IS 速星の祈り   作:レインスカイ

32 / 96
筆が止まらず…というか打鍵が止まらず凡そ10000文字…

現在のレギュラーのサーヴァントの状況
剣:JKセイバー LV60    
弓:贋作者 LV60
槍:猛犬 LV51
術:誰かの為の物語 LV24
騎:蛇妹 LV57
狂:征服に挑んだ嵐 LV50
殺:門番巌流 LV60
裁:空席
讐:空席
月:空席
別:空席
う~ん、バラつきが激しいな…。
種火集めはともかくとして、モニュメントが手に入らなくて体力の無駄遣いで終わってしまうことが幾度も有るし…。
まさかロンドンでこうも歯車がホイホイ手に入るとは思わなかったぜ…。
『FGO wiki』にはお世話になってます。
あ、因みにユーザー名は『雨空』ですのでチラッと見かけた人が居たら嬉しいです。


第29話 厭風 二つの出逢い

クラス対抗戦に向けての訓練の日々の最中、それは唐突に起きました。

 

「今日も朝から疲れた…」

 

早朝からのトレーニングと模擬戦をこなし、お兄さんはホームルーム前から少しばかりウトウトしている。

朝食の時にも疲れきっていてカフェオレを飲む際にも幾度か零しかけていた。

 

「ふ…ぁ…」

 

「徹夜で新しい設計していたからですよ…」

 

「いやぁ、先日のビンタのこと思い出してさ…『欠陥品』呼ばわりもされていたからな…」

 

先日、生徒会長の手首に装着させたバングルですけど、碌でもない性能を発揮してしまっていたので、それの改良にこぎつけようとして、その結果が今日のお兄さんの様子だった。

でも、姉さんたちへのテレビ電話の後にそれに夢中になっていたからすっかり徹夜に…。

なお、昨晩の夕食の際の出来事をお姉さんに話すと、目を見張らせていた。

一瞬、モニター越しにも拘らず途方もない怒気を私たちは感じ取っていた。

 

「求めるスペックとしては、まず着脱は容易にしておきたいな。

被装着者側から外せなくても、外部から鍵で外せるようにしておくべきかな。

他には、被装着者が無理に壊してしまったという可能性も考慮するとなると、肉体にマイクロチップを埋め込むギミックも取り込むべきだよなぁ。

何かいい方法は無いかな…?」

 

そんなことを考えながらイメージをスケッチすること早朝の4時まで。

早朝の訓練のことを考慮すると、本当に一睡もしてないです。

なのに、早朝のトレーニングや訓練には力を抜かずに頑張っているからこの状態。

髪が少しボサボサになっているのに本人はまるで気にしてないのはちょっと…。

 

「おはよう、メルクちゃん、ウェイル君」

 

「お、ハース兄妹の出勤だ~」

 

「うわ、ウェイル君眠そう、何があったの?」

 

クラスの皆とも一応は仲良くなれている状態。

皆もお兄さんに興味があったらしく、中には機械分野に興味を持っている人も居るから、話が弾んでいたりする。

他にも機械品の修理を依頼してくる人も居たりするからお兄さんの株は確実に上がってきていた。

だけど…

 

「あ~…釣りがしたい…」

 

学園付近に釣りのスポットになるような場所が無い為か、鬱憤が溜まってきていました。

そのストレス解消にトレーニングに力を入れている次第だったり…。

 

「少し寝たい…ホームルームまで寝させてくれ…」

 

椅子に座った途端にフードを被り、机に突っ伏す形で寝てしまった。

隣の席の私が後で起こしてあげないと先生に叱られるだろうなぁ…。

それまでは静かにしておいてあげよう。

 

「で、メルクちゃん。

今度のクラス対抗戦だけど何か策とか在ったりするの?」

 

「えっと…一応はそれなりに…」

 

クラス対抗戦に向け、クラス内での稼働訓練はしていたりする。

けど、対抗戦まではすべての手の内を見せないように最大限気を遣っているから、私もお兄さんも実力のほどは周囲には見破られてはいない筈。

それでも、多少は警戒されてるかもしれませんけど。

 

「何か聞こえませんか?」

 

お兄さんが眠っているから今以上に騒がしくしないでほしいんですけど…いえ、クラスの外側にいる人は気づかないから仕方ないかもしれませんけども…。

 

「ん?あっちって2組と1組の方向だよね?」

 

クラスメイトのフルールさんが教室の外に首を出す。

私も真似をしてそっと外を覗いてみた。

声が聞こえてくるのは2組から…ではなく1組の方向からだった。

 

「なにか言い合い喧嘩でもしてるのかな~?

パパラッチとして興味が沸いてきたわね…フッフッフ…」

 

「ミリーナさん、悪い顔になってますよ」

 

この人はブレないな…関心するというか呆れるというか…。

 

「放課後までには完璧に情報収集するから待っといてね」

 

「えっと…一応期待しておきますね」

 

だけど、返答を間違ったかもしれなかった、なにせ

 

「ロイヤルイチゴパフェで承ったわ!」

 

キッチリと見返りを求めてきてるのだから。

うう…お小遣いが…

 

「事前に言っておくけどキャンセル料はジャンボパフェだからね」

 

後に引けなかった。

情報屋とはボッタクリなのだと私はこの日に学んだ。

 

「…くかぁ…」

 

暢気に寝ているのが羨ましいと憧れる日が来るだなんて思わなかった。

嫌味のつもりは全く無いですけど。

 

 

 

そろそろ教室の中に戻ろうとした瞬間、私は目を疑った。

 

「…嘘…どうして、あの人が…」

 

「おりょ?声の主はあの人かしらん?

ニュッフッフ、情報源見ぃ~つけた♪」

 

その人の姿を実際に見るのは初めての経験だった。

写真では見たことがある。

お兄さんが昏睡状態に陥っている最中、お姉さんが持ってきてくれた書類にその人の人物は実名とともに写真も添付されていたのだから…。

長い髪をオレンジ色のリボンでツインテールにし、好戦的な双眸。

それに…『織斑 一夏』と記された肩提げカバンを持っている人物。

 

…『凰 鈴音(ファン リンイン)』…さん…

 

思わず口から零れ落ちそうになったその言葉をなんとか我慢した。

 

でも、それだけじゃない。

その後ろに居た人物は…初代ブリュンヒルデ『織斑 千冬』だった。

 

「あの二人、知り合いっぽいね。

でもあのツインテッ娘はいい感情を持ってないっぽいけども」

 

「…かもしれませんね…」

 

「どしたのメルクちゃん?顔色が悪いよ?」

 

「な、何でもないです…!」

 

どうして…どうしてあの人が…この学園に…⁉

お姉さんから提供された情報には記されてなかった筈なのに…⁉

 

どうしようもないほどに混乱し、私は教室に戻った。

そのせいでお兄さんを起こすのを忘れてしまっていた。

けれど、何故かは判らないけれど、その日の朝のホームルームの時間帯に先生が来ることは結局無かった。

 

「先生、来ないですけど何かあったんでしょうか?」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

その日のホームルームの時間、私と、3組担当教諭であるティエルは職員室に残るように指示が下されていた。

指示を下してきたのは、学園長その人だった。

温厚な顔つきには見えるが、その相貌の下ではすさまじい怒りが見え隠れしていた。

 

「…………」

 

ティエルの目は冷たい、何があったのかは私も朧気にではあるが把握はしている。

 

「昨晩、消灯時間後にイタリア政府から抗議文が送られてきました。

昨晩の夕食の時間に起きた騒動は…把握していますね、織斑先生?」

 

「…はい、何となく、ですが?」

 

「何となく?弟君たちから何があったのか詳細な話を聞き出していなかったって言うの?

あれだけ大惨事を起こしておきながら、まともに情報を集められないの?」

 

ティエルは、視線だけでなく言葉すら冷たかった。

その視線は殺気すら感じさせられていた。

 

「では、ティエル先生、昨晩の食堂での惨事を説明してあげてください」

 

「承知しました」

 

そこから聞く話は、昨晩に全輝と箒から聞いた話よりも濃密な内容だった。

接触を図ったのは全輝であり、騒動を巻き起こしたのは全輝であり、それに箒も加担していたのだと。

 

その惨状は、生徒の誰かが撮影したであろう写真によって証明されていた。

被害は…食堂の中、あまりにも広い範囲で起きていたようだった。

 

「篠ノ之さんは、素手の相手に木刀を振り回していたわ。

そしてそこには見境は無い、結果的には多くの生徒が集まる食堂で不特定多数の生徒達を巻き込み、食事を台無しにしたそうよ。

さらには設備や家具も破壊していたわね。

…これで貴女のクラスの生徒が騒ぎを起こすのは何度目だったかしら?

接触禁止、干渉禁止を命じられていた筈なのに、この体たらくは何?」

 

「織斑先生、貴女はあの二名に対し、3組のハース兄妹への接触禁止、干渉禁止は本当に伝えたのですかな?」

 

「はい、伝えました」

 

この問いにだけは自信をもって返す事が出来た。

あの時、私はあの二人に確かに話したのだと今でも記憶にしっかりと残っている。

 

「では、何故それを伝えなくてはならないか、それは教えたのですかな?」

 

「そ、それは……!」

 

言える筈も無かった、

イタリアからの報復措置が構えられているなど…!

 

「呆れたわ、表沙汰には出来ない話を隠しているんだろうけど、家族にも言えない事をイタリア相手にしでかしたのね」

 

正確な話はティエルにもしていなかった。

それこそ教職員にも話せる事でも無い、ひた隠しにし続けなくてはいけない。

なのに、イタリアはこの学園にそのカードをチラつかせてきている…!

 

「今回イタリアは即刻報復措置をとるような姿勢はまだ見せてはいません」

 

その言葉に安堵し、肺腑から息が抜ける。

まだ何とかこの場を凌げるらしい。

 

「ですが、確固とした処置をするようにと通達をしてきています。

幸い負傷者こそ居ませんでしたが、設備の損壊があまりにも著しい。

織斑君と篠ノ之さんに損害賠償と反省文提出を命じます。

正確な金額としては食堂に於ける机や椅子、投影機に観賞植物に無駄になった料理の代金、食器、それらの損壊賠償、しめて86万6000円、きっちりと織斑君と篠ノ之さんに言い聞かせ支払わせるように。

無論、ハース兄妹への接触、干渉を禁じるという旨を再度言い聞かせておくことも忘れないようにしてください。

そして織斑先生にも損害賠償は支払っていただきます。給与からの天引き、すなわち事実上の減俸処分です」

 

拒否など出来る筈も無かった。

だが…何故、私がこんな事に遭わなくてはならないんだ…!

 

「先のクラス代表を争奪の件も含め、貴女のクラスは何かと騒ぎに絶えないわね。

あの二人の問題児だけでなく、クラス全員に騒ぎを起こさないように一緒に言い聞かせておくことね。

当たり前な話だけど、ほかのクラスをも巻き込むような騒動はこれっきりにしてほしいわ」

 

自クラスの生徒が巻き込まれるような騒動は誰だって御免だろう、私とてそうだ。

だから

 

「ああ、判っている…」

 

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

その日、驚くような出来事はそれだけでは済まなかった。

 

1限目の授業を終えた直後、次の出来事が起きた。

 

「し、失礼します!」

 

3組の教室にてクラスの皆と談笑をしていた最中、誰かが教室に入ってきた。

見覚えのない人達だった。

 

「ん?君らは?」

 

「ど、どうも!

1年5組のクラス代表補佐をしているポーランド出身『ルーハ・シーム』と言います!

今回は3組のウェイル・ハース君にお願いがあって参りました!」

 

何というか…堅苦しい喋り方する人ですね…。

 

「えっと…俺?に用なのか?いったい何の用なんだ?

あ、できれば堅苦しい喋り方は無しで、どうにもむず痒い」

 

「えっと…それじゃあ…コホン!

ウェイル君に、今度のクラス対抗戦で5組のクラス代表代理を頼みたいんです!」

 

その言葉にクラスの全員が凍り付いた。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

えっと…クラス対抗戦に於けるクラス代表の代理をしろって?

なんか話が無茶苦茶になってきたな。

 

「シームさんだっけ?

クラス代表の代理って他のクラスの生徒に頼めるもんなのか?」

 

「その…5組は全員が一般生徒で…」

 

ふむふむ

 

「他のクラスの大半が専用機所持者でクラス代表ということで…」

 

なるほどなるほど

 

「更に2組にも専用機所持者が入ってきて、クラス代表に就任したとの話も来て…」

 

ほうほう

 

「オマケにクラス代表のコロナが風邪引いて寝込んでしまって」

 

そりゃぁ辛そうだ、お大事に。

季節外れの風邪だなんて治すのも難しいだろうな…

 

「クラス代表の代理を誰もしたがらないんです」

 

それは君自身も含まれるという事にはなったりしないのかな?

 

「えっと…藪蛇になりそうだから、下手なことを聞くつもりはないんだけども…。

そこでなんで俺なんだ?」

 

2組の事情については…アメリカ出身の一般生徒がクラス代表に仮決めされていたとかミリーナから聞いたっけな。

それで話が発展し、専用機所持者が入ってきてクラス代表に据えた…と理解しておこうかな。

 

「クラスの皆も全員一致してウェイル・ハース君に頼もうという話になって…こうやってお願いに来まして…」

 

その…何というか…3組の皆も視線が非常に宜しくない方向になってきているんだよね。

やだなぁ、これで俺が了承したら『裏切者!』とか言われたりしないだろうか、すごく怖い。

 

「専用機所持者ならもう一人1組に居なかったっけ?

そっちには頼んでみた?」

 

「あ、オルコットさんだね。

そっちには頼んでないんだ、なんせプライドが高すぎて嫌~な流れになるだろうから。

それにポッと出の男性搭乗者に惨敗したっていう話もあるから」

 

なるほどなるほど。

 

「なるほど、事情は理解した。

そういう事情で俺にご指名が入ったと」

 

どうするかな…。

俺が返すべき返答は

 

「ルーハ・シームさんだったな。

クラス対抗選に於けるクラス代表代理の件だけど、少し考えさせてくれないかな?」

 

保留だった。

俺も3組の端くれなわけだし、独断で即断即決する訳にはいかないよな。

 

 

「断られなかっただけでも有り難いよ!

今回のことはクラスの皆にも相談をしてからもう一度放課後に来るから、前向きに検討をお願いします!

それじゃっ!」

 

ルーハさんだっけか。

風のごとく廊下を飛び出してしまった。

陸上部か何かに所属しているのかな?見事な健脚だ。

 

「さてと、もうそろそろ授業が始まるし、準備を始めようか」

 

ようやく濃密な10分間は終わりを告げた。

先生も来たし、授業に集中しないとな。

 

で、2限目と3限目の授業も終わっても俺の手は止まらなかった。

さっきの休憩時間でもそうだったけど、勉強が苦手な俺は授業が終わっても復習とかしておかないと授業内容に追いつけそうにない。

クラスのみんなもそれを判ってくれているからか、邪魔に入ったりはしない。

時々には、メルクと一緒に勉強を教えてくれる場合もあるけど。

 

高校受験も、昇級試験もそんな感じだったな…。

メルクと姉さんに勉強を教えてもらっていたっけ。

そうやって参考書とノートを開いてメルクに教授してもらいながらの勉強タイム中に

 

バシィィィンッッ!!

 

「⁉」

 

いきなり左頬をブッ叩かれた。

 

「痛っ…!?」

 

メガネの上から人を張り倒すとか何処の非常識人⁉

 

そう思いながら視線を手の主に向けてみる。

えっと…誰?

 

理由は知らないが怒りで顔を赤くした…完全に初対面の人だった。

え?誰この人?

 

長い金髪の先端はものの見事にロールパンのごとく巻いている。

そういうタイプの髪型からしたら…偏見かもしれないが、どこかの良家のご令嬢なのかな?

 

「よくも私に…このセシリア・オルコットに恥をかかせてくれましたわね!!」

 

あ、名前を聞く暇も無かったな、まあその面倒も省けたから良いけど。

けど何だろうか、凄ぇ上から目線。

俺、この人と接触だとか衝突だとかする機会なんて何もなかった筈なんだけどな。

そもそも完全に初対面だよ、因縁も因果も何もないだろう?

その上で『恥をかかせた』?

え、ちょっと待って、突飛すぎて話に追いつけない!

 

「あのさ」

 

一応注意くらいはした方が良いと思ったが

 

「誰が口を開いて良いと言いましたの⁉」

 

ひっでぇっ!

 

「ねぇ、オルコットさんってさ…」

 

「ハース君まだなにも言ってないのにね…」

 

「凄く失礼じゃない…?」

 

「そうだよね…」

 

クラスの皆も視線がすごく冷たくなってきている。

 

いきなり胸倉を掴まれて

 

「何故貴方みたいなみたいな人が5組のクラス代表代理に選ばれたというんですの⁉

この私ではなく!!!!貴方みたいなポッと出の男なんかが!!」

 

…は?これ、俺のせいじゃないよな…?

 

言葉をそろそろ返そうかと思えばこの女子生徒、再び手を振り上げていた。

もう一発張り倒そうという算段ですか、そうですか。

この際、俺も殴り返してもいいよな?

 

昨晩の件と言い、1組の生徒って脳味噌が筋肉で出来てるのだろうか?

初対面の人にも、まずは暴力から入る人ばかりなのかよ?

 

 

俺はクラス代表代理を『受ける』とは一言も言っていない。

あくまでも『考える時間が欲しい』という意味合いで保留したわけだ。

 

「待ってください」

 

振り下ろされる直前に至っていた手を掴んで止めたのはメルクだった。

その目は…今まで一緒に過ごしていた俺でも見た事が無いほどに冷たかった。

 

「お兄さんはクラス代表代理を正式に承服したわけではありません。

ただ、5組のクラス代表補佐の方が依頼に来ただけに過ぎませんよ」

 

「私ではなく!こんなポッと出の男なんかが指名されたと言う事が間違いだと言っているんですわよ!」

 

…完全に八つ当たりじゃねぇか?

そんな事で授業内容の復習を阻害されたというのか?

 

「だったら5組の人に相談しに行けばいいじゃないか。

クラス代表代理をやらせてもらえないかって、さ」

 

まあ、それをあちらさんが承服するかどうかは別問題なのは俺も理解している。

姉さんが言うには、こういう人に対しての扱い方は一つ、『関係性を持たないこと』だ。

 

「……ッ‼」

 

オルコット女史に物凄い睨まれた。

けどまあ、そんな状態でも無情にもチャイムが鳴り響いた。

 

「クラス代表代理の件、まだ話は終わってませんわよ。

また後で来ますわ、逃げるんじゃなくってよ!」

 

そう言って立ち去って行った。

いや、だから…それは5組に相談しに行ってくれって。

 

そんなことを考えていたら担任のティエル先生がやって来た。

 

「さて、じゃあ次の授業を…あら?

ウェイル君、その頬はどうしたの?見事なまでに手形がついてるわよ?」

 

「ああ、コレは…」

 

一応、正直に言っておいた。

俺としてはこの事象に深くは関与したくないんだけどな。

で、洗い浚い正直に申したところ、他のクラスメイトもそれを証明してくれた。

事のあらましを説明しきって終わった後、ティエル先生は頭を抱えていた。

 

「またあのクラスが騒ぎを起こしたってことね…!

しかも私たちのクラスまで巻き込む騒動を起こすなんて、朝にあれだけ言われておきながらあの女(織斑先生)は何を考えているのよ…⁉」

 

何やら愚痴を零していらっしゃった。

 

 

 

 

 

でも、こういう風に溜まりに溜まるストレスは釣りで発散したいな…。

できないんだよなぁ、この学園で釣りって…。

そこに関してはこの学園に来て後悔してるかも…。

 

で、4限目の授業が終わった直後というと昼休みだった。

食堂はごった返すみたいなので、メルクが作ってくれたお弁当を生徒会室に持ち込んで、それを広げていた。

 

「寛いでるわねぇ、二人とも」

 

「食堂はごった返しているみたいですし、教室では妙な視線が集まって仕方ないからここへ来たんですよ。

事前に呼んでもらって助かりましたよ」

 

ドリンクはこれまたメルクが作ってくれたレモネードだ。

疲れた体にはコレが良いんだよな、食事にも合う!

今日のお昼のメインは母さん直伝、トマトソース煮込みのハンバーグだ。

トマトは結構好きだったりする。

日常的にも食べていたし、レシピによってはシーフードにもピッタリだもんな…。

ああ、懐かしいなぁ…イタリアに帰りたくなってきたかも。

 

いかん、編入して一か月も経ってないのにホームシックになってきてるよ。

 

まあ、ここに来たのも理由が在る訳だが。

 

「呼んでもらったついでに、訊きたいことがあるんですよ」

 

「あらぁ、何かしら?」

 

「クラス対抗戦に於けるクラス代表の代理を他クラスの生徒に依頼するというのは可能なんですか、虚さん?」

 

「ちょっ⁉」

 

そう、生徒会長から聞き出そうとしたのではなく、まさかの虚さんへの質問である。

だって生徒会長に訊いてみたら、はぐらかされて変な方向での話になってしまいそうだからさ。

それよか虚さんに伺ってみればストレートに返してくれそうだと思った次第だ。

 

「あ、あははは…私でしたか…。

厳密に言えば、数は少ないですが前例は在ります。

私も昨年はクラス対抗戦に於いて、他クラスから代理を受けましたので」

 

へぇ…そうなのか…。

 

「ですが、アメリカ代表候補の『ダリル・ケイシー』さんには敵いませんでしたが。

まあ、私の話はともかくとして、代理は可能です。

依頼者と受領者の了承、それぞれのクラスの担当教諭の了承が在れば代理参加が可能になります。

依頼してきた生徒の人は、今頃それに向けて担当教諭に話を通しているかもしれませんね」

 

「はっきり言えば、お兄さんはまだ了承していないんです。

判断を先延ばしにしているので」

 

「あらあら、ウェイル君ってば優柔不断なのね」

 

「失敬な、クラスの皆とも相談する必要が在るからですよ。

昼休みにもなると全員あちこちに動いているでしょう、最悪の場合は授業時間を浪費してでも皆に話を聞いてもらわないと」

 

何というか…やることが山積みだな。

どうしようかな…でもここで俺が断ったら…オルコットさんだっけか、あの人がクラス対抗戦に代理出場することになるんだよな…。

だけど、それは5組の人が避けようとしていたし、困るんだろうな…。

 

「俺は…どうするべきだろうな…?」

 

俺のその呟きに返してくれたのは

 

「悩んでいるっていう事は、ほとんど答えが出てるんじゃないかしら?」

 

生徒会長だった。

殆ど答えが出ている…?俺の中では…?

どうなんだろうな…?

 

「どうするんですか、お兄さん?」

 

「俺、試合じゃとことんメルクに負けてきてるんだぜ?

5組のクラスの人たちには悪いけど優勝は無理だな。

それでも、後悔の無い形にしておきたい、どんな形になったとしても」

 

別にこのクラス対抗戦の勝敗次第で自分の行く先が何もかも決まるというわけではないのだから。

 

「一応言っておくけど、このイベントの後にもまだ試合をするイベントが在るのよ。

『学年別個人トーナメント』って言うものがね。

ここまで言えばどうするべきかは判るんじゃないかしら?」

 

この早い段階で手の内のすべてを見せるのはあまり良くない、という事らしい。

切り札はあくまで切り札、隠し玉はいざという時まで使わないからこそ隠し玉というものなのだろう。

 

さて、今後の方針は決まった。

弁当箱の中身のチキンピラフを掻っ込み、食事は終了。

それからレモネードをゆっくりと楽しむ。

 

「依頼してきた人のところには行かないのですか?」

 

「放課後に教室に来ると言ってくれていましたから、それまでは待っておこうかと。

それに、今の段階でクラスに戻ったら面倒な事になりそうな気がするんですよね。

更に付け加えて言うと、午後からは稼働訓練が待っていますから、時間が来たら授業に使う第5アリーナに行きますよ。

それに何より、このレモネードを楽しみたいんで」

 

隣ではその言葉に頬を赤くしているメルクが居た。

本当に、頼りになる妹だよ。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

本当の事を言えば、お兄さんにはクラス代表代理を受けてほしくなかった。

だって、あの人とまた衝突してしまうかもしれないから…。

 

昼休み終了直前、やっぱりというか教室にはオルコットさんがやってきていたらしく、クラスの皆は迷惑そうな顔をしていた。

皆には悪いですけど、そのまま気づかれないようにお兄さんと一緒に素通りしていく事にしました。

本当にゴメンナサイ。

 

アリーナの更衣室でお互い着替えて終わった後、グラウンドにて訓練機『テンペスタⅡ』を用意している最中。

 

「あのオルコットさんだっけか。

なんで5組のクラス代表代理をそこまでやりたがるんだろうな」

 

「理由はいくつか考えられますけど…」

 

一つ

自己顕示欲を満たすため

 

コレは自己中心的すぎるから代表候補生としての観点からみると却下ですかね

 

一つ

クラス代表の座を得た『織斑』への雪辱を果たす

 

これも自己満足の為だろうから却下です

 

一つ

男性が出場するのが気に入らない

 

これも視野が狭すぎるから却下です

 

…あれ?本当に動機って何なんでしょうか?

 

「メルク?」

 

「すみません、やっぱり判らないです。

それで、お兄さんはクラス代表代理はどうするんですか?」

 

「授業時間中も悩んだけど、受領することにしたよ。

後悔の無い形として、な。

勝率はとことん低いけど、全力で試合をしようぜ、メルク」

 

本当は、参加してほしくない。

お兄さんも頑張るのなら、私も全力で応えよう、そう決めた。

 

「だけどまあ、先にこの授業を頑張っていかないとな」

 

専用機所持者が二人いるという事で、1クラスの生徒への簡単な取り扱い説明も出来たりします。

訓練機にテンペスタを選んでいるのは、私たち兄妹にとっては馴染みのある機体だから。

今日の授業の内容は、近接戦闘訓練だった。

 

私はレーザーブレード『ホーク』を、お兄さんは無銘のランスを取り回し、クラスの皆の相手をしていく。

そうやっている間にも、リンク・システムが作動を続け、互いの経験と経験値が互いの機体に蓄積されていく。

もしかしたらお姉さんにもこの情報が自動転送されているのかもしれない。

そう思えば、こういった授業も、確かに自分自身への経験値が実感できた。

 

そして授業終了後、アリーナから出てから、ホームルームの為に教室に戻ると。

 

「逃げるなと言ったでしょう!そこの無礼な男!」

 

あの人がまた居た。

 

「だって昼休みだったし、昼食を摂りに行ってたんだよ。

それに先約も有ったしな」

 

「そんなものの為に私への要件をすっぽかした言うんですの⁉

これだから男は!」

 

「『そんなもの』って何だよ!?

わざわざお弁当を作ってくれた(メルク)に失礼だろう!」

 

あの…お兄さん…その…恥ずかしいんですけど…!

周囲の皆も

 

「うわぁ、ウェイルくんってばシスコン全開」

 

「でもまあ、身内の人が作ってくれたお弁当を『そんなもの』って言われたら腹立つよねぇ」

 

「それも知らずにあの人何様なの?」

 

とか言ってたりするので尚更恥ずかしいんですけど…!

 

「それに、お昼には別件が先約で入っていたんだよ。

だからそっちを優先したんだよ、だから断じて『逃げた』わけじゃないさ」

 

「男の分際で口答えするんじゃありませんわよ!」

 

何というか、本質が見えた気がします…。

根底からの『女尊男卑主義』の思考の持ち主の人ですか…。

 

「貴女も貴女ですわよ!」

 

「わ、私ですか?」

 

今度は怒りの矛先が私に…。

 

「コレが身内と言うのなら何故引き留めませんでしたの⁉

飼い犬の手綱を握っておく程度当たり前でしょう!」

 

瞬間、クラスの視線が絶対零度へと変わった。

 

「出ていきなよ!」

 

「サイッテー!」

 

「とっととこのクラスから出ていけ!」

 

「人の事を悪く言う前に自分の態度を改めなさいよ!」

 

クラスの皆が一斉にキレた。

かくいう私も怒りそうになったけれど、みんなが先にキレたから冷静さを取り戻せた。

 

「あ、貴女達!わたくしを誰だと思って…」

 

「知ったことか!」

 

「人の事ばっかり一方的に悪く言って、アンタはハース君達に何の恨みが在るってのよ⁉」

 

そこまで言われてもオルコットさんはその目を辞めようとしなかった。

その視線をお兄さんに突き刺してくる。

 

「そこの男!貴方は誇りも何も無いんですの⁉」

 

「まさか、企業所属を名乗ってるから、それなりには在るつもりだよ。

だけど、それは誇り(・・)であっても権威(・・)のつもりは無いよ。

それに、俺だって戸惑ってるくらいだよ、みんなのキレ具合に。

だからこうやって冷静さを取り戻しているといった具合か」

 

「群れていないと何も出来ない男のくせに…!」

 

「何を言っているんだ?

俺を犬呼ばわりしたのは君だろう、犬は大抵群れるものさ。

だが生憎、俺は犬は嫌いなんだ。

特に見境無しに噛みつく狂犬は、さ」

 

私もお兄さんも、それにお姉さんも猫派ですからね。


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