IS 速星の祈り   作:レインスカイ

110 / 116
ウェイルの容態
学年別トーナメントに於ける連装瞬転加速の影響もあり、『二か月間、激しい運動は禁止』と厳命されていたが、織斑千冬による暴行によって内臓にダメージ、肋骨にも罅が入っていた。
その状態のまま、白銀の福音との戦闘で織斑全輝の攻撃により、さらに内臓に負傷。
帰還後に手当と輸血を受け意識を取り戻すには至ったものの、完全回復には至っておらず、帰国後に精密検査を受けることになり、一か月近く入院した。
手術、治療用ナノマシン投与、服薬によりようやく完全回復した。
本人曰く、「もう病院生活は嫌だ、釣りがしたい」との事。
手術費用、入院費など諸々の費用は全て日本政府に支払わせている。


篠ノ之 箒
享年 16歳
数え切れない罪状と、法廷での殺害宣告が足を引っ張り、死刑宣告が速やかに下された。
判決が下された後も、収監施設で昼夜を問わずに響き渡る怒声と悲鳴と絶叫に、看守も毎日頭痛に悩まされ、法務大臣もそういった苦情に頭痛を起こし、さっさとサインをしたらしい。
なお、遺骨の受領は親戚縁類からは完全に拒否された挙句、日本全国の納骨堂からも納骨を拒否されたらしい。


第105話 逢風 共に歩む

聞いてない、ウェイル君の知り合いが…あんなとんでもない人物だったなんて…。

私達暗部がイタリアに保護されてから暫く経った。

それ以降も多忙を極め、法王猊下の警護やら情報精査やら山積みになっていて、落ち着けるまでかなりの時間を要した。

その間にも法王猊下はふらりと姿を消すこともあり、目を回す一方だった。

そして、ようやく落ち着ける頃合いになり、私達は法王猊下の警護という目的で、彼のセカンドハウスがあるらしい街まで同行することになった。

その旅先はヴェネツィアだった。

そう、ウェイル君が住んでいるらしい水上都市!

あわよくば彼の実家に押しかけてみるのも面白そう!

 

「それで法王猊下、この街で何をされるおつもりなんですか?」

 

なんて思っていたのに…

 

「ちょっとした休暇のつもりだよ」

 

この人はいつもこんな感じ。

轡木学園長のように、どこか飄々としている。

セカンドハウスの倉庫にしている場所から取り出してきたのは、一振りの釣り竿。

さして珍しいものではないそうだけれど、本人からしたら宝物の一つらしい。

 

「この街に住んでいる若者がプレゼントしてくれたものでねぇ、私の細腕でもしっかりと対応できるようにカスタマイズしてくれたものなんだよ」

 

「そうなんですか」

 

釣竿を作る若者…心当たりが一人居る、雲のように白く長い髪を風に揺らす彼の姿が私の脳裏に浮かぶ。

 

「さて、それじゃ、いつもの釣り場に行こうかな」

 

「ご一緒させていただきます」

 

ちょっと楽しくなってきた。

このまま同行すれば彼と接触出来るかもしれない。

もしも彼に会えたのなら、いろいろとからかってみたいと思う。

………でも………

 

「あ、ゼヴェルさん、お久しぶりです」

 

その釣り場に来なければよかった、私は心底後悔した。

法王猊下の足が向かうく先の釣り場には、確かに彼が居た。

眼鏡をサングラスに取り換え、釣りを堪能している

挨拶をしながらも手元の釣り竿をたくみに振るい、魚を釣り上げている。

そう、そこまでは良い。

釣り場にたたずむ青年という光景で、そこまでは何も問題は無い筈なのに…でも、その周囲の光景が異様だった。

 

「ちょっと待って…」

 

昨年、アリーシャ代表に聞いた話ではうっすらと理解しているつもりだった。

でもね、こんなことになってるまで私は聞いてないわよ!

彼らの顔と名前は一応はすべて把握している。

法務大臣、財務大臣、国防大臣、陸軍元帥、海軍元帥、空軍元帥、テレビ局局長、ローマ市長、ヴェネツィア市長、警察長官、暗部長官、その他にも色々とビッグな人物が溢れかえるほどに…。

この国に来てから、把握しなければならない人物として覚えた人の大半が何故ここに?

あら、国際裁判所の裁判長もいらっしゃるわね…。

でもね…なんでその全員が揃ってこの場に集まっているのよ!?

ウェイル君とメルクちゃんは、知ってか知らずしてか、そんな彼らと和気藹々話をしている始末。

 

「…今更になってあの人の言葉の真意を理解したわ…」

 

ウェイル君とメルクちゃんにとっては、それこそご近所付き合いをしている程度の認識なんだろう。

多分、相手の素性を一切知らずに…。

その日の警護の仕事は…半分程意識を失った状態で過ごしてしまった。

この日ばかりは胃痛に耐えられず、夕方は…

 

「お姉ちゃん待って待って待って!」

 

「離して簪ちゃん!私は!私はもう限界なのよ!」

 

「無茶苦茶だよ!?

買い物籠の中身は、胃腸薬に精神安定剤に漢方薬に睡眠導入剤だよ!?

なんでそんなに一度にまとめ買いしようとしてるの!?」

 

「飲まなきゃやってらんないのよ!」

 

「お酒じゃないんだからぁっ!?」

 

あんなの、どう見たってご近所付き合いしていい人たちじゃないでしょ!?

 

そして学園で彼が言っていた言葉を思い出す。

 

「あのですね、俺は何処にでも居るようなその他大勢の勤労学生に過ぎないんですよ?

吹けば飛ぶような一市民でしかないんですよ?

そんな俺がどこで何をどうしたら法王猊下や首相と知り合えるっていうんですか?

親しくなれるっていうんですか?

どう考えても無理に決まってるでしょう、常識的に考えて(・・・・・・・)

 

どの口が言ってるのよ!

いや、それどころかどんな人脈を作っているのよ!?

 

「君ほど非常識な人間を私は知らないわよ!?」

 

「誰に言ってるのお姉ちゃん!?」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「家具は…こんなものね」

 

入居翌日、ヘキサさんに教えてもらった家具店でいろいろと購入し、キッチンを含めて色々と買い揃えた。

「将来への先行投資よ♪」とか言ってヘキサさんも金銭を工面してくれており、私は多少は遠慮していたにもかかわらず部屋の中は、私の趣味とヘキサさんの趣味が合わさっており、少々カオスになっているような気がする。

猫が遊ぶための遊具もあるとかどうしてなんだろう…。

それは兎も角として、学校に対して私の転入届をしてくれていた。

何から何まで調べられ、お膳立てされ、用意され…あの人、怖い。

さすがは情報部所属なだけあるわね…。

ヘキサさんに案内された学校は、どうやらウェイルが通っている場所でもあり、ここでも都合のいい用意がされていた。

イタリア語は日常生活を含めて、おおよそは習得できている。

地方における訛りに関しては、暫くはアプリに頼り切る形になるけど今後はそれも習得目指して頑張ろう…。

 

そしてさらに翌日

 

「ここが教室です、明日から凰さんが使うことにもなる場所ですので、しっかりと覚えてください。

友人も多く出来ると良いですね」

 

イタリアの学制は初等部5年、中等部は3年、高等部は5年というスタイルらしく私は明日からは高等部の3年ということになる。

高校卒業認定を獲得しているけれど、私にとってはさしたる問題でもない。

IS学園では叶わなかったけれど、ウェイルと同じクラスになれたらいいなとは思う。

 

それからも学校の中を案内される。

調理実習室、被服室、化学実験室、体育館、グラウンド、部活棟、PCルームといろいろと学校内の設備は揃っているのも理解できた。

普通科の高校ではあるのだろうけれど、就職活動にも向いているのは察した。

 

今は休講中で、外で部活動をしている生徒程度しか見受けられないけれど、学校が始まれば騒がしくなるのだろうなとは思う。

私もその中に入り、楽しく過ごせればいいなとも思う。

メルクにウェイルも、今はこの街のどこかで元気に呑気に過ごしているんだとは思う。

明日になれば、私の姿を見て驚かせる事もできると思うと今からワクワクしてくる。

 

学校の中を一通り見せてもらい、転入の手続きを完遂し、今日はコレで解散することになった。

 

「…中国に居る時には家族と一緒に、軍に所属していた時には宿舎で皆と、学園ではルームメイトが居たけど…思えば一人暮らしって初めてよね…」

 

ヘキサさんは私の世話を焼いて終わったつもりなのか、軍に合流するといってヴェネツィアからローマへと向かった。

だから、アパートのこの部屋は私一人。

アプリを使って言葉を訳しながらも買い物は一通り終わらせたから、冷蔵庫の中身は充実している。

なんか妙にシーフード多すぎる気がするけれど、これはヘキサさんからのもらい物。

なんでこんなにも魚ばっかり私に押し付けてきたのだろうか?

 

「なにか作ってみようかしら…?」

 

実家では料理を含めた花嫁修業を母さんに課され、色々と出来る事が多くなった。

料理はもともとが得意分野で、母さん主導の料理修行でレーパートリーも広くなっている。

 

冷凍庫から取り出す魚は鯛にしよう。

ニンニク・生姜は微塵切りに。

ねぎは細切りのものと、微塵切りにしたものとを分ける。

熱したフライパンに、ニンニクと生姜と長葱を入れて炒める。

そこに、市場で買ったトマトソースを1缶、鶏がらスープの素を小匙1杯、醬油を大匙1杯を投入。

ここから5分程度煮込み、ごま油を入れて香りづけをしておく。

 

ソースを煮込んでいる間に鯛を捌く…手筈でいたけど、もらった時点でカットされているからそれをそのまま使う。

ヘキサさんが捌いていたのかもしれないな、なんて考える。

何しろ小骨も奇麗に取り除かれているから、使いやすくなっている。

この捌かれた鯛に片栗粉をまぶし、高温の油でカラリと揚げる。

 

その間にソースの煮込みが完了し、お皿にソースを敷き、揚がった鯛をクッキングペーパーに乗せ、余剰な油を落とす。

そこまで完了したら、ソースの上に揚げた鯛を乗せ、これにて完成!

 

「うん、美味しいわね…」

 

改めてトマトの使い道が色々と広がる気がした。

中華風のソースも作れるとなるとレパートリーが尚更広がる気がした。

 

「だけど…」

 

覚悟はしていたけれど、一人暮らしってどこか寂しい。

一夏は、中学を卒業した時点で家を出て、どこかで細々と生きていくつもりだったんだろうなと思うと、孤独感に潰されたりしないのだろうかとも思えてしまう。

でも、アイツは…望んでいたものとは違う形で生きている。

メルクが居て、シャイニィという猫も居て、両親も居る筈。

暖かな家族なんだろうなぁ…。

 

食事も終え、シャワーを浴びる。

それから寝間着…なんだけど…。

 

「なんでこんなデザインの寝間着を押し付けてくるのよあの人は!」

 

デザインが嫌いなものというわけじゃない。

寧ろ好印象は持てるものがついている、それでも…!

 

「寝巻じゃなくてキグルミでしょうがっ!」

 

それもトラネコモチーフ!

ウェイルだけでなくあの人まで私をネコ扱いする気か!

しかもクローゼットの中には三毛猫、黒猫、白猫モチーフの着ぐるみパジャマが!しかも色違いを含めて3着ずつ!

ネコが嫌いなわけじゃないけど…。

あ、ネコミミが着いたフードのパーカーも…。

 

「文句は言ってられないか…」

 

貰いものだからこれ以上の悪態も言えず、私は袖に腕を通すことにした。

…まあ、肌触りは悪くないわね。

ヤケクソ気分でフードも被る…姿見の鏡で確認してみれば、まごうことなき…ネコそのものだった。

 

目覚まし時計をセットし、明日からの学校生活に支障をきたさないようにしておく。

睡眠時間を削れば、顔色も悪くなって、第一印象も悪くなるだろうからね。

 

「ふふ…明日が楽しみだわ…」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

「よし、今日の作業はここまで」

 

FIATのアルバイトとはまた別で、自宅でやっている機械いじりは今日も順調だった。

今日はボランティア団体の隊長を務めているガリガさんから、小型スピーカーの修理を頼まれていた。

姉さんを通しての頼みだったけど、何かあったのだろうかとふと疑問も湧いてたが、余計な詮索はしない。

旧式の、ちょっと小型のスピーカーだったが、大体の修理が終わった。

これなら明日、学校で昼休み中に調整をすればそれで完成するだろう。

 

「ニャァンッ!フニャァッ!」

 

機械いじりをしている間はシャイニィは寄ってこないことが多く、退屈そうにして部屋から出て行ってしまっていた。

そんなシャイニィが扉を潜り抜けて声を上げている。

 

「どうしたシャイニィ?」

 

「ニャアァアァン!」

 

「そうか、夕飯の時間か。

手を洗ったらリビングに行くよ」

 

俺の返答を聞いてシャイニィは扉の向こう側へ歩いていく。

立ち上がり、首を傾ければバキバキと不健康な音が首から聞こえてくる。

お昼過ぎに機械いじりを始めたけど、気づけば窓の外は薄暗くなっている。

シャイニィが呼びに来るほどだ、あのまま続けていたら夜遅くまで続いていたかもしれないな。

 

「明日から学校が再開するのに俺も吞気だよな…」

 

明日からは高等部3年生、FIATで新しい計画が確立しようとしているだけに、俺はそれに参加したいと思っていた。

そのためには大学卒業後に就職するのが最短距離。

ISを用いたテロリストの対処には、軍が動くしかなく、その方向では俺には何も出来ない。

メルクももしかしたらその軍事活動に参加せざるを得ない場合も考慮されているらしいが、姉さんは「メルクが招聘されるよりも前にすべて終わらせて見せるサ」と意気込んでいたので、それを信じるしかない。

IS学園が壊滅したことで、国家代表候補生選抜制度も廃止された。

だが、その肩書を得た人物は軍の中では予備戦力に数え上げられている。

長引けば、メルクもテロ鎮圧のために戦場に駆り出される危険性が増してしまう。

対テロ戦は早々に片付いてほしいと思う。

 

「お、いい香りだなぁ…」

 

メニューは母さん特製のアクアパッツァのようだ。

先日も釣りをしていたら大漁で、母さんに色々と捌いてもらった。

ヘキサさんにも渡していたし、もしかしたら軍の食事場にも繋がっていたりして…なんてな…。

 

「今日はウェイルが釣ってきた鯛を使ったわ」

 

「私も手伝いました!

シャイニィが少しだけツマミ喰いをしてましたけど」

 

「悪い子だなぁ、シャイニィは」

 

手を洗えば、シャイニィは俺の肩に飛び乗ってくる。

咎めるつもりは無いけど、俺の頬を肉球を押し付けるのをやめてくれないかな?

 

「フニャァ…」

 

「俺が遅いのが悪い?ああ、うん、わかったよ」

 

手を洗い、タオルで拭いていたらまたもやシャイニィが肩に飛び乗ってくる。

喉元を撫でればゴロゴロと喉を鳴らす、相変わらず可愛いなぁ。

シャイニィには何度も救われてきたようなぁ。

病院で過ごしている頃も、この家に引き取られた後も、プライベートでは世話になりっぱなしだ。

 

「明日から学校かぁ、キースもクライドも元気そうだったとはいえ、成績は結構危うかったとはな…」

 

あの二人を見ていると、弾や数馬を思い出す。

成績が少々危ないという共通点も持ち合わせているときた。

でも驚いたのは、あの二人がFIATにバイトで入ったという事だ。

先日バイト先に出向くとあの二人が作業着を着て働いているのを見て驚かされた。

 

「さてと、俺もあの二人には負けていられないよな」

 

メルクが搭乗していたテンペスタ・ミーティオは、つい先日、軍に預けられることになった。

俺が搭乗していたテンペスタ・アンブラ、改め、テンペスタ・アウグストも同様に。

リンク・システムによって、相互情報共有されていたあの二機のデータは解析され、姉さん達の機体にも同期させるためらしい。

全世界で『国家代表候補生選抜制度』が失われているが、その肩書を持っていた人物たちは例外なく『予備戦力』としてカウントされている。

テロリスト問題が解決されなければ、メルクも本物の戦場に立つことになる。

 

皮肉なものだ。

 

束さんは宇宙へ飛び立つためにISを作ったのに、それを箒が兵器へと仕立て上げ、本物の戦場へと送り込んだということだ。

テロリストを利用して、世界をそう動かして、だ。

夢は、悪意で食いつぶされた。

 

あの人は、今頃は何処で何をしているのだろうか。

あの鵞鳥のイラストが描かれた場所に行けば、何か判るだろうか…?

 

「ウェイル、眉間に皺を寄せて何を考えてるの?」

 

「ああ、ごめん、すぐに行くよ母さん」

 

この家の中も今は平和だった。

俺が記憶を取り戻してしまったこと、過去にどんな生き方をしていたのかも、胸の内も、記憶の底から全てを吐き出した。

それでも、その全てを受け止め、理解してくれたこと、俺がこのまま『ウェイル・ハースとして生きていきたい』という叫びを理解してくれた。

だから、今もこれからも家族として一緒に過ごす事が出来る。

 

このことは姉さんも承知してくれている。

 

「そうかい。

でもね、私にとっては、アンタの過去や…どこの誰だったのか、どんな生き方をしてきたのか、どんな環境だったのか、そんなことにはあんまり興味がないのサ。

アンタは『ウェイル・ハース』、まあ、姓名や血の繋がりは無いけど、アンタは私の弟、それでいいサ」

 

サバサバとそう言い切った。

だから、俺もそう在ろうと決めた、昔の事なんて気にしないでいられるように、俺は今の俺らしく在れるように。

満足はしている、だけど…何かが欠けている、そんな風に思わずにはいられなかった。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

その人物は、独房に収監されていた。

かつては、世界にその名を知らぬ者は居ないとまで言わしめるほどの存在となっていたが、今はその名は汚名となっていた。

 

推薦されて就職した仕事場では、ある一時を境に針の筵となり、言葉という凶器を突き立てられ、居場所は失われた。

欧州の国家から『報復』などという物騒な言葉を使用してまで警告されたあの日から。

 

頼みの綱にしていた有力なパイプは、自分の知らぬ間に例外なく絶たれていた。

贈賄や汚職などの容疑がたてられ、その悉くが逮捕されていた。

 

帰る場所を失った。

何の前触れもなく、暮らしていた家が不審火によって丸焼けになり、炭の塊になり果てた。

残っているのは、燃え尽きた跡と、そこで暮らしていたという思い出だけだった。

しかも、念のために事前用意しておいた保険のデータが消失し、保険金受領も出来なかった。

 

財を失った。

モンド・グロッソに参加し、優勝をして得た財産が何者かによって何処かへと流れてしまった。

学園に就職して以降に得た収益の全ても、口座から消失し、正真正銘の無一文にされた。

何者かが遠隔操作をしていたのかもしれないとも思ったが、個人端末にはその痕跡も残っていなかった。

自分がどこかへ出金したのではないかとも疑われたが、その覚えもなかった。

 

家族を失った。

8か月前には上の弟である全輝が行方不明になった。

自分は確かに警察へと引き渡した…筈だったのに…。

警察は「そんな事実は無い」と言って話を聞いてくれなかった。

旅館の監視カメラにはその様子は映っていなかった。

自分が待機させられていたロビーにも、駐車場にも、旅館周辺の道路も含め、それらしい車輌は発見されなかった。

それどころか、自らの手で旅館の裏口から逃がす映像が押収されていた。

自分も警察に逮捕される事になり、その後に凛天使のメンバーとつながっているとされるような情報が個人端末から発見される始末だ。

 

7年前には、下の弟である一夏を喪った。

全輝は、あの時に何もかも全てを知っていたにも拘らず、自分に対して情報を伏せた。

それを知らずに自分は大会に参加し…結果、一夏は死んだとされた。

家族(全輝)の言葉を信じ、家族(一夏)を喪った。

家族(全輝)を支えに自分を奮い立たせたのは…まさに道化だった。

 

そして昨年、喪ったと思った一夏に再会出来たと思ったのに…結果は惨憺たるものだった。

自分から動けないからという理由で、向こう側から接触してもらうように仕向けはしたものの失敗に終わった。

その失敗のせいで、言葉を一つも交わしていない状態でありながら『嫌悪』という視線を向けられた。

 

昨年の夏には最大の失敗をした。

『ウェイル・ハースは私の弟である織斑 一夏だ』

『普段は険悪ではあるが、窮地にこそその絆が発揮される』

その乱暴な言葉で緊急の作戦に無理矢理投入した。

ウェイルや周囲の反対を力ずくで黙らせてまで。

その結果はどうだだった…?

 

「何故だ…?何故こうなってしまうんだ…?」

 

全輝が作戦遂行中に故意にウェイルをその刃をウェイルの体に突き立てた。

致命傷にまでは至っていなかったが、問題は流血だった。

腹の傷から流れ出す、致死量寸前に至るほどの大量出血。

旅館に居る多くの生徒による有志による輸血で命が助かったが、とうとう言葉を交わす事など出来なかった。

面会は断られ、箒と全輝を警察に引き渡す役を押し付けられた。

 

IS学園はテロリストの攻撃によって壊滅した。

箒が手引きをしたことで、防衛力が格段に低下する日取りを露見させていたことによって。

 

犠牲者が300万人以上も出たとされている新宿に於ける爆撃テロもそうだった。

『ウェイル・ハースを殺害してくれ』という名目でネットワーク上に彼の顔写真を拡散させた。

明確な悪意によっての行いだった。

 

その本人は、警察と思しき誰かに預けた後は悲惨な状態で発見された。

両腕、両足を見たこともない拘束具で覆われ、歩く事も叶わない。

そんな状態で、ゴムボートに乗せられ、日本海に放流されていたらしい。

 

確保された後、モニター越しに裁判の様子を見せてもらう事も叶わなかった。

衆人環視の中、本人は何一つ反省もせずに喚き散らし続けた。

「私は何一つとして間違ったことをしていない!」「私がこうなったのはウェイル・ハースのせいだ!」「ウェイル・ハースこそ諸悪の根源だ!」「だから私は何も悪くない!」

そう支離滅裂に叫び続けていた。

自分の行いで300万人以上の人が死んだ事を気にもかけていなかったのだから。

裁判の終盤、裁判長の「何か言いたい事はあるか」という問いに対しても

 

「私の行いは何一つとして間違っていない!

不正と卑怯卑劣を行い続けるウェイル・ハースを討つために、私は今後も何度だって同じことを続ける!

奴だけは絶対に討たなくてはならないんだ!」

 

そう叫んだ。

司法の場に於いての殺人宣告。

容疑は『侮辱罪』『肖像権侵害』だけでなく、『殺人委託』『殺人宣告』『外患罪』『外患誘致』。

下された判決は当然…『死刑』だった。

 

全輝に対しての裁判もそのまま進められた。

彼女の手によって行方知れずとなっているため、本人の居ないまま、法廷は進んでいく。

一夏が誘拐された事件が起きた際には10歳だった為、罪に問う事は出来なかった。

だが、緊急作戦に於ける攻撃はその限りではなかった。

悪意を持っての攻撃、重傷を伴ってのMIAの誘発、情報の隠匿。

その悪逆さが露見した。

本人が居ない状態で法廷は話を進め、全輝にもまた『死刑判決』が下された。

 

 

だが、その千冬には、()()()()()()()()()()()()()

教えられなかった。

看守に問いかけても、情報は遮断され続けた。

 

そして最後に彼女、織斑 千冬の番だった。

彼女もまた多くの杜撰さが露見し続けた。

教職に就いている者でありながら、生徒、身内が起こし続ける問題に対しての解決させようともしない杜撰さが。

 

下された判決は…『死刑』となった。

 

弟である一夏だと思っていたウェイルからは嫌悪感を向けられ続け、満足に言葉を交わせなかった。

 

全輝を何処の誰とも判らぬ誰かに預け、行方知れずになった。

 

同じ門下生の後輩と思っていた箒は、人間を理解しない化け物だった。

 

「私は…」

 

その折り、扉が開かれる。

その先にいるのは看守だった。

 

「出ろ、面会希望者だ」




テンペスタ・ミーティオ
テンペスタ・アウグスト
メルクとウェイルの搭乗機だが、護身用という形で当面は本人達の手元に置かれることになった。
また、メルクに関してもウェイルへの護衛の目的も兼ね、特例という形で招聘が長引かされている。
その為、二人が戦力として動員されることを恐れ、アリーシャは日々を死に物狂いで戦場を駆け抜けている。
終戦間際、戦力の一つとして機体はアリーシャに預けられる形で落ち着いた。

織斑 全輝の裁判について
本人不在のまま略式で民事、刑事、国際裁判が順次執り行われた。
だが本人不在という形であったため、そこまで視聴率は稼げないと判断されたため、通常の法廷で粛々と進行し、『死刑判決』が下された。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。