【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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5 : Mission

「アレクソン指揮官、到着致しました」

「良く来た。話は既に聞いていると思う」

 

 ポールの前には3人の人物が立っていた。

 

 まず左の人物、背が高く、少なくともポールの5センチメートル以上はあり、体格もがっちりしている。七三に分けられた暗い茶髪とサングラスがボディガードの様な印象を与える男性だった。

 

 次に右の人物、一番目に入るのは肩まで掛かる明るめの茶髪に赤いメッシュ。女性でありこの中では1番若くあり小柄だが、その顔つきは「舐めるな」と主張していた。

 

 最後に真ん中の人物、人相が全く読めない黒一色のフルフェイスヘルメットを被り、服や靴や手袋まで黒に統一されており、肌が一切見えない。そして癖なのか手をポケットに突っ込んでいる。

 

 ポールは興味無さげ3人に目をやり、自分の後ろのモニターへ向き直すと説明を始めた。

 

「お前達へ命じるのはアンダーソンの奪還もしくは破壊。現在この「反乱軍」が管理する建物に居る。データは既に読んだな? 向こうの「トランセンド・マン」に関する情報もあるからもう一度見直しておけ」

「はい」

 

 ヘルメットの人物が低い声で代表して言った。本当に正面を向いているのかすら疑わしかったが。

 

「それとお前達に渡す物がある。わざわざ集まってもらったのはその為だ」

 

 ポールはモニターの横に並べていたブレスレットらしき物を3つ取り、それらをそれぞれに渡す。これに質問したのは金髪赤メッシュの女性だった。

 

「これは何です?」

「「変圧器」だ。最近実用レベルにまで開発が進んでな。少数人数作戦には持って来いだろう」

「もう完成したのですか?」

「その3つだけはな。やはり生産にコストが掛かるのは仕方ないだろう」

 

 3人は揃ってこれを腕ではなく首に巻き付けた。

 

「別に疑うつもりは無いのですが、性能は確かでしょうね」

「個人差によるが、「活性率」はおおよそ2倍にまで跳ね上がる。だが持続使用は禁物だ、負担が大きい。主に断続使用か失敗時の逃走用だけにしろ」

 

 ヘルメットの男の質問にポールは丁寧に答えた。

 

「出来るだけこの作戦は向こうに知られない事を優先に行動する事だ。掃討作戦も更に延期せざるを得なくなるだろうし向こうは更に防衛力を付けるだろう」

「分かっています」

 

 3人はヘルメット男を先頭にして部屋から出て行き、大柄なボディガード風の男がドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「500だ。500賭ける」

「強気だな。良いぜ、やろう」

 

 答えたリョウはドアを開け、”乗り”込む。

 

「1マイルで良いんだろ?」

「勿論だ。作戦があるんでね」

 

 そう言った相手の男も”乗り”込んだ。リョウと同じかそれ以下の年齢だろう。

 

 ところで、リョウが”乗った”のは、長さ4.4メートル、幅1.7メートル、高さ1.3メートルのクーペ型ガソリン乗用車。黒い車体と細い目の様なヘッドライトと大きなリアウイングが特徴的なこのスポーツカーは100年以上も昔に生産が終了しているものだ。

 

 相手のも同じく、水素燃料自動車が一般的な現代においては全く普及していない1世紀以上前の旧式の自動車だ。

 

 ボディはCG設計とカーボン材料による大型3Dプリンタで再現し、元のものより強度があって軽量な車体が作る事が可能だ。

 

 エンジンは耐熱性を考えて鋼鉄製、これは3Dプリンタでは作れないが鋳造の際の形を作るのにおいてCGや3Dプリンタは使われる。

 

 ボンネット内は自分達でプログラムを書き換えた燃料噴射制御装置やキャパシタ(電気二重層コンデンサの事)等、時代違いな物多数で埋められている。

 

 自動車の構造は100年前から基本的に変わっていない。リョウはクラッチを踏みながらエンジンを噴かせた。回転数を示すメーターが毎分6000回転を示し、マフラーから人口石油(不純物を一切含まないので排ガスはクリーン)を燃焼した事による二酸化炭素と水蒸気を吐き出し、ブオオン、と空気を震わせる。

 

 相手も競う様にエンジンを鳴らす。リョウの車より若干音が高いのはターボによるものか。(一応リョウの車はターボ付きだが……)

 

 乾いた土の上に不愛想に引かれた線に沿って2台が車の先頭を合わせ、止まる。主に若者で構成された観衆の中、1人の若い女性が2つの車の前に現れた。

 

「2人とも、準備は出来てる?」

「オーケイ!」

「当然だ!」

 

 女は長い金髪を後ろに撫でながらもう片方の手で両者を指さした。

 

「レディ!」

 

 女が右手を高々と上げる。エンジンの回転が一定になる。

 

「ゴー!」

 

 女が腕を下ろした。クラッチから足を放す。座り心地の良いバケットシートに押し付けられる感覚。

 

 あっという間に7000回転に達し、ギアを1段上げる。緩くなった加速が増した。

 

 続けて3段階目。隣の車とはまだ並んだままだ。段々と景色が速くなる。

 

 戦争からまだ残る廃墟群を走り抜け、スタートから200メートル目にある最初の交差点が見えた。観衆と赤い三角コーンが右に曲がれと示している。するとリョウの右に居る男が言った。

 

「悪いが今日は俺が勝つぞ!」

 

 そう言うと相手はハンドルを押す様に体を前傾させた。バシューン! というニトログリセリン燃焼音と同時に一気に加速した。

 

「んな無茶な! 負けてられるかよ」

 

 リョウはブレーキを踏んで減速し3速から2速へ、迫り来るカーブに対してハンドルを右に回す。

 

 ギギギギギ! とタイヤと地面が擦れ合う摩擦音。車の向きを変えコーナーからの脱出加速を同時に行えるドリフト走行だ。

 

 リョウが曲がり終えた時には相手は10メートル先を走っていた。

 

 2速、3速、4速。だが距離は一向に縮まらないどころか少しずつ突き放されている。

 

 前のコーナーから200メートル先にあるコーナーが見えた。

 

 バシューン!

 

「クソッ! 四駆にツインターボにスピード出過ぎだっての。おまけに序盤ニトロなんて贅沢過ぎるぜ!」

 

 相手の車が90度のカーブをギュンと曲がる。ドリフトではないがタイヤ痕が出来上がる。

 

 4速から3速、コーナーを抜け、アクセルを力強く踏み込む。

 

 ここから直線400メートル先に折り返し地点があり、そこをUターンすれば来た道を辿って出発地点にまで行けばゴールとなる。

 

「俺が貰うね!」

「いいや、今回も俺だ!」

 

 相手の強気な発言と同時に車体が急加速した。リョウも強く言い返し、ハンドルに付いているニトロ噴射ボタンを押す。体がシートに引っ張られる感覚が更に増した。

 

 リョウの車の先頭が相手の車の後部まで達した。

 

 両者がギアを5速にまで上げた。両方ともこれが最大ギアである。スピードメーターはもうすぐで時速200キロメートルに達する事を示していた。

 

「速え?!」

「二駆舐めんな!」

 

 2台の先頭が並んだ。中間の折り返し地点を示すカラーコーンが見えた。

 

 カラーコーンは左に曲がるというルールを予め決めていた。そして、リョウの車は右側に、相手の車は左側に位置している。

 

「俺の勝ちも同然だぜ! カーブじゃあ四駆最強だ!」

「まだ終わってないぞ!」

 

 リョウが強く反抗する。言った次の瞬間にはリョウはハンドルを思い切り左に回していた。当然左には相手が居たままだ。

 

「危なっ?!」

「これがドリフトだぜ!」

 

 相手は減速し、インコースを滑る。反対にリョウはスピードを維持したままアウトコースから攻める。

 

 180度のターン。観衆の歓声。あと半マイル。

 

 コーナーから抜けた時2台は並んでいた。

 

 最短距離を重視した相手はギアを低くし再び加速し始める。速度維持を重視したリョウは保ったスピードのまま突き進む。

 

「どうした? カーブじゃ負けないんだよな?」

「何を、これからだっての!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大柄なサングラスの男は、ヘアピンカーブを曲がった2台の車を見て歓声を上げる若者達を眺めるなり、呆れてため息を吐いた。

 

(戦争だというのに警戒心が無さ過ぎる。まるでパーティ会場だな。これじゃあ仕事が楽過ぎて話にならん)

 

 群衆から離れ、どこかへ歩き出す男。しかし、それに目を向けた人物は誰一人居なかった。

 

(聞こえるか? 作戦開始だ)

『了解』

『分かった』

 

 念じると頭に2つの声が入って来る。耳に取り付けられたテレパシー型通信機によるものだ。装着者の思考を読み、暗号化した電波を他の通信機に送る。

 

(では予定通りに行こう)

『任せた』

『さっさと済ませよう』

 

 歩いている男はやがて視界に高層ビルを捉えた。

 

 その遥か遠くに位置する目標のビルに向かって手を伸ばした。何かを開いた掌から送っている様に。

 

「させねえよ!」

 

 若い男性の声が上空から聞こえた。同時に跳び退く。

 

 地面にクレーターが出来上がった。その中心部には飛び降りた直後の姿の青年があった。

 

「ロスにようこそ。パスポート見せな」

(気付かれたか。若いが相当の手練れと見た。飛行能力持ちか?)

「コラ、無視すんなよ。ロスから地獄へ観光案内してやるぜ」

 

 心の中で感心したサングラスの男は冷静さを保ったままだ。立ちはだかる青年、レックス・フィッシュバーンも冗談を交える程余裕を見せていた。

 

(まあこれで2人の仕事が捗るだろう)

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