IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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織斑 千冬の現状
例の二人の逃走幇助をしたと疑われているが、千冬に対しての逮捕令状が発行されていなかった為、旅館に同行させていた婦警を一人待機させ、千冬を見張らせている。


第98話 宵風 夜を越えて

地獄を見た

 

日常的に飛び交う誹謗中傷

 

終わりの見えない迫害

 

当たり前のように振るわれる暴力

 

どこまでも続く逃げられない現実を

 

 

 

それでも俺は、地獄の道を選んだ

 

傷ついてほしくないから

 

代わりに自分が傷ついた

 

傷つくところを見たくないから

 

傷つくところを見られたくないから

 

笑いあった人から距離を取ろうとした

 

 

 

 

地獄を経験した

 

やりたいことを見つけたのに

 

始めるよりも前にその道を断たれた

 

家族だと思った人は他人だった

 

 

 

 

地獄を刻まれた

 

帰る場所など無いと知ったから

 

今居るそこは、光り輝く牢獄なのだと

 

 

 

地獄の底に落とされた

 

伝えたい思いがあったのに

 

 初めて芽生えた感情だったのに

 

  それを伝えられないままに生涯を閉じたのだと

 

認めるしかななかった

 

この世界に、安息の場所など無かったのだと

 

未来への逃げ口を求めていた果てが…後悔しながらの死なのだと

 

 

俺はただ………居場所が欲しかったんだ

 

そして、誰かの居場所になりたかった

 

 

地獄の底に落とされた、その最果ての向こう側には何を見つけた…?

 

暖かな居場所があった。

目覚めた場所では、家族が居た。

血の繋がりなんて無いけれど、そこに居る人達は確かに家族だと断言が出来た。

暖かくて、優しくて、俺に全てを教えてくれた。

自分が誰なのかを見失った俺に、名前を与えてくれた。

帰る場所を用意してくれた。

居場所をくれた。

優しさと厳しさを与えてくれた。

言葉にして伝える大切さを知った。

失い続けていた俺を満たしてくれた。

 

 

 

 

 

 

「俺は…」

 

光が瞼の奥を貫く。

こんな思いをしたのは二度目だ。

あの日、病院の中で目覚めた日と…。

 

周囲を見渡してみる。

此処は…旅館『如月荘』に用意された作戦本部として使用されている『梅の間』だ。

ボンヤリとする頭の中で情報を整理してみる。

 

「………俺は…全輝(・・)に斬られて…それから…そうだ、『白銀の福音』と闘って…血を流しすぎて、気を失ったんだっけか…」

 

夥しい量の血を流したことは明確に覚えている。

なのに俺は生きているらしい、それに関しては現実感が無い。

 

「よく生きてたな、俺は…」

 

コンソールを開き、日付を確認すれば、あれから2日も経過している。

元々のスケジュールを思い出せば、臨海学校の最終日だった筈だ。

あれだけの流血をしていたと言うのに生きているとは………悪運が強いのか、生に執着し過ぎているのかは判断に困る。

6年前(・・・)はどうだっただろうか…?

あの時には…生に執着していたというよりも、悔いを残したまま死を受け入れた。

そう言ったほうが適切だろう。

けど…失った記憶を思い出してしまったが…そんな自分とどう向き合えばいいんだろうか?

織斑 一夏(イチカ オリムラ)』として生きていたのは確かだ、だけど再びその名を名乗ってまで今後の人生を生きていたいとは到底思いたくない、考えたくもない。

詳しい事は判らないけど、故人として扱われているだろうし、そもそもあの頃の名前にも思う所も、執着も、未練も無い。

叶うのなら、今後も『ウェイル・ハース』として生きていきたい。

だけど…

 

「考えがまとまらないな…こういう時には釣りをしよう」

 

うん、名案だ、早速そうしよう。

 

思い立ったなら早速行動を始める。

点滴の針を引き抜き、大げさな包帯を引っぺがす。

メルクが置いてくれていたであろう、着替えに腕を通す。

だが、メルク本人が居ないところを見るに、もともとの部屋に戻っているのかもしれない。

モニターを開き時間を確認してみれば…生徒の皆の起床時間よりも随分と早い、深夜3時だ。

俺の足が向かう先は、先日にも釣りを堪能した絶好のスポットだった。

時間帯こそ違うから、釣り具合はどうなるかは判らない。

だけど、いろいろと考えることもあるから、そういう意味合いでは好都合だった。

 

「深夜3時半か…」

 

拡張領域に収納していた釣り竿を展開させる。

念のため、釣り竿の調子を確認しておく。

 

「リール…良し、ラインは普段と変わらないな…。

ルアーは…今日はコレを使ってみるか」

 

気分を落ちつけたくて釣りに行こうとしているのに、早くも気分は高揚してきている。

やっぱり、釣りは良いよなぁ…。

学園にいる間は釣りが全然出来なかったからなぁ。

 

「良し、行くか」

 

向かうべき場所は先日の絶好の釣りスポットだ。

起床時間までに戻ってくればそれで大丈夫だろう、そうすればメルクにも鈴にも心配をかけることは無い…、筈だよな…?

 

クーラーボックスも取り出し、最後にキャップとバイザー型サングラスを装備…しようかと思ったが、思った以上に視界が暗くなるのでやめた。

普段から使っている眼鏡を取り出してそれを着用しておこう。

これで準備完了だ。

 

極力足音を立てずに玄関に向かい、靴箱へと向かう。

 

「くー…くー…」

 

「………………」

 

玄関付近のソファの上で、見たくもなかった実姉が横たわっているのを見つけた。

最後に会話をしたのは…6年前のモンド・グロッソでの試合前日の夕方だったのを思い出す。

それも電話越しだったか。

 

あの時、話したいことがあった。

伝えたいと思ったことがあった。

だけど、実際にはどうだっただろう。

俺の言葉を何一つ聞かずに電話を一方的に切っていた。

 

モンド・グロッソ当日はどうだっただろうか。

俺は誘拐され、誘拐された先のヘリの中で試合映像を見せられた。

そこに、この人は映っていた。

この人はあの時にどう思っていたんだろうか。

俺の身に何かがあったのを、この人は知っていたのだろうか…?

自身にとって人質とはなりえないと考え『見捨てた』のだろうか?

家族ですらないと思って『捨てた』のか、人としてすら見ずに『棄てた』のか。

いずれにしても、この人からすれば俺が目障りで仕方なかったのだろう。

だから、緊急作戦を介して俺を殺そうとした。

『俺』が俺であると確信したうえで、自分の手だけは汚さずに、俺を殺そうとした。

俺が学園に居る間も、この人は何があっても動こうとしなかったのだから、その程度は察する事が出来る。

腹立たしいとは思ったが、それだけだ。

今となっては、『赦す』も『赦さない』も何もない。

 

 

 

 

俺とこの人は他人でしかないのだから。

 

 

 

 

「さて、行くか」

 

この人とは会話もしたくない、視界に入れたくもなかった。

先日にも来た釣りのポイントまでは小型艇(釣果上々号)での移動だった。

ビーチから歩いても行けるが、水上都市に住んでいる者としては、こちらのほうが手馴れてしまっている。

 

 

 

 

「夏とはいえ、この時間帯は涼しくて良いよな」

 

到着早々、竿を伸ばし、ルアーを海面に投げる。

ポチャンと波紋を広げ、その数秒後には

 

「ヒット!」

 

いい手応えが返ってくる。

竿がしなり、その重量が手に伝わってくる。

動きに合わせて竿を左右に揺らし、疲労に合わせて持ち上げつつリールを巻く。

何度も繰り返し慣れた手作業の果て、海面から顔を覗かせた獲物を網で掬いあげる。

 

「黒鯛、大きさは…57cmってところか…!」

 

ルアーの針を外し、クーラーボックスに入れる。

そしてルアーを再び海面へと放り込んだ。

 

「入れ喰いだな…!」

 

わずか2秒で次の獲物が喰らいついていた。

これは、今日も今日とて爆釣日和のようだ。

今日も今日とて釣りを堪能するとしようか。

 

 

その数十分後には…クーラーボックス15個目に突入していた。

ボートはまだ少し余裕があるから大丈夫だろう、そう思っている頃だった。

 

「やっぱり此処に居たのね」

 

釣りポイントに訪れる人影があった。

 

「…鈴…」

 

一度、視線を向けるが…すぐに反らした。

何もかも思い出してしまった以上は…彼女にどんな視線を向ければいいのかがよく判らない。

先日までは、気心の知れた良き友人と思っていたが…今ではどうにも視線を合わせ辛い。

糸を垂らした先を見ていれば、なんて思ったけど、こんなタイミングで食いつきが無くなった。

 

「旅館じゃちょっとした騒ぎになってるわよ、アンタが忽然と姿を消しちゃってるから。

メルクも大泣きしてるし、ティエル先生は発狂寸前で」

 

「それは…申し訳ない、この魚で詫びの代わりになれば良いんだけど…」

 

「直接謝りなさいよ」

 

背中に触れる温もり、視界の端で確認してみれば、鈴が背中合わせに座ったらしい。

こんなことが以前にもあったな。

あれは、近くにあった釣り堀店での事だったと思う。

あの時はどうしたっけ…店のスタッフに頼んで魚を捌いてもらったりしたっけか。

 

弾、数馬、蘭、アイツ等は元気にしてるだろうか?

次に会った時にはどんな顔をすれば良いだろうか?

いや、そもそも逢えるのだろうか…?

 

「どうすれば良いんだろうな…?」

 

左腕のブレスレットに視線を向ける。

アンブラの色彩に合わせ、待機形態のブレスレットは暗い紫にしてもらった。

それが今見れば、銀、緑、茜の三色のラインが走っている。

リンクシステムで繋がっている、今の俺を作ってくれた人達だ。

 

「何を悩んでるの?」

 

「今後の身の振り方について、だ」

 

話すべきだろうか?

だけど、聞かせれば辛いだけだ。

俺が、ではなく…鈴が、だ。

 

「お、釣れた」

 

リールを巻き、一気に引き寄せる…今日は黒鯛がよく釣れる日だ。

釣り上げた獲物から針を外してクーラーボックスに放り込み、ルアーを再び海に放り込む。

今度は…食いつきが悪い…。

 

「手慣れてるのね」

 

「まぁな…釣りのやり方を、人から教わったから。

片手しか使えない場合でのやり方も、さ」

 

…下手なことを言ってしまった、そう思った時にはもう遅かった。

そうだ、鈴は知っていたんだった…俺がかつては右腕を骨折していた事を。

 

「やっぱり、一夏だったのね」

 

「…………」

 

だから、何も言い返せなかった。

視線を合わせることも出来なかった、申し訳なかったとは思う。

だからと言って、背後から胸元へ回される腕をふり払う事も出来なかった。

肩に顎を乗せてくるのもそのままにしておく。

今は彼女の好きにさせておこうと思う。

 

「鈴は…釣りは好きか?」

 

「話すべきことがそれ…?」

 

こんな事態になるのは初めてだから、なんて言えば良いのかわからないんだよ。

 

「俺は釣りが好きでさ、イタリアのヴェネツィアでは毎週末は釣りをしていたんだ。

魚を釣り上げ、それを家に持って帰れば父さんも母さんも、もちろんメルクも喜んでくれてさ。

家で飼ってる猫のシャイニィも居て、さ」

 

鈴は俺の背に抱き着いたまま静かに話を聞いてくれている。

だから、俺はそのまま話すことにした。

 

「釣りをする場所にも多くの人が集まっているんだ。

年上のオッサンばっかりだけど優しい人が多いんだ。

そこで釣り糸の結び方とか、魚の見分け方とかいろいろと教えてもらったんだ。

メルクにも優しくしてくれていて、俺としても感謝しているんだ」

 

「そう、今は温かな場所に居るのね…」

 

本っ当にそう思うよ。

鈴達が居る場所からは遠く離れている場所だけど、今ではそこが自分の居場所だと本心で言えるくらいには。

それでも、何かが足りないと思っていた。

満たされている、なのに何かが欠けている。

そんな矛盾した感覚がしていたこともまた事実だった。

沢山の人の中で誰かを探してしまっていたような時も確かにあった。

 

「いつか…いつの日か、鈴にも家族と一緒に紹介するよ」

 

「そ・の・ま・え・に!」

 

「…うぉおっ!?」

 

視界が90°横に傾き…そのまま仰向けにされた。

釣り竿は…何とか手放さずに左手で握っていた。

 

「おい、鈴…何を?」

 

驚く俺を目にしながらも鈴は俺の腹の上に跨ってきた。

 

「あの日の事も、覚えてるんでしょ?」

 

水平線の向こう側から太陽が昇り、俺達を照らす。

あの日は、黄昏の茜色に染まる中で、鈴からの告白を受けた。

そして俺は…返答を保留にし、その翌日であの出来事だ。

 

見上げれば、鈴の顔は朝日に照らされた中でもハッキリと判るくらいに真っ赤になっている。

 

ああ、思い出したよ

 

いや…夢の中の光景として幾度も見た

 

「あの時の告白は嬉しかったよ…だけど、俺はもう『織斑 一夏』として生きていきたいとは到底思えない。

もともと、その名は捨てて、別の誰かとして生きていくつもりでいたんだ」

 

「知ってたわよ、アンタが別の誰かになって、誰にも何も言わずに消えようとしてたくらい…。

私も、数馬も、蘭も、弾も…でも、私達に何も言わずに消えようとしてたのを理解は出来ても、納得なんて出来なかったわよ…」

 

知られてた、ということは部屋の中を見られていたんだろうな。

今となっては燃え落ちているらしいから、あの日以降のどこかで部屋に入ったのかもしれない。

 

「すまなかった…安直な事を言えば…記憶喪失ってやつになってたんだ…」

 

もう、いいか…話しておこう。

 

「誘拐され、鎖で縛られたまま海に放り投げられ、半死半生の状態になってヴェネツェイアの運河にまで流れ着いていたんだ。

そこで、メルクに助けられたが…そのまま1年以上も意識不明の昏睡状態になっていたんだ。

救われた翌年の冬に目覚めたまではよかったかもしれないが、すべての記憶を失い自分が何処の誰かも判らなかった。

『ウェイル』の名も、目覚めたその日に与えられたんだ。

『ハース』の姓は…俺を養子として引き取ってくれた家の名前だ。

そのまま俺はハース家の長男、メルクの兄となったわけだ」

 

皮肉なもんだよな…。

自分の名を変え、自分が知る人が誰も居ない場所、自分を知る人が誰も居ない場所で生きていたいと思ったが、自分の記憶を引き換えにそれを叶えてしまったんだから。

 

「誘拐されたときに、何があったのかは知らないし、今更知ろうとは思わない。

あの二人は、家族ではなく他人だ…あんな光り輝く牢獄に帰りたいとは思わない」

 

そうだ、俺にはもう帰る場所がある。

イタリアに、ヴェネツィアに…。

 

「俺は、あの街に戻ろうとは思っていない…だから…」

 

「そう、安心した…」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「そう、安心した…」

 

あの場所に未練を持っていたら、メルクは悲しむだろうと思っていた。

だけど、その懸念は杞憂に終わった。

帰る場所が、暖かな居場所があるのだと判ったから。

優しい家族がいるのだと納得できたから。

 

「それで…私の決死の告白の事は覚えているわよねぇ?」

 

話を逸らすのが上手くなってるみたいだけど、絶対に逃がさないわよ?

まだ逃げようとしたら…最終手段として甲龍を展開することも考えないとね!

毎日アプローチをして骨抜きにしてやる、そんな風に考えていたけどもう待ってらんないのよ!

 

「………お前、性格変わってないか?」

 

「た、多少変わるには充分過ぎるほどの時間よ!」

 

「…いや、やっぱり変わってないよ、鈴は…顔が真っ赤になってるぞ」

 

「だ、誰のせいだと思ってるのよ!」

 

ハハ、と少しだけ笑う。

あの時には滅多に見られなかった彼の笑顔に私も自然と笑いがこぼれた。

 

Quindi forse sono attratto da te...(だから、俺はお前に惹かれたんだろうな…)

 

ポツリとウェイルが何かを呟く。

でも、イタリア語で言ってるせいで何を言っているのかがさっぱり判らない。

陰口を言ってるとかじゃないだろうけどさ…。

 

「それと鈴」

 

「な、何よ?」

 

「その姿勢でいるのなら釣竿を見てくれないか?

さっきから糸が引いてる」

 

ウェイルが左手で握る竿の先、釣り糸の更に先、海面で浮きが強く反応していた。

 

「ちょっ!それを先に言いなさいよ!

あ~も~!仕方ないわね!」

 

竿をウェイルの手から奪い、ウェイルの動きを見様見真似で引き寄せる。

糸をまくためにリールを握ろうとしたけど、アレ?リールをつける方向が逆になってる!?

 

「なんでこの方向でリールが付いてるのよ!?」

 

「俺が左利きだからだよ、利き手に合わせて調整をするのは常識だろ?」

 

…そういえばそうだったわね!

それよか、膝立ちで竿を振るのはやり辛いからさっさと立ち上がり、思いっきり竿を振り上げる。

それでも…何なのよこの手応えは!?

 

「大物だな、竿の動きは魚に合わせるんだ。

ラインを巻くのは、相手の動きが大人しくなったタイミングに一気に巻く。

暴れている時に引こうものなら、ラインが切れるからな」

 

竿を握る私の手に重なるように、ウェイルが後ろから手を回してくる。

釣竿を握るのにも慣れているらしく、少しゴツゴツしてるのを感じた。

 

「アンタ、メルクにもこういう事してるの?」

 

「いや、してないが…」

 

ふ~ん、なら私はメルクよりも近くに感じられるって事かしら?

フフン、ちょっと優越感♪

 

それから魚を釣り上げるまでは10分近くかかった。

…マグロが何でこんなところで釣れるんだか…?

 

「さて、そろそろ帰ろうか、起床時間が近いだろうから」

 

「それもそうね」

 

クーラーボックスとマグロをボートに乗せ、私もボートに乗り込んだ。

朝日に照らされるウェイルの白い髪を横目に、眼下にはでっかいマグロ。

さっきまでの緊張した雰囲気はどこに行ったんだか…。

私の決死の行動っていったい…

 

「ねぇ、あの時の…その、告白した件なんだけど…」

 

「俺は『織斑 一夏』じゃない、もう別の人間だ」

 

堅ッ苦しい!その上に複雑に考えすぎなのよアンタは!

だから私は強硬手段、その1に出る。

 

「あのねぇ!乙女のファーストキスまでしてるんだから話を誤魔化そうとしないでよ!」

 

「いや、ファーストキスって、あの時には頬だっただろう、あれはカウント外って…ちょっ待て何をする気…」

 

強硬手段その2!

私はそのままウェイルの両肩をつかみ…

 

「頬がカウント外って言うのなら、これで文句は無いでしょう?」

 

「お、おう…」

 

ウェイルの顔は髪の色と対になるように真っ赤になっていた……多分、私も同じことになってると思うけど。

 

「ハハ…本当に大胆になったよ、鈴は…」

 

「ここまでしたんだもの、返答を聞かせてもらわなきゃ納得なんて出来ないわよ」

 

「…………俺の負けだ、いや、6年前にはそうなっていたな……家族にはなんて言えばいいんだろうなぁ…」

 

変な形になったけど、この日、私の恋はようやく成就した。

妙にロマンチックな形を求めるよりも、こういう気楽なほうが私たちらしいのかもしれないけどね。

 

それからボートで旅館に戻り、マグロと大量のクーラーボックスを台車に乗せて戻ろうとしたところで、異変に気付いた。

旅館の入り口付近にパトカーが来ていた。

 

「ウェイル、ちょっと隠れて」

 

「お、おう」

 

別に何か悪いことをしたわけでもないけれど、この異変には妙だと思わざるを得なかった。

望遠機能だけを起動させ、旅館の入り口を注視してみる。

昨日も警察が来ていたけど、連日何の用かしら?

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

世の中、うまくいかない事ばかりだと思った。

この半年にも満たない期間はその連続だった。

 

信頼を失った

 

権限を失った

 

職を失った

 

帰る家を失った

 

財産を失った

 

自分を築き上げていた全てが失われていった。

 

 

遠く離れた場所で見つけられた弟を取り戻せると…一緒に暮らし、笑いあえるの生活を得られると思っていた。

なのに…全輝が一夏を手にかけた。

それも、故意に。

 

二人の絆を証明する為、私が作り出した刃は、想像し得る限り最悪の結果を作り出してしまった。

 

そうだ、あの日の事件も…。

それを招いていたのが全輝である事すら知らなかった。

6年前の事件でも、全輝が全てを隠匿していた事も、何もかも…。

 

無かった事には出来ないが、それでも罪を贖い、再び一緒に過ごせる日を夢見ていた。

なのに…

 

「織斑 千冬、『犯人隠避・逃走幇助』並びに『テロ資金提供処罰法違反』の容疑で逮捕する」

 

その夢が壊れ、私は…最後の希望をも失う事になるだろうとは考えてもいなかった…




加賀 明人
千葉県警国際犯罪対策課に勤める刑事部長、40才。
強面の鬼刑事だが、部下達からは慕われている。
実はかなりアルコールに弱く、飲み会の場などでもソフトドリンクを選ぶようにしている。
今度は千冬を逮捕するためにキッチリと証拠と逮捕令状をもって再度旅館へやってきた。

滝沢 昴
同じ課に所属する刑事、33才。
剣道師範も努めており、かなりの実力者。
他にも合気道、空手、組打術などもマスターしている武闘派。
嗅覚が鋭く、タバコと香水の類が非常に嫌い。
その為、焼き肉屋なども苦手だったりする。

下澤 菖蒲
同じ課に所属する女性刑事、25才。
つい先日まで白バイを乗り回す交通機動隊に所属していた。
箒の逮捕の為に駆り出された。
白バイの運転技量に関しては並だったが、射撃の腕は全国トップクラスであり、記録もいくつか残している。
毎日栄養満点の自作弁当を作っており、ヘルシー&ビューティな女性。
女尊男卑の風潮の影響で、年の離れた弟を喪った経験がある。
その為、その風潮を蔓延させている利権団体や時代の象徴とも言える千冬を憎んでいる。
仕事とは言え、手錠越しに織斑千冬を見張ることになったことに関しては頭痛のタネになった。
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