当の本人は逮捕されており、機密区画に幽閉されている。
当然、織斑 千冬の身柄の奪還を考慮する勢力の殴り込みの危険性も考えられ、表の世界にその姿を出すわけにはいかず、モニター越しに裁判への参加となっている。
それによって下された沙汰は『外患罪』による『死刑』となった。
面会も本来は余程の事が無ければ謝絶されている。
また、千冬に対しては『織斑 全輝』『篠ノ之 箒』の情報は遮断されており、共有されていなかった。
その為、旅館で二人を見送ったのが今生の別れとなり、一生涯レベルの後悔を残す別れとなった。
「お嬢様、お客様です」
「今日も…?」
法王猊下の護衛の任に就いてから暫く経った。
ヴェネツィアに向かう機会もあり、ウェイル君にも逢う機会にも恵まれた。
けれど、そこで出逢った彼はとんでもない人物達に囲まれていた。
ウェイル君とメルクちゃんは彼等に囲まれて、何事もなく過ごしていた。
彼らの素性など全く知らなかったのだろうが、ウェイル君達はこの場所で人脈を築き上げていたのだと、その時になって思い知った。
それからというもの、簪ちゃんはウェイル君と技術者として色々と話し合っているらしい。
正直、すぐにでもバチカンに帰りたいというのに、猊下は休暇ということでこの街にしばらく滞在するということで、私たちも貸し与えられたコテージに根を下ろすことになったけれど…毎日来訪者が訪れてくる。
しかもアポイントメントも無しに連日…。
「はい、本日の来訪者は『ゼルク・エレミアル』氏です」
「…空軍元帥…虚ちゃん、私は留守にしてるってことに…」
「既にお越しです」
…居間には怜悧な目をした御仁がソファに踏ん反り返って座っていた。
その姿を見ただけで胃がキリキリシクシクと痛み始めた…気がした…。
「アポも入れていなかったのだが、話をさせてもらえて感謝するよ。
ああ、これはその返礼だ、ローマの優良物件の住宅情報をチョイスしたリストだ。
大衆食堂の経営も考慮した件もファイリングしてあるから参考にしなさい」
「ありがとうございます!ではごゆっくりどうぞ!」
私の眼前で賄賂が行われる始末…。
ここ毎日がこんな感じで…なんでこんな事に…。
「さて、ウェイルは儂にとっては甥のようなものなのだが…日本での出来事についても共有されていてね…何故そんなことになったのか、詳しく聞かせてもらおうか…?」
もう泣きたい…。
その日の夜。
「ねえ、お姉ちゃん…戸棚の上から下まで胃腸薬や精神安定剤に睡眠導入剤が大量に…日に日に種類が増えてない?」
法王猊下がバチカン帰ろうとしないからこの街から逃げられない。
虚ちゃんも本音ちゃんも賄賂を受け取り続けるから、アポなし来訪からも逃げられない…。
そして役職からも逃げられない…。
「お願い、察して…」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
独房の中、彼女は、もう時間の流れすら判らなくなってしまっていた。
実際には収監されてから、もうじき半年が経過する頃合いだが、彼女の頬はこけ、艶を伴っていた筈の黒い髪は今では枝毛ばかり。
世間の情報もこの場では完全に遮断されているため、情勢がどうなっているのなど察する事も出来なかった。
把握できたところで、社会に出られる機会など無いのだが。
面会室に来た人物だけが頼りになるかもしれない。
そう思っているのが彼女の本音だった。
扉が開かれた面会室、アクリルガラスの向こう側に居るのは
「ご無沙汰しています、千冬さん」
かつての後輩、山田真耶だった。
思いが逡巡する。
今になって考えれば、学園長によって千冬への監視を担わされた際には即座に快諾した。
何か事態が起ころうものならば、常に咎める側に回っていた。
決して擁護などしてくれなかった。
恐ろしいほどの速度でイタリアに知られる場合も中にはあった。
「真耶アアアァァァァァッッ!」
ダアアァァンッッ!
痩せ衰えた手でアクリルガラスを殴る。
だが、彼女の失われた腕力では亀裂の一つも入らない。
「お前だろう!私を売ったのは!
なぜ私を売った!なぜ私を売ろうなどと考えた!?」
「何を仰っているのか理解しかねます」
返される言葉は氷のように冷たかった。
だが、向けられる視線は怒りを込めているのか炎を宿しているようだった。
雰囲気は…抜き身の刀のようにすら…。
「私がお前に何をしたというんだ!?私に何の恨みがあるというんだ!?
お前は……一体何だというんだ!?」
「何を仰るかと思えば…あなたもよくご存じでしょう。
私は学園長に頼まれた監視者です。
恨みといえば…そうですね、貴方達が問題を起こし続けるたびにアフターフォローに駆り出され続ける日常、とでも言っておきましょう」
「~~~~~っ!!」
さも当然のように返される返答に怒りがこみ上げるが、言葉にする事が出来ない。
怒りの形相を浮かべるだけになってしまうが、真耶は平然と受け流す。
おもむろに腕時計を見るが
「その様子ですと私の話はまともに聞いてくれそうにありませんね。
面会時間にはまだ余裕はありますが、出直してきます」
そのまま視線を向けることもないままに立ち上がり、背を向ける
「その時までに頭を冷やしておいてください」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
真耶はそのまま拘置所を後にした。
伝えようとしていた世界情勢は結局伝える事など出来なかった。
学園壊滅後世界情勢は著しく変化していた。
日本政府の腐敗により、有力議員が何人も失脚し続けたこと
日本からもIS所有権限が失われ、研究所なども例外なく押収されたこと
そこに勤めていた研究員達や作業員達は例外無く路頭に迷う事態に陥ったこと
全世界で行われていた若年層に対して行われていたIS適性検査の取りやめ
国家代表候補生選抜制度の取りやめ
ISの軍事物資化による技術秘匿性の上昇
モンド・グロッソ大会の永久凍結
技術者の育成強化
国際IS委員会の解散と、その台頭組織である『欧州統合防衛機構』の発展
そして、学園に配備されていたISとコアの全てを奪っていった国際テロ組織『凛天使』討滅を掲げた国際治安維持部隊『
そして繰り広げられることとなったテロリストを相手にした戦争の勃発。
「恨み、ですか…」
学園の日常を思い返す。
篠ノ之 箒
織斑 全輝
その二人が一方的な敵意と逆恨みでウェイル・ハースに危害を与え続けた日々、その調査に対して駆り出され続けた日々。
その際には、千冬は決して立ち会おうともしなかった。
騒動が起きるよりも前に行動してくれればとも思ったが、彼女は
臨海学校でも、流血沙汰になっても取り乱すだけで、とうとう犯罪者2名が警察に捕まらぬように逃走幇助まで図った。
テロ組織の力を借りてまで。
見限る他に無かった、見限る以外の手段など最早無かった。
真耶は戦争に駆り出される事こそ無かったが、それでも必要だからと思い、やる事があった。
学園が閉鎖されるに辺り、生存していた教職員は解雇され、退職金も支払われた。
だが、時期が悪く、転職のサポートを求めるのも難しい状態にあった。
それでも真耶は、新宿爆撃テロによって家族を失い、帰る場所を失った生徒達全員を保護した。
親族達に土下座までして見せ、琵琶湖の畔のコテージを借り受け、生徒達のアフターサポートを買って出た。
心が折れそうな状態の生徒達を救う道に出た事を…。
なのに、千冬は、生徒達の事を気にもかけていなかったのだから…。
「あの二人を化け物だと思いましたが…血は争えませんね」
真耶は歩き出す。
かつての憧れと尊敬を投げ捨て、多くの生徒達を救うために。
彼女は、もうここには訪れないと誓い、空を見上げる。
そのまなざしは、湖の畔にあるコテージにて待ち続けるであろう教え子達を思い返し、歩みだす。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「出ろ、面会希望者だ」
真耶が去ってから1週間が経過した頃、またも彼女に外からの光が届いた。
面会室に連行され、アクリルガラスの向こう側に居る人物に視線を向ける。
そこに居たのはかつての教え子だった。
「ラウラ…」
だが彼女は決して向き合うこともなく、壁面に背を預け、腕を組んでいるだけだった。
視線など全く向けようとしない。
「任務により、周辺に来たので
自分よりも仕事を優先する。
オマケに自分に会いに来たのは
「助けてくれ、私は無実なんだ…」
「…………その視線、私は知っています。
あの時の私と同じだ、無力だと…比べられる日々の地獄に居た頃の私がそんな感じだったのでしょうね」
思い出すのは、ISに適応できず、軍の中で『出来損ない』と烙印を捺された頃の彼女だった。
それを自らの手でたたき上げ、最強の存在に育て上げた。
だが、そんな彼女が今ではあまりにも遠い…。
「貴女は私を育ててくれた」
「ああ、そうだ…!」
「貴女は、私を最強に近づけてくれた」
「ああ、そうだ…。
頼まれていた仕事とはいえ、私はお前を」
ガァァァンッ!!!!
続く言葉は言わせる事などさせなかった。
振り上げた足で面会室のパイプ椅子を蹴り飛ばしていた。
「それがアレだというのか…!」
千冬は言葉を失う。
触れてはならぬ琴線に触れたのか、そう思う。
思い出したのは
「
誰からも疑われる事もない場所から、
それがどれだけ悪質か理解出来るか…?」
向けられる視線、そこには明確なまでの殺意が込められていた。
握りしめられた拳からは、爪が食い込んでいるのか、血が滲み始めている。
初めて…千冬は教え子から恐怖を感じた。
「だから、私は貴様がしでかした事を軍に情報開示という形で流布した。
あなたに敬意を向ける者など誰一人居なくなった、皆は例外無く貴様に怒りを向けたよ」
「ま、待て、私は本当に…」
ガシャァァァンッッ!!
天井に突き刺さっていたであろうパイプ椅子が落下し、床にたたきつけられ、破損する。
だが、それすら気に留めるような事も出来ぬほどに怒りを込めた視線が貫く。
「安心するといい、貴様の居場所はもう無いのだから」
その言葉を最後にラウラが軍帽をかぶり、面会室を後にした。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
拘置所から出た所で、同僚でもある黒兎隊の隊員達がラウラを迎える。
今の彼女にとって、居場所でもある仲間だった。
ラウラは、国際治安維持部隊ファランクスの副隊長の役を担っていた。
隊長であるアリーシャ・ジョセスターフのサポートをしながら陣頭指揮も負担していた。
その役に就いたのは、かつては憧れながらも、今は最も嫌悪している人物によって鍛え上げられた実力だというのだから、皮肉なものではある。
「あの…隊長…」
「今の私は『副隊長』だ、クラリッサ。
それで、何だ?」
ラウラにとって右腕であるクラリッサは眼帯を着けたまま視線をラウラに向ける。
クラリッサからすれば見下ろす形にはなるが、今更でありそこに関しては気に止める者は居ない。
クラリッサは口を開き、言葉を言い澱む。
だが、意を決してラウラへと疑問をぶつけた。
「我々、黒兎隊のメンバーは、
隊長に対し、酷すぎる裏切りを働いたあの者を。
ですが隊長は…あの者に教えを説かれ、鍛えられ…失礼な言い方にはなりますが、崇拝しているようにも見受けられました。
隊ちょ…いえ、副隊長は、あの者をどう思われているのかと思いまして…」
同僚達に囲まれながらも、ラウラは空を見上げる。
「なんだ、そんな事か…」
眼帯に隠された眼球にも、布地越しに空の青は確かに見えていた。
「今のあの人はこの上なく憎い。
決してこの憎悪は薄れる事は無いだろう」
雲一つない青空に、彼女への敬意を弔いながら
「そして…こう思うようにもしている。
私が憧れたあの人は…もう死んでしまったのだと…」
思い出は霞む。
だが、彼女は明確に…空の彼方へと捨てた。
「行くぞ、ジョセスターフ隊長からの召集命令に遅れないようにしなくては」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
また、一か月が過ぎた。
面会が在ると告げられ、面会室へと連行された。
そこに居たのは、かつてのラウラと同じ軍帽を携えた少女だった。
「…シャルロット・デュノア…?」
「…シャルロット・
冷たい視線を送るのは、彼女も同様だった。
椅子に腰を下ろす事も無く、忌々しげな視線を突き刺してくる。
腰に携えたホルスターからは黒光りする拳銃が覗いているが、その手に握るような事はしない程度に怒りを抑えているようでもあった。
「僕は今、ファランクスに所属しています。
戦闘班ではなく、斥候部隊に所属していますけど」
「…斥候部隊…テロ組織の拠点の捜索でもしているのか…?」
視線がより鋭く、その双眸に劫火が宿る。
その細い指が束ねられた三つ編みに触れる、それで怒りを紛らわせようとしているようではあるが、それでも苛立ちが溜まっていく。
「僕の所属する斥候部隊は国際犯罪者の捜索にも宛がわれています。
例えば、アンタの弟とかもね」
「…まさか、見つけてくれるのか、全輝を………!?」
微かな、蜘蛛の糸のように細いかもしれない、それでも千冬にとっては望外の希望にすら見えた。
千冬の表情に喜色が見えた、だがシャルロットはそれを見て表情を歪める。
「忘れてるみたいだけど、彼は国際指名手配犯であると同時に『
そして…僕の故国フランスは彼の手によって崩壊した、僕の母さんは彼のせいで死んだんだ。
それが明確になっている以上、僕が彼を生け捕りにする理由が無いよ」
「…な…っ…」
喜び転じて絶望へと叩き落される。
殴りつけられたような衝撃が襲うが、それを見ながらもシャルロットは言葉をつづけた。
「懸賞金4億円を狙っているのは僕だけじゃないんですよ。
討伐したとしても、生け捕りにしたとしても日本の法廷では死刑判決が定められてる。
彼の行く末は決まっているからね」
「ま、待て…!」
「僕は、母さんの仇を討つ」
バタンッ!
扉が勢いよく閉じられる。
それでも、彼女の瞼の奥に焼き付いたのは、憎悪に燃えるシャルロットの眼光だった。
「…だ、出してくれ!私は全輝を!全輝を守りに行かなければならないんだっ!」
その日から、彼女の錯乱は始まった。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
シャルロットは、拘置所から出て、改めて空を見上げた。
雲一つ無い晴天と、暖かな日差しが彼女を見下ろす。
一つ、二つと深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「もう良いのかシャルロット」
木陰から現れた小柄な姿が一つ。
同じ軍帽を携えるラウラだった。
「うん、言いたいことは言ったから。
『母さんの仇を討つ』って、さ」
第一回モンド・グロッソ大会にて、織斑 一夏が誘拐された事件、それを折りにフランスは零落した。
原因はフランス政府による隠蔽だったかもしれない。
だが、それだけではなかったことが6年もの時間を跨いで白日の下に晒された。
織斑 全輝は事件が起きたことを把握していながら、千冬へと直接繋がるホットラインを有していながらも、それでも何一つ伝える事もせずに隠蔽していたことだった。
そして同年、イギリスは首府ロンドン以外の全ての国土・領海・領空、そこに関わるありとあらゆる権限を失った。
それに続き、フランスは零落に続く長すぎる氷河期を迎えた。
そのすべてが、織斑 全輝という個人の感情で引き起こされたことが判明した。
だが、その本人は織斑 千冬の手によって国外逃亡した可能性が示唆された。
織斑 全輝の卑劣さも判明している以上、もはや野放しにするわけにはいかず、国際指名手配となり、その悪辣さを考慮し、賞金首ともなった。
「僕を利用していた分の借りもキッチリ返してもらわないとね…」
その卑劣がなければ、ウェイル・ハースとの出会いは無かっただろう。
だが、それとこれとは話は別だった。
「そうか、ならそうすると良い。
…行くぞ、最後の任務だ」
「了解したよ、副隊長」
母を喪った悲嘆、故郷から見放された絶望、仇敵へと向けられる憎悪。
それに染められる事は無いのだと信じ、彼女は仲間達とともに歩み始める。
きっと、抱え続けた負の感情を手放せる日が来ると信じて…。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
埃漂う暗い部屋、その隅でその少年は震えあがっていた。
毎日続く拷問に恐怖し続けていた。
ボロボロの椅子に鎖で縛られ、その状態で体のあちこちを見境なしに殴り続けられる、その恐怖に。
ボロボロの布の袋を被せられ、その上から水を勢いよく浴びせられ、陸の上でありながら溺れ死にそうになる恐怖に。
それがどれだけ続くのかも判らない。
時折、腕に何らかの注射を打たれ、その翌朝には出血だけは停止し、醜い傷跡が残り続けている。
栄養剤も含まれているのか、とりあえず死にはしなかった。
だが、それでも激痛が激痛であることに何ら変わらない。
栄養が体に直接投与されていようと、空腹が続く。
見下ろせば、粗末な貫頭衣の下の体など、どんどんやせ衰えていた。
死の恐怖に晒され続けながらも、それでも死なせてもらえない。
その結果が今のこの状態だった。
「なんで…なんでこんな事に…」
歯をカチカチと鳴らしながらも過去を振り返る。
今まで、何もかもが上手く事が運び続けた。
他者の気持ちを利用し、他者を駒のように動かし、自らは動く事も無く、自らの目的を達する。
それによって望む結果を手にし続けた。
失敗など殆ど無かった、スマートに事を成し続けていたはずなのに。
最後は自らの手を汚す事になってしまったものの、それでもバレる事など無いと思っていたのに…。
過去の所業と同時に白日の下に晒され…今は、この暗闇に追われていた。
周囲の壁面を見上げるが、脱出できそうな窓など見当たらない。
換気扇もバタバタと音を立てているが、到底潜り抜けられる場所ではない。
壁面のかなり上には空いている空間こそ見えるが、手を伸ばせど、跳躍しようとも手が決して届かない。
出入口であろう扉はあるものの、外から閂が施されているように開かなかった。
『では、次のニュースです』
壁面のはるか上、開かれた空間に取り付けられていたであろうモニターに光が灯る。
そこには、日本で放映されているであろうニュースが流されていた。
「なん…だよ、アレ…!?」
そこで告げられるニュースに驚愕を隠せなかった。
『初代ブリュンヒルデと称えられた織斑千冬女史がテロ資金提供処罰法違反で無期懲役となりましたが、その弟であり、世界最初の男性IS搭乗者である織斑 全輝容疑者が、国連によって全世界国際指名手配として登録されていました。
今後、反社会組織との関わりを持つ危険性、また、様々な非道な手口も考慮され、
莫大な懸賞金を餌に、見ず知らずの人間から命を狙われ追われ続ける地獄の始まりを告げる知らせだった。
ここに居れば、殺されることはなくとも拷問による恐怖と苦痛に襲われ続けることになる。
ここを出れば、場所も昼夜も問わずに命を狙われ続ける事になるだろう。
「なんで…なんでこんな事になるんだよ…!?」
立ち上がり、扉へ向けてフラフラと歩きだす。
ドォンッ!
扉を叩けども、開くことなどない。
「俺、此処に居るよぉ…千冬姉、助けてくれよぉっ!」
暗い部屋の中、慟哭が響いた。
それでも、次に扉が開くのは…激痛の時でしかない。
得体のしれない注射で傷は塞がるが、激痛が激痛であることに変わりない。
激痛の絶望と、生死を問わぬ絶望。
与えられた道は、ただそれだけだった。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「出ろ、面会だ」
この冷たい言葉はもう何度目になるだろうか。
痩せ切った手で体を支え、硬すぎるベッドから体を起こす。
頬はこけ、髪にはもはや艶など見えないかのようだった。
禁錮されている部屋を出る直前に手錠をかけられ、腰には紐をつながれる。
無期懲役といえども、彼女ほどの実力者では何をされるか判らず、懲役期間の労働に使用されるような開ききった場所への開放などされる事はただの一度もなかった。
例え、今のように瘦せ衰えたような状態になっても、だ。
「全輝は見つかったのか…?」
「無駄口を叩くな」
弟の行方は杳として知れない。
生死問わずの賞金首にされたというのだから、今となっても気が気でない。
だが、看守にとってはどうでもいい事なのか、言葉には愛想の欠片も無い。
そして、もう何度目になるのかも判らぬ面会室の扉が開かれた。
アクリルガラスの向こうに居るのは
「アリーシャ…!?」
茜色の長い髪を背へと流す、もう一人の
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
全て、全て私の計画通りだった。
首相と法王の名を借りた書面を出してからというもの、それでも計画には幾度も綻びが生じた。
その都度、この女の持ち合わせるコネクションを奪い、削り、抉り、喪失させ続けた。
無いことを在る様に言われただろう
在ることを無い様に言われただろう
冷たい視線を向けられ続けただろう
心無い侮蔑の言葉の掃き溜めにされただろう
居場所を失っただろう
信頼を失っただろう
安息を失っただろう
全て、全てが私の手による計画だった。
「残念だったサね、アンタの弟君。
…生死を問わぬ賞金首となって全世界国際指名手配だそうサね」
面会室の椅子に座った
最後に直接顔を見合わせたのは第二回大会の開催地、ドイツだった。
あのころに比べれば憔悴し、死に損なっただけのような姿にも見えた。
「…殺されたいのか…!」
憎悪を込めた視線を私に突き刺してくるが、どうという事も無い。
この程度、微風にも劣る。
「今度は、私を殺そうってつもりサね?
アンタの弟と同じように手を血で染めて…?」
「………ッ!」
あのクソガキが私の弟を手にかけたことも私は知っている。
だから、威圧を込めた視線で返す。
それだけで、もう何も言えなくなる程度は理解していた。
だが、此処からは私から言いたい放題に言ってやる。
目を反らし続けた闇に、容赦なく手を突っ込んでやる。
「第一回大会の時に起きた事件について…アンタ程に鋭い奴が気付かなかったとは到底思えない。
本当は気付いていたんだろう?
下の弟の声を一度も聞いていなかった事に…織斑 全輝が何かを隠し続けている、と」
「…………………~ッ………」
表情が歪む、やはり本当は何かを察していたのかもしれない。
だが、それも今更…だが遠慮をする気は私には無いサ。
更に遠慮もなくその深奥へと無造作に突っ込んでいく。
「だが、アンタは『家族への信頼』と言う言葉を楯にして何もしない。
織斑 全輝はそれを計算に入れて非道を続け、フランス零落とイギリス崩壊、新宿爆撃テロとIS学園爆撃テロにまで手を出した…悪魔の勝利と言えるだろうサ」
「……うるさい……!」
諸悪の根源が傍らに居続けた事は察していたのかもしれないが、決して『家族という存在』を守ろうとしなかった。
守っていたのは『家族という言葉』でしかない。
それに気付きながらも、気付かぬ振りを続けていた。
だが私は心の奥底の更なる深奥へと手を突っ込み、遠慮もなく引きずり出した。
あとは、壊すだけだがそれはまだ時間を空ける必要がある。
「じゃあ、私はこれで帰るとするさ。
それと、良いことを教えておくサ」
それから私は足元に置いていた荷物の中から軍帽を取り出した。
三枚の楯が記された翼を模したエンブレムが取り付けられた軍帽を。
「国際ISテロシンジケート『凛天使』を討滅させるために結成された国際治安維持部隊『
戦闘部隊と斥候部隊も一度に預かることになってるのサ」
「な…に…!?」
「織斑 全輝身柄の捕縛も仕事の一つだが…
一気に顔色が青く染まっていく。
そう、その顔が見たかった…!
「まあ、この国では裁判で死刑判決も下されているから大差は無いだろうサ」
そう簡単に見つかることなどないだけに斥候部隊は必死になってでも見つけようとするだろう。
見つけられるのは…10年以上も先になるだろうけどサ。
「ま、待て…待ってくれ…」
「生憎ともう時間が無い。
私は、家族を守るために動き続けているからサ、
そう、この言葉を言い放ってやりたかった。
絶望に染まった顔を視界の端に…一瞬だけ入れて私は面会室を後にした。
拘置所を出れば、隊員が全員揃って私を出迎えてくる。
国際色豊かではあるが、今の私が働く場所はこの場所になる。
「さあ、行くよ皆、最後の仕事場所サ!」
「「「「「「はい!蒼き空の為に!!」」」」」」
こういう堅苦しいのは苦手なんだけどねぇ…。
早く仕事を終わらせて弟妹達のところに帰りたいサ…。
不落の楯部隊について
全世界の軍人、国家代表選手、国家代表候補生などの勇士によって結束された国際編成軍。
その目的は、テロ組織である『凛天使』の討滅となっている。
軍服や軍帽については定められておらず、各国の軍服をそのまま各自使用している。
ただ、それでは示しがつかないので、白い翼を象ったのペンダントが隊章となっている。
背中にや軍帽に同様のエンブレムを縫い付けている人物も居るが、それは個人で勝手にやっているもの。
整備士などペンダントの着用が共通している。
それぞれ搭乗者達の機体には共通して『リンクシステム』が搭載されており、各自の情報がリアルタイムで共有されるようになっている。
なお、リンクシステムの搭載には、イタリア本国やウェイルの承諾が必要とされた。