【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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西暦2070年 起

 銃の使い方というのはとても簡単だ。銃を正しく持ち、狙いを標的に定め、あとは引き金を引くだけ、たったこの3つを正しくやるだけで敵が殺せる。実に簡単だ。

 

 兵士として鍛えられた俺なら、小は拳銃、大は対物ライフルまで、歩兵が1人で使用する事を前提に設計された武器ならば大抵の物は扱える。銃に不慣れな民間人であっても正しい持ち方なら9ミリ拳銃でも扱える。狩り用のハイパワー拳銃も撃てば肩が脱臼すると言われるが、それは持ち方が間違っているからだ。

 

 引き金を引く、という点に関しては使用者か銃自体の問題だ。

 

 何度も人を殺して来た身であれば引き金を引く事に迷う事は無い。

 

 また、21世紀も残り30年を切った現在では兵器工場が何らかのごく低確率の要因で欠陥品が出来てしまう、などという問題は全く無いと言っても過言では無い。(そもそもそんな欠陥ばかりあれば軍需会社にはクレームが殺到する)要するに引き金を引けば100パーセントの確率で銃弾が飛び出る。

 

 だがここでの問題は、狙いを定める事。これは銃弾を目標に命中させるために一番重要な事だ。針だって急所に突き刺せば一撃で死ぬし、大砲だって狙いを外してしまえば全く意味が無い。俺は自慢では無いが視力は両目とも2.0以上はあるし、格闘で培った動体視力だって自信ある。別に今日に限って体調が優れない訳でも無い。要するに、ナルシスト的に言えば、俺には欠陥は無いという訳だが……

 

 ところで、現在直面している”問題”というのが標的だ。軍務に就いてから今まで十数年、俺は米国陸軍兵士として歩兵は勿論、重機関銃、バイク、大砲、装甲車、戦車、あらゆる敵を相手にしてきたが、どんな相手だって自分の目に捉える事は出来たし、弾を命中させ破壊する事だって可能だった。

 

 だが、

 

『○○大隊被害尊大! 退却する!』

『こちら○○砲兵隊! 敵の座標を教えろ!』

『お前ら! この前線は絶対に……ぐわっ!』

『確認した! 敵は現在前線を突破し……』

 

 味方の通信機が壊れる音がし、ノイズ音だけが聞こえるのみとなった。

 

 前方で前線を支える味方の為に400メートル離れた後方で狙撃支援を行うのが俺の役割だが、ライフルのスコープから見えるのは、何も無い方向へ恐怖に駆り立てられながら小銃を乱射する味方達、戦意を喪失し武器を捨てて逃げ惑う味方達、そして倒れてピクリとも動かない味方達の死体の山。

 

 あっ、今味方の1人が何の前触れも無く投げ飛ばされる様に俯せに倒れた。生の気配を感じない背中には何か太い物体に貫かれた、例えるならば雑な木製又は竹製の槍の様な、刺痕があり、恐らく心臓を一瞬で貫かれたのだろう。

 

 近くで若い新兵がナイフを持ってやけくそに振り回している姿が見える。すると、新兵の胴体が突然血と肉を吹き出し、胸に直径15センチメートルはあろう大穴が空いた。あのサイズの穴や血や肉の吹き出し加減から見るに、恐らく対物ライフル級の銃弾を受けたのかも知れない。

 

 ところで、俺はこの場に居る味方は皆今日この戦闘に派遣され、現地に着いてからまだ1時間も経っていない。にも関わらず、既に数師団級の戦力は半分にまで削ぎ落とされている。

 

 対処するにもその対策し様が無い。理由は簡単、敵が見えないのだ。派遣されてから味方の最初の1人が死ぬまで想像すらしなかった。突然、まるでF1カーにでも正面衝突したかの様な挙動を見せ、その時の衝撃で即死だったのだ。

 

 何なのかは分からない。だが確実にそこにある。

 

『狙撃部隊に告ぐ! 中衛部隊を破られ、そちらに向かっている!』

「マジかよ!」

 

 思わず声を上げていた俺。額が汗でびっしょり濡れていた事に今気付く。

 

 100メートル左方向に離れた所にある戦車隊の戦車1台が突如にして爆発炎上し、炎を吹いて裏返しになった。

 

 あの爆発の仕方だと外側に爆薬を仕掛けたのではなく、内側から爆発が起こったのか。だが操縦員が爆薬を誤爆させた訳でもあるまいし、燃料タンクを撃ち抜くにしてもよっぽどの威力と精度が必要になる。

 

 その爆炎と爆煙の中に向かって、近くに居た兵士たちが銃を乱射する。

 

 おかしいのはどの兵士も恐怖に駆られたかの様に怯えながら撃っている、という事だ。

 

 目視した兵士達は20人程、しかし、次の瞬間恐るべき事が起きた。

 

 一瞬、1秒にも満たない時間、その間に20人余りの兵士たちが無音で銃弾を喰らった様に吹っ飛び、絶命した。

 

 ありえない、何だ今のは?! 何も見えなかったし、何も聞こえなかった。

 

「畜生! 誰か説明してくれ!」

 

 驚き、未知の恐怖に怯えながらも俺は両手に抱えるライフルをフルオートモードにした。スコープから目を離し、状況を把握すべく全体を見渡す。

 

 少し離れた所にあった自走砲が縦方向に180度倒れていた。更にはエンジン部に大きな凹みが見えた。しかし、あの凹み、まるで漫画みたいに誰かが殴ったみたいな手形のある凹みが……

 

 ……誰か? 手形?

 

 倒れた自走砲の傍にストレートを打ち終わった体勢の……

 

 ……人だ。

 

 身長は俺とそう変わらん、180センチメートル前半か。年齢はまだ若い20代の青年だろう。体格は普通、少々痩せても見えるがそれは鍛えられて引き締まっているからだろう。服装は別に何の変哲も無い軍服、左手にはアサルトライフルらしき銃を抱えていた。少なくとも見た目は人間だというのは確かだ。

 

 オイオイ、冗談だろ?! まさかコイツ1人が師団数個をあっという間に半滅させたってのか?!

 

 俺の疑いを嘲笑う様に、この男は俺の視界から姿を消した。

 

 次の瞬間、俺の9時の方向に居た別の兵士が、巨大な鉄球にぶつかったかの様に軽々と吹っ飛び、後ろにあった装甲車に衝突した。

 

 突如再びあの男が姿を現した。腰に銃を構え、引き金を引いている最中だった。

 

 銃口の向いている方向にあった、先程の兵士がぶつかって停止した装甲車、そのエンジンルーム外壁に銃弾穴が開いた。それも一瞬という時間で数十個も銃痕が……

 

 俺はある事に気付いた。

 

 火薬の点火による発光が見えなかった。

 

 銃声が聞こえなかった。

 

 男が立っている足元には空薬莢が無かった。

 

 俺はあの男が引き金を引き、装甲車のエンジンを貫くのを見た。だが技術が進んだ現代のどんな銃にですら必ずある(レールガンや隠密行動用の銃等は除く)発射光、発射音、空薬莢が無いとはどういう事なんだ?!

 

 もっと良く見たら奴が引き金を引いた時、体が全く動かなかった。

 

 これはつまり反動すらも無い、という事になってしまう。

 

 これが幽霊だったらまだいい。何せ”見え”ないし、”聞こえ”ないし、”無い”からだ。でも俺の目の前で起こっている。まさか今日から今までの出来事が全部夢だってのか?

 

 男は地面を踏み込む動作を見せると、その姿が消えた。

 

 後方で何か柔らかい物が破裂する様な音、例えるなら肉をミンチにする音が連続して鳴った。

 

 嫌な予感がしながら振り向くと、大量の味方の、体の何処かの肉を抉り出された死体が何十もあった。更に、奥には味方1人の胸を、男の腕が貫いていた。

 

 酷い殺され方に吐き気がし、味方の死体達も男の拳によって一部を挽肉にされたと理解した。

 

「落ち着け……落ち着けってんだよ!」

 

 無意識に起こる体の震えを自分に言い聞かせ歯を噛みしめて抑える。

 

 いつも通り、冷静になって相手を見極めろ……十数年の経験が俺へ指令を与えていた。

 

 味方の1人が奇声を上げながら突撃し、男に向かって銃を乱射した。

 

 一方で男は何も動じることなく突っ立っている。

 

「野郎おおおおお‼‼‼‼‼」

 

 マガジン1個分の銃弾が吐き出され終わり、至近距離の男に全弾命中した。

 

 だが、男には血飛沫が飛ぶどころか一滴の血や掠った程度の傷すら付いて無かった。更にはその男が着る服さえ破れ箇所が無かった。

 

 途轍もない防御力だ。音速の3倍ものライフル弾を30発が全く効かないとは。あの調子では重機関銃も効くかどうか……

 

「これ意外と痛いんだよな。ザコには俺から天国行きへの切符を渡してやるってのにしぶてえんだよ!」

 

 無傷の挙句、余裕な台詞まで吐いた。青年らしく男性にしては高めのトーンで、人を馬鹿にするような、見下すような、まるで自分が王か神であるかのような態度だった。

 

「うわあああああ‼‼‼‼‼」

 

 味方が怯えながらナイフを取り出して突進する。ナイフを持つ腕は男の胸に伸び……

 

 ザクッ!

 

 間違いない、鋭い物体が突き刺さる音だ。

 

 しかし、男は何も変わった様子を見せる事なく立っていた。よく見れば、男の胸にはナイフが突き立てられているが、ナイフは服の上から全く動かず切断どころか切り傷さえない。

 

 あのナイフは人体を構成するタンパク質は勿論、純金属や柔らかめの合金でも容易に斬り裂き、鋼鉄は切断までは行かなくとも傷を付けること程度は可能だ。だがそれすら無いとはあの男はどれ程堅い皮膚を持っているというのか……いや、皮膚ではなくあの切れなかった服自体もとんでもない防御力になる……

 

 片や味方の方は、男の手刀が左胸を突き刺していた。

 

 男は嘲笑を浮かべながら手を引き抜き、膝を着いた味方へ唾を吐いた。

 

「……だ……」

「何だ? 聞こえんぞ。」

 

 味方はまだ諦めぬ強い意志を見せるが、相手は余裕の蔑む笑いでそれを吹き飛ばす。

 

「……まだだ……」

「これは驚いた。心臓を貫いてなお俺に刃向かうか。だがお前はもう死体も同然なんだよ。だからさっさと死ね」

「……それはお前もだ!」

「な……」

 

 男が「何だと?」とでも言おうとした次の瞬間、倒れた見方から爆発が起こり、爆風が辺りに広がり爆炎が周囲を包んだ。

 

「危なっ!」

 

 叫びながら俺は咄嗟に地面に伏せ、衝撃と熱風が服を通して肌に伝わってきた。あの味方、新兵らしくまだ実戦には慣れてなかったようだが、まさか自爆するとは。手榴弾かC4爆弾か分からんが、少なくとも決断力が必要だ。俺には妻と今年で10歳の息子と今年で6歳になる娘がいるから、俺は生き延びなければ……ともかくあいつの勇気だけは確かだったな。顔も名前も知らないが、戦闘から帰還した暁には奴にウイスキーでも供えてやろう……無事に返れたらな。

 

 俺は伏せたまま顔を上げる。

 

 爆煙の中に立つ人物が見えてきた……奴だ……まあこうなるだろうとはう薄々分かっていたが。

 

 奴自体は無事らしいが、服は少々焦げており、破れている所もあった。それに男は顔を顰めてもいた。

 

 戦車さえ吹き飛ばす威力の爆薬でも死なんか……だがあの様子だと痛みを感じない訳でもあるまい。

 

 対人銃弾やグレネードは効かんならば何をすべきか、俺は考える。

 

 手はあるんだ。どんな壁だって壊す事が出来る筈。

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