【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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6 : Birth

 何処かに横たわっている。

 

 眩しい……目が開かない。

 

 騒音……はっきりと聞こえない、意味を持たないノイズの様な音。

 

 何なのか分からないが、匂いがする。不快ではない。

 

 腕に何か触れている。手探りで探し当てようとする。

 

「……ゴホッ!」

 

 息を吸った途端、大きく咳き込んだ。空気は埃っぽくはないが、まるで息をする事に慣れていないかの様だ。

 

 それをきっかけに、全てが明瞭になった。

 

 首を動かして見えたのは簡素な医療室らしき部屋。

 

「負傷者を運んで来たぞ!」

「今そっちへ行く!」

「早くしてくれ、血が止まらないんだ……」

「大丈夫だ、助けてやるからよ!」

 

 医療室は混乱状態だ。次々と負傷者が運ばれ、医療スタッフ達が休む暇なく勤しむ。

 

「ストーン先生はどうしたんです?」

「相手の「トランセンド・マン」と交戦中だと。切羽詰まっているんだとさ」

「それにしても施設は崩壊させたってのに、どうして奴らここまで戦力があるんだ?」

 

 遠くからは微かに大砲の発射音や爆発音が聞こえる。

 

 匂の源は分からないが、匂いからしてどうやら消毒薬によるものらしい。

 

 腕の違和感の原因も判明した。腕の皮膚を針が突き刺し、針は細いチューブに繋がっており、チューブを辿ると点滴パックが見えた。

 

 躊躇なく針を引き抜く。多少痛みはあったがどうでも良い。

 

 後はベッドから起き上がり……

 

「おい、君、待ってくれ!」

 

 自分を呼び止める声だと分かったのはその人物が自分の正面に来たからだ。起きようとする自分を寝かせようとする。

 

「まだ安静にするんだ。昏睡状態だったし、無理に動くと……」

 

 それでも自分は忠告を無視し、立ち上がった。呼び止めた男はそれでも自分を止めようとする。

 

「やめろ」

「でも君……」

 

 制止する手を振り払い、逃げるようにその場を去る自分。だが同時に何かをしなければならない気分だった。

 

 割と近くから銃砲撃が耳に入って来る。何だろう。

 

「あそこだ、止めてくれ!」

 

 先程の看護要因の男性が自分を指さして言った。近くにいた兵士と思われる人物らが自分へ走って来る。あっという間に3人の兵士達が自分の周囲を囲んだ。

 

「おとなしくしてくれ、悪い様にはしない。頼むよ」

 

 前方の兵士が言ったその言葉に偽りは無い。だが自分は拒否していた。

 

 次の瞬間、自分は地面を一蹴りしたかと思うと、3人の包囲から抜け出していた。後方で聞こえた狼狽。

 

 行かなければならない気がする。嫌な予感と言うべきか。

 

 知りたい、何が起きているのか、自分は知らない。

 

「あの少年さては、「トランセンド・マン」か!」

 

 他人の言う事など意識の外。行きたい、その一念のみ。

 

 やがてテントの外へと足を踏み出し……

 

 身震いした。

 

 広い、何があるんだ?

 

 反射的に涙が出てきそうになった。

 

 “それ”が何なのか、自分には分からなかった。

 

 外に出て一歩ずつ歩く度にその感覚がこみ上げてくる。

 

 だが戸惑っている暇は無い。

 

 何かが”見えた”気がした。強い発光だ。

 

 周囲のあらゆる場所に散在し、まるでそれぞれの光が争い対立し合っている様に見えた。光は強弱や色まで、どれも違って”見える”。

 

 その中で一番近い場所で対立している4つの光。3つと1つに分かれているが、数で劣っている筈の1つがその強さで勝っていた。

 

 この光は何なのか。そもそも光なのだろうか。疑問だ。

 

 知りたい。だが進もうとすると体が震える。

 

 進みたいのに止まってしまう。自分の体が自分の意思を拒否している。

 

 進み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンはポールからの正面蹴りを受けた衝撃で地面に叩き付けられた。

 

 受け身を取って起き上がったハンは視界の右端に銃を乱射するチャックの姿を捉えていた。

 

 アサルトライフル型の銃は1秒で100発の銃弾をばら撒く。しかしポールには命中しない。間もなくチャックは腹に拳を叩き付けられ、後方に吹き飛ばされた。

 

 ポールは続いて丁度チャックの反対側に居たアンジュリーナ目がけて突進する。

 

「2人とも準備してください!」

 

 アンジュリーナが叫んだ。既に起き上がっているハンも、地面を背に付けているチャックも、その言葉に同意した。

 

 アンジュリーナが両手を前に突き出し、ハンが右手を突き出しながら駆け寄り、チャックが銃口を向け引き金を引く。

 

 ポールはまず自分の進行を妨げる不可視の圧力に行動を妨げられた。

 

 抜け出す事は可能だが、今回は時間に余裕が無い。後方から迫る銃弾を捕捉し避けようとしても体が追い付かない。

 

 チャックからの掃射に対し正面から見える体の表面積を最小限にする為、飛び上がり体の向きを地面と平行にした。

 

 それでも避け切れず、腕に衝撃を感じながら痛みに耐える。チャックの銃弾に意識を傾けていた。

 

 気を取られていたので、ポールから見て3時の方向に居るハンが、銃も使わず掌から「弾」を発射した事を察知するのが遅れた。気付いた時には仕方なく腕を振り払って「弾」を防いだ。

 

 ハンの「能力」は「電気操作」。空間から吸収した「エネルギー」を「弾」に変換して掌から射出し、その「弾」は命中した物体に対し電気エネルギーを発生させる。

 

 痺れる感覚と同時にポールの体はただでさえ身動きが不自由な空中で一瞬硬直した。

 

 それを見たアンジュリーナが更に両手に力を込め、表情も幾分真面目に見えた。接近中だったハンは右足で地面を踏み、左足を横に大きく突き出す。チャックはまだ引き金から指を放していない。

 

 固定されたポールへウエイトの乗ったキックが炸裂。銃弾が申し訳程度に命中する。

 

 吹き飛び地面を転がされるポール。3人は表情を緩めない。

 

「……済まんが、やはり私は要るのか?」

「2人だったらこんなに上手くは行きませんよ」

 

 チャックがそう言ったのは接近戦闘が殆ど出来ず射撃にしてもそれ程精度が良いとは言えない、という自虐的なものではあったが、ハンは間接的ではあるがそれを否定した。

 

「でもこれなら勝てるかもしれませんね」

「まだ早い、相手はまだ手の内を隠している。まだ油断しちゃ駄目だ」

「で、ですね……」

 

 安心して言ったアンジュリーナだが、ハンに厳しめに(アンジュリーナ視点)言われて自分のドジな面を思いながら気を引き締めた。

 

 丁度起き上がったポールの方へ振り向く3人。体中砂埃にまみれた姿でもその表情には余裕が読み取れた。冷酷な、相手を昆虫や小動物の様に観察する目。

 

「……」

 

 しかし何時までも何かを仕掛けてくる様子がない。何か考えているのだろうか?

 

「一体どうした?」

「……」

 

 ハンが沈黙を破ったが、返事は無し。不審がって手を出そうとしなかった。アンジュリーナも同様に攻撃する気になれず、チャックに至っては首や関節を曲げてストレッチしていた。

 

「……そこの小娘が我々の研究所からある少年を誘拐した、そうだろう」

 

 ポールの指はアンジュリーナを指していた。当然3人には思い当たりがある。やはりあの少年が目的だったのか、3人は確信した。

 

「ああ知ってるとも。妙な少年だったぞ。成長しているのに老化レベルは胎児と同じ。一体どういう事だ?」

「お前達は知る必要が無い」

 

 チャックが質問に答え、その後の呟きを一蹴された。

 

「奴を引き渡せ。そうすれば我々は引き上げる」

 

 その条件にハンとチャックは迷った。あの少年を引き渡すだけで犠牲は抑えられる。だが、ハンは相手の機密として、チャックは研究対象として、興味があるものをそう簡単に捨てられない。

 

 しかし、条件に乗るか乗るまいかの判断を表明したのはアンジュリーナだった。彼女に迷いは無かった。

 

「彼を渡したりなんかしないわ!」

「……理由を聞こう」

 

 ハンとチャック、そしてポールが一瞬驚いた顔をした。ハンとチャックはどうしようか戸惑ったが、ポールはすぐに表情を戻した。

 

「彼が可哀想だからよ!」

 

 ポールは呆れた顔をしたが、アンジュリーナの話は続く。

 

「あんな昏睡状態にさせるまで大量の麻酔を使って、しかも私が彼に初めて会った時は床にまるで捨てられたように横たわっていたのよ! 一体彼に何をしているの? 私は誰かが苦しむのは見たくない!」

「駄目か……」

 

 今のはアンジュリーナの意見に対する返事ではなく、単なる独り言。交渉が無理なら力ずくで奪うまでだ。

 

 次の瞬間、ポールの姿がアンジュリーナの視界から消えた。チャックも殆ど見えなかった。何とか見えたハンでも反応するのに間に合わなかった。

 

 アンジュリーナは足元に衝撃を感じるとそのまま地面に仰向けに倒された。次に彼女は背中を踏まれ、彼女が自慢の長い髪の毛を引っ張られた。

 

「クソッ!」(何だ今のは?! いくらなんでも早過ぎる!)

「私には何が起きたのかさっぱりだ……」

 

 ハンが何時もと違って荒い口調で叫び、心の中で驚いていた。チャックの方は一瞬で何が起こったのか戸惑いを隠し切れていなかった。

 

「奴は何処だ」

「……」

 

 返事が返って来ないと見るや否や、ポールが左手に握る細長い物体の束をもっと引っ張る。

 

「いやあああああ‼‼‼‼‼」

「俺が右手の指をこの小娘に突き立てているのが見えるな? 誰か言わんと指が小娘の心臓を止める。言え」

 

 ハンが仕方なく言おうと口を開きかけた。しかし、言う事は出来なかった。

 

 ポールの視線は、少なくとも3人の内誰かを向いてはいなかった。その視線は丁度ハンとチャックの間。目の焦点から見ると距離はもっと遠いだろう。

 

 何を見ているのか、疑問を解消すべく後ろへ目をやった2人。

 

 噂をすれば、と言ったところか。今まさに話題にしていた少年だった。

 

 真夜中のキャンプや兵士達の照明や月明りに照らされ、黒い髪と瞳が青く輝いている様に見えた。

 

 ガウンの様な白い病人着、紫外線を浴びた事のない白い肌、足元が覚束ない弱々しい立ち方、何より目は眩しそうに閉じ気味だった。

 

「アンダーソン……」

 

 ポールが呟いた直後、彼はアンジュリーナを無造作に放しハンとチャックの間を通り過ぎていた。

 

 一番早く反応したハンはその後ろを追い掛け、遅れたチャックは銃口を向け、アンジュリーナは倒れたまま両手を前に突き出す。

 

 しかし、3人の行動はどれも間に合わなかった。ポールの手がアンダーソンと呼ばれた少年に下された。

 

 猛獣の様に突き出された指が少年の側頭部へヒット。少年はそのまま成す術もなく脱力したように倒れた。

 

「止めて!」

 

 最初に食って掛かったのはアンジュリーナ。

 

「せめてあと一人誰か来てくれれば……今は食い止めるしかありませんね」

「私が頼りなくて悪かったな。だがやれることはするさ」

 

 ハンとチャックもそれに続く。

 

 地面に倒れた少年はほんの少しだけ瞼を開いていた。何かを求めていた。

 

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