【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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西暦2070年 承

 今の所奴は俺を向いていない。気付いていないのか、わざと無視しているのか……だがチャンスはある。

 

 男は既に姿を消し、別の味方を殺しに行っているようだ。

 

 辺りを見回し、死体と瓦礫の中から使えそうな物を探す。

 

 あれ程目に捉えられない移動速度だと動体視力も相当あるだろうから弾速の遅いロケットランチャーや無反動砲の類は使えないだろう。なら至近距離で撃って自爆か、それともAP(撤甲弾)かHE(炸裂弾)の30ミリライフルで迎え撃つか。

 

 爆薬を使うとすれば爆発は全体に広がるから人1人だけを殺すにはエネルギー効率が悪い。だから粘着爆弾かモンロー効果で指向性を持たせるべきだろう。しかしあのスピードだと直撃しそうにないからやはり周囲に爆散する方が良いか……

 

 考えながらも俺は運良く装甲車の残骸から無反動砲と30ミリライフルを見つける事が出来た。

 

 予め弾をセットし、他の物資を捜索する。

 

 それらは大して苦労せずすぐに見つかった。近くの兵員輸送トラックに搭載されていた。

 

「おっしゃあーラッキー。しかしこれ使うの久しぶりだな」

 

 俺が喜んだのも無理はない。

 

 全長2メートル、全身がチタン炭素複合鋼で覆われ、人型をしたそれは特殊重装歩兵用のパワードスーツだ。以前俺はゲリラやテロリストを壊滅させる為にこれに乗り込んだ事があったが、凄かった。というか俺はこれに憧れて軍隊に入ったんだ。重量が数百キログラムもの物体を持ち上げられるし、アサルトライフル弾は受け付けないし。何よりB級映画ごっこが出来るのも良い所だ……今は奴に集中するか。

 

 迷彩柄の軍服を脱ぎ、体にフィットする疲労軽減機能や体温調節機能付きのスーツを着る。新兵時代から愛用の9ミリ拳銃をアンダースーツの上にホルスターごと付け、ようやく本体を装着した。。

 

 この時面倒なのが漫画みたいにスーツが変形してくれる訳じゃないから自分で着なくてはならない。まあパワードスーツ変形とか脱着以外必要ない機能だしな。

 

 重量120キログラム(操縦者含まず)、最大出力20000ワット、最大走行速度時速50キロメートル(操縦者重量80キログラムと仮定)、最大稼働時間6時間、標準装備は右腕に3銃身のガトリング砲と左腕にグレネード連射砲、両腕にワイヤーガン1本ずつ、両肩に軽機関銃1丁ずつ、腰にセラミックス複合炭素鋼の剣、バッテリーが上がって動けなくなった時の為にスーツからの緊急離脱装置や備え付けの拳銃とサブマシンガン付き。(標準外装備は言う必要も無いだろう)

 

 歩兵を守り、歩兵の力を最大限引き出せる。見事な設計だ。だが不完全だ。何故なら、全身を覆う訳だから体のどこが痒い時に掻けないからだ。だから宇宙飛行士は俺が1番尊敬する職業である。宇宙空間で体が痒くなったら真っ先に脱ごうとする俺は間違いなく死ぬって事。

 

「とりあえず武器はこれで良しと……」

 

 問題はこれらをどう使うか。まさかこれらの装備を一気にごり押して使っても倒せまい。

 

 今の所1番男を倒せる候補は30ミリライフルと至近距離の無反動砲だけ。ガトリングやグレネードはせめてもの護身用だ。

 

 味方達が引き付けている間、まだ時間がある。他には無いのか……

 

 少しして見つけたのは同じく対物ライフルやロケット砲ばかりで全く違う物が出て来ない。精々C4や硝安爆薬、手榴弾が良いところだ。その代わり大量にあるので爆薬で囲んだ所へおびき寄せて周囲360度から強力な爆風で押さえつける。下手して見つかったら爆破する前にこちらがやられるかもれないが……

 

 爆薬を瓦礫の中に仕込みながら考え、爆薬に関してはセット完了だ。俺から5メートル前方の開けた場所を中心に半径3メートル以内に等間隔でC4を、そこへ万遍なく硝安を設置した。勿論瓦礫に埋まっているから外側からでは気付かれまい。

 

 問題はどうやってその範囲に誘い込むか。奴が俺に気付いてこちらに向かったとするとあの速さじゃC4のボタンを押す前に殺される。一番良いのは俺がこの爆薬設置範囲内に居る事だが、やっぱ自爆しか無いのかね……

 

 だが俺にはパワードスーツがある。かといって大量の爆薬はおろか当たり所が悪ければ対物ライフルにさえ負けてしまう。

 

 俺は偶々近くに落ちてあったスコップを持ち、地面を掘り始めた。当然爆薬設置内だ。どうでもいいが、どこぞのシューティングゲームではスコップで敵を叩き殺すなんて事が出来るそうだが、実際の軍人の俺から言わせてみれば使い方が間違ってる。第一ヘルメット被れば痛くも痒くもない。スコップは穴を掘ってそこに隠れる為にある。大砲の榴弾が爆発して破片を撒き散らすが、伏せて隠れる程度の窪みがあるだけでそれを防げる。手榴弾を投げ込まれれば御陀仏だが。

 

 パワードスーツの20000ワットという体感し辛い出力(理論上では1トンもの物体を持ち上げるだけの力を出せる)のお蔭で地面を掘るのが楽々、始めてから2分が経って既に縦2メートル、横60センチメートル、深さ15センチメートル、これだけ掘る事が出来た。

 

 あと深さ35センチメートル掘りライフルとロケットを中に入れ込み、自分もその中に入り、粗い大きめの瓦礫と土で自分もろとも埋める。(土だけで埋めると隙間が無くなるので身動きが取れない)外側も爆発を自分が受けないようにする為出来るだけ土と瓦礫で囲み、仕舞いには爆薬を”外壁”の1番外側へ置いた。戦車の爆発反応装甲と同じく外側が爆発する事によって内側の自分は助かるって訳。

 

 土に囲まれ身動きは取れないが、前方は広い範囲が見え、遠くても味方の悲鳴声が聞こえて来たり車両が爆発したりするのが見える。(更にはパワードスーツの知覚強化機能によってはっきりと感知出来る)もっと正確に状況を知る為にライフルのスコープを覗いた。男は丁度踵落としで榴弾砲の砲塔を折っていた所だった。

 

【対象物距離:520メートル 目標:設定・捕捉】

 

 バイザーヘルメットの裏側に表示されるメーター類、その中でも視界左下に映るレーダー、これに着目する。目標を設定して広角カメラだの赤外線センサーだの搭載された観測機器は勿論、ドローンや他の味方の感知情報、果ては観測飛行船・衛星まで、これらを基にその居場所を割り出してくれる優れモノだ。

 

 目標は既に俺達の1個師団を壊滅させ、別な味方を殲滅しているらしい。所々レーダーに味方を示す点が見えるが、それは俺と同じく運よく奴に見つからなかった所為だろう。

 

【目標:600メートル地点を北上中 目標移動速度:1200キロメートル毎時間】

 

「何だって?!」

 

 声はあの男の距離では聞こえなかっただろうが、辺りに響く程大音量だった。大好物のウイスキーを飲んでいる最中だったら高圧洗浄機に負けない位、少々大げさだが勢い良く吐き出していただろう。

 

 俺が驚いたのは「北上中」という単語、ではない。今の所昼3時過ぎ現在では太陽は俺の斜め左後ろに位置している。つまり男は俺から斜め右前へと移動している訳だが、当然俺に近づいている訳では無い。

 

 本題の俺が驚いた事というのは、後半の「時速1200キロメートル」という所だ。何故かというと、まず音の速さが秒速340キロメートル、時速に換えれば1224キロメートル。男はほぼ音速で走る。

 

【目標距離:現在地点から北西へ1600メートル 目標:停止】

 

 レーダー表示が更新されるまで3秒、それまでに移動した距離はジャスト1キロメートル、およそ秒速340メートル、即ち音速。間違いない。

 

 信じられない光景を目の前にした今では、俺はあっさりと事実を受け入れていた。その代わり、俺は奴を仕留める事に集中する。

 

 スコープで覗いて見たが、幸運にも地形の起伏や建物で隠れて見えない、という事はなかった。これまたラッキーだ。かといって今日がツイているかどうかと問われればおれはツイてないと答える。今日見たテレビの星座占いだって最下位だったし。

 

 そんなどうでもいい事を考えている時、レーダーが奴が丁度動きを止めたのを感知した。スコープ越しに見れば奴が笑いながら味方1人に何かを言っているみたいだが、何も聞こえないし読唇術を覚えている訳でも無いが、恐らく何か馬鹿にしているのか何かか。

 

「戦場ではそんな傲慢が命取りになる事を教えてやろう。銃弾もセットで付けてお得だ。オペレーターは一切増員いたしません。」

 

 などと冗談を呟きながら俺は迷わずスコープの標点を男の頭に定めた。パワードスーツ搭載のコンピューターが弾道計算をしてくれるから相手が止まっていればバイザーに表示された標点を合わせて撃つだけ。楽勝だ。

 

 指の手応えが無くなり、重く速い発射音と銃を抱えた体ごと後退する一瞬の圧力。

 

 パワードスーツと周囲を土で固めたお蔭で大した事はなく、体勢を崩さずにスコープから男が見える。

 

 およそ1.5秒後、突然だった。スコープに映る男が急に体をよじらせたかと思うと、弾道は逸れた。つまり躱された。

 

 まさか銃弾が見えたのか?だがあの反応、少なくともダメージにはなるから避けたに違いない。

 

 身を捻った男がスコープ越しにこちらを睨んだ。

 

「あの野郎、まさか俺の位置をはっきりと分かってやがるな! 畜生!」

 

 仕方ない、爆薬で一か八か……

 

『目標一瞬沈黙、攻撃を畳み掛けろ!』

『了解!』

 

 味方の通信を自動的に傍受して聞こえたのは反撃の命令。スコープ越しでも男の奥に居る味方達が一斉に各々の武器を向けた。

 

『対人ライフルは無効だ! 爆発物か対物ライフルを使え!』

『出来るだけ相手の動きを牽制しろ!』

『相棒の仇だクソッタレ!』

 

 通信機越しだと音量は人体に悪影響が出ないレベルにまで抑えてくれるが、気迫が伝わって来る。ありがとよ、会った事も知りもしない同僚達。

 

 奴はとっくに俺の視線の先から消え、見えないが数々の銃弾や砲弾や爆弾を躱しているのだろう。

 

『もうすぐ海岸沖20キロメートルからの海軍による支援攻撃が入る。離れながら奴をこの場に押さえ付けろ。』

 

 またしても今日はラッキーだ。昨日食った中華のフォーチュンクッキーはやっぱり正しかったな。

 

 気を取り直して、

 

 味方の放った手榴弾が男の足元で爆発し、男は爆風で僅かに体勢を崩した。今だ!

 

 考える間も無く直感で引き金を引き、結果を見るべくスコープを凝視する。

 

 今度はバランスが崩された中、上半身を後ろに逸らせていた。その後後ろへ1回転し、足が付くと再び攻撃の嵐を掻い潜るべく動き回る。

 

 全く、どうやったら何の装置も無くて1キロメートル以上離れた俺を正確に認識し、音速の3倍を誇る攻撃すら簡単に避けるのだか。

 

 固いボルトを引く時間が惜しいので、予め弾を込めておいた対物ライフルを1発撃つごとに投げ捨て、残りは3本となってしまった。

 

『支援まで5秒……』

 

 味方は既に砲撃誤差範囲外にいるらしく、後退する動きを見せないが、

 

『4、3……』

 

 男が攻撃に翻弄されて中々移動できないまま、

 

『2、1、弾着!』

 

 突如スコープに映ったのは閃光。勿論爆発による物だ。それから爆風が巻き上げる砂煙……

 

 ドドドドドドドドドド‼‼‼‼‼

 

 閃光から3秒ほど遅れて砲撃が着弾した爆音が1キロメートル離れた俺の耳にも響く。

 

 爆音は1分ほど続き、それで音は止んだ。

 

『誰か奴を確認してくれ!』

『今確認している! ……うわっ!』

『嘘だろ?! あんなん受けてまだ生きてるってのか?!』

『少なくとも目標に目立った外傷は無し! 早く海軍にもう一度援護の要請を……』

 

 味方の告げる声が中断し、代わりに人肉が殴られ弾ける音がスピーカーから忠実に再現された。こういう時だけ綺麗な高画質・高音質は必要ない、むしろ逆効果だ。

 

 元々血飛沫とか爆散とかグロいのに慣れている俺はスピーカーの音を意識から外し、バイザー越しにスコープを、スコープ越しに標的の男を……

 

 ズバン!

 

 引き金を引くと次の一瞬で男の体が大きく横にスライドし、手応えを感じなかった。

 

 味方達は依然と弾幕射撃で男を抑えてくれている。それに、男は1発目を放った時は体を逸らしただけの最低限の動きで銃弾を躱したが、さっきは男は体ごと移動するという無駄の多い動作をした。ならば男には余裕が消えている筈だ。

 

『あと30秒で空軍から戦闘機によるミサイル支援が入るぞ。』

 

 よっしゃあ、これまた頼もしい。何なら戦域核でも出しやがれ。

 

「俺も、せめて1発は当てたいぜ。」

 

 俺は両手に持った武器を対物ライフルから無反動砲に持ち替えた。ちなみにこちらの残りは3発。

 

 無反動砲は通常のロケット砲とは違って反動の代わりに強烈な後方爆風を吹き出し、それによって反動を打ち消している。後方爆風で砂埃が巻き上がって居場所がばれてしまうが、命中精度は良く、現代では1キロメートルも離れた所へ命中させる事も出来る。しかも俺が今使おうとしているのはカウンターマス方式と言って後方爆風によって弾と同じ重さの重量物を吹き飛ばす。これによって後方爆風を減らし砂埃は巻き上がらないから居場所もばれにくい。

 

 弾は熱源誘導装置も画像誘導装置も付いていないから目視で狙いを定めなければならない。

 

 狙いを定めて3連発、共に体が固定される様な圧力。ただ弾速のはこちらからでも目に捉えられる程遅い。大量に発射する訳でもなく、1発1発が特別強力な訳でもないから正直不安だ。

 

「頼むから、当たってくれよ……当たれっての……当たらんかったら飯抜きだぞ!」

 

 などと弾が到達する前途中で独り言を呟くほどに間が空いた。

 

『あと5秒……』

 

 最初のロケット弾が地面に命中した爆発。だが奴が体勢を崩した様子は見られない。

 

 続いてもう1発、今度は男より10メートル程離れた位置に当たった。見るに特に爆風で怯ませる事も出来なかったらしい。

 

 最後の1発、これだけでも当たってくれ……

 

 キーン!

 

 今のは技術的に軽減されたソニックブームの音か。つまり空軍はもう近くに居る訳だ。

 

『爆撃開始!』

 

 スコープばかり覗いていたので気付かなかったが、味方の爆撃機が数機男へ接近し、ミサイルやらロケット弾やら機銃弾やらを投下していた。レーダーも味方機体が男の居る座標のすぐ近く、大体あと200メートル地点まで来ていた。

 

 そんな中、俺の放ったロケットは男より数メートル離れた足元へ着弾し、土を巻き上げた。

 

 男が爆風によって僅かに体が怯むのを視認した。後はやってくれ。

 

 男の身体は爆発の嵐でこちらから見えなくなった。

 

 しかし、驚くべき事は突然訪れた。

 

 ピカッ、とスコープの右上の方で何かが光った。原因を確かめるべくスコープを向ける。

 

「……嘘だろおい?!」

 

 さっきまで俺達の援護をしてくれていた爆撃機が全部爆発四散していた。

 

 まさかあれを撃ち落したとでもいうのか?!

 

 爆撃地点を覆っていた嵐が収まると、奴が銃口を上空、爆撃機が撃墜された所に向けていた。

 

 前世期から戦闘機の材料だったチタン合金は現代において炭素繊維を加えたカーボンチタン合金となっており、硬度・軽さ・耐熱性・ステルス性、全てチタン合金を上回っており、30ミリライフル1発では仕留めるのも難しい。

 

 それを奴はあんなアサルトライフルもどきで、しかも数機も撃墜した。銃弾の威力が高いのか、連続して当てる精度が高いのか。いや、両者だな。

 

 そんな事を考えている間、俺はある事に気付いた。

 

 奴がこっちを見ていた。

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