【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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Inexplicable

 心臓からナイフを引き抜いたアダムはすぐさま刃を下腹部、首、そして額へ、リズム良く突き刺した。

 

 抵抗が無くなり、意思を失った暗殺者は重力のままに地面に伏した。

 

(終わりか、呆気ない)

 

 アダムは死体に目もくれず振り返った。

 

 その姿こそこの場唯一の観戦者にとってはショックな出来事だった。

 

(そんな、嘘……)

 

 何故死を忌まないのか、それが彼女には不可解だった。

 

「どうして殺したの……」

 

 返事はすぐに来た。

 

「なら何故殺さないという選択が出来る?」

「……だって、人が苦しむのは見たくない」

 

 その不合理な回答こそ少年には不可解だった。

 

「損害を考えないのか? ではアンジュ、君なら殺さずにどうするつもりだ?」

「それは……捕らえて捕虜に……」

 

 言い切る直前、死体が謎の発光をした。注目した途端、光が激しさを増幅する。

 

 アダムが飛び退き、アンジュリーナが両腕を顔にかざし、2人を熱と閃光が襲う。空気が急激に加熱された事による衝撃波が広がり、発光は止んだ。

 

 次に2人が確認したのは、暗殺者の死体が消え、死体があった場所では熱によって床が溶けていた事だ。

 

「……まさか、自爆?」

「だろう。捕虜にする意味も無かった。被害を被る可能性もあっただろう。しかしトレバーはどうしたのか。さっきから”感じ”ない」

 

 話題を捨て去ったアダムに対し、アンジュリーナは落ち込んでいた。何故彼はここまで残酷になれるのだろう、と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの壁を突き破って飛ばされた挙句、蹴りまで喰らってコンクリートへ叩き付けられたハン。痛みに耐えながら起き上がると、既に敵対していた女性の姿を見失っていた。

 

 周囲を見る限り、破って出て来たビルと墜落した地点以外には街は無傷だった。

 

(退散か。あの首の装置、どうやら断続的な使用しか出来ないか身体への負荷が大きいのか、恐らく逃走用だと見た)

 

 市街地のど真ん中に出来たクレーターから出て来ると、集まって騒いでいる民衆達をどうしようかと片手で側頭部を押さえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てオラー!」

 

 地面を蹴る反作用による加速と、空気を操る事によるジェット機の如き加速を合わせ、早速逃走する男へ追い付いた。

 

 気流を操り、自分の加速ではなく相手の正面から逃げる反対方向へ突風を起こす。

 

 空気の壁に阻まれた男が足を止めた。レックスは逃さず多数の方向から空気の刃を切り付ける。

 

 しかし、男はその刃を正面からぶつかり、ねじ伏せた。傷が無かった。

 

 アサルトライフル型の銃で更に追撃するが、相手は怯む気配を見せない。それどころかレックスに向かって突進し出した。

 

 速過ぎて痛みよりも驚愕の方が大きかっただろう。レックスが認識した次の瞬間、相手は彼に膝蹴りを決め、それを感じた直後、投げられ地面に勢い良く叩き付けられた。

 

「何だ?!」

 

 痛みを忘れてレックスは驚き声を出した。相手は無視して逃走を再開し、やがて見えなくなった。レックスとクラウディアが走り着いたのはその直前だった。

 

「大丈夫か?」

「何とか」

「何だ今の? 恐ろしく速かったぜ。さっきと全然違う」

「分からん。だがあの首に付いていた輪っかからエネリオンを感じた」

 

 クラウディアの心配に無事である事を伝え、リョウの質問に自分の考えを述べた。

 

「さて、ハンにどう言おう……」

「待て、お前も一緒だ!」

 

 クラウディアは振り向き逃げようとするリョウの襟をぐいと掴んだ。

 

「ふざけんな! 折角の休みだってのにまたかよ!」

 

 レックスがため息をつき、クラウディアは腕を組んで唸った。

 

「分かったよ! 俺も行けば良いんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガルシア、ブラウン、共に離脱。派遣した「予備軍」も生体信号が途絶えました」

 

 ポールは指令室で部下の報告にも腕を組んだまま黙っていた。

 

「……もはやアンダーソンが覚醒したとしか思えん。テイラーはどうした?」

「現在足止めを受けている様です」

「繋げられるか?」

「出来ます」

 

 オペレーターが肯定と同時に通信を立ち上げた。ポールが即刻マイクの前に立つ。

 

「テイラー、作戦中止だが、アンダーソンはお前の丁度上に居る。お前に離脱を命じる代わりに覚醒の確認をしろ」

『了解』

 

 さて、とマイクから顔を遠ざけ、考え事をし始めた。

 

「アレクソン君どうかね?」

 

 丁度中佐が室内に入って来た。

 

「失敗です。アンダーソンは十中八九で覚醒したものだと思われます。現在生存者を撤退させています」

「そうか、残念だ……別に君を責めるつもりは無いが……」

 

 中佐は悩む様に頭を押さえた。

 

「中佐、別にアンダーソン無しでも「成功」の分析は可能です」

「……それは分かっている。まあ、実物があれば分析に手間が掛からんと思ってな……」

 

 ポールには納得出来る答えだったが、中佐はどこかぎこちない言い方だった。

 

(中佐は何故ここまでしてアンダーソンに拘るんだ? 今は摘出されていても「チップ」を埋めてあったのなら持ち出されたと分かった時点で自爆を命じる事だって出来た筈だ……いや、俺の考え過ぎか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレバーはヘルメットと黒い服装に隠れた相手の変化を見切った。もっともこの変化は一般人には全く分からないのだが。

 

(「エネリオン」の量が増えた? 首に何か隠れているな。一種の増幅装置といった所か)

 

 行動も予想外だった。ヘルメットの人物は突如床を蹴ると跳び上がり、天井を突き破って外へ大穴を空ける。

 

 不味い、と思った時にはトレバーもそれを追っていた。ただ、相手の方が圧倒的に速かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アダムがトレバーの気配が消えた事に気付き、アンジュリーナがアダムの残酷性を考え込んでいた頃、

 

 堅い床が破れる音。咄嗟に振り向いた2人。人相をヘルメットと黒い衣装で隠した人物の登場は突発的で2人に考える暇さえ与えなかった。

 

 ヘルメットの人物は姿を現すとすぐさま服の下から剃刀サイズのナイフを持ち、アダムに向かって投げた。

 

 途轍もないスピードで向かって来るそれを、アダムは避けようとしたが、

 

(速過ぎる!)

 

 信じるか否かの以前に認識が追い付かない。体を横へスライドさせても刃は突き刺さって……

 

 次の瞬間、飛翔するナイフが目に見えた。明らかに遅くなったのが分かった。

 

 何故かと疑問よりも、今は回避行動を続ける。ナイフはアダムの頬ギリギリを通過した。

 

 今度はトレバーが床に開いた穴から飛び出した。するとヘルメットの人物はナイフ投げの体勢から腕を引き戻した。

 

 アダム向かって飛んでいたナイフが来たのとは逆方向に戻り、ナイフは相手の手に戻った。

 

 そしてヘルメットから何か意味ありげな視線を送ると、その人物は圧倒的な速さで屋上から姿を消した。

 

「無事か?」

「ああ」

「ごめんなさい、私はあんまり……」

 

 大人からの質問に少年は無事を伝えたが、少女は苦しみの混じった声で答えた。

 

 アンジュリーナはアダムに右手を向けていた。そしてもう片方の左手は、彼女自身の下腹部から溢れる血を押さえていた。

 

「アダム君は、無事?」

「そうだが」

「良かった……」

 

 傷付きながら安心した様に言った少女は地面に崩れた。

 

「チャック。屋上に来い」

 

 通信機を耳に当て早口で言ったトレバー、返事は聞かなかった。

 

(まさかもう1本投げられていたのか? まるで分からなかった……それよりもだ)「あのナイフ、君が減速させたのか?」

「そうよ」

「何故自分を助けたんだ? 君自身の事はどうでも良いのか?」

「私が人を、貴方を、アダム君を助けたいからよ」

 

 少年に訴え掛ける様な言い方だった。納得出来なかった。不可解だった。何も理屈が無いのが分からない。

 

 丁度その時、チャックが慌ただしく階段から走って屋上に辿り着き、そしてアンジュリーナの負傷箇所に手を当て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンダーソンから一定以上のエネリオンを感知』

「ご苦労、戻って来い……申し訳ありません中佐、また失敗です」

「そう気にするな。私の我侭みたいなものだ」

 

 中佐、正確にはポール・アレクソンから中佐と呼ばれている人物、は残り1人が離脱し、少数によるアンダーソン奪還作戦が完全失敗したと知ると、落胆の表情を浮かべた。そして彼は1人で部屋から出た。

 

 廊下には誰も居ない。このまま自分の部署に戻るとしようと足を動かした。

 

 中佐、文字通り階級は中佐だが、ある事情で彼は時に少将並みの権力を発揮する。この作戦も彼がポールに命じたものだ。

 

 本名、クリストファー・ディック。45歳。身長は175センチメートル、と白人にしては低い方の部類に入る。生まれつきの派手で年に合わない赤毛が悩みだが、短くしているだけで彼には染める選択肢は無いらしい。

 

 クリストファーは2つの事を考えていた。1つは逃げる様に足早に移動する事。そしてもう1つ。

 

(覚醒した……じゃあ”アダム”は目覚めたのか? ならば反抗的な行動も理解出来るが、まだ説明不足だ……)

 

 廊下には彼以外誰も居なかった。

 

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