いや~待ってた甲斐がありましたよ。
それにしても…ストフリ君、居心地悪そうだな…かつての敵機に挟まれてるんだから…。
ウェイルを見送り、私はその日、中国大使館に宿泊することにした。
ホテルでも良かったのかもしれないけれど、安全の為ならこちらのほうが良さそうでもあった。
その日の夜だった。
「招待状ですか?」
大使館職員から渡されたのは一通の封筒だった。
「そうだ、だが実際にはイタリア大使館の総領事から君を指名しての召喚要請だ。
何か心当たりでも?」
「う~ん、いえ、ちょっと判らないです」
正式には召喚要請らしい。
呼び出される心当たりが何一つない、とは言えないけれど…。
でもこんな風に大使館を挟んで呼び出されるとは思ってもみなかった。
「イタリア側はこれを渡すときにはどんな表情でした?」
「そうだね…少なくとも悪い印象を持っている様子は見えなかったよ。
だがどちらかというと、好印象を持っているかのようだったよ」
悪い印象を持たれているようなことはない、か。
それでも態々私を呼び出そうとする理由がやっぱりよく判らない…ウェイルの関連だろうかとは思うけれど…。
…深刻な事にならなければいいなとは思うんだけど…。
「…判りました、明日になったらイタリア大使館に行ってみます」
臨海学校の前にもイタリア大使館には行ったことがある。
あの時にはわざわざ館内からの直接の呼び出しだった、それが
その日の夜はシャワーを浴びた後に早々にベッドに飛び込んだ。
考え事が原因となって眠れなくなるんじゃないのかと思ったけれど、アッサリと眠りに落ちた。
朝、朝食をとってからバスに乗り込み、イタリア大使館へと赴く。
だけど、そこには思わぬ人物が居た。
「あら鈴ちゃん、もしかしてお呼ばれしてたのかしら?」
「えっと…こんにちは」
楯無さんがそこに居た。
見慣れた学生服ではなく、スカイブルーのレディーススーツを着ている。
その隣には、当然とでも言えばいいのか、簪も同行している。
「もしかして二人も呼び出されてる、とか?」
私は鞄に入れていた封筒を見せれば、二人も同じような封筒を見せてくる。
「生徒会長として、生徒全員を見送る義務があってね、それでホテルに残っていたんだけど、そこにコレが届けられたのよ」
簪も隣でコクコクと頷く。
姉妹というだけあって仲が良いらしい、私は一人っ子だからこういう点は…ああ、でもメルクとウェイルを見ればわかりやすいような気がする。
あの二人が異常なのかもしれないけれど。
でもまあ、二人は暢気だからか、イタリアに帰っても相変わらずの日々を過ごしているのかもしれない。
そうだったらいいとは思うけれど。
「あら?鞄は返せていないの?」
「返しそびれて…」
そう、昨日はせっかくいろいろと話をしたのに、一夏のカバンを渡しそびれてしまっている。
会える日が来たのなら、必ず渡す。
6年前からそう意気込んでいたのにも拘らず…何やってるんだろう、私は…。
近いうちにイタリアに渡ってみようかと思っておけばいいか。
「さて、ここで話をしていても進展はしそうにないし、さっそく大使館にお邪魔してみましょうか」
今回もまた大使館側から呼び出されているということもあって、招待状を見せればほとんど顔パス状態。
ロビーに通され、紅茶を出してもらえたけれど、そこからは暫く待たされる事になった。
周囲を見回しても見るものなんてそんなに無い。
イタリアなんて行った事も無いから、この大使館に勤めている人がどんな場所からやって来たのかとか考えてみるけれど、あまり想像もつかない。
ウェイルとメルクが暮らすヴェネツィアは、水上都市ということもあり、なんとなくは想像がつくんあだけどなぁ。
「さて、どうやら少し待たせてしまったみたい
ボンヤリと窓の外を見ていれば、ロビーの奥から女性の声が聞こえ、そちらへと視線をむける。
そこに居たのは…
「…ア…アリーシャ…ジョセスターフ…」
二代目ブリュンヒルドと謳われた、その人がそこに姿を現していた。
いつか、いつの日か、対面する日が来るのではないのかとも思っていたけれど…。
「この度は…
「や、やっぱり、ウェイル達の姉って…」
「当然、うっかり口を滑らせてしまった事も知っているサ、その時から勘付いている事も含めて」
視線を向けられただけで串刺しにでもされたかのような、そんな錯覚すら感じてならなかった。
でもそれは、私だけじゃなかった。
隣に座る楯無さんはと言うと…顔が真っ青だった。
「お姉ちゃん?どうしたの?顔色が凄い事になってるけど…?」
「な、なんでもないわ、気にしないで!」
「『なんでもない』なんて言ってられるような事じゃ無いだろうサ。
数年前は私の周囲を飛び交っていたってのに」
「…!…!…!?」
蒼褪めていた顔が更に変色し、紫色になりつつある。
もうチアノーゼでも起こしているかのように思えてならない。
「気付かれていない、そんな都合のいい話があるわけないだろうに」
「ご、ご尤もです…」
「一人残らず叩き返しておいたが、その分の返礼は気に入ってもらえたサね?」
「そんなわけないでしょ…」
言葉の途中で楯無さんが音もなく気絶した。
いったい何があったんだか…。
近くのソファに寝させ、私と簪だけで相対することになった。
「さてと、私がこうやってこの極東の最果てにまで来たからには、要件は理解しているとみて良いだろうサ?
特に、凰 鈴音」
「…はい…」
視線が再度私に突き刺さる。
その視線は少しだけ怖い、まるで…こちらの心の底を既に見透かしているかのようにすら感じてしまう。
「ウェイルとメルクの事、ですね?」
アリーシャ女史は軽く頷き、柔らかく微笑む。
それこそ無邪気な子供の様に、だけどその視線は確かにこちらへと突き刺さっている。
ここで私がどう動こうと確実に仕留められるのは明白、実力が違いすぎる…!
「どこまで知った?」
「…何もかも全て、です。
6年前のモンド・グロッソの中で画策されていた陰謀、フランスに責任転嫁した日本政府、全てを知りながらも、それでも何もしなかった織斑全輝。
鎖で縛られたまま海に蹴り落されたこと、自分の過去の記憶をすべて失った形でイタリアで目覚めた事。
イタリアで、『ウェイル』と名付けられ、ハース家に引き取られた事。
その他にも色々と伺いました」
「…そうかい…記憶を取り戻したのなら、ウェイルがそうするだろうとは思っていたサ。
あの子達には…辛い話だっただろうけどサ」
ため息を一つ、ただそれだけの筈なのに、雰囲気が柔らかくなったように思える。
刺々しい、殺気が
だけど、まだ息が苦しい…!
「なら、私も白状しとくサ。
凰 鈴音、アンタが6年前から
その情報を…私はシャットアウトしていた」
見つからなかったのはコレが原因か。
確かに私は必死に捜索していた。
自分の時間を全て使い切ってでも、必死になって探し続けた。
時には、学校の遠足だとか、修学旅行だとか、そういった類の行事でも、旅先でも捜索活動を続けた。
でも、見付かる筈が無かった。
国境も、海をも遥か超えた更にその先、欧州に居たのだから。
日本を出て、中国で軍に入って、それでいろいろと調べたけれど、それで知る事が出来たのは、日本政府の腹黒さだけだった。
ウェイルの存在を知る事が出来たのは、今年に入ってからだった。
イタリアで男性搭乗者が発掘されたこと。
もしかしたら、もしかしたらと思い、またこの日本にまで飛んできた。
実際に出会った人物は、目当ての人とは外見が大きく違った。
ハーフフレームの眼鏡に、雲のように白い髪。
それでも『違う』とは言えなかった、『一夏だ』とも言えなかった。
だから、確信を持てるまで傍らで視線を向け続けた。
そして…捨てずにいた希望が、現実になった。
「少なくとも、ウェイルが成人年齢になるまではアンタには秘匿しておこうと思っていたのサ」
「それは、何故…?」
「アンタが勘付けば、必ずあの女にも繋がるからサ」
それが誰を指すのかは私も理解が出来ている。
確かに、執着心を剥き出しにしてでも動いていた可能性は極めて大きい。
ウェイルは織斑千冬を嫌悪していただろうけれど、それはあくまでウェイルの都合であり、織斑千冬の都合ではない。
いや、だとしたら…まさかとは思うけど
「あの馬鹿三人に、ウェイルたちへの接触・干渉禁止の命令を出していたのは…貴女、ですか…?」
「正解、首相と法王にも協力してもらった甲斐があったサ。
ウェイルの知り合いでもあるから、あっさりと協力してもらえたサ」
もう頭がパンクしそうだった。
二代目ブリュンヒルデからは弟妹扱いされているだけでなく、首相とローマ法王と知り合い…?
どういう人脈してるのよ…?
「まあ、ウェイルのバックにいるのはその二人だけではないという事も念頭に入れておいてほしいサ。
…そこで寝たフリをしている暗部の長もね」
「…ヒィッ!?」
…起きてたんだ…。
アリーシャ代表の鋭い視線で突き刺されたりしたらそういった悲鳴を上げるのも無理はないと思うけど。
いったん気持ちを落ち着けるためにも、紅茶を一口飲む。
なかなかに深い味だとは思う、紅茶に対しては詳しくはないけど。
「さて、それでは次の本題に入るとするサ」
アリーシャさんの視線がさらに鋭く変わり、楯無さんを射抜く。
ようやく気絶から復帰できたのに、哀れな事にもまたもや顔色が真っ青に。
今日はとことん厄日らしい。
簪も恐怖を感じ取ったのか、楯無さんの隣から、私の隣へと逃げだしてきている。
「先の事から続いているが、あのクソガキ共は国際指名手配してまで、国際司法裁判所で裁くとしているが…アンタ達日本政府は、あのクソガキ共をどこに隠した?」
「知らないです知らないです!本ッッ当に知らないんです!
警察に逮捕された千冬さんが知っているでしょうけど!頑なに『知らぬ存ぜぬ』の一点張りなんですってばぁっ!」
「…チッ!往生際が悪いサ、あの女」
アリーシャさんが殺気をむき出しにして楯無さんにぶつけているけど、話は一向に進まない。
どうやら本当に未だにあの二人は逃げおおせて居るらしい。
どこに行ったのかは私だって判らない。
帰る場所でもあった家は焼け落ちているし、学園も全ての校舎が倒壊し、隠れる場所はあっても、やり過ごせる場所でもない。
新宿は…論外ね。
「アンタ、まだ隠し、庇おうってのサ?」
「冗談言わないでください!
私達は本当に知らないんです!
あの人が!あの二人をどこに逃がしたのかはこっちだって知りたいくらいなんですから!」
暗部にも知られないように隠して逃がし、その上で知られないようにするのは相当な腕前だとは思うけど、それで自分ひとり逃げるのを忘れるとかマヌケだとは思う。
『犯人隠避・逃走幇助』とかあの時の刑事さんは言ってたっけ。
警察が追っている犯人と思しき人物に対し、逃走経路、逃走するための費用、宿泊場所を与え、警察の捜査を妨害する犯罪。
それを織斑 千冬は実行した。
何の為なのか、全輝を守るためだというのは明白。
以前からそうだった、全輝を信頼し、決して一夏にはそうしなかった。
第1回大会の時もそうだった。
一夏を助ける事もせず、探しもせず、ただただ塞ぎ込んでいただけだった。
第2回大会の時もそう。
全輝を助けた。
それは明確なまでに二人に対しての扱いの差だと言える。
「ほほう…アンタもあのクソガキ共を庇おうってのサ?」
「違います違います違います!お願いですから信じてくださぁいぃっ!
こっちだってあの二人の行方を捜索している途中なんですからぁっ!」
「それはそっちの都合サ…!
私は弟が殺されそうになったのはあんたも知っているだろう?
相応の落とし前をつけてもらわないと到底怒りが収まらないサ。
ウェイルの友人たちも相当にご立腹サ……!!!!」
「ヒイイイィィィッッ!!!?」
アリーシャ・ジョセスターフ選手がウェイルの姉だということは、トーナメント戦の時に訪れたヘキサさんは影武者みたいな存在だったのかもしれない。
血の繋がりなんて一切無いのだろうけど、ウェイルは良い家族に恵まれているらしい。
あそこまで怒らせると怖い人も居るみたいだけど、それはまた別の話ということで…。
「ウェイルのお友達ってどんな人が居るんだろうね?」
「う~ん、ウェイルのことだから釣りを起点にして広がってたりするんじゃないかな?
臨海学校でもそんな感じの事を言ってたし」
何しろ廃材で釣竿を作り上げてしまう程に無駄な謎の技術を見せているほどだったし。
「でも首相やローマ法王とも知り合ってるってどういう事なんだろう?」
「さあ?そればっかりは判らないわね。
もしかしたらとんでもない人脈を作り上げていたりして…なんてね!」
「それは流石に現実感が無いよ」
ウェイルから貰った釣り竿はまだ私の手元にある、気が向いたら使ってみよう、ルアーももらってることだし。
「はい、1、2、3…」
「アダダダダダダダダダダダダダッッ!ギブッ!ギブアップゥッ!
ホントに!本ッッ当に知らないんですってばァっ!!!!
テンカウントなんてしなくていいですからっ!!!
鈴ちゃんっ!簪ちゃんっ!助けてェッ!!」
…楯無さんはといえば…思い出に耽っている私達の眼前で…
うわ…痛そう…。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「うぅ…ひどい目に遭った…」
アリーシャさんに関節技を次々に極められ、全身が痛い。
家族が殺されそうになった怒りはそれ相応に理解できるけど、こんな八つ当たりしなくても…。
日本暗部に恨みを持っていることも理解はしてるから、「これで見逃してやる」という意思表示も込められていたかもしれないけれど、もうちょっと手加減して…。
そんな考えをしながらも肩をグルグルと回す。
関節を任意に外すだなんて非常識な芸当も私は持ち合わせていないので、歯を食いしばってでも耐えるしかなかった。
わたしがあれだけ悲鳴を上げても警備の一人も来なかったのを鑑みるに、事前に話を通していたかもしれない。
変なところで狡猾だわ、あの人。
「でも、お姉ちゃんがあそこまで悲鳴を上げてまで否定したって事は、日本政府や暗部は関わってないんだね」
「どういう基準で判断してるの!?」
「だってアンタ、初対面の段階でハニトラしてたんでしょ?」
ぐうの音も出ないわ…それもバレてたなんてね…。
八つ当たりにオマケのジャーマン・スープレックスまで追加されたんだから蒸し返さないで……。
「政府はともかく、暗部は関わってなんかないわよ。
あの人達を庇ったところで百害あって一利無しよ、早々に縁を切って正解だったわ。
それに、今後の私たちの方針は理解しているでしょう?」
「どういう意味?」
鈴ちゃんは理解が出来ていないのか首を傾げている。
まあ、これは秘匿しておかないといけない話ではあるんだけども…まぁ、鈴ちゃんには話しておこう。
「我々暗部は暗い方面での仕事を生業としているわ。
でもね、忍者のように近いことはしているけど、雇い主を選ぶ権利もあるのよ。
無辜の人を自分達の都合で切り捨て、他者を平然と地獄に落とし、見て見ぬ振りを続けるような暗愚に仕え続ける理由はないの」
そういった事を平然と繰り返す者は『必要な犠牲』だの『仕方ない』の少ない言葉で犠牲者を無作為に作り出しては、すぐに忘れ、無かった事にしようとする。
『犠牲にされた』側の都合や気持ちを考えず、ただただ搾取し続けている。
それを『平然と繰り返す』者こそ、時に切り離すべきだとは思う。
「以前からある所からスカウトがあったのよ、そっちに鞍替えをする予定なのよ。
今後は会う機会は極端に少なくなるかもしれないわね」
「ふぅん、鞍替えって何処に?」
「後ろ暗い場所じゃないわ、それだけは安心して」
スカウトをしてきたのは、私達と千冬さんを隔絶させてきた勢力。
すなわちイタリア、近いうちにそちら側へ飛んでいくことになる。
もしかしたらウェイル君とも逢えるかもしれない、それも目的ではあるけどね。
「あの女はどうなると思う?」
「どうにもならないわ、そう遠くないうちに裁判にかけられる。
『犯人隠避・逃走幇助』『テロ資金提供防止法違反』の裏付けもされ、証拠も警察は掴んでいるもの。
どうあがいても『知らぬ存ぜぬ』は押し通せないわ、実刑を受けることになるでしょう」
「なら、あの二人は?」
今度は簪ちゃんからの質問だった。
これに関しても当然の如く私は応える。
例の二人にも実刑判決が下されるのはほぼほぼ確定事項といっても差し支えないものね。
「織斑 全輝は『侮辱罪』『犯行教唆』『殺人未遂』『逃走罪』などがあるから、懲役刑が最低でも付くでしょう。
篠ノ之 箒は数えきれないほどの『暴行』『傷害』事件を起こし、学園に編入して以降もそれが繰り返されているわ。
それだけでなく学園の備品を故意に破損させている『器物損壊』もあてはまるわね。
後は…ウェイル君の顔写真を本人の許可なくネットワーク上に散逸させた『肖像権侵害』。
『ウェイル・ハースを討て』と不特定多数の人物に命じようととした『殺人委託』。
『ウェイル君が新宿へ向かう』という不正確な情報を露見させて危険勢力を誘導した『外患誘致』。
勿論、ウェイル君の本名をフルネームでテロリストに開示した件と、学園の防衛力が著しくダウンするという情報を不特定多数の人に教えたのは『外患罪』にもとれるわね。
そして最後に『逃走罪』もついてくるわ」
「犯罪行為のオンパレードじゃない…」
鈴ちゃんも流石に頭を抱えている。
私だって頭痛が止まらないわよ、たった15歳の子供がこれだけの行為を当たり前のように繰り返しているんだから…。
しかも反省もせずに、開き直りを続けていたんだもの、何を考えているのやら…。
いえ、絶対に何も考えていないわね。
「『殺人委託』もそうだけど『外患罪』『外患誘致』の二つで既にアウトよ。
この二つはたとえ初犯であっても刑罰は『死刑』が適用されるわ。
心神喪失状態であったのなら減刑が考慮されるでしょうけど、彼女はその兆候がないから、それこそ確実ね。
そもそも現状としては国際指名手配、全世界から追われる身よ。
もう安息の場所なんて残っていないでしょうね」
問題は…どこに逃げたのか、ね。
こればっかりは私達の情報ネットワークでも未だに見つかっていない。
けれど私達はもうじき日本を離れることになる。
あとは国際警察にでも任せましょう。
「鈴ちゃんも早く日本から離れたほうが良いかもしれないわよ」
「判ってます、凛天使による襲撃が起きるかもしれないから、でしょう?」
「それだけじゃないわ」
ここで再び鈴ちゃんが首を傾げる。
う~ん、ちょっと鈴ちゃんを焚きつけてみようかしら?
うん、そうしよう、さっきは助けてくれなかったんだし、ちょっとした意趣返しにはなるわよね!
「私達暗部を新しく雇ってくれたのはイタリアよ。
だ・か・ら、ことと次第によってはウェイル君を籠絡出来るかもしれないもの♡」
「何考えてんのよアンタはぁぁぁぁっっ!!!!」
「さあ簪ちゃん、走るわよ!タクシーは手配してるからこのまま空港まで一直線よ!」
「え、ええ!?」
そのまま一気に走り抜け、呼び出していたタクシーへと飛び乗った。
やっぱり鈴ちゃんには元気が一番似合うわね、どうかその明るさをずっと持っていてほしい。
そして、またいつか逢いましょう
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
少しだけ、過激な行動をしてしまったことは否めないサ。
だが、あそこまでしなければ暗部の本音を吐き出させる事は出来ないだろうとは思っていた。
「どうやら、日本暗部は何も掴めていないみたいサ」
あのクソガキ共は、スパルタクスと暗部が連れ去った。
そして、織斑千冬の口座から掠め取った資金は、国際指名手配されているテロリスト『シーリア・ウェルディーヌ』のもとへと流れたことになっているが、その実はあのアホウサギの研究資金として横流しされている。
その真実は、暗闇へと葬られ、誰の目にも届かない。
さて、これで奴らには何も残されていない。
帰る場所も無い
帰りを待つ人も居ない
手にしていたもの全てを失った
何かを求め、手を伸ばそうと、砂のように零れ落ちていく
待ち受けるのは、誹謗中傷と罵倒
冷たい視線と憎悪
飢えと渇き
暴力と迫害
ようやく、ここまで辿り着いた。
「…さあ、私もイタリアに帰るサね…」
今からでも1つ遅れた便で飛び立つ事が出来るだろう。
シンガポールでもしかしたら合流できるかもしれない、そうなれば一緒に帰ろう。
なにしろ、欧州統合防衛機構が次の動きを世界に打ち明けているのだから。
弟妹達を守る為に、私も動かなくてはならない。