IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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Q.最近、ハマっているものって何か在りますか?
P.N.『グルース』さんより

A.ドラマですが『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』にハマってました。
終わってしまったのが惜しい番組でした。
他に見ていた方がどれだけ居るやら



第12話 染風 古街

ISの製造工場への見学。

進級したお祝いと、努力へのご褒美に連れて行くという約束を交わしてから暫く経った。

待たせていた間にも二人は色々と頑張っていたらしく、私としても誇らしい。

 

さて、ヴェネツィアから遠く離れた、イタリアの首都ローマ。

場所が場所な為、ちょっとした旅行みたいな気分。

だからって…

 

「お弁当まで用意するなんてね…」

 

二人がとれだけ楽しみにしていたのかがよく判る。

道中で困る事の無いように、廃棄が出来る紙製のお弁当箱。

中身はサンドイッチが並んでいる。

本気を出しすぎだろうに。

 

飛行機の中で並んで座っているけど、二人の本気度合に少し引いたのは秘密。

シャイニィはペット同伴が無理だったから、今回は留守番。

 

「ウェイル、その鞄の中身は何が入ってるのサ?」

 

「カメラです、製造過程とか家でも見てみたいですから」

 

はい没収。

製造過程ってのは国家機密も含まれている場合もあるから撮影は禁止サ。

 

「ダメですか…」

 

「興味を持ってるのは判るけど、無理サ」

 

ウェイルが興味深くしてるのは判るけどこればかりは無理サ。

落胆してる様子に苦笑しながら慰める。

いつかは製造ラインに並べる日が来るだろうから落ち込むのはそこまでにしな。

 

「お兄さん…えっと…」

 

「今回ばかりは我慢してもらうしか無いサね」

 

落ち込んでいたのも数秒、頭の中に焼き付けるつもりになったらしく、窓から外を見て気分を晴らしていた。

切り替えが早いサね。

こういう所は、お袋さん譲りなのか、親父さんに似たのか。

それとも…私に似たのサね?

 

長い間触れあっていたからか、こんな風に思う。

ウェイルの心は、言わば真っ白なキャンバスに例える事が出来る。

今は辿々しい手付きで自分の色を探し、少しずつ塗りあげ、絵画を描こうとしている。

時にはウェイル自身だけでなく、私や、両親、メルクがその手を支えながらも、デッサンをしているのだろう。

 

だけど、『織斑 一夏』は違う。

過去、『ウェイル・ハース』ではなかった頃は、それどころじゃなかった。

支えられながら絵画を描こうとしても、他者がその眼前のキャンバスを真っ黒に塗り穢す。

挙げ句、その手に持っていた筆ですらへし折られていたのだろう。

それが織斑 千冬。

それが織斑   。

それが篠ノ之 箒。

他者のキャンバスを穢し、『それがお前の絵』なのだ、と嘯き、他の色へ染まる事を否定する。

ウェイルではなかった過去の彼が色を求めても、他者がそれを穢し続けた。

 

ウェイルのキャンバスが、まるで取り換えられたかのように真っ白になったのは…奇跡かもしれないし、悲劇なのかもしれない。

 

それでも、ウェイルは自分をどんな色へと成長していくのかは私としては楽しみサ。

 

まあ、ウェイルのペースに染まりつつある私が言っても意味は無い…かな。

 

 

 

 

ローマの空港に着き、飛行機から降りた頃には、すっかり夕方になってた。

ヴェネツィアの家を出たのはお昼過ぎだったから仕方無いかな。

 

「さて、先ずはホテルにチェックインをしてから食事にしようサね」

 

「この街、どこか釣り場は在るかな…?」

 

…釣り竿、持ってきてないよね、ウェイル?

 

ホテルの代金は今回は最近釣り場に姿を見せるようになったオッサン(ローマ市長)に押し付ける形で話がついているから、チェックインをするだけであとは部屋まで案内してもらえる。

今回予約した部屋は最上階の部屋。

メルクからの要望もあって、三人同じ部屋にしてある。

 

「いい眺めですね…」

 

「だな…ここまで街の景色が一望できるのなら、釣り場も見つかりそうだと思うんだが…う~む…見当たらないな…」

 

「ウェイル、ここまで来て釣りのことばかり考えるのは止しな」

 

本当に、この子の釣りの趣味はどこに根源が在るのやら。

出会うよりも前?まあ、それでも良いか、笑顔が見られるのならサ。

 

「明日はFIATでの見学に、簡単な講義もあるからそのつもりでいるように。

午後にはローマ付近の観光も予定にいれてあるよ、いろいろ見に行くサね」

 

観光の予定に入れているのは、ローマでも有名な『コロッセオ』、それに『ローマ街道』『パンテオン』も。

有名所だけでもローマの中に大量にあふれている。

全部見せてあげたいところだけど、時間も有限、それに次に学校に行く日に間に合わせてあげないとサ。

それでもたくさんのものを見せてあげるというのは気分も弾むサね。

 

「ほら、あそこを見てみな」

 

私が指さす先には、明後日に見せる予定のコロッセオがライトアップされている。

その隣には『フォルマ・ロマヌム』も見える。

ローマの代表的な観光スポットで、夜になっても賑わっている。

 

「明後日にはあそこも行く予定にしてあるから楽しみにしてな」

 

「「はい!」」

 

うんうん、二人とも聞き分けがよくて助かるサね。

食事に関しては、市街に出て摂る事にした。

お土産には『パネットーネ』でも買って帰ろうか。

シャイニイが食べられるものも何か買って帰らないと機嫌を悪くしそうサね。

 

 

 

 

「お邪魔するサね」

 

翌日、操業開始時間の少し後から私達は製造工場に見学に入った。

見学者用の入場ライセンスカードを首に提げ、早速見学に入る。

ウェイルの場合は、完成した機体を写真でしか見たことがない。

メルクの場合は、搭乗するために技術を習得させているけれど、実際の初搭乗はもう少しだけ先になる。

だけど、実際に製造しているラインを見るのは今回が初めての経験になる筈。

 

「うわぁ…凄いなぁ…」

 

「部品単位から作り上げてますよ…」

 

うんうん、いいリアクション。

 

「我が国の主力機は『テンペスタ』。

世界最速の機体を作り上げるためにも……」

 

二人とも、態々解説までしてくれているのに、話はちゃんと耳に入ってるサね?

右から左へと通り抜けているようじゃ話にならないからね。

 

装甲の形成に、内蔵される部位の組み立て、操縦桿の動作性の確認、出力計算と、様々な分野でのライン見学していくころには二人の目はとても輝いて見えた。

背面スラスターにもなると二人のテンションは最大値まで上昇してそう。

 

「先生の機体もここで作ったんですか?」

 

「ふぅむ…いろいろと内蔵されてる部位もここで製造されてたかもしれないサね。

兵装もここで作ってたかも」

 

じゃあ、今度はそこのところの製造ラインを見学していこうか。

ISに搭載されている兵装というのは、カテゴリー別に分けてしまえば、そんなに多くない。

ブレードやランスといった近接戦闘兵装、銃器やグレネードのような遠距離戦闘兵装、こんな感じ。

不可視のシールドや絶対防御に頼ることで甘んじてしまい、(物理シールド)に頼る搭乗者は殊更に少ない。

単一仕様能力(ワンオフアビリティ)に目覚める機体は更に少なく、それを頼りにできるかと問われてしまえば微妙だ。

私としては最大限に頼れるほどに修練を積んではいるが、それでもまだ足りないかもしれない。

 

「ブレードにしても刀身だけで俺の身の丈くらいはあるなぁ…」

 

「銃だって大きいですよ…」

 

この子たちはそういうところは理解しているのか、してないのかは判らないけど。

 

「実際に持ってみますか?」

 

「おいおい、子供の腕力じゃ持ち上げることもできないだろうに」

 

案内者の軽い発言に私も顔を顰めた。

私の気持ちを察しているのかいないのか、ウェイルとメルクはサンプルとして置かれていた武器を手に取ってみる。

ウェイルはランスを、メルクはブレードを。

けどまあ、結果は見えていたけれど…

 

「浮かせるのが限界でした…構えるのとか無理だ…」

 

「すごく重いです…」

 

まあ、こうなるサね。

二人とも息が荒くなるほどに挑戦してたらしい。

まあ、サンプルだとしても持ち去られるわけにはいかないから、中には錘になるものが詰められてるから殊更に、ね。

実際にはもう少し軽い…筈。

それでも持ち上げるとかウェイルもよく鍛えてるみたいサ。

 

「ジョセスターフ女史、このお二人は?」

 

「私の弟分と妹分サ。

(ウェイル)はシステムエンジニア志望で、(メルク)は搭乗者志望で、国家代表候補生のトップさ。

そして、私の自慢の家族サ」

 

その言葉には決して偽りなんて無い。

私からすれば、この子達は教え子である以上に…家族だと思っている。

ようやく息が整ってきたウェイルといえば、兵装開発だとか、内蔵部品だとかに関して質問をしている。

メルクはスケジュール整理などで色々と質問をしている。

本当に、いろんな事に興味を持ってくれているようで私としても頼りになると思っている。

 

「ああ、それはだね…この装甲に使用していて…」

 

「ふむ…子供の発想というのも柔軟だな…新しい何かが考案できるかもしれないな…」

 

「どうサね?私の弟、ウェイルは?」

 

「非常に興味深い、将来はここで働いてもらいたいほどですぞ」

 

おっと、12歳の子に早くも就職内定が下されるか。

はやくもヘッドハンティングされそうだけど、その話はまだ何年か待ってほしいサ。

この子達には充実した人生を歩ませてあげたいからサ。

 

「こんなのはどうですか?」

 

「ああ……こりゃまた面白そうなのを書いてみてくれたが…ちょっと難しいな…」

 

「じゃあ、こんなのはどうですか?

持ち替える手順を省略してみたんですけど」

 

「お、おう?ホントに発想が柔軟だな…コレは出来ない事はないだろうが…」

 

「やったっ!」

 

ウェイルは開発スタッフとも溶け込んでいる。

…良かったさね、早速認めてもらえてるよ、アンタは…。

 

「此処って廃材置き場ですか?

作ってみたいものがあるんですけど」

 

「おう、なんだ坊主?何を作りたいんだ?」

 

「釣り竿を!」

 

いい加減にしな。

軽くお説教しておいた。

 

 

 

お昼休憩を挟み、午後になってからは試験場への見学だった。

テスターが機体に搭乗すると二人は途端に目を輝かせる。

人が搭乗した姿を見るのは二人としては初めての経験だからかまたもやテンションが高くなりつつある。

 

「さあ、これから離陸するよ」

 

「…先生、あの人、誰ですか?

さっきは製造ラインにいなかった女性が居るんですけど」

 

「…え?」

 

嫌な…嫌な予感がした…!

 

ウェイルが指差す先にいた女、その白衣から零れ落ちるブローチ。

右手に剣、左手に銃、八枚の盾に守護された『撃滅天使』のエンブレム。

あれは…国際テロシンジケート『凛天使』の…!

 

「その女を捕らえろ!」

 

私の叫びに重なるのは銃声だった。

 

ドガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

二つの銃声に、飛び散る血飛沫。

ギリギリだったけれど展開は間に合った。

それでも、技術者が数名撃たれていた。

 

ドォォン!

 

テスターが搭乗していた機体が爆発する。

チィッ!機体ではなくコアが狙いか!

 

「ウェイル!メルク!無事サね!?」

 

「は、はい、何とか…」

 

「助かりました…」

 

良かった、怪我の一つも無い様子。

コレで怪我でもされたらジェシカとヴェルダに申し訳もたたない。

 

「へぇ、そんな小さな子供を庇うのですか。

世界最強クラスの方がこの二年間で落ちぶれたものですね」

 

「挑発が随分とヘタな奴サね。

わざわざ人のホームグラウンドで喧嘩を売ってくるとは余程の過剰な自信家か、それとも只の馬鹿か」

 

目で合図を出す。

『建物まで走って逃げろ』と。

『隠れていなさい』と。

私の大切な弟妹には絶対に手出しをさせない。

 

「なら、そのガキを狙えば、貴女は受けに回るしか出来ないわけですね」

 

「貴様ぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

右手に刃を顕現し、左手に銃を握る。

それだけでなく、精神を一瞬で極限にまで集中させる。

技術者もウェイルたちを守りながら退避してくれる。

テスターは…ダメだ、もう助かりそうもない。

 

「少なくとも、私の目的は達成せしめられた。

なら、次は内通者の目的が達成できるように、時間を稼ぐことが目的とは考えませんでしたか?」

 

まさか…!

 

「ISとは、我々女性に与えられた神器。

それに男が触れようなど…虫唾が走る、たとえ、あのような子供であろうと…!

その罪、万死に値する!」

 

再び銃口がウェイル達に向けられる。

それを察し、一気に肉薄する。

 

「その勝手な理念で、どれだけの血を流すつもりだ!」

 

右手の銃を串刺しにし、左手の銃を弾く。

左手の銃を向け、一斉掃射。

SEを一気に削りまくる。

抵抗など許さない、その勢いで右腕の刃を逆手に握り直し、装甲諸共搭乗者を串刺しにした。

 

「ガハッ!?」

 

テロリストの機体、『打鉄』が待機状態に戻ったのを確認し、そのブローチを剥ぎ取るついでに私のテンペスタの拡張領域に放り込む。

それと一緒に、奪われそうになっていたコアも同じように放り込む。

一時的にだけど私が預かっておけば奪われないで済む。

 

「ウェイル!メルク!」

 

展開の解除をする暇も待っていられず、そのまま建物には飛び込む。

シャッターをブチ抜き、建物の中へ。

ハイパーセンサーで周囲を一斉に確認する。

 

「返事をしな!ウェイル!メルク!」

 

確か、緊急用の避難所はもう少し行った先に…!

頼む、無事でいてくれ!

アンタ達は…私が守ると決めたのに…!

こんなところで死なれる訳にはいかないんだ!

 

「お疲れ様、アーちゃん」

 

人を嘲る様な声が設備の陰から聞こえた。

…ウサギか。

 

「こんなところまでご苦労サね。

悪いけど今はアンタにかまってる暇は無いのサ」

 

「知ってるよ。

だから私が後を片付けておいた。

二人は避難所にまで無事にたどり着いたよ、今は職員に保護されてる」

 

そう、か。

良かった…無事だった…。

 

「アンタ、何が目的サね?

何の理由もなしに此処に来たとは…思えないサ。

もしもテロリストをここへ侵入をさせたのがアンタなら…そうサね…ウサギは皮を剥ぎ取る時には酷い匂いがするらしいサね」

 

そう、二人を怖がらせるために来たのなら…命を狙っていたのなら、相応の報いを受けてもらう!

 

「まっさか~!ウェイ君の笑顔を絶やそうとする奴なんて私が根こそぎ駆除したいくらいなのに、そのウェイ君を消してどうするのさ?

じゃあ、そんなわけで、バイビ~」

 

気配は無い。

足音も、熱感知にすら反応は無い。

いや、無かった(・・・・)と言っても良いほどだった。

なのに、気配が遠のいていくのは直感で理解した。

ウサギのことは良い!

とにかく弟妹の無事の確認を!

 

地下の避難用の緊急シェルターへと走っていく。

どうか無事でいてほしい、そう思いながら階段を下りるのも面倒になってくる。

一気に飛び降り、壁面に着地、そのまま足をバネにして階下へと跳躍していく。

 

「よし、着いた!」

 

扉をノックするようにシャッターをノックする。

 

「ウェイル!メルク!

私サ!無事なら開けとくれ!

もう外は片付いたから!」

 

「あ、はい!俺たちも無事です!

えっと…シャッター開くパネルって何処ですか?」

 

中に職員も結構な数がいるらしい。

そのお陰か中が少しばかりごった返してるみたいだ。

 

「あ、お兄さん、コッチですよ」

 

「え?あれ?聞いた説明だとこっちのボタンで…」

 

「いや、そうじゃねぇぞ坊主…確か…こっちだったような気が…?」

 

職員まで何やってんのサ。

シャッターの前で待つこと5分。

 

「だからこっちじゃないんですか?

それと廃材少しだけください、釣り竿作りたいですから」

 

「いやいや坊主、そっちのパネルは閉鎖専用なんだよ。

いいぞ、その代わりウチに就職してくれよ」

 

「えっと…同じようなパネルが何枚も並んでるんですけど。

お兄さんは私の専属エンジニア兼メカニックになってくれるんですからダメです!」

 

「いい加減にしなぁっ!

ヘッドハンティングしてんじゃないサ!」

 

結局私がテンペスタの拳で殴ってこじ開けた。

まったく、どっちがテロリストか分かったものじゃないサね。

修理費は私は請け負わないからね、テロリストを捕らえたからそいつの個人口座から無理やり引き出させるとしよう。

 

「まったく、見学しに来た日にテロリストに襲撃されるだなんて思ってもみなかったサ」

 

 

結果的に言えば、損害は少なくなかった。

研究員が10名近く、虐殺されていた。

あの天災ウサギが影から立ち回っても、間に合わなかった人も居る。

建物の中、ウェイルとメルクの前で殺された人も居たらしい。

虐殺をしていたテロリストは、嘲笑いながら銃を振り回していたそうだった。

逃げようとする人を、逃げ遅れた人を、陰に隠れた人を、負傷した人を、例外も無く、嘲笑いながら殺していたらしい。

シェルターであんな馬鹿話をしていたのは、壊れそうになっていた精神を保とうとする自己保存本能に駆られたからだった。

嗜虐心を剥き出しにする人間なんて見せたくなかったのに…!

 

 

 

夕方、工場の食堂にて私達はコーヒーブレイクに浸っていた。

あれからイタリア政府の役人だの、私の配下の兵がすっ飛んできて、襲撃者共をとっ捕まえた。

今頃は尋問だのなんだのをしているだろうが、さすがに弟妹に見せるわけにもいかないから縛って護送車に放り込むまではシェルターに居てもらった。

 

「テスターの方はどうなったんですか?」

 

「…」

 

質問には沈黙で返し、首を横に振った。

それで悟ったらしいウェイルは口を閉ざした。

メルクも顔色が少しだけ悪い。

 

「アンタ達にはこういう汚い方面のことは見せたくなかったサ。

でも、搭乗者にせよ、技術者にせよ、『ISに関わった』というだけで命を狙われる場合も世の中にはある。

一番酷いのは『男だから』というだけで命を狙われるパターンさ。

『男だから』『そこに男が居たから』それだけで面白がって殺しをする奴がISを持ったら、今回のような事態に陥ってしまうのサ。

『力』は、人を狂わせる。

『力こそが正義』と歪めてしまう場合もこの世界では珍しくも無くなっているのサ」

 

「でも、すべての人がそうではないと私は信じたいです」

 

「俺もです」

 

この二人が顔を伏せながら返すその言葉に少しだけ安堵した。

『信念無き力は暴力』なのだと今回の事件で察してくれているのだろう。

だけど。

 

「信念さえあれば、力が肯定されるものだとは俺は思えないです」

 

「なら、ウェイルは何が必要だと思う?」

 

「う…ん…うまく言えないですけど…言うなれば…『責任』と『覚悟』、でしょうか」

 

それが、ウェイルが見つけた言葉だった。

 

「『力は力でしかない』のなら、善も悪も使う人次第。

力をどのような意図で、どのような形に使ったとしても、使った後のことまでどうするかを考えるべきではないか、と。

力をふるえば、傷つく人だって居る、最悪の場合は命を奪う覚悟だって必要になるから…。

すみません、これでも精いっぱい考えたんですけど」

 

「いや、充分サ。

うまく言葉にできてるサね。

そうか、『責任』と『覚悟』、か」

 

この齢でこれだけ考えて答えを見つけ出しかけている。

それだけでも成長している。

私としては嬉しい話さ、だけど…この子にはその覚悟をしなければならない瞬間は来てほしくはない。

だけど、システムエンジニア兼メカニックを請け負おうとしているのなら、間接的にもその覚悟を背負う必要が出てくるかもしれないサね。

できることなら、平凡に生きてほしいとさえ願いたくなるが、それは傲慢な願いなのかもしれない。

この子の将来の可能性を潰す事にもなりかねない。

私にできることは…背中を押してあげること、かな。

独り立ちをする瞬間を思えばさみしくなるサね。

 

マグカップに注がれたカフェオレを少しずつ飲みながら、ウェイルが窓の外を見る。

春の夕暮れが街を染め上げていた。

 

「…すぅ…すぅ…」

 

緊張の糸が切れたのか、メルクがウェイルに寄り添って寝息をたてる。

ほんの短い時間だったけど、あの奇襲だ、力を持たない子供たちにとっては緊張の連続だったんだろうサ。

いや、見学していた時にもテンションが高かったからその影響かも知れないサ。

 

「先生は…やっぱり、人の命を奪った経験が…」

 

「ああ、あるサ…軍人だからね。

初めてソレをした時には直後に吐いた、夜も眠れなかった。

次には銃で射殺もした、その時にも相手はテロリストだった。

軍人だから、相手がテロリストだから。

その言葉を免罪符にして私は手を血で染めた。

『ミール・クラウディナ』『アレックス・フィリップ』『ルード・グランデ』。

私が殺害をしたのはその三人サ。

…軽蔑するかい?

望むのなら、今日を境に縁を切っても私は構わな…」

 

「軽蔑もしませんし、縁を切るだなんて考えません」

 

ウェイルはまっすぐに私の目を見ながら即答してきた。

迷いは…無さそうだった。

 

「命を奪ったのだとしても…きっと、それ以上の人を助けることだって出来たと思います。

俺だって…メルクに命を救われ、アリーシャ先生にいろいろ教えてもらった身だから。

今まで見せてきた姿が、嘘や偽りで固められたものだなんて思えないんです」

 

…まったく、とんだ女殺しの言葉を吐けるようになったものサね。

命を救われたのがアンタなら、アンタは心を救う人になれるかもしれないね。

たとえ、それが何らかの技術力によるものだとしても。

なら、これからの家庭教師の仕事も厳しくいかないと、ね。

ウェイルの姉として。

 

「今日は見学は全部は出来なかったから今回の旅行は少しだけ日程を伸ばすサ。

明日は今日見れなかったところを見学させてもらおうか」

 

「いいですね、ソレ!」

 

「ただし、廃材を持って帰ろうとは考えないこと!」

 

「…はい…」

 

うん、いい返事サ

 

 

改めて、魂に誓う。

弟妹だけじゃない、この子達を形作る全てを守ろう、と。

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