【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達- 作:タツマゲドン
頭に向かって突き出された槍を剣で上に逸らしたリョウは、剣を相手の横っ腹へ叩きつける。だが攻撃は素早く引き戻された槍の柄に受け止められた。
リョウの頭を狙った振り下ろしを槍の中央部で受け止め横に受け流され、胸に向かって繰り出される槍先を横から剣で叩いて軌道を逸らした。
リョウがまたも剣を横に振り、槍に受け止められる。だがそれだけで終わらなかった。
槍に固定された剣を今度は同じ右手で逆手に持って、抑えていた槍から刀身を引いて反対側へ抜け出し、そのまま突きを放つ。
突きは変わらず槍に受け止められるが、今度は右手に握った剣を投げ飛ばすように左手に持ち替えたリョウ。その左手で相手の身体の中心へと剣を突き出す。
斬撃を受け止める為に出した槍の柄をリョウの右手が掴んだ。槍が自由を失っている所へリョウが剣先を胸に向かって突き出す。
槍はリョウの腕と相手の腕が絡め合う様に引っ張り合って互いを譲らない。リョウが出した剣はそれを持つ腕を掴まれ動かなくなった。
対峙した状態から一変、リョウは剣を故意にその場で落とした。
意識を集中し、自分の体表から「エネルギー」が流れ込んでくるのを感じる。思考を込める、自分がこれからする事を。
「エネルギー」は体表から脳へ集められ、”作り変える”。その「エネルギー」は脳から出力器官、この場合は掌へ向けて流れる。
掌に集められた「エネルギー」はそこから一気に発射される。
「エネルギー」は「見え」ない。「聞こえ」ない。「嗅げ」ない。「味わえ」ない。「触れ」られない。
だが「感じる」事は出来る。現にリョウは自分が吸収し変換しこれから発射する「エネルギー」を認識していた。
吸収時間0.5秒、1発のみ、発射する際の「弾速」は秒速3400メートル、物質に命中した時に熱エネルギーへ変換するように変えられた。
至近距離で発射された「エネルギー」は相手の体の中心目掛けて勢い良く発射、するつもりだった。
相手がリョウの行動を察知したのか、掴んだ手首を更に外側へ逸らした。「エネルギー」は何処か離れた所へ飛んで行った。
次の瞬間、リョウの掌の延直線上にあった敵の装甲車が爆発、内部の機関部が壊れたのかそれ以上動かなくなった。
「これでどうだ!」
リョウがニヤリと笑いながら勝利に近い声で言った。対峙していた男は突然槍と共にリョウから手を離した。声にびびった訳では無い。
リョウの肘から先を見れば分かる事だが、空気が”揺らいでいた”。熱によって加熱された空気の屈折率が代わり、それが外側へ流れる事によって陽炎の様に見えるのだ。つまり相手はこの灼熱から逃れる為に離れた訳だ。
相手はリョウの足元に置かれた槍と剣を一目見たが、無理と判断してすぐに視線を戻した。
左右の掌が相手に向けられる。掌から大量の「エネルギー」の弾丸が放出される。
「逃げんなよっ!」
後方へ下がりながら弾丸を避ける相手、それを許さないリョウは接近しながら弾丸をばら撒く。狙いを決めない、所謂乱射だが、
その差は大きかった。リョウはあっという間に逃げる相手へ追い付き、「エネルギー」の弾丸を数発命中させる。
怯んだのを確認したので至近距離まで近づいたリョウはその顔面に横蹴りをヒットさせる。追撃に首へ手刀を思いっきり当て、腹部へ大量のブローを当てる。
倒れかけた相手の首を右手で乱雑に掴み、「エネルギー」を一気に送り込む。
次の瞬間、相手の首が熱による水蒸気爆発で、電子レンジに入れた卵の様に爆散し、頭が弾け飛んだ。胴体はぐったりと倒れ、二度と動く事は無かった。
「あの野郎、意外としぶとかったな。まあせいせいしたぜ」
「そんな呟く暇があったらさっさと次行って働いてくれよ! トレバーのお蔭で不意打ちを防げたのは良いもの戦力差が大きいんだよ!」
ハンがまだナイフを持つ男と格闘を繰り広げていた。リョウは詰まらなさそうにそれを見る。
「ハイハイ、行けば良いんだろ? でもお前も気を付けろよ」
「もうすぐ片付く、大丈夫だ。そちらもな」
「ああ。俺は戻ってくるぜ」
リョウは笑顔で親指を立てた。それをハンに見せたまま何処かへと走り去った。方向から見て多分前線だろう。ハンも親指を立て返し、気を取り直して相手に集中する。
まず右手のナイフを持つ腕が突き出される。ハンは右手首を右拳で殴り逸らした。
次にナイフを痛みと同時に捨てた相手から、4連続で拳が飛んで来る。ハンの腕が交互に右、左、右、左、と逸らした。
今度はハンが拳を連続して繰り出す。腕の回転を利用して出しては戻し、相手に攻撃の隙を与えない。
腕を胸の前に掲げて防御する敵だが、ハンの拳がその隙間をすり抜け、顎に一発決めた。
まだ際限なく拳を叩き続け、次は首の側部へ手刀を叩きつけ、ローキックで相手の膝を蹴りバランスを崩す。
倒れそうになっても倒れずしぶとさを見せる敵。それをハンは腕の隙間を掻い潜って威力を犠牲に確実に攻撃を決める。その腕の動きは中国でも広東系の拳法に近いだろう。
相手がパンチを放とうとするのに対し、丁度その肩に1発拳を入れ、相手の攻撃は中断された。敵がキックを出そうとすると、その根元の腰に1発横蹴りを決め、相手の攻撃を強制終了させた。
攻撃を受け続けてよろめいた相手は残った力を振り絞ってハンに掴み掛かった。
ハンの左手が相手の右手に捕まれ、ハンの右手が相手の左手を掴んで固定する。
体表から吸収、脳へ送って変換、掌から放出。リョウの時と同じ。
ただし違うものがある。
放出された「エネルギー」はそのまま相手の腕に直撃。相手は突如自分を襲った衝撃に驚いた。
掴んでいた右手はすぐ離したから良いものの、掴まれた左手は全く動かない。痺れるような衝撃は徐々に残った力を奪う。
ハンが表情を一変、力を込めた。
バチッ! と弾ける音、同時に火花。それが暫く続いた。
大量の電流を受けて接触面を焦がされ、電気ショックで静かに命を引き取った。
ちなみにハンはこの「電子操作」を利用し、あらゆる電子機器や複雑なコンピューターに電気信号を送る事で操る事も可能だ。数時間前に見せたとある施設のシステムの一時的ハックも彼がこの能力を活用したものだ。ハンはまさに身近にも戦闘にも利用できる万能な「能力」を持っているのだ。
倒れた死体から掴んだ手を離し、息を整えながらハンは耳に装着した通信機に手をやった。
「こちらハンだ。今から防衛に向かう」
何処か慌てている様を見せる早口で言い終えると、すぐさま何処かへ走って行った。
左右から攻めて来る人物の連続して繰り出される斬撃を、左右の腕に装着された籠手で防ぐ。
トレバーは合計4本の剣を相手に防戦一方だった。しかし策が無い訳では無かった。
右方の右手に握られた剣を持つ腕を掴み、腕の籠手でもう片方の剣を防いだ。掴んだ剣を利用して左方の敵の両方の剣を防いだ。空いている左拳を左方の胸に決め、後方に吹き飛ばした。
右方が塞がれた左の剣を引き戻し、下からトレバーの腹部へ向かって突き出す。
左籠手で腹目掛けて来る斬撃を防いだトレバー。もう一度引き戻そうとする腕を左手で掴み、自分の両腕を開く事で相手の両腕を無理矢理交差させた。
両腕を止められた状況を打開しようと相手は前蹴りを放つ。しかし蹴りはトレバーが放った踵落としに打ち落とされ、振り下ろす足はそのまま相手の足を踏み付けた。
トレバーが横へ目をやると先程吹き飛ばした相手が剣を振りかざそうとしていた。右の脛当てで振り下ろされる刃を蹴り止め、そのまま右足を横に振って同じ脛当てで横から迫る刃を蹴り払った。
右足を後方へやって地に着けるとその足へ体重を掛ける。掴んで動きを封じた方を後方へ投げ飛ばした。
引き離して連携を封じればトレバーはもはや余裕だった。
トレバーが突き出された刃を正面からその横面を両手で止めた。同時にミドルキックを相手の腰に命中させると、相手が吹き飛ばされるのと同時に相手の手から剣を奪い取った。
別の方が戻って来て、同じく2本の刃を振るう。しかし今度は勝手が違った。
トレバーが持つ1本の刃が器用に攻防を同時に行い、防御に押されてしまう。更にトレバーの刃に気を取られた所為で足元が疎かになっていた。不意に左脛に衝撃を感じるとそのまま左膝を地面に着けてしまった。
別な敵が後ろからトレバーを突き刺そうと突進している。トレバーは跪いた男の肩を両手で押し、1メートルばかり跳び上がる。男の肩を支えに前方へ1回転しながら反対側へ。
着地する直前、トレバーは縦方向の回転を利用して後方の敵の背中にキックを決め飛ばした。突進して来た男が慌てて刃を引っ込めるが、仲間との衝突を防ぐ事は出来なかった。
着地したトレバーは後ろで止まった敵2人の元へ駆け込み、彼から見て手前の方に右手で振り下ろしパンチを発射する。
間一髪で相手が掌で拳を受け取り、もう片方がトレバーへ起き上がりながらミドルキックを放つ。トレバーはそれを左の拳で迎え撃つ。
トレバーが思考を左右の籠手に送った。オン・オフというだけの単純なパターン、そのお蔭で一瞬の内に素早く切り替える事が出来る……今の様に。
右の籠手から長さ20センチメートルの刃が腕に沿って飛び出し、拳骨を掴む掌を貫いた。左の籠手から腕に沿って突き出した同じ長さの刃が迫り来る足を突き刺した。
痛みで手と足をそれぞれ引っ込める敵達。声は出なかったが表情の歪みは隠し切れていなかった。容赦なくトレバーが襲う。
2人の頭を両手でそれぞれぐいと掴み、2つの頭を胸の前でぶつけた。そこへ刃が付いたままの籠手を叩きつける。
グサッ、と子気味良い音と同時に2つの命がこの世を去った。
頭に突き刺さった刃を引き抜き、トレバーは表情一つ変えずに前を向いた。
離れた所についさっき倒した敵達と同じ格好をした者が5人も居た。それぞれ例外なく2本の剣を……
(どうやら俺の邪魔をするのが目的らしい……)
突進する10の足音、風を切る10の刃。トレバーは何も動かなかった。
トレバーの姿が揺らいだ、様に見えた。
かと思ったらシュタッ、と地面を軽く蹴り、先頭の2人へ急接近したトレバーはその腹部へ左右の拳をそれぞれに叩きつけた。しかし、籠手には刃が付いていなかった。既に格納されていたのだろうが、何故わざわざ武器を隠したのか。
トレバーは拳が敵の表面に触れると同時に思念を送った。体表から脳そして腕を経由し手に、ゼロ距離で発射された。接触瞬間の僅かな出来事だ。
トレバーに触れた2人の人物は二つの出来事に驚いた。一つ目は目の前の男が一瞬で目と鼻の先に移動していた事。2人はトレバーの速さに付いて来れて無かったのだ。
そしてもう一つ、何の変哲も無い様に思われたボディブローを喰らった瞬間の事だった。パンチ自体の衝撃は当然あったが、攻撃を受ける立場の彼らにとって余計なものがあった。
体が動かない。疲労でも麻痺でも無く、誰かに掴まれて固定された訳でも無い。自分の意志で体が動かせなかった。
ほんの一瞬の事だけの出来事。それでも効果は絶大だった。
動作不能になったのは意識的に動かす筋肉だけでなく、無意識的に脳が操作する器官を含む。バランス器官を一時的に止められただけで2人は成す術も無く地面に寝転がってしまった。
続けてトレバーは残る3人の攻撃を避け、打撃を的確に命中させた。具体的には、1人目の飛び蹴りを体を半歩横に移動して避けそこへラリアットを決める。2人目のストレートを頭だけ傾けて躱しながらカウンターのストレートを顔面にめり込ませる。3人目の回し蹴りを体勢を低くして避けながら腹に回し蹴りをヒットさせる。
例外なくそれぞれ相手に触れた手足に「エネルギー」を送り込み放出していた。その度に地面に人体が倒れる。
起き上がろうとする5人を容赦なく、籠手から生えた刃が5人の左胸を貫通した。
死体に目もくれず、トレバーはその場から姿を消した。戦闘中に感じた疑問を残しながら。
(妙だった。全員が”同じ”だった。人物としての違いはある筈だのに「本質」がまるで同じだった。「標準」に比べて劣る様でもあった……)
移動しながらトレバーはこの事を後で報告すると決心した。