IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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日本政府の現状
一部の議員が、国際IS委員会上層部の一部のメンバーと癒着しており、今回の作戦に織斑 千冬を現場作戦指揮官として編成させた。
その間にそれを行ったメンバーは逃遁を図っており、すでに国内から姿を消している。
なお、そのメンバーの全員が利権団体とも通じている女尊男卑主義思想者。


第96話 眠風 双眸を

それからは事態が急転した。

白銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜を達成したのとほぼ同時に、一夏は流血のショックで意識を落とした。

 

「一夏っ!しっかりしてよ!

ねぇってばっ!目を開けてよ!」

 

名を呼んでも、叫んでも、頬に触れても、体を揺さぶっても目を開いてくれない。

こうしている間にも、赤い雫がダラダラと流れ落ちていくばかり。

どうすれば目覚めてくれるのか、どうしてこんなことになったのか、頭の中はそんな螺旋の思考にハマっている。

 

「しっかりしなよ鈴!」

 

叱咤する声が耳を貫いた、この声はシャルロットの声。

でも、私はそれでも動揺が止まらなかった。

 

「この出血なんだよ!?

早く手当てをしないと助からない!」

 

「でも、此処には救急キットなんて…」

 

「なら、旅館に帰るべき」

 

冷静な判断を下したのは簪だった。

 

「作戦本部も兼ねてるから、医療用具だって備えてる筈。

だから、急いで」

 

そうだ、急ぐべきは処置であり、一夏の覚醒じゃない。

今は一刻を争う時で迷ってる暇なんて…無い!

 

「すぐに旅館へ戻るわよ!」

 

刹那、私の背面の装甲が何かに捕まれる。

覚えはある、メルクの機体に搭載されている脚部クローの感覚だった。

 

「振り落とされないでください、鈴さん。

今まで以上の速度を出します。

絶対にお兄さんを離さないでください!」

 

「判ってる!」

 

見上げればメルクが涙で頬を濡らしている。

メルクにとっては家族そのもの、失いたくないという思いは私と変わらない筈だ。

白銀の福音の搭乗者をシャルロットに投げつけ、スラスターに光が灯る。

 

「いきます!」

 

視界が歪み、今までに経験したことのない速度で景色が駆け抜けていく。

メルクと一夏が駆る機体はテンペスタ、その本領は回避と翻弄、ならそれは圧倒的なまでの速度によって発揮される。

学園のアリーナ程度では狭すぎた(・・・・)、遮るものが何もない広がった場所でこそ真価が発揮されるのだと…私はいまさらになって理解させられた。

 

「この速度なら…!」

 

あの時に守れなかった命が、今は私の腕の中にある。

希望は、確かにこの手の中に…!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

朝が来た。

 

終わりの朝だ。

私は既にIS学園の講師の任を解かれている身であることは自覚している。

その私が日本政府の命令で、そして国際IS委員会からの指名で、この作戦に於ける現場指揮官の任を与えられたのは偶然ではないのかもしれない。

そう思っていた。

 

そしてこの場には全輝と一夏が揃っている。

学園では敵対姿勢を崩そうとしない二人だったが、緊急事態ともなれば互いに背を預け、力を合わせる事も出来ると信じた。

だが、結果はどうだっただろう…?

 

結果は…最悪(・・)だ…。

 

一夏は、全輝によって攻撃を受け、重傷。

そのままMIAとなった。

 

その記録(ログ)が、ハースと全輝の機体から照合され、裏付けまでされた。

 

だが、その後は更なる最悪の事態へと移行した。

白銀の福音は撃墜されてなどいなかったという事だ。

 

これにより、一夏を探しに飛び立った面々が交戦状態に入った。

 

何一つ結果を出せず、事態を悪化させたことで私はこの場での指揮権限を剥奪され、拘束された。

 

そして…事態の悪化を図ったとして、殺人未遂の容疑で全輝を、外患誘致の容疑で箒を、警察に引き渡すことになった。

 

その二人は…手錠をかけられた状態で私の前に居る。

今日の昼過ぎに警察が来ることになり、二人を引き渡すのだが、引き渡しは私が行うことになった。

その程度の信用が残っていたのか、はたまた最後の情けかは判らない。

 

「…全輝、何故味方を攻撃したんだ…?」

 

「それは…アイツが俺の前に無理矢理入り込んできたせいで…」

 

「そのようなログは残されていない。

お前は…白銀の福音を背にした状態で(・・・・・・・)攻撃をしていたんだ。

故意でなければ出来ん行動だ…」

 

血肉を…魂まで二分させてまで生まれてきた双子の兄弟。

たとえ普段から敵対を続けていようとも、窮地にこそ兄弟の絆が発揮されると…信じていたのだがな…。

それに…6年前の事件の時もそうだった。

 

全輝は、試合当日に何かが起きていたことを把握していた。

そして、何が起きていたのかを正確に把握していた。

そのうえで、誰にも何も言わず、私にも伝えず、私が帰ってきた際に笑顔で待っていた。

あの時には、何もかも知っていたにも拘らず、だ。

私が帰ってきた際に私が一夏のことを聞いた際には何と言っていた?

「さあ?どこかに行ったんじゃないかな?」だったか。

全てを知りながら、そんな言葉を吐いていたのだろう。

 

あれから私は一夏の消失で塞ぎ込んだ。

その中で、考えなかったわけではない。

それでも、血の繋がった兄弟だからこそ、それだけはないのだと片づけた。

目を反らした、在り得るはずがないのだと信じ、考えないようにした。

 

「第一回大会の際、私は幾度か電話をしていた。

何故あの時に、一夏の失踪を言わなかったんだ?」

 

「そ、それは…」

 

全輝は言葉を濁し、返答を返さなかった。

返せる言葉を持っていなかったのか、後ろめたく思っているのかは察する事も出来ない。

性格は違えども、骨肉を、魂をも二分させて産まれてきた双子だ。

だから、そこには確かな繋がりが在るのだと信じていた。

いや、今でも信じたい。

 

それが現実はどうだ…?

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「全輝、何故ハースを貶めるような事を続けたんだ?」

 

「……………~っ!」

 

その問いには彼は返答は返さない。

いや、返せなかった。

学園に編入した直後から、『自分と同じ立場に居る』と言うだけで、気に入らなかった(・・・・・・・・)

そんな幼稚な理由で、見下すだけでなく貶めようと暗躍を続けた。

でも、それは千冬に正直に言える筈が無い。

自身への信頼を知っているから、その信頼を利用し続けてきたから。

それを失うような返答を返せない、だが都合の言い訳もこの場で思い付かない。

 

「…………………~~~~!」

 

都合の悪い問いには沈黙しか返せなかった。

信頼を利用していたとしても、疑われる事は無かった。

それが失われつつあるという事すら信じ難かったから。

咎めるような視線を千冬から向けられた事など無かったから。

なまじ、家族から疑われる事も、咎められる事など無かったから。

これは現実ではないと、言い聞かせ、目を背けるため、見付けられない言い訳を探し続けた。

そして、ウェイル・ハースは格下の存在であり、自分こそが遥かに上の存在であると証明できるであろう何かを探し続けた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

全輝がそのような人間ではないと信じたいのに、届く情報はそれを裏付けを示し続けた。

ウェイル・ハースを事在る度に貶めようとしていたのだと………。

 

一夏に対しても同様の事をしていたのだとしたら…いや、そんな事は無い筈だ。

だが、現実はどうだっただろう。

第一回大会の折りに、全輝は一夏の不在を隠し続けていた。

知っていながら見捨てていたのか…?

 

箒にしてもそうだった。

 

「箒、お前は何故ハースを目の敵にした?」

 

「それは…奴が卑怯な事をして全輝を貶めようとしたからです!」

 

初対面では背後から攻撃、クラス対抗戦の際には試合前に整備室で奇襲、さらにはテロリストに対して一夏の名を開示した。

それ以降も何かにつけて真剣を振りかざし続けた。

果ては新宿の爆撃テロだ、あの事件は『ウェイル・ハースが新宿に向かう』という不確定情報を顔写真と一緒にネットワーク上に露見させた。

更には学園の防衛力低下ですら世界中に露見させた。

そこに付け込み、テロリストが襲撃を仕掛け、IS学園を壊滅させた。

IS、ISコア、兵装、弾薬、その全てが奪われ、テロリストに力を与える結果になってしまっている。

 

「全輝が刀で戦っているのに奴は槍に銃を使って一向に真っ向勝負をしようとしない!

そんな卑怯者をそのま放置して良い筈が無い!

だから私が奴を討とうとしていたんです!」

 

「ISを使用しての戦闘は個人の得手不得手がある。

槍を使った手法がアイツの…」

 

「男だったら!剣を使っている相手には、それに合わせて剣を使うべきです!

それが理解できない奴は性根が腐りきった卑怯者です!

それを理解しようとしないから私は罰を下してやろうと…!」

 

相手を理解出来ないのではなく、相手を理解しない。

それが箒の在り方なのだろう。

相手を理解出来なければ、それが『相手の罪』だと断じて暴力で裁く。

そうやって日本全国で傷害暴行事件を巻き起こし続けた。

 

「次に新宿の件だ。

『ウェイル・ハースが新宿に向かう』という不確定情報を顔写真と一緒にネットワーク上に露見させた。

その結果、新宿ではテロが起き、何万人もの死傷者が出た」

 

「それは…やつが新宿に向かうと聞いたから…。

私達は無実の罪で謹慎させられていたから…だから仕方なく誰かの手を借りてでも奴を制裁を下そうと…!

だから…私は何も悪くない!」

 

「学園の防備が手薄になることまで露見させたのはなぜだ?」

 

「それは…ウェイル・ハースが学園外へ出ている時間は限られているだろうと思ったから…だから、刻限を出していたほうがより確実に誰かが奴を討ってくれるだろうと思って…。

で、ですが!新宿を攻撃したのも!それで死傷者が出たことも!学園が壊滅したのもテロリストやったことです!

私は何も悪いことなど…咎められる事など何一つしていません!」

 

そんな訳が無いだろう…。

お前がしたのは少なくとも

本人の許諾無しに姿を公開させた『肖像権侵害』

自分の代わりに犯行をさせようとした『殺人委託』『犯行教唆』

テロリストをその場に意図的に集わせた『外患誘致』

れっきとした大犯罪だ。

私の身近にこんな事を平然とやってのけ、それでもなお『自分は何も悪くない』と豪語できるものが居たなど…。

 

その時だった、館内放送が響き渡ったのは

 

『緊急作戦に参加していたウェイル・ハース君が帰還しました。

ですが、夥しい出血を伴っており、このままでは出血性ショック死に至る危険性が危惧されます』

 

帰還した、その情報に少しだけ安堵する。

だが、やはり事がただでは済まなかった。

このまま放置していては死に至るのだと。

 

「なんだ、アイツ、このままだと死ぬのか」

 

突如として顔をあげる全輝、その口元は…明らかなまでに嗜虐に歪んでいた。

 

「ハハハハハハ!当然の報いだ!あんな卑怯者など居なくなってしまえば良い!」

 

箒の狂ったような言葉に動揺しそうになるが、まだ放送は続いた。

 

『ウェイル・ハース君を助けるためにも処置が必要になりますが、そのためにも不足した血液を補うため、輸血の必要性があります。

血液型がB型の生徒、教職員は輸血に応じてください。

なお、これは強制ではありません、あくまで個人の任意です。

ですが、彼を助けたいと思う人は作戦本部、≪梅の間≫に集まってください』

 

血液型がB型、それは全輝も応じられる、それに私もだ。

なら…

 

「全輝!あんな言葉に応じる必要なんてない!

奴がここで終わるのならそれは奴の自業自得で…」

 

ドゴォッ!

 

その先は言わせなかった。

今までにないほどの力で私は箒の頬を殴り飛ばす。

ソファに座らされていたことで吹き飛ぶ事など無い、だが黙らせるには充分だった。

 

「お前は…何故そんなにも他人の命を些末に扱えるんだ!?

人の命を…いや…自分以外の人間を何だと思っているんだ!!」

 

「わ、私は何も間違ったことなんて…」

 

その時だった。

私達が居る玄関の近くを多くの足音が通り過ぎていく。

それは、それぞれの部屋から出てきたであろう生徒たちだった。

 

「ねぇ、梅の間ってあっちだったよね!?」

 

「うん、間違いないよ!」

 

「急ごうよ!早くしないとウェイル君が…!」

 

多くの生徒が部屋から飛び出してきていたのであろう。

凄まじい足音が一つの方向へと駆け抜けていく。

だが、足音の数があまりにも多い、B型の血液型の生徒がこんなにもいたのだろうか…?

いや、そうでなくても構わない。

これで一夏は助かる。

助かったのちには私も顔を見に行こう。

そう決めた。

 

なのに

 

 

「フザけるな貴様等!」

 

「なんであんな奴を助けようとするんだ!」

 

この二人は、一夏を救おうとしている者達を咎めようとしていた。

襖の向こう側に居るであろう生徒達が足を止めるのが分かった。

 

「あんな奴、救う価値なんて無いだろう!」

 

「そうだ!あんな姑息な卑怯者など見殺しにしてしまえ!」

 

目の前の光景が幻であればと願わずにはいられなかった。

私が見ていたものが、全てが幻だったのか、現実だったのかすら分からなくなってきた。

私が何を見ていたのかが理解できなくなってきていた。

 

「瀕死の重傷を負っているのがアンタたちだったら良かったのにね、そうすれば自分がどう見られているのかが理解できるんじゃないの?」

 

「なんだとっ!?」

 

「普段の言動を考えてみれば?

アンタ達のせいで私達がどれだけ迷惑被っているのか理解もしてないんでしょ?」

 

「それに比べてハース君は立派よねぇ、機械品修理だとかも色々としてくれて助かったし」

 

「そうそう、プロイエットも放課後に貸してくれたこともあったから」

 

「これからの時代に必要な人なのよ、アンタ達とは違ってね!」

 

それが襖の向こう側からの返答だった。

ただその返答だけで、声の主達は再び駆け出していくのが聞こえた。

 

「嘘だろ…なんでこんな事に…?」

 

「なんで…なんであんな卑怯者を助けようとするんだ…!?」

 

それが、お前達との違いだろう。

自分の為ではなく、常に誰かのためにあろうとした者との違い、か…。

 

足音が流れ、生徒達の声も聞こえなくなった。

玄関には、私達三人だけが取り残された。

そんな中、沈黙を破ったのは箒だった。

 

「お願いです千冬さん!

この拘束を解いてください!

もう今しかないんです!

全輝を貶め続けた愚者を討つには今この時しか!

万が一にも奴が助かろうものなら何をするかわからないんです!

だったら、だったらそれよりも奴を討つのが最善なんです!

やらなきゃやられる!だったら確実に奴を討てる今を逃すわけにはいかないんです!

だから」

 

もう、箒の言葉を聞きたくはなかった。

ウェイル・ハースを悪人として仕立て上げ、それを討つ。

コイツの頭の中はそれ以外に何もないのだと理解できた。

 

「全輝、箒、もうじきここに警察が来る。

私にはお前達を引き渡さなければならん」

 

だから、私は冷たい言葉で切り返す。

 

「そ、そんな…お、俺達は家族だろ!?

警察に引き渡すなんて冗談だよな!?」

 

この二人は人間ではなく、正真正銘の化け物だ。

その本性を見てしまった。

 

「千冬さん!考え直してください!

私たちは本当に何も咎められるような事なんて何一つしていないんです!

何もかも奴等のせいなんです!判ってくれますよね!?ね、ねぇ!?」

 

二人の叫びに私は首を横に振る。

見捨てる、というわけではない。

自身の罪に向かい合ってほしいからだ。

そうして、真人間に引き戻さなくてはならない。

 

「いいや、引き渡さなくてはならない。

だから…自分達のしてきた事の全てを正直に話してくるんだ。

そうすれば…少しは罪は軽くなる筈だ」

 

罪を自覚し、償ってくるんだ。

そうすればまた再会出来る日は近くなる。

そうなれば…一夏とも笑って過ごせる日々を取り戻す(・・・・)ことが出来るだろう。

 

全輝は…一夏を嘲笑い、見捨てた。

箒は…理不尽な怒りを暴力として一夏にぶつけ、右腕を骨折させた。

 

6年振りに再会出来ても、ウェイル・ハースを一夏と見抜けず、貶め、突き落そうとし…挙句、今回はとうとう手にかけた。

多くの人が一夏を救おうとしているのを見て、不条理だと叫ぶ。

意識が無い人間を、抵抗もできない相手を始末しようとする。

一夏は…私の知らぬところでどんな地獄を経験していたんだ…?こんな…こんな化け物に囲まれて生きていたというのか…?

だったら…だったら私はどうすれば良い…?

一夏をイタリアから連れ戻した後、安心して生きていけるようにするには…どうすればいい…?

 

新たな悩みが生じた時だった。

旅館の入り口方向から車の音が聞こえてきたのは…。

ガラガラガラと音を立てて扉が開かれ、3人組の男が入ってきた。

 

「失礼、警察の者だが」

 

懐から出される警察手帳。

そこには確かに金色に光る桜花の紋章、そして所属は『国際犯罪対策課』となっている。

終わりの時が来た、私はこれからこの二人を引き渡さなくてはならない。

 

「織斑 全輝に『犯行教唆』『殺人未遂』『侮辱罪』の容疑。

篠ノ之 箒には『暴行』『傷害』『殺人未遂』『殺人委託』『侮辱罪』『肖像権侵害』『外患罪』『外患誘致』の容疑が掛けられている。

連行させてもらう」

 

刑事であろう彼の手には逮捕状が握られていた。

驚かされたのは、かけられている容疑の数だ。

それだけ…それだけの数の犯行を繰り返してきたのだろう、そうやって…多くの人を苦しませては平然としていたのだろう。

 

「判った…二人とも、こちらへ来い」

 

顔を真っ青にさせているが、その二人の様子に気づかぬ振りをしながら二人の手首を掴む。

 

「い、嫌だよ千冬姉っ!」

 

「私も嫌です!何一つ咎められるような事なんてしていないのに何故!?」

 

「言った筈だ、自分達のしてきた事を正直に話してくるんだ。

そうすれば、そう遠くない内に帰ってこられる可能性がある、だから全てを話してくるんだ。

私も近い内にお前達に必ず会いに行く」

 

それでも駄々をこねようとする二人を刑事達に預け、車が発進していくのを見送った。

私はそのまま…車が見えなくなるまでその場に居続けた…。

 

「これで良い、これで良いんだ…!」

 

どこかで情状酌量とてしてもらえるかもしれない。

収監されるのは間違いないだろうが、それでも時間を作って面会に行こう。

そうやって何度も話をすれば、出所も遠くない内に出来ると信じよう。

 

「そうだ、面会の時には一夏も連れて行こう、きっと…、きっと仲直りも出来る筈だ…」

 

そう呟きながら私はソファに横たわった。

疲れ果てたような気がした…今だけは、眠りたい…

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「お願いします!お兄さんを助けてください!」

 

作戦本部に帰還した直後に私は最初にそう叫んでいた。

部屋の襖を突進で吹き飛ばした事なんて今はどうだっていい。

一刻も早く一刻も早くお兄さんを助けたくて必死だった。

アウルで掴んでいる鈴さんを下ろし、彼女の腕に抱きしめられているお兄さんの様子に誰もが顔を真っ青にさせている。

押し入れから布団が担ぎ出され、お兄さんを横たえさせる。

その間にも傷口からは夥しい量の血が流れ、顔色もどんどん悪くなっていく。

 

「待機させていた医療班と無菌室の手配を!

それと輸血を準備して!このままじゃ出血性ショックで死んでしまうわ!」

 

ティエル先生の指示とともに待機していた医療班が部屋に入り、即席の無菌室が展開される。

そのまま傷口の処置が始まる…コレでお兄さんが助かる…。

そう思うと私は安心していた、あとは…お兄さんが無事に目覚めるのを待つだけだと、そう信じて…。

 

「この傷で戦闘をしていたんですか!?

彼は正気ですか!?

ただでさえ内臓が圧迫していた形跡もあるんですよ!?

発見した直後になぜ帰投を考えないんですか彼は!?」

 

ドクターのそんな怒号が聞こえ、ああ、やっぱりと思ってしまう。

普段もそうです、考案や設計のデッサンを始めたらそれ一つに集中し、一晩を机の前で過ごすこともザラにありました。

自分の体の負担を深く考えようとしない、お兄さんの悪癖…。

 

「…変わらないわね、一夏(・・)は…」

 

私の隣に座る鈴さんがそう呟くのが聞こえてきた。

私は極力隠し続けていましたけど、それでも鈴さんは察している様子だった。

もともと、勘が非常に鋭い人だということは資料で知っていた。

だから、どこかで察しているだろうとは思っていました。

それでも(・・・・)、私は頑なに口にはしなかった。

確信を持たせるような言葉を口にしてしまったのは私の反省点。

 

「6年前もそうだったわ、誰かが傷つくのを見るのが嫌だから、自分がその代わりになる。

自分が傷つくのを厭わない、自分が傷つくのを人に見られるのが嫌だから、傷を隠し、距離を空けようとする。

昔も、今も…」

 

6年前から鈴さんが、自分の時間全てを、捜索活動に使い続けた事も私は知っている。

それでも(・・・・)、私は真実を話したくなかった。

話せない事に罪悪感は積もり、話してはならないのだと自戒し続けた。

話せば、必ず(・・)あの人(織斑 千冬)が近付いてくると知っていたから。

だから、話さないと決めた。

お兄さんが、以前の記憶を取り戻さなければ、今までのような生活を送れるのだと、そんな都合のいい話を思い浮かべていたのもまた事実。

待っている友人が居る、それでも…あんな地獄に送り返したくなかった。

ずっと家族で居てほしいから、そう思って今まで演じてきたのに…。

 

「今出来る処置は完了しました、ですが…ここにある輸血の量では足りません(・・・・・・・・・・・)

 

更なる問題が生じた瞬間でした。

お兄さんは2度に渡る戦いの中、大量の出血をしていた、それを補うはずの輸血の量では助けられないと…。

 

「ハース君の血液型と同じ血液型の人が居ればいいのですが…」

 

「「私の血を使ってください」」

 

私と鈴さんの声が重なった。

お互いの声に驚き、互いに視線を向ける。

考えていることは同じでどちらからともなく笑いが零れた。

 

「私たちはお兄さんと同じB型の血液型です」

 

「頼もしいですが…お二人から血液の量だけでも足りないのですよ」

 

「なら、問題ないわ。

私たち二人だけじゃ足りないというのなら、より多くの人から(・・・・・・・・)輸血をしてもらいましょうか。

良いですよね、ティエル先生?」

 

「人命救助の為なら仕方ないわ、旅館に居る全生徒に対し、放送で呼びかけます」

 

鈴さんの発案で旅館に滞在している全生徒に輸血を依頼するということになった。

 

 

『緊急作戦に参加していたウェイル・ハース君が帰還しました。

ですが、夥しい出血を伴っており、このままでは出血性ショック死に至る危険性が危惧されます。

ウェイル・ハース君を助けるためにも処置が必要になりますが、そのためにも不足した血液を補うため、輸血の必要性があります。

血液型がB型の生徒、教職員は輸血に応じてください。

なお、これは強制ではありません、あくまで個人の任意です。

ですが、彼を助けたいと思う人は作戦本部、≪梅の間≫に集まってください』

 

その放送が旅館全体に流される。

今度こそ、今度こそお兄さんを助けられる筈…!

 

それでも、予想外の事が更に起きました。

 

「先生!私の血を使ってください!」

 

「ウェイル君は無事なんですか!?」

 

「ウェイル君に何があって大怪我を負ったんですか!?」

 

…1年生全員が作戦本部に集まってきてました。

絶対に違う血液型の人も来てますよね?

 

「本音が居る…1組の生徒も輸血に応じるつもりみたいね」

 

「接点が無かった人も多く居ると思いますけど…?」

 

「本音が色々と教えたんでしょ、一夏の事を…痛ッ!」

 

輸血用の針が刺されたみたいです。

私も注射が苦手で…

 

「痛っ!」

 

~~~ッ!やっぱり注射は嫌いです!




普段着は普段着が軽装なイメージの姐さん

【挿絵表示】

今作では原作とは違って姐さんは五体満足です。
いつも余裕の笑みを浮かべているのが彼女のイメージ。

続けてティナ・ハミルトンのイメージ画

【挿絵表示】

よき相棒であり良き友人を務めてくれていました。
よくよく見たら原作小説に彼女のイメージ画があったんですよね、それを忘れていたけど、せっかく作ったんだからアップしときます。
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