【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達- 作:タツマゲドン
【着陸適正地帯を捕捉 着陸態勢に移行 逆噴射開始】
俺達は今宇宙船の内部に居る。減速する時の燃料噴射音と振動が丈夫な宇宙船の壁から伝わってくる。
「いよいよですね」
「ああ、我々はどれ程この瞬間を待ち侘びていた事か」
若いのが船長に対して興奮して言ったのに対し、船長の方は幾らか落ち着いていたがやはり興奮は隠し切れていない。
「どうします? 着地した時の音声記録に何を言うか今の内に決めますか?」
「いや、それは足を着けたその時の感覚で言う。名言は生もうとして生まれる物では無い」
俺の言った冗談に、船長はまだ40代前だというのに年配の重みを感じる台詞で返した。
「それはともかく、皆さん「任務」をお忘れなく」
一番奥に座る男が言った。そうだ、私達は「任務」の為にこの太陽から2億2790万キロメートルも離れた第4惑星、要するに火星へ来ている訳だ。
【着陸:残り30秒】
俺達はどこの国家の宇宙開発機関にも属さない、簡単に言えばある大企業による火星有人探査計画という名目で送られた。
宇宙航法の発展、宇宙移住計画の第一歩、名目は色々あるが、本来の目的はその「任務」を行う為だけにある。
「俺めっちゃワクワクして来たぜ。なあお前、火星がハネムーンだとはこの幸せ者め」
同僚の1人が俺を羨ましそうにして言った。
「フッフッフ、良いだろう? まあメシは飽き飽きする宇宙食しか無いが」
「だから帰って来て何処かへ行きましょうよ、貴方」
「勿論だよ」
返事をしたのは俺の隣に居る女性、俺の妻だ。俺も彼女も学生時代から宇宙飛行士を目指しており、そして地球から発つ際に俺は結婚指輪を渡した。今まさに宇宙船に乗り込もうとしている時、しかもマスコミの前でだ。彼女は最初恥ずかしそうにしていたが、やがて嬉し泣きをしながら俺に抱き付き、俺達はどれ程の人数が見ているかも分からない前でキスをしてやったぜ。
宇宙船が大きく揺れた。どうやら過去の思いにふけっている間に30秒が経ったらしい。
【着陸完了】
「皆準備は出来ているな? 常に警戒を怠るなよ」
「了解!」
宇宙服は既に着てある。俺を含む総勢8人はシートから立ち上がると、宇宙船の奥へ歩きだす。やがて左右に4対の等間隔に並んだロッカーの前に立った。
【装着開始】
通路を前に壁を背にして立ち、背中にガチャッと質量のある物体が取り付けられたのを感じた。火星の重力下で重さは地球上の40パーセント程になっているので立つときに負担はそれ程無いが、質量が変化する訳では無いので動くのがのろくなる。まあこれは推進剤噴射機だからそれを気にする必要は無いが。
そしてもう1つ、ロボットアームが俺の目の前に伸びてきたかと思うと、それには銃が握られている。軍でも開発されている歩兵携行用の3銃身ガトリングだ。武器としての役割は勿論、低重力下では反動を利用して推進器代わりにする事も可能だ。俺は銃を少々乱雑に受け取り、その銃口を覗き見る。連射武器は子供の頃からのロマンだ。
「行くぞ。ハッチを開く」
宇宙服越しに気体の抜ける音。やがて音は消え、宇宙船側面にある重そうな金属製のハッチが開いた。
【通信ON】
先頭に立った船長が跳び降り、足を着けた。それに続いて我々も次々と降り立つ。
無音だが、感動は計り知れない。
『……これが人類にとっての大きな一歩になるのなら、今までの人類の営みは一体どれ程歩いた事になるのだろうか……長い時だった。やっと人類は隣の惑星に足を着けた……そしてこの一歩からどれだけの道が生まれるのだろうか……』
皆が熱心に口を挟む事なくその言葉を聞いていた。これを伝える電波が地球に届いた時、人類はどんなに嬉しく思うだろう。
「お前、火星に来たぞ。バカンスすら出来ない所を選んですまんな」
『良いのよ貴方、私はずっとここへ行きたかった。貴方だってそうでしょ?一番愛している人と共に一番の夢が叶ったもの、もう十分すぎるわ』
「ああ、良かった……次は子供と一緒に行きたいな」
『ふふっ、貴方ったら。私は男の子が欲しいわ』
皆がこの時を望んでいた。俺や妻だってそうだ。
『お2人とも、ラブラブなのは良いが地球に帰るまでに船員を増やさないでくれよ』
「ねえよ。まあ生まれたら生まれたでそれは宇宙人の誕生だがな」
笑い合って冗談を言う俺達。気を引き締めて前を向き直した。
どうでも良いが、宇宙空間あるいは地球以外の惑星において妊娠した場合、胎児は適応能力によってその環境に適用しようとする。具体的には重力や宇宙放射線によって地球上とは違った形態の赤ん坊が生まれる可能性がある。要するに地球に帰るまで我慢しろって訳。
話は戻るが、俺達は大地を蹴りながら一歩一歩大きく跳び、「目的地」へ向かう。
着陸地点から15分程歩いた所に、「それ」はあった。
『予め知ってはいたが、こうして目の前にするとやっぱでかいんだな』
『スキャンしました。全長100メートル、全幅60メートル、全高40メートル』
俺達の目の前には巨大な構造物があり、それは明らかに人工物である事が分かる。それは人類が俗に言うスペースシャトルの様な形をしていた。
俺達は、地球から火星上に未知なる動きが観測されそれを調べるべく派遣されたのだ。予想はされていたが、本当に宇宙船だとは驚きだ。
『これは何だろう? 持ってみたが非常に軽い』
『宇宙船の外壁か? 何の金属だろう?』
仲間の1人が足元に落ちていた破片を拾い、それを見た俺はちょっとした事を思い付いた。
「皆、撃つぞ」
俺の通信は聞こえたようで、俺以外の皆が俺の前から下がった。
引き金に掛けている人差し指を曲げ、勢い良く連続する振動の様な反動。
指を引いていたのは0.5秒にも満たない時間。その間に吐き出された銃弾は25発。銃弾が壁にぶつかって土の上に落下したが、壁の方は銃弾が当たって少し凹んだ痕が残っているだけだ。
「驚いた、何て堅さだ。一体どんな物質で出来てるんだ?」
仲間が分析器を当ててくれたが、結果は【不明】と出た。これ以上考えても結果は出ないだろう。
『おーい、こっちに穴が開いてるぞ』
「入れそうか?」
『いや、まだ狭いが、爆弾を使おう』
通信を送ってきた仲間のレーダーが示す位置へ歩く。確かに言う通り、宇宙船の外壁が歪んでいる所に穴があったが、直径30センチメートル程度しかない。
穴の周囲に仕掛けられた爆弾が爆炎を上げて勢いを周囲に広げた。(爆発する化合物自体に酸素原子が含まれているので爆発には酸素を必要としない)仕掛けた爆薬は敵を殺傷する目的では無いのでそれ程離れなくても宇宙服が破損する事は無いが、代わりに宇宙船の外壁らしき破片が多少こちらに向かって飛んで来たが、特に問題は無かった。(宇宙服は一応「鎧」の役割も備えている)
爆煙が晴れると、穴は直径1.5メートル程に広がっていた。俺達は銃を構えながら警戒を解かず次々と内部へ侵入した。
『何かあったら報告しろ』
『了解』
2人ずつ4組に分かれ、宇宙船内を調べ始める。俺は妻と一緒だ。
歩く内、驚くべきものはすぐに見つかった。
「すげえなこれ……聞いて驚け、こちらに二足歩行生物らしきものの死体を発見した」
そう、俺の目の前1メートルには我々人間と同じ形をした生物が居た。前足の指が細かい作業に適した細く複雑に曲がる骨格をしており、後足は立ち上がる為に筋肉が発達している。また、体の表面に服らしき繊維物を纏っており、頭以外は全て隠されていた。そして肝心の首から上は……
『私達にそっくりね。きっと墜落する時にヘルメットが被れなかったのでしょうね。恐らく火星で生まれたのではなくどこか遠くから来て運悪く死んでしまった……』
「ああ、やっぱりどんな星で生まれた生物でも高等生物は必ずや同じ形態になるのだろうな。どれ程昔なのだろう? 火星は大気が殆どないからこうして形を保ち続けているのか」
『……ん?』
「な、何だ?」
妻が黙り込んで何か発見した様に言った。突然だし未知の状況だから軽くビビるのも無理はない。
『さっき何か動かなかった?』
「……ば、馬鹿言え。そんな都合よく寄生虫みたいな奴が俺達の頭にへばり付く訳じゃないんだし……」
『貴方、フラグって言葉知ってる?』
「分かったよ……しかし計測機器に熱源反応も電磁気反応も動的反応も示されなかった……船長、聞こえてますかい?」
俺は心細くなり通信で船長を呼んだ。お化け屋敷とかならまだ良い。何せ何が来るか大体想像が付くからな。しかし宇宙空間は違う。人類は未だに太陽系どころか火星の外側へ足を踏み入れていない。(観測衛星とかは別で太陽系外の遥か遠くを飛んでいる物もあるが)人類が一番恐怖を感じる時は未知に対する想定も付かない事だと俺は思う。
『ああ、今そちらに向かおう。他の2組は少し離れた所で待機してくれ』
やがて船長とそのペアが俺と妻の元へ着き、残る四人も俺達の周囲を警戒する様に見張る。
『聞いてはいたが、随分と我々に似ているな……』
『確かに生体を示す反応はありませんね』
『どうする?突いてみるか?』
仲間の、特に荒っぽい奴が銃口で生物の体をつついた。が、特に動きも無かった。
俺達4人が様子を観察する中、後方の4人は別な話題を話し合っていた。
『これは俺達が発見した物なんだが……』
仲間の1人が手に持っているのは直径15センチメートルの、光を一切反射しない暗黒の球体。
『船の後部、恐らくは動力室らしき場所にあった。これもどんな物質で出来ているかは分からなかった。それにこれと同じのがその部屋にまだ大量にある』
『ならそれが動力源である事は確かなんじゃないのか? どんな仕組みで動くのかは分からないが、球状なら圧縮燃料を貯蔵しているんじゃないか? 外壁は非常に丈夫な未知の物質で出来ているから分からないのかも』
『でも変だぞ。燃料を出し入れする開閉部が見当たらない。この物質そもそもが燃料の役割を果たしているのかも知れん』
『だったら……』
通信機越しに行われる議論は結論が出ないらしい。一方で俺達の方も何も分からずにいた。どれだけ調べても生物は動かない。
『もう死んでるとしか言えないぞ。確かに動いたのか?』
『いえ、私の気の所為かも……ごめんなさいね、わざわざ巻き込んでしまって』
『気にするな。大丈夫だったみたいだし、調査を続けるぞ』
船長がしゃがみこんだ体勢から立ち上がり、後ろを振り向いた。
船長はふと立ち止まった。
『待ってくれ、その光っているのは何だ?』
『へ?』
皆が辺りを見回すがそれらしき物は見当たらない。どこにあるんだ?
『違う、お前が持っているその球体だ。光っているじゃないか』