【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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「前に出過ぎるなよ! 危なかったら下がれ!」

 

 仮説基地の防衛線に立つ中隊長らしき人物。彼らの前には即席で作られた土嚢が防弾壁の役割を果たしている。

 

「負傷者を寄こしてくれ」

 

 チャックが運ばれて来た味方の兵士達を眺め見る。誰も致命傷では無かったが傷が痛々しい。頬っておけば出血多量で死ぬ者も居るだろう。

 

「待っておれ。少々痛みはあるが、すぐ治る」

 

 チャックは下腹部に被弾し激痛でうずくまる兵士のその傷に左手を当てながら、右手に持ったピンセットを入れて血の付いた弾丸を取り出した。

 

 すると驚くべきことに、左手が当てられた傷がたちまち塞がった。傷痕は見えるくらいに残っているが、兵士に痛みは残っていなかった。体を動かしても何も支障は無かった。

 

「有難うございます」

 

 兵士が驚いた様に傷痕を見ながら感謝を述べた。

 

「これが仕事だからな。違和感は無いか」

「大丈夫です。動けますよ」

 

 まるで負傷した事が無かったかの様に兵士は武器を取ると防衛線へ復帰し、銃弾を敵に見舞うのだった。

 

 チャックは次々と運ばれる兵士達の傷痕に手を当ててはそれを治し、戦線に復帰させる。撃っても撃っても相手が減らないのは弾薬不足や死者が出ない限りは敵にとってまさに鉄壁。

 

 手を当てる、この行為こそ一番重要だ。仕組みはリョウやハンが手から熱や電気へ変換する「エネルギー」を放ったのと同じ。

 

 この医師の体表から脳へ、脳から腕、掌へ、そして傷口へ。ここでの「エネルギー」は簡単に言うと、当たった部分のタンパク質を作り変え、損傷した組織を修復する。

 

 人工的なタンパク質の合成は複雑で手間が掛かる筈なのだが、それをこの男は意志を込めて手を当てるだけの僅かな事で複雑な工程をいとも容易く行う。

 

 こんな「超越した」能力を持っているからこそ彼が軍医という役割を担っている理由でもある。

 

「トレバーさんから報告がありました。「トランセンド・マン」が一体こちらに向かっています。「能力値」50以上はあるそうです」

 

「何っ? 前線はどうした?」

「前線は拮抗状態が続いていますが、混戦の中を抜けられた様です。この事と関係してるのか、我々と対峙していた敵隊が離脱し始めています」

 

「誰か向かっているか?」

「ハンさんが支援に向かっています」

 

 チャックは頭を捻った。彼の「有機物合成」という「能力」は医療には最適かも知れないが戦闘には不向きだと言える。(爆発物を合成する方法もあるが、その合成に使われるエネルギーで直接攻撃した方が効率は断然良い)それでも彼はテーブルに治療器具とごちゃ混ぜに置いていたアサルトライフル型の銃を抱えた。

 

「仕方ないが、私が行って来る。済まないがお前達は別の隊の支援に入ってくれ」

「了解、任せました!」

 

 返事に頷いたチャック。そして中年に見合わないダッシュで土嚢のバリケードから飛び出し、銃弾の飛び交う戦場の中を駆け巡る。

 

「ハン、挟み撃ちだ」

『分かりましたよ』

 

 チャックは通信機越しに仲間の声を聞きながら、前方百数十メートル先に普通とはかけ離れた存在を発見した。歩兵を触れるだけで殺し、戦車や装甲車を重いパンチで動かなくする存在を。

 

 だが次の瞬間、その姿はチャック達の挟撃を察知した様に彼から見て左方向へ大きく方向転換・加速・移動した。

 

「速い?!」

『しまった……まだ追いますよ』

「勿論だとも」

 

 足を止め急ブレーキしながらチャック達も方向転換する。ハンとの距離も数メートルにまで近づいており、2人は並走し始めた。年齢の若いハンがすぐにチャックを越したが。

 

「お先に行きますよ」

「そうしとくれ、ご覧の通り走るのは慣れてないんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジュリーナは味方達を守る事に懸命だった。

 

 「障壁」は最前線の兵士から正面10メートルの距離に張り巡らされている。それはアンジュリーナが、体表、脳、掌、対象空間、と「エネルギー」を送っている結果に過ぎない。

 

 敵からの攻撃を受け付けず味方の攻撃は通す。「障壁」によって圧倒的な差が生まれていた。「超越した者」を1人連れた味方側のこの1個中隊はほぼ無傷で敵側の1個中隊を全滅にまで追いやった。

 

「大丈夫ですか?」

「怪我人ゼロ、機体も皆損傷無しですよ」

「良かった……」

 

 仲間達が無事と聞いて胸をなで下ろしたアンジュリーナ。味方の兵士達はやる気に溢れ、疲れを感じさせない。

 

 彼女が一番嫌なのは仲間が傷付き、死ぬ事。それを防ぐためならばアンジュリーナは自分の命に代える覚悟もある。彼女が発生させ味方を覆う「障壁」は彼女の望みを実現されるのに最適だ。

 

 だがこの「障壁」は相手側から来る攻撃を認識する必要があり、認識出来なければそのまま通り過ぎる。また、銃弾なら止めるか逸らすだけで良いし、砲弾や爆弾なら内部の信管に刺激を与える、こうする事で大抵の汎用兵器は防げる。「障壁」はガスや閃光、爆音も防ぐ効果があり、常人とはかけ離れた知覚能力を持つ彼女にとってはこれらを防ぐ事も出来る。認識さえすれば彼女自身のエネルギーを越えない限り何でも防げるのである。

 

 しかし、このエネルギーを越えればどうなるのか。または攻撃を認識出来なかったら。

 

 認識は曖昧だった。完全に不意を突かれ、「障壁」を発動させるのに時間が掛かった。

 

 一方、「それ」は自分の進行方向の反対側に掛かった圧力に対し、正面から対抗し、圧倒的な「力」でねじ伏せ「障壁」を突破した。

 

 次に見たのは味方の歩兵の胸を貫く1本の腕。二度と目を覚ますまい。

 

 腕を辿って見るその顔はアンジュリーナにとって見覚えがあった。

 

 彼女より頭一個分かそれ以上背が高く、戦闘用のプレートアーマーを身に着け、獲物を仕留める猛禽類の様な冷酷な目付き。間違いない、アンジュリーナが数時間前ある施設に潜入した際に遭遇した男性。

 

「逃げて下さいっ‼‼‼‼‼」

 

 少女は大声で叫んだ。彼女にとって最悪の事態が起きない為に。子供らしさが若干残る声に従って大勢が向きを変え、一目散に走り出した。

 

 しかし、音速を超える、常人には目に見えぬスピードで襲い掛かる「超越した」男相手に逃げられる筈も無かった。足音やタイヤやキャタピラ、どれもあの男の前には無意味だった。超速で歩兵や戦闘車両をなぎ倒す様は鷹や鷲が獲物を狩るのとはかけ離れている。街を襲う怪獣と言っても過言では無いだろう。

 

 怪獣に対抗できるのは怪獣しか居まい。アンジュリーナもその「怪獣」という存在である事に変わりは無い。だが、坑道採掘の為に開発されたダイナマイトが人を殺す為に使われたのと同じ様に、この「怪獣」としての力も何か役に立つ。使い方の問題である事は彼女が既に理解している。

 

 男に向けて両手を突き出した。作用するのは男の身体。運動エネルギーを中和し、相対速度をゼロにしようとする。

 

(お願い、止まって!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何だ?)

 

 ポール・アレクソンは体の違和感に思わず足を止めた。

 

(念動力系の能力か、何処だ?……)

 

 違和感の発信源はすぐに見つかった。10時の方向に見覚えのある黒いロングヘアーの少女が自分に向かって手を伸ばしていた。

 

(あの時の小娘か。あの時爆風を防いだのもこの能力だろう。「アンダーソン」を連れ去ったのも奴の仕業か)

 

 ポールにとってはちょっとした邪魔が入ったに過ぎない。彼は「対象」を自分自身に向けた。体表から取り入れた「エネルギー」を脳で作り変え、体表から放出。

 

 自分を抑制していた念動力が取り払われるとポールは再び動き出そうとする。

 

 自由を取り戻したはいいが、敵の歩兵がこちらに携行ミサイルの弾頭を向けていた。だが慌てない。冷静に相手がその引き金を引くより前に腰のサブマシンガンを抜き、こちらが引き金を引いていた。

 

 果たしてミサイルを撃とうとしていた敵兵は自分が死ぬ事に気付いただろうか。音速の10倍、しかも常人には見えない「銃弾」が発射機の内部のミサイルに命中し、爆発して死んだ、という事を。

 

 爆発は広がって周囲の歩兵にまで及び、吹き飛ばした。

 

 次は重機関銃がポールから4時の方向で弾を吐き出し始める。

 

 振り向いて銃弾を身に受ける。しかし、人体を引き裂き鉄板やコンクリートを容易く貫く筈の銃弾は彼の身に傷一つ付けない。

 

 飛翔物の発生源は装甲車。更にその上部に取り付けられたグレネード連装砲が火を噴いた。

 

 音速を超えるスピードで動けるポールはそれ以下の弾速の擲弾を躱せない筈がなかった。呆気無く装甲車の懐まで接近し、エンジンのある車体後部へと拳を叩き込む。

 

 外観に大きな凹みが出来た装甲車は内部の機関部まで潰され、動作不能。ポールは1メートル程ジャンプした後、装甲車の側面を両足で蹴る。

 

 装甲車が横方向に倒れ、そこに居合わせた歩兵2人が巻き込まれ潰された。方やポールの方は反作用で反対方向へ移動し、次なる獲物を求め濶歩する。

 

(ここまでは簡単な仕事だ。早く全滅させ……)

 

「させない!」

 

 今まで無視していた少女の声がポールの考えに反するように言った。

 

 再び自分を拘束する「力」。動こうとしてもそれに反抗される。

 

 しかし同じ人物が放つのだから同じく打ち破るのは可能な筈だ。だから余裕に思っていただけに不意打ちは効果的だった。

 

「ハイヤッ!」

 

 アジア人のものと思われる掛け声と同時にポールは後頭部に感じた強い衝撃で前方へ飛ばされた。

 

 ダメージはあったが動作に支障はない、地面を転がって受け身を取りながら判断した。起き上がって振り向く。

 

 彼の後頭部に衝撃を与えた張本人と思われる人物が左足を上げて立っていた。やはり声が示す通リアジア風の外見の男だった。

 

「今やっと来たぞお!」

 

 今度は中年男性の、疲れた様にも聞こえる掛け声。その方向から大量の銃弾が……

 

 音速の10倍程度の銃弾ではポールに命中しなかった。それも1秒間に何十発という連射速度でも。

 

 相手が銃弾を発射するのを止めると、その顔を確認。中年の白人で戦いに不慣れという感じがする。

 

「ハン、お前早すぎないか?」

「先生が戦闘に不向きなのは貴方自身で分かっているでしょう」

「だからといってしなくちゃならん事だ。人員が足りないから仕方あるまい」

「まあそうなんですがね……」

「それに戦う医者など評判が悪いに決まってる」

「その話は忘れて下さい」

 

 青年の方は既にマーシャルアーツ風の構えをしていた。中年の方は仕方ない、と手を振ってぎこちなく正面にいるポールに立ち向かった。会話の通りこちらは戦闘に慣れてなさそうだった。

 

「アンジュリーナ、奴の事で何か分ったことは無いか?」

「ええっと……確か私の集中させた中和障壁を破りました。能力なのか、それだけ強力なのかは分りませんけど……」

「十分だよ。なら後者だな。トレバーからは「能力値」が50を超えていると推定していた」

 

 少女の報告に青年が考えを伝えた。残りの中年男性が続けて言う。

 

「若者達よ、前衛は任せたぞ。私は後衛しか出来なくて済まんが、気をつけて掛かれよ」

「分かってます!」

 

 少女が真剣に答え、同じく真剣な顔でポールから目を離さない。4方から囲まれたポールは表情を浮かべなかったが、内心面白がっていた。

 

(3対1か……面白い!)

 

 ポールが殺し損ねた兵士達が退散する中、「超越した者達」は睨み合っていた。

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