さぁな。まぁ、でも、あれぐらいやらないと吐きそうにないし、しょうがないんじゃねぇの?」

そうカロルに適当に答えるユーリは他人事と言った様子。

まぁ、ユーリからしたら、盗賊が生きようが死のうが知ったこっちゃないのだからそんな反応をするのは、当たり前のことだ。

銀時は、男の話すという言葉をきっちり耳に入れた後、引き上げ、湖ではなく堅い地面に男を落とす。

「ハァ……ハァ……鬼だろ……あんた」

呼吸を乱しながら、床に両手をつき男は、絶え絶えの声で呟いた。

「てめーが知ってること、全部洗いざらい話してもらおうか」

銀時は、男の呟きになど構わず、仕切り直して再び問い始めた。

そして、少し間を置いた後、もうどうにでもなれと思った男は立ち上がり、白状する。

「頼まれたんだよ……魔導器《ブラスティア》の魔核《コア》を盗んで持ってくればそれなりの報酬を渡すって言うから、小遣い稼ぎにちょうどいいと思ってよ」

「なるほど、それでお前は、遺跡や帝都の魔核《コア》を盗んで回ってたってんだな……」

男の発言に納得しながら、ユーリは確信染みた口調で言う。だが、男はユーリの言葉に怪訝な反応を示した。

「ア? 帝都? それは、俺じゃねぇ!」

犯した覚えのない罪に男は帝都での犯行を否定する。

「てめーじゃねぇなら、誰だってんだ?」

銀時は、死んだ魚のような目に男の情けない表情を映しながら、聞いた。

「帝都ってことは、デデッキっていう奴の仕業のはずだ……」

銀時に聞かれ、男はデデッキという人名を口から吐く。

男の言ってる内容に虚偽がなければ、予想するに帝都の下町の水道魔導器を盗んだ真犯人はそのデデッキという人物で、銀時とリタが盗人の疑いをかけられ、この一件に巻き込まれる原因を作ったのもそいつということになる。

「お前、そのデデッキって奴が、今どこに居るのか知ってるのか?」

ユーリはトーンの低い声で、肝心のデデッキの居場所を問う。

「今頃、金を受け取るため、依頼人と落ち合おうとしてるはずだ」

声の震えはまだ取りきれず、少し残っていたが、男は淡々と聞かれたことを素直に答えていく。顔の冷や汗も止まっていた。

「依頼人……? その依頼人ってのは誰のことだ?」

依頼人という言葉に顔つきを険しくさせると、ユーリはさらに男からその謎に包まれた依頼人の情報を引き抜こうとする。

「トリム港にいるってだけで、詳しい素性は俺も知らねーよ。顔の右に傷があって、隻眼でバカみたいに体格のいい大男だ」

男も依頼人が一体どういう人物なのか把握しておらず、依頼人の顔や体格の特徴ぐらいしか答えることができない。

「その大男が、魔核《コア》を盗んで集めてるってことか……」

ユーリは、顎に手を当てながら一言そう呟くと、頭の中で聞いた情報を整理し始めたのか、もう男に質問を浴びせかけることはなかった。

そんなユーリと交代するように今度は、リタが口を開く。

「大方、ソーサラーリングもどこかで盗んだんでしょ」

言いながら、リタは半目で男の指にはめられたソーサラーリングに視線を送る。

「ち、違う! 盗んでなんかねぇよ! これは仕事で必要になるって、依頼人に手渡されたんだ」

狼狽しながら男は釈明する。が、リタがそんなもので信じて引き下がるわけがない。

「もう少しマシな嘘つきなさいよ。盗賊団の頭領如きが、ソーサラーリングなんて貴重なもの持ってるはずがないでしょ」

こんな風に疑ってかかるリタの耳には男の言葉など届かない。まぁ、信用されないようなことをやったこの男の自業自得だが。

「いや、ホントなんだって! ホントにもらったんだよ~……、これ……」

リタの態度に困却する男は、今にも泣きだしそうな、弱く情けない声を上げた。

そんな男を哀れんだ目で見ながらカロルが言う。

「でもさぁ、話のスケールが随分大きいし、裏でやばい奴が糸を引いてるんじゃないの?」

そのカロルの発言に笑みをこぼしながら反応するのが、ユーリ。

「だな。こいつら普通の盗賊団ってわけじゃねぇみたいだ」

ユーリがそうカロルに言った時、男がいきなり地団駄を踏み、嘆き始めた。

「ちくしょうが、せっかく騎士や魔物を掻い潜って、地下遺跡の奥まで行けたっていうのに最後の最後でトチッちまった……」

「騎士って……。フレンのことですか?」

エステルはフレンの名を出して、確認をとる。すると、フレンの名を聞いた男は、表情を一変させ怒りだした。

「そいつだ! そのフレンってやつ! あの金髪の騎士の若造に俺は――――」

「うるさいッ!」

リタは激昂する男の言葉を最後まで聞かず、巻物を鞭のように男の顔にたたき込んだ。

男は悲鳴を出す暇すらなく、気を失い、床に倒れ伏せた。

「ちょっと、リタ……。気絶しちゃったみたいだよ、どうすんの?」

カロルが頬に汗を垂らしながら、リタに聞く。

「決まってるでしょ。街の警備に連絡して、この男を拾わせるわよ」

リタは無感情な口調でカロルに答えた。

「まぁ、これだけ情報を聞き出せたんだ、おめーらも満足の収穫だろ? これ終わったらアスピオに帰るぞ」

銀時はユーリ達に言いながら、倒れている男に近づきしゃがむと、どこから持ってきたのかわからない、油性マジックペンを懐から取り出し地下遺跡での最後の作業に取り掛かる。

「ちょっと、銀さん。何やる気?」

銀時が握っているマジックペンを見ながら、カロルが焦り気味の声で問う。

「何って……決まってんだろ、これぐらいやり返さないと気がすまねぇ」

銀時は白い歯を見せ、悪人顔負けの邪悪な笑顔を浮かべると、指でキャップを弾き、マジックのペン先を男の顔に押しつけて、落書きをし始める。

男の閉じた瞼に目を書き、頬に渦巻き、そして、びっしり鼻毛を書く。それを見て、笑いを堪える銀時。

「やり返し、ちっちゃ! しかもすっごい狡いよ!」

カロルが大きい声で、つっこむ。その隣で、リタも意地の悪そうな含み笑いをすると、「あたしにも書かせて」と、落書きパーティーに加わる。

「ギントキ、リタ! だめですよ、そんなことしちゃ」

そんなエステルの制止の言葉を悪ガキ二人が、素直に耳に入れるはずもなく……額に肉と書くかバカと書くか、どうするかー、なんてことを言い合いながら、落書きを進めていく。そして、

「よ~し、終わったァ、けえるぞ~」

銀時とリタは、男の顔に一通り落書きして満足したのか、男の顔からマジックペンを離す。

自由奔放に書き殴られた落書きは……いや、書き殴られすぎた形容し難いそれは、男の顔を黒く染め上げていた。

「いや、帰るぞ~、じゃないよ!」

カロルが男の顔を見ながら怒鳴る。

「これどうすんのさ、顔だけ耳なし芳一みたいになってるじゃない! 回収しにくる警備の人びっくりするよ!」

「どうもしなくていいのよ。この男にはちょうどいい罰でしょ」

叫ぶカロルにリタは軽い口調でそう返すと、銀時と一緒に地下遺跡の出口に向かい先に歩き始める。

「俺たちも行こうぜ」

エステルとカロルに一言そう声をかけると、ユーリも歩き出す。そのあとをついていくラピード。

残されたエステルとカロルは、疲れた様子で深い溜息を同時に吐くと、銀時たちの背中を追った。

 

水道魔導器を盗んだ真犯人、デデッキという男……そして、トリム港に潜伏しているという隻眼の大男。

盗賊団の男から二つの有益な情報を得ることができた銀時一行は、とりあえず地下遺跡を出て、アスピオに戻るのであった。




10話は出来次第投稿したいと思います。
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