IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q.旧織斑家の敷地ってどうなりますか?
P.N.『マりヴェる』さんより

A.全焼後は着々と処理されています。
後々に市によって敷地が売りに出される予定です。
住んでいた人があれだったからか、格安販売されたという設定にしてます。


第103話 閉風 暗いそこに

「…う……ぁ……」

 

彼女は、強い日差しの中で目を覚ました。

途端、視界が大きく揺れる、耳に届くのは波の音。

クラクラとする頭を軽く揺らしながらも起き上がった。

 

「私は……ッ…!?」

 

ガシャ…

 

「な、なんだコレは…!?」

 

自分の両足に枷が嵌められているのを見た瞬間に悲鳴を上げる。

股関節が脱臼する直前になるまで広げられ、それが背面で繋げられ、閉じる事も出来ないほどに広げられていた。

動こうとしたが、当然、鋼鉄の枷も、それに繋がれた錘も外れない。

ご丁寧にも鍵穴には溶かしたであろう鉛が詰め込まれ、接合部分も溶接されている。

足の肌に締め付けるような感触がある以上、枷は肌に密着するほどにぴったりのサイズらしい。

 

「な、なにか道具は…?コレを外せそうな道具は…!?」

 

周囲へ視線を向ける。

そしてそのタイミングでようやく気づく。

自分の両腕も拘束されていることに。

L字型のダクトのような枷が、二の腕から指先まで覆い、背面で溶接する形で両腕を拘束していた。

自分が居るのは小さなゴムボートの上、ちっぽけなスペースには何も置かれていない。

エンジンはおろか、舟を漕ぐためのオールも、風を受けるためのマストも、そして…食料も飲料水ですらも…。

身体能力には自信があり、泳ぐことができればとも考えたが、自身の足に填められた両腕両足の枷の重さにそれすら出来ない。

 

「だ、誰か居ないのか!?誰かぁぁぁぁっっ!」

 

誰何をしようとも、枯れんばかりの声を上げるが、返ってくるのは波の音ばかり。

青い海、白い雲、寄せて返す波と…強い真夏の日差しだけ。

その中に…誰も居ない、自分一人だけ。

見上げようとも雲一つない快晴の青空、視線の彼方には360°に広がる水平線。

波に揺られて何処に流されているのかすら判らない、航行技術すら持たぬ彼女は此処が何処なのか判別も出来なかった。

助けを請おうとしても、助けてくれる誰かすら見当たらない。

 

「誰か、誰か私を助けてくれぇぇぇっ!!!!」

 

今まで、誰であろうと見境なしに傷つけ、夢を、可能性、未来を奪い続けた彼女のあまりにも身勝手な救いの声。

それに応える人物などこの場には居なかった。

 

それを見下ろす姿(・・・・・)になど気付く筈も無かった。

 

ウミネコが一羽、機械仕掛けの瞳でソレを見下ろし、映像を何処かに送信していたなど。

 

 

ある街のホールに大勢の人が集まっていた。

それは、日本各地から集った人達。

共通しているのは…篠ノ之 箒によって傷つけられ、可能性を、夢を奪われた子供と、その親達だった。

 

罵声が響き渡る。

「そのまま海に沈め!」「助ける必要なんか無い!」「この程度じゃまだ生ぬるい!」「お前はそう叫んだ子を助けた事があるのか!」

「お前のせいだ!」「そのまま苦しみ続けろ!」

 

幾つもの罵声が響き続ける。

届かないと知っていても、憎しみと怒りの業火に薪をくべ、滾らせ続ける。

 

何処とも知れぬ海の真ん中、食料も水も無い中で漂い続けるゴムボートが一隻、それを海上警察が見つけたのは、7日後だった。

容赦のない真夏の日差しに焼かれ、耐えられなかった糞尿をまき散らし、脱水症状にまで陥ったことで、抵抗など何も出来ない状態だった。

だが、海上警察が向けてくる視線に優しさや労りなどは欠片も込められていない。

 

「た、たす…け…て…」

 

冷たい視線を向け、懐から複数枚の紙面を突き付ける。

 

「篠ノ之 箒、『傷害』『暴行』『器物損壊』『殺人未遂』『外患罪』『外患誘致』『逃走罪』の容疑で逮捕する」

 

助かった、など欠片程度にも思ったが無慈悲な宣告が告げられる。

衰弱しきった彼女は医療刑務所に収容され、常時監視体制が敷かれたそこで出来る事など何一つ無かった。

たとえ回復出来たとしても、待ち構えているのは、大量の犯罪行為に対しての裁判だった。

篠ノ之柳韻、篠ノ之(かなえ)が箒を勘当し、その後に投身自殺をしたことは知れ渡っていた。

事実上、『篠ノ之 束に妹は居ない』という名目が成立している。

また、篠ノ之 束も公にそれを認めるという情報がネットワークに拡散されており、もはや誰一人庇う事などしなかった。

 

「なんで、私が、こんな目に…」

 

今日も、収監施設の前には大勢の人が押しかけ、「篠ノ之 箒を引きずり出せ!」と叫んでいる。

それは例え夜でも変わらなかった。

自身を糾弾する声に、眠れる時間など無かった。

看護師達もその状況に疲弊し、別の収監施設への収監を打診するが、たとえその先でも即日彼等は追ってきた。

そして糾弾を日夜繰り返す。

この後に裁判が待っているのだと理解していても、夢、希望、可能性を根こそぎ奪われた彼らが納得する事など無かった。

今日も糾弾と罵声が止まらない、時を選ばぬ怒声に眠れなかった。

 

「痛い!痛い痛い痛い痛い!」

 

収監されてから暫く経った頃だった。

手足を拘束する得体の知れぬ拘束具が嚙み砕くと言わんばかりに締め付けてくる。

一度動き出したそれは、それ以降は動く時を選ばない。

気紛れな獣が咀嚼を行うように、角度を変え、力加減を変え、ミシミシと締め付けてくる。

だが、骨が折れる寸前でそれは止まる。

だが、時を選ばずに、昼夜を選ばずに、眠る時すら与えない。

 

「…ぅ…あ…」

 

それはかつての織斑 一夏と同じ境遇だった。

彼女によって右腕を骨折させられた後、その痛みに耐え、眠れぬ日々を過ごし続けた彼の境遇に。

閉塞した環境の中での迫害、暴力、誹謗中傷が繰り返される地獄の日々。

一夏は未来への希望を掲げ続け、自壊を免れたが、彼女にはそれが無い。

法の裁きが待ち受ける現状、傷つく心と精神をマトモに維持出来る術など知らなかった。

 

いっそ狂えればいい

 

そう思っても、外から響く怒声がそれを許さない

 

眠ることも

 

「…い…!…や…………め………」

 

今日の夜も無造作な咀嚼が続き、絶叫が医療刑務所に響き渡る。

 

狂うことも許さない

 

今日も両腕両足の枷は外れない、外せない

 

『現実と裁きからは逃がさない』と言わんばかりに

 

そして裁判が始まろうと彼女は法廷でも悲鳴と共に悪罵を喚き散らす。

自身の行為を正当化しようと、ウェイルに全ての罪を擦り付けようとして。

挙げ句、法廷での殺害宣告。

無論、それを見過ごされる筈も無く、その一ヶ月後

 

「判決を言い渡す。

主文、被告人、篠ノ之 箒を、死刑に処す」

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「こんなものなんだ」

 

学園での日々は既に苦痛だった。

タッグマッチトーナメント以降も、謹慎処分は続いていた。

だが、実技授業もあり、その時だけは比較的自由はあったものの、それはまるで公開処刑同然だった。

ウェイルとの対決で敗北した。

量産機であるテンペスタⅡを駆るティナに翻弄され続け、ウェイルにより窮地にまで追い詰められ、そして最後はティナによってトドメを刺された。

中でも、ウェイルが組み上げたプログラムによって、自分の動きに連動させた回避や反撃に遭い続けた。

だが、敗北をするのはそれで終わりだと信じたかった。

なのに、その期待は裏切られた。

あれ以降、敗北をし続けた。

クラスメイトの中に、ウェイルと内通しているであろう誰かが居るのは判っているのに、それが誰なのかも判らない。

目に見えぬ誰かによって、そのデータがクラス内に浸透している。

そして…クラス内での練習試合では敗北だけが刻まれた。

今日も、今日とて敗北ばかりだ。

 

「一人は裏口入学、もう一人はたまたま動かせただけ」

 

「量産機を使ってる一般生徒に敗北してるもんね~」

 

「専用機所持者最弱はこれで確定だよね」

 

周囲から誰もがクスクスと笑い続けている。

誰よりも上にあるべき自分が、誰よりも下に見られ、誰からも見下されている状況が悪夢にさえ思えてきていた。

 

「学園最弱でしょ、この二人って」

 

「そうそう、訓練するだけ無意味よねぇ」

 

近接戦闘なら誰にも負けないと自負していたのに、それすら出来ない。

誰もが、中遠距離からの実弾射撃攻撃に切り替え、近接戦闘も叶わない。

いや、例え近接戦闘に持ち込む事が出来たとしても、自身の手の内を先読みされているように受け流されるだけだった。

そしてクラスメイトが使用する機体はテンペスタⅡだ。

 

「でもさ、こんな人が居るから私達まで授業以外でISに触れる機会が少なくされてるのよね」

 

「そうそう、こんな人達が居なければねぇ」

 

「使用できる時間が少なくなった分、内容を濃密にしないといけないから私達も大変だわ」

 

嘲笑と憎悪、それが彼に向けられる視線だった。

踏み台であると罵った機体に、いいように翻弄され、蹂躙されるその状況は、彼には耐えられない悪夢そのものだった。

 

「よっわ!もう練習台にもならないじゃない」

 

「それだけこのプログラミングが緻密で正確なのよね、本当に助かるわ」

 

「そうそう、肝心の瞬間にだけ作動するようになってるから、自分の足りない所も理解しやすいのよね」

 

「ハース君には感謝しかないよねぇ」

 

「まぁ、直接接触が出来ないから人を仲介しないといけないけど」

 

叶うのなら、これは悪い夢であり、現実ではないのだと、自分に言い聞かせるほどに…。

悪夢も夢であることに変わりない。

なら、必ず終わるのだと。

ウェイル・ハースさえ再起不能にするか、亡き者にしてしまえば、と…

 

 

 

「…う…何処だ、此処は…?」

 

彼は目を覚ます。

翳む視界と思考を、頭を振って取り戻す。

 

「…なん、だ…此処は…?」

 

IS学園の教室の半分にも満たず、実家の自室にすら至らない、まるで独房だ。

部屋の壁はコンクリートで固められ、上を見上げれば、背伸びをしようともジャンプをしようとも届かぬ高さの天井と、なぜかそこに見えるモニターが一つ。

部屋の片隅、その天井付近に換気扇が取り付けられているが、そこにも手など届く筈も無い。

正反対側にはバケツが転がっており、自分の足元には岩のように硬すぎるベッドマットが一つ。

部屋の中は…それが全てだった。

出入口は…一つだけ、金属製の重そうな扉が一つ。

 

ガァンッ!

 

扉を叩く。

押す、引く、そのどちらも試してみるが、扉は開かない。

部屋の外から鍵をかけられているのだと察するのに数秒を要する。

 

「だ…出せぇっ!ここから出せぇっ!扉を開けろぉっ!!」

 

怒声と一緒に扉を繰り返し叩くも扉はびくともしない。

それを幾度も繰り返し、疲労が重なり、ベッドマットに倒れる。

 

いかに十全の才覚を持ち合わせていようとも、それを活かせる環境に無いのなら、才覚の無駄となっていた。

それでも諦めの悪い彼は記憶を脳の奥から引き寄せる。

ここに閉じ込められるであろう直前の自身の記憶を。

 

千冬に言われる中、不服を吠えながらも警察車両に乗せられ、車内で暴れてでも降りようとした。

だが車は海へ飛込…

 

『では、ここでニュースです』

 

「なんだ…?」

 

視界の端、天井付近に取り付けられていたであろうモニターに急に光をともし、ニュースの放送が始まった。

 

『初代ブリュンヒルデと謳われた織斑千冬さんが緊急逮捕されました。

その容疑は、国外のテロ組織への資金提供を行った、『テロ資金提供処罰法違反』となっています。

また、度重なる暴力事件を起こし続けていた篠ノ之 箒容疑者と、織斑 全輝容疑者を国外逃亡させた『逃走幇助』の疑いもあり、こちらに関しても、国連と国際刑事警察機構によって全世界国際指名手配になりました』

 

「………は……?千冬姉が、逮捕…?」

 

放送された内容が信じられず、頭が現実に追いつかない。

 

「嘘だ…!」

 

だが、非常な現実は情報となって続けて綴られる。

 

『また、織斑 全輝容疑者は、今年に入って崩壊したイギリスとフランスの件も密接に関与しているという証言、証拠が続々と発見されており、諸国にその証拠が渡され…』

 

「嘘だろ…」

 

『国連と欧州統合防衛機構、アメリカ政府や調査機関はこれらの証拠や悪政を鑑み、日本円にして総額1億五千万円もの懸賞金を設定し、生死問わずの賞金首にすると発表しました。

同様に、アメリカ政府も動いており…』

 

今まで陰謀を画策し、自分の手だけは汚さずに計画を実行してきた。

他者の気持ちを利用し、他者を駒のように操り、自分は動かず手を汚さず、自身の目的を達成する。

そうやって邪魔な人間を悉く蹴落とし、排除してきた。

自分が動かずに目的を達成するのが最もスマートなやり方だとして。

そうやって蹴落とした相手を見下すのが心地よかった、その悦楽と優越感を知ったから。

言葉をささやくだけで誰もが思い通りに動く、その心地よさを知ったから。

必要とあらば、動かしたコマを切り捨てるようなことも平然とやった。

気に入らない者同士をぶつけ合わせて共倒れさせるような事もした。

 

そこに罪悪感など一切無かった。

なにしろ、『自分は何もしていない』『手を下したのは自分ではない』それだけで。

 

だが、今回は違った。

なにしろ、国家が崩壊した、それも2つの国が。

それを今になって初めて認知した、しかも自分が深く関わった、教唆犯であることを知られて…。

 

バァンッ!

 

轟音を立て、背後で扉が開かれる。

逃げることができる、そう思った矢先だった。

 

「だ、誰だ、お前ら……」

 

どう見ても表の世界の人間ではない。

 

「…………」

 

誰何に彼等は応えない。返ってきたのは…

 

バキィッッ!!

 

「……フゥ――…」

 

煙草の煙と、何の前触れもない暴力だった。

フラつき、倒れそうになるが、外部から持ち込んできたであろう椅子に座らされ、鎖で縛られる。

そして

 

colpo(殴れ)!」

 

見たこともない誰かに有無を言わさず、抵抗すら出来ない状態のまま殴られる。

椅子ごと倒れそうになるが、それもすぐに起き上がらせる。

そして殴る、殴る、殴る。

右から、左から、また右から。

避ける事も出来ない顔面を集中して殴る、気絶しそうになっても殴って起こす。

口の中を切ったのか、血を吐く。

だが彼らにそんな都合など無関係と言わんばかりに左右から不規則なペースで殴る。

 

「けほ…っ…はぁ…はぁ…」

 

連続の殴打が終わったかと思い安心したが束の間だった。

長椅子に横たわるように転がされ、ベルトで縛られる。

再度四肢が動かせなくなったところで布の袋を頭にかぶせられる。

 

「…ッ!?」

 

鼻の奥を突く刺激臭に息が詰まる、腫れた顔を顰めるが

 

Fatelo(やれ)!」

 

ブシュゥゥ―-―ーっ!

 

水が勢いよく被せられる。

ホースの吐き出し口を細め、勢いが増した水流が呼吸器を襲う。

水の流れが反らされ、袋が外される。

 

酸欠に陥った肺が酸素を強要するが、そのタイミングに再び袋を被せられ、水を浴びせられる。

延々とそれが続く。

 

早く終わってくれ!

 

そう心の中で叫ぶが、垣間見える彼らの表情は憎悪にまみれていた。

見ず知らずの人間に憎悪を向けられ、暴力を、拷問を受けるこの瞬間に恐怖するしか無かった。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

私は、繰り返される拷問を見下ろしていた。

この世で最も憎む人間の内の一人が、顔面を腫らし、酸欠に陥り、苦しんでいた。

 

「あれが、織斑 全輝…ああなったら哀れなものサ」

 

ウェイルが学園に編入し……いや、そのずっと前から苦しめ続けていた男が血を吐いて倒れている。

憎い輩を苦しませ、蹴落とし、それを上から見下ろし、見下す。

それを試してみたけど、何が面白いのか…?

 

私が画策したのは、ウェイルとメルクを守るためだった。

私は弟妹を守るためなら何だってしていた、その覚悟もしていた、責任も負う事もしていた。

 

「だけど…それを防げなかった分、お前に対しての報復は始まったばかりサ」

 

「アーちゃん、怖い顔になってるよ」

 

うっさいサ、そこのアホウサギ!

隻腕の女がはしゃぎながらこの場所にやってきた。

イタリア、エルコラーノ。

ここにはあのガリガのオッサンが統率するイタリア最大のマフィア『スパルタクス』の拠点の一つが存在している。

その拠点の地下、この場所へ、この男が連行されてきていた。

そのうえでの拷問が繰り広げられている、それがまだまだ続くだろう。

 

「ガリガ氏が言うには、今のウェイ君の年齢に至るまでの年数は続けるってさ」

 

「つまり、16年は、か…」

 

解放をするまでの最低期間(・・・・)、それだけ耐えれば、それ以降の処置を改めて考える、と。

 

かつて、エドモン・ダンテスは親友や尊敬する人物からの裏切りに遭い、大監獄の島に収監された。

そして牢獄の中に居たファリア神父から知識を与えられ、大監獄から脱獄した。

収監され、故郷に帰るまで15年も要した。

そして復讐鬼『巌窟王(モンテ・クリスト)』となり、その生涯を復讐の為に費やし、それを成し遂げた。

 

カリオストロ伯爵は冤罪によって、当時のフランス王妃マリー・アントワネットを激怒させた。

宣告は『死ぬまで閉じ込めろ』というもの。

その宣告はそのまま果たされ、イタリアのサン・レオ城に存在する『出入り口のない部屋』に天井に開かれた穴から放り込まれ、投獄された。

冤罪を晴らす事も出来ず、4年半もの間、拷問を受け続け、半身麻痺に陥った状態で獄死した。

噂だと首が見つかってないとか、そこの真実はどうなってるやら。

 

復讐を果たした『巌窟王(モンテ・クリスト)』と、冤罪を晴らせぬままに果てた『濡れ衣の男(カリオストロ)』。

あの男はどうなるのか見もの…にはならないか。

誰かを恨むにしてもそれはただの逆恨み、実際に手を下すにまでは至ったのだから濡れ衣など言えない。

 

ウェイルとメルクは学園が閉鎖された事により、イタリアに帰省することになった。

今はFIATだろうとヴェネツィアの学校でも気ままに過ごしている。

元気も暢気も心得ている私としては、二人の気ままさに笑って過ごしている。

こういった当たり前の生活が再び戻ってきたのが純粋に嬉しいけれど、それが崩壊しないように気を配らなくてはならない。

 

今は欧州統合防衛機構(イグニッションプラン)の展覧会めいた思想は失われ、ISを用いたテロ組織に対しての撲滅を掲げている。

国際IS委員会はやはりというか、世界規模の事態になっても動かないため解体され、その役割を担っていた者は追われる側になるか、更迭された。

委員会からもコアと機体の所持権限が剥奪された事で、世界中の各国がテロ撲滅を掲げて奮起している。

 

なにしろ、欧州統合防衛機構の理事長が、新宿爆撃テロで娘を喪っている。

それを引き起こした者、実際に攻撃を行った者を断じて許さないだろう。

欧州各国は既に動いている。

たとえ、今まで享受していたであろう利益が今後失われようとしていても、だ。

 

モンド・グロッソは第二回大会で永久に鎖された。

私としても、それで得た肩書を惜しむ理由は特に無い。

それを目指していた者達にとっては、もう二度と目にする事が出来ぬ幻となったわけだが。

 

「まあ、驚く事といえば…」

 

二人がイタリアに帰ってきた時、ウェイルが過去の記憶を取り戻していた事だった。

いつかは、やがていつかは取り戻してしまうだろうとは危惧していた。

 

「凰 鈴音と交際関係になっていたとはサ…」

 

クスクスと笑いがこみあげてくる。

その内、しびれを切らせたあの少女がイタリアに押しかけてくるかもしれない。

その時にはどう対処すればいいのだろうか…?

 

「まあ、成るようには成るだろうサ…」

 

眼下ではあの男の呻き声が聞こえてくる。

 

「さて、お前はどうなるだろうサ…そもそも…お前の姉への報復はこれからだから、サ…」




復讐の最後の一手まで、あと、少し
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