更識 簪が開発したシステム。
日本からISの所有権限が失われ、簪の専用機である『打鉄弐式』も押収されるが、個人開発であるマルチロックオンシステムは彼女にパテントが残された。
後に不落の楯が結成された際に欧州統合防衛機構がそれを知り、不落の楯にて使用する『ミネルヴァ』の運用システムに最適と判断し、使用料として莫大な金銭を支払ったとされている。
実際、大型特殊車両併用という筐体の用意も不要となり、終戦直前にはマルチロックオンシステムが圧縮搭載されたミネルヴァが大量投入されるに至っている。
また、終戦後に行われるであろう宇宙開発への使用も確約された。
Q,ウェイルが小型のスピーカーの修理を依頼されていたみたいですが、何に使う予定なんですか?
P.N.『匿名希望』さんより
A.実は作中にすでに登場しているんですよね。
どこで登場したのか?それは作中を振り返ってみましょう。
Q.楯無さんですが…もしかして外堀が埋められてますか?
P.N.『読み切りチケット』さんより
A.はい、完全に外堀を埋められています。
技術方面で、暗部ガールズ3人に関しては良好な人物として話が伝わっているのでしょう。
反面、楯無さんはというと…ね…。
Q.法王猊下がヴェネツィアに休暇に出向いたり、コテージを貸し与えたりってやっぱり…もしかして確信犯ですか?
P.N.『匿名希望』さんより
A.恐らくは。
オッサンたちが勢ぞろいしていたのは彼も予想していなかったんじゃないですかね?
連日おっさんたちが彼女のもとに圧迫面接しに行ってますが、コテージを教えたのは、法王猊下の仕業だったりします。
連日オッサンたちが圧迫面接しに来た挙句、バチカンへ帰る日の前日には………ご愁傷様
このヴェネツィアに来てからしばらく経過した。
あれからの日々はまさに波乱万丈だった。
「ふぅ…やっと落ち着ける…」
コテージの屋上にはちょっとした庭園になっていて、私はそこにリゾートベンチを勝手に持ち込んで紅茶を飲みながらゴロゴロとしていた。
それに…猊下もそろそろ休暇を終えるという事で、明日にはバチカンに帰還することになる。
なので今日は荷物をまとめる事になった。
このヴェネツィアに来てからは波乱万丈だった。
ウェイル君に遭遇したあの日、彼が無意識無自覚に構築していた人脈に驚愕させられた。
首相と法王猊下だけじゃなかったのよね…。
誰が予想しようものか、表の世界と裏の世界にまで人脈を構築する未成年の男の子が居るだなんて…。
「荷物もまとめるのは終わったし、今日はもうお昼寝でもしとこうかしら…」
あれからというもの、二日か三日空けてその御仁たちが訪れては圧迫面接をしてくる日々。
そんな辛い日々からようやく解放されると思うと、バチカンでの護衛業務が遥かにマシだと思うわ。
「あ、お嬢様、こちらに居られたんですね」
「虚ちゃん、どうしたの?」
「ご報告することがありましたので」
一つ目は、簪ちゃんの事だった。
かつて、簪ちゃんが独自開発するのに成功したマルチロックオンシステムの使用を、欧州統合防衛機構から打診されたということ。
それによって簪ちゃんはウェイル君の紹介でFIATを仲介し、欧州統合防衛機構に技術のプレゼンを行った。
パテント料を簪ちゃんが受領することが条件となり、ファランクス部隊が使用する『電磁吸着ブーメラン:ミネルヴァ』への導入が決定した。
でも、そのパテント料が凄い事になっていたとか。
二つ目は
「鈴ちゃんがイタリアに?」
「ええ、ウェイル君を追ってきたようです」
あの二人の過去のことは知っている。
失った時間を取り戻そうと、時間が動き出したのだろうとは思う。
私としてもウェイル君に好感を持っているし、篭絡しようと思っていたけれど、あの御仁たちが…思い返せば胃が痛い…。
「今日のお昼過ぎにはテッセラ空港に到着する見込みです」
「早速このヴェネツィアに来るつもりでしょうね」
これは…楽しい日常が始まりそうな予感。
私は今回はお仕事という形でこのヴェネツィアに来ていたけれど、正式に休暇を獲得してこの街に滞在しようかしら?
それが出来れば、この街での日常が楽しめそうな気がした。
日本で最後に見た鈴ちゃんの様子を思い浮かべれば殊更に。
「あの二人には幸せになってほしいわね…」
「メルクさんも居ますから、奇妙な三角関係になりそうですが」
「そこに私も加わってみようかしら♪」
それはそれで楽しそうな日々になりそうな気がする。
在り得るかもしれない日々を想像してくるだけでもとても楽しい気分になってくる。
「それから最後のお知らせとして…お嬢様にお客様です」
…まさか、また?
いや、ちょっと待って、あの日あの釣り場でウェイル君と一緒にいた御仁達とはすでに全員の圧迫面接は既に終えた筈よ。
今更誰かのおかわりなんて追加なんてノーサンキューなんだけど…?
そしてその都度その都度、虚ちゃんにとってはあまりにも嬉しいであろう物件紹介なんて餌を使って、私の眼前で賄賂や買収が行われているから逃げられなかったのよ?
よし、今度こそ本気で居留守を使うか、本気で逃げよう。
「お客様のお名前ですが、『ヴェルダ・ハース』氏と、『ジェシカ・ハース』女史です」
……………………イィィィィィィィィィィィィィィィィィィィヤアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!
誰かと思えばあの兄妹のご両親!?
態々このタイミングで来たってことは、絶対あの御仁達の誰かが私達の居住地を密告してるでしょ!?
あの圧迫面接を終えてやっと解放的な気分でいたのに、なんで!?
よりにもよって最も居留守を使えない相手でしょう!?
「こ、ここで居留守を使ったらどうなるかしらね…?」
「ウェイル君との出会いの一件から全てを知られているのですから、マイナスから始まった評価の株価が更に急降下するかと。
あ、すみませんが私は私用が出来ましたので少しだけお暇させていただきますね。
お二人は既に居間に通しておりますのでごゆっくりどうぞ」
そう言って虚ちゃんは飛び出していった。
随分と機嫌がよさそうに見えるけれど、さては既に賄賂を受け取っていたわね…?
「…う…胃が…」
やっと解放的な気分になれたというのに、再び始まるであろうあの時間にキリキリシクシクと胃が痛む気がした。
諦めて階段を降り、居間に向かえば…ア…アハハハ…。
あの兄妹のご両親が揃っていた…額に青筋を浮かべて…
私にも誰か付き添いが居てほしい。
だけど、簪ちゃんと本音ちゃんは欧州統合防衛機構への技術供与の為に、今はオランダに出向中。
虚ちゃんは…多分、ヴェネツィアの商店街に出向いているんだろう。
「さて、私達としては色々と話したい事があるんだ」
「息子が随分と世話になったようだけれど、いきなり一か月も入院することになってね、その件もキッチリと話してもらおうかしら…?」
………誰か、勤労乙女に救いの手を………
後日、私の食事はお粥が多くなった。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
あれから、悪夢に魘されることは無くなった。
あの街では、嫌な記憶だけでなく、善き思い出も在ったのだと…。
「お兄さん、起きてください、時間ですよ」
小さな手で体が揺さぶられ、意識が現実へと導かれる。
誰の声なのかは見ずとも判る、俺がこの家に引き取られてからは、もう日常にもなった妹の声だ。
目が覚めるのは早朝の5時半。
これはもう以前から続いている日常だった。
「…ん…~っ!」
ベッドの上で体を起こし、体を伸ばす。
まだ眠気が残っているけれど、今は我慢だ。
「おはようございます、お兄さん」
「フニャァ」
メルクと、シャイニィが寝ぼけ眼の俺に笑顔を見せてくれる。
「ああ、おはよう」
この時間に起きるのも、今ではすっかり慣れてしまっている。
ずっと続けている走り込みをするのにも、これくらいの時間が最も都合がいい。
だが、メルクの起床時間は俺よりも早く、俺をわざわざ起こしに来るのを日常に取り入れてしまっている。
寝顔を見られてしまっているのは少々首を傾げてしまうのだが、もう考えないようにした。
俺を起こしたことに満足しているのか、シャイニィと一緒に部屋へと戻っていくのを確認しながら、俺はベッドから出る。
寝巻から動きやすい運動着に着替え、1階へと降りれば、甘い香りが漂ってくる。
「おはようウェイル」
「おはよう母さん!」
「今日も走りに行くのかいウェイル?」
「ああ、行ってくるよ父さん!」
洗面所から水の流れる音が聞こえてくる。
扉が開き、眠気を振り落としたらしいメルクが姿を見せる。
「今日も頑張りましょう、お兄さん!」
「ああ、そうだなメルク」
「ニャァ」
メルクがタオルで顔を拭きながら朝一番の笑顔を見せてくれる。
肩に飛び乗っているシャイニィも朝からご機嫌なようだった。
シャイニィはこれから俺たちがこれからどうするのか理解しているのか、メルクの肩から飛び降り、窓際へと移動していく。
「じゃあ、行くか」
「はい!」
いってきます、と両親に元気よく言ってから扉を開く。
「よう!」
「今日もいつも通りみたいだね」
ヴェネツィアで暮らすようになってからできた親友であるキースとクライドが待っていた。
日課になっている早朝のランニングにはこの二人も一緒になっている。
そして
「うん、全員揃ったみたいだな」
今日も姉さんは帰ってきていない。
国際IS委員会が解体され、欧州統合防衛機構がその代替組織となり、テロ討滅を掲げた国際組織への編成を要望されているらしく、姉さんはやむなくそれに承諾した。
それから忙しそうにしているけれど、それでもたまには姿を見せてくれる事は正直とても嬉しい。
国際編成組織での仕事では忙しく動いているのだろう。
そうでなかったとしても日常の中で、ハース家にフラリとやってきてはメルクやシャイニィと和気藹々としてくれていた。
俺も勉強を見てもらったりしていたから、プライベート時間を奪っているような気がしないでもない。
俺の記憶が戻ったことは姉さんにも話した。
メルクと姉さんは俺の過去を知りながら隠していたらしい。
思い出さぬように、そして国外への情報流出をシャットアウトしていた事も話してくれた。
そのうえで、家族として接してくれていたとの事だった。
俺が記憶を取り戻してからも
「ウェイルが私の弟であることに変わりないサ。
これまでも、これからも、サ」
俺だって、もう織斑一夏として生きたいとは思わない。
ウェイル・ハースとして生きていきたいと叫べば、その我が儘を受け入れてくれた。
だから俺は…此処に居る。
見慣れた街並みの中を今日も走る。
水路には多くの船が停泊し、中には朝早くから水上バイクを走らせている人も居る。
以前使っていた釣り場には、これまた朝早くから
「フィーッシュッ!」
「テメェはもっと静かに釣れねぇのかこの近代かぶれ!」
「居るではないかアジどもぉっ!」
当面あの港に釣りにはいけそうにないな。
商店街を走れば朝市が始まっている。
覗き込んでみれば新鮮なシーフードが溢れかえっているだろう。
俺がマグロを釣り上げて市場を騒がせたのも今となっては懐かしい。
「あら、今日も朝から元気そうね」
『商店街の最強の座は主婦のもの』と豪語していたメイディさんが声をかけてくる。
最近夫婦で引っ越してきた人で、母さんとも仲良しになっている。
母さんから料理を伝授してもらっていたり、メルクを着せ替え人形のようにしていた時もあった。
そのせいでメルクは少し苦手意識を持ってしまっている。
「ええ、日課ですので」
俺の後ろに隠れるメルクの代わりに俺が返答をしておく。
交わす言葉はこれだけだった。
「お嬢さんにはまた新しい衣装を用意しておきますからねぇ!」
「結構です!」
さすがにメルクも悲鳴交じりに叫んでいた。
これには俺も苦笑いしていた、ついでにキースとクライドも。
商店街を抜ければ、市街地の中心部に出る
その一角には大きな屋敷が聳え立ち、その門前に
「………………」
褐色の肌の大柄の人が門番をしていた。
しばらく前から姿を見るようになってはいるが、言葉を発したところは見たことがなかった。
「ふむ、今日も若人達は元気そうだな」
屋敷の反対側には新築のアパートがあり、その守衛をしているらしい髪の長い男性が声をかけてくる。
あの人が居るからか警備は万全だと聞いたこともあるが本当なのだろうか。
試す気は無いが、守衛らしき人物の傍らには身長ほどもある模造刀が置かれている。
手を出すのはよほどの命知らずくらいだろう。
昨年、姉さんがパレードの見世物になっていたあの人相手に殺陣を演じているのを見てしまったが、かなりの手練れだったと思う。
何者なんだろうな、あの人は。
市街地をそのまま駆け抜け、これにてランニングコースを半分駆け抜けたことになる。
ここまでくれば以前はキースもクライドもヘトヘトになっていた頃もあったが、今ではすっかり慣れているのか俺やメルクとも並走している。
「さあ、ここで折り返しだ!」
「「おう!」」
ここで息を整え、準備を整える。
俺も全力疾走に控えて眼鏡をポケットに仕舞う。
来た道を戻るだけだが、ここからは各自全力疾走になる。
いつもトップで到着してみせるのは姉さんも姿を思い出す、俺はビリになることは…まあ、少なくない。
「「「「GO!!」」」」
とたんに全員が全力疾走を始める、ゴールは俺たちの家の前だ。
ここまで見てきた光景が早送りになって視界の端から端へと流れていく。
息が切れそうになるが、こんなところでギブアップをするつもりは毛頭ない。
早朝の冷たい空気が今は少しだけ寒いが、今ではその冷たさもすっかりと忘れてしまえるほどだった。
「ほう、いいペースをしてるな、ウェイル」
「日課だからかな、もう慣れてきてるんだよ。
メルクもそうだろ」
「はい、勿論!」
結果としては、やはりメルクが1位、俺は2位で、キースが3位、クライドは僅差で最下位だった。
それでも全力疾走を続けたことでゴール後は流石に息が切れる。
朝食前にシャワーを浴びることにしているが、それはゴールした順番だと決まっている。
つまり俺の順番は2番目だ。
とはいえ、男のシャワーなんてそれこそ短いものでさっさと終わらせる。
「さあ皆、朝ご飯出来てるわよ」
メルクもシャワーを浴びて終わり、学校の制服に着替え終わったころ合いに母さんがそう声をかけてくる。
今日も我が家の食卓はシーフードが盛り沢山だ。
先週末にしっかりと釣りをしてきた成果が実っているようで満足だ。
「お腹が空きましたぁっ!」
そんな声がご近所から響いてくるのも最早日常だ。
母さんが言うには『アルティ』という人物らしい。
パレードにて開かれる屋台の料理を制覇している人だとか。
ご近所さんの食費が心配ではあるが、俺が釣り上げる魚も流れていたりするとか…。
朝食を終わらせると俺とメルクは学校に行くことになる。
IS学園が閉鎖されてからは元の学校に舞い戻るという、どうにも締まらない流れになってしまっている。
万が一、IS学園を退学になろうものなら元の学校に戻れるように手配しておいていて助かったとは思う。
そうでなければ俺はすぐにでも就職活動だとか、高校受験のやり直しからの『3度目の高校1年生』になっていたことだろう。
朝食を終わらせ、食器を母さんに渡し、そのまま鞄を掴んで家を飛び出す。
自転車の前籠に鞄を放り込み、サドルに跨る。
メルクは普段通りに荷台に座り、俺の背中に寄りかかってくる。
シャイニィもそんなメルクの膝の上に飛び乗ってくる。
「「行ってきます!」」
「ニャァッ!」
両親に見送られながら俺はペダルを強く踏み込む。
見慣れた街がまたも流れていくような錯覚に陥る。
「いいもんだな、こういう感覚も…」
かつての俺は自分だけの居場所を求めていた
名を変え
必要とあらば姿を変えて
俺を知る人が誰も居ない場所へ
俺が知る人が誰も居ない場所へ
結果的には、望んだ形とは違う形で、今ここにいる。
今いる場所こそ俺の居場所なんだろう
家族が居る
釣りを介して知り合った沢山の人達が居る
ああ、確かに満たされている
なのに、何かが欠けている
その欠落は、
今でこそメールでやり取りをしているが声を聴く機会など、随分と長く失われてしまっている。
いつの日か、俺の方から迎えに行こうとは思っている。
今は、それを支えに頑張っているところだ
「よう、さっきぶり」
学校を目指して進んでいたところでキースとクライドと顔を合わせる。
こうやって友人と何気なく、親しく言葉を交わせるのは本当に楽しく思える。
悩んでいたことも、その時だけは忘れさせてくれる。
弾と数馬を思い出させてくれるような気がするのはご愛敬ってことで。
「おや、見ない顔ですね。
図書室をあまり利用してない生徒の方でしょうか?」
自転車を駐輪場に停めれば、背丈の大きい長髪の女性の姿が
図書室は…確かにそんなに使ってないけどさ
「ああ、あの人は二人が極東に行ってる間に入ってきた図書室の司書のアメナさんだよ」
…身長は俺より少しだけ大きいみたいだ。
そして俺と同じく眼鏡着用者らしい、そこだけは親近感が沸く。
この街も、学校も沢山の人達が出入りしているのかもしれない。
にぎやかでそれだけ多くの笑顔が溢れているのだろう。
だけど、もしも…もしもそれを壊そうとする人が居るとしたら…。
いや、辛気臭いことを考えるのはやめておこう。
新学期ということでクラスの編成が貼りだされているのを見つける。
えっと…
「今年も同じクラスみたいだな」
俺も、メルクも、キースも、クライドも同じクラスで一年間を過ごせるらしい。
お互いに元気も暢気も心得ている仲だ、今年も面白おかしくやっていけそうだった。
クラスは3年4組ということで早速クラスに入ってみる。
見慣れた顔も、見たことのない顔もチラホラと見受けられる。
さて、今年はどんな一年を過ごせるだろうか。
「全員、席に着きなさい、ホームルームを始めるぞ」
担任は眼鏡をかけた厳格そうな男性教諭だった。
暗い緑のスーツがビシッと決まっている。
俺も将来はああいった背広を着るようになるのだろうか、その時には一人でネクタイを締められるようにしておきたいな。
「今日から諸君の担任になるクズロだ、よろしく頼む」
担当教科は社会科、厳格そうな外見と一致しているみたいだ。
「早速だが、この1学期から転入生が来ることになっている、入ってきなさい」
ガラリと扉が開き、その人物が姿を現した。
その姿を見て、俺とメルクは息をのんだ。
まさか、とは思う…懐かしい姿、違うのは身に纏っている学生服程度だ。
「中国からやってきました、
驚かざるを得なかった。
いつか、俺が鈴を迎えに行くつもりでいたというのに、まさかその本人が自らやってくるだなんて誰が思うかよ…。
いや、当の本人も追いかけてくるとは言ってはいたんだが…あれから一年もたってないのに、有言実行してくるなんてな…。
そんな俺の視線に気づいたのか、鈴が俺の腕をつかみ、
「お、おい、ちょっと待てって…」
「もう充分待たされたわよ、私は」
ホワイトボード前へと俺を連行していく。
そして何を考えているのか背を伸ばしながら俺の首に手をまわし
chu!
リップ音が一つ。
以前は頬にされたが、今度は嘘偽りなく俺の唇に、だ
「最初に言っておくわね、ウェイルは私の彼氏よ!誰にも手出しさせないからね!」
クラスメイトの見るその真ん中で爆弾発言をしやがった、コイツ…!
「な、なにをやってるんですか鈴さん!!」
ほら見ろ、メルクだって騒ぎ出してるじゃないか。
コレって俺が事の原因になるんだろうか…?
担任の教師のクズロ教諭はまるで無表情、そしてそのまま俺に視線を突き刺している。
もう視線だけで「お前が解決させろ」と言っているようにも見受けられるぞ、俺は悪くねぇっ!
「アンタねぇっ!見なかった9ヶ月でなんでこんなに育ってんのよ!
いくら何でもおかしいでしょうがぁっ!」
「ど、何処を掴んでるんですかぁっ!離してくださいぃっ!」
クラスの男子生徒は机に突っ伏して起き上がれなくなっていた。
「まさかとは思うけど、まだ添い寝を続けてるんじゃないでしょうねぇっ!?」
「以前に比べて頻度は半分にしてます!
私だって我慢してるんですから!」
実際そうなんだよな。
今でも寝床に平然と入ってきては、俺の腕を枕にして眠っている。
偶にメルクよりも早くに目覚める事もあり、見れば俺の腕を抱き枕状態にしていることも珍しくはいない。
「
幸い、この二人は現在はイタリア語ではなく日本語で舌戦を繰り広げているようで、周囲の生徒に聞かれてもそこまで困るような状況ではないのだが…コレ、俺が止めなきゃならないのか…?
「まさかとは思うけど、お風呂まで一緒にしてるんじゃないでしょうね!?」
「し、してません…!」
それに関しては本当に大丈夫だ、流石に母さんが止めて未遂で終わっている。
「ハース、この二人を静めろ」
あ、クズロ教諭は十中八九は理解してるっぽいな。
「なんで俺なんですか…?」
シャイニィが教室後方のロッカーの上で暢気に眠っているのに教室が喧騒に包まれている、そんな朝の光景だった。
それにしてもこの二人、威嚇しあっている猫に見えてきた…
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
あのSHRの光景を皮切りに、私達の騒がしくも賑やかな日々が始まりました。
多分、お姉さんはこのことを事前に知っていた筈。
それを私達にも秘密にしていたんだと思います。
「ふぅん…ここがウェイルの部屋…」
「あんまりジロジロ見るなよ…」
「アンタ達も私をジロジロ見てたんだからお互い様でしょ」
学校が終わって帰宅して…その途中で鈴さんが私たちの家に訪問することで話が進んでいった。
というか、強制家庭訪問です…。
でも……実際、鈴さんが私達の家に来る際には、アパートに帰ってからのテイク2の状態です。
着替えてきた姿には驚かされました、なにしろチャイナドレスに着替えてましたから。
「…なんで、ドレスコードなんだ?」
「だ、だって…親御さんに挨拶をするかもしれないし、その際にはドレスコードが必須だってヘキサさんから教わったから」
「鈴さん、それ、絶対にからかわれてます…」
直後、鈴さんはお兄さんのジャケットを奪い取ってました。
「この釣り竿の量は何?」
「良いだろう、人から貰ったものもあるんだ。
川釣り専用ロッド、海釣り用極太ロッド、こっちは試作段階で製造中止になった幻の一品のロッドだ」
誕生日の都度にご近所さんがロッドを送ってくれるので、お兄さんの部屋の一角には釣竿を収めたケースが並んでます。
あとは機械いじり用の工具とかも…。
「メルクの部屋は隣になってたっけ」
「え?あ、はい、そうですよ」
鈴さんの肩にはシャイニィが飛び乗り、フサフサの毛を擦り付けている。
お兄さんと仲が良い人だと判断したのか、さっそく懐いているみたいです。
「鈴さんは何処に住んでいるんですか?」
「商店街の向こう側の市街地にあるアパートよ、そこの3階に住んでるわ。
守衛に髪の長い人が居るんだけど、判る?」
………お兄さんと顔を見合わせる。
今朝、ランニングで走っていたコースの中に見覚えがあったのを思い出す。
あそこですか。
「はい、判ります」
「毎日ランニングで走っているコースの中で、それらしき建物の前を通っているからな」
「そう、なら話は早いわ。
今夜は私の部屋で手料理を振舞ってあげるわ!」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「うんうん、楽しそうだねウェイ君は♪」
モニターの向こう側、私の弟妹達が楽しそうにしているのが見えた。
凰 鈴音がイタリアに来ようとしているのはヘキサから事前に調査させて知っていた。
ウェイルは『自分から迎えに行く』とは言っていたけど、それがいつになるのかは不鮮明でしかないから私が少しだけ背中を押したことにはなるのかもしれない。
強引なことは理解してるサ、でもそうでもしないと、いつまでも待たせる事にもなってしまうだろうからね。
「それでアーちゃんはどうするの?」
「…そうサね…私は大詰めになった仕事を終わらせてからイタリアへ帰る事は二人も知っているからね、直接顔を合わせるのは少しだけ時間を空けるサ」
まったく、上層部のオッサン達は人使いが荒いから、デキる女は忙しいものさ。
『不落の楯』の隊長に選ばれることになるとは思ってもみなかったけど、その多忙さには忙殺されそうにも思う。
だから、こうやって家族と触れ合える時間が大切に思える。
「でもあのニャンコちゃんはウェイ君にゾッコンで押しかけ女房みたいになったらどうするの?」
「構わないサ、それに関してはジェシカ達も、メルクも先に納得しているからね」
まさかウェイルも家族公認とは思うまい。
メルクも、それに関しては承知している。
これは私なりの償いの一つでもあるのは確かな話。
失ってしまっていた時間を、奪われていた温もりを、歩める筈だった道を今度こそ…。
「それに…」
「最後の一手、それだけでしょ?」
…私の復讐はすでに達成せしめられた、だから…その禍根を可能性の段階から断つ。
でもそれにはもう少しだけ時間が必要サ…。
ヘキサから届けられた
二人から機体を預かった以上、これが最後の大仕事だ。
「私の方はともかくとして、お前の両親はどうなってる?」
「問題ないよ、いまは穏やかに余生を過ごしてる。
母さんは日本にいる時はガリガリに痩せ衰えていたけど、先日コッソリ様子を見に行ったら人並みになっていたから」
そっちはそっちで問題は無いらしい。
もう一度モニターを覗き込んでみれば、本当に手料理を振る舞い、弟妹達は美味しそうに食べている。
楽しそうで何より、これからは、ああいった穏やかなれど賑やかな日々を過ごしてほしい。
これで気兼ねなく旅立てる…さて、私も出発しよう。
家族の大切な日々を守り続けるために…!
「さあ、戦いを終わらせるために、最後の戦いを始めようサ!」
アレハンドロ・ザーウィック
サーシャ・ザーウィック
ウェイル、メルクがイタリアに帰国する際、イタリア大使館から渡された特殊偽造パスポートにて使用された偽名。
凛天使の目を掻い潜るためにも、姿だけでなく名前も用意されていた。
もともとは 官僚のような重要な席に座す人物が止むを得ない事情で使用する緊急処置通されている方法。
バレれば密航扱いとなり逮捕される危険性も。
今回はイタリア本国と暗部と欧州統合防衛機構も本気で着手したため、裏工作はバッチリと処理されている。
本人たちの経歴としては1年半後に帰国したという扱いでデータが改竄されている。
メルクがたわわに仲間入りだそうですよ
1年もあれば仲間入りも…さすがに無理があったか?