IS 速星の祈り   作:レインスカイ

98 / 116
今回は短いです

篠ノ之夫妻の所在について

束によって保護され、現在はイタリアに在住。
それぞれ『ジェラール・アイオン』『ネルディア・アイオン』として静かに余生を過ごしている。
日本から密航してから数日後に日本政府が二人の不在と、離縁届が提出されているのを確認。
その後の捜査情報も殆どが集まらず、已む無く『死亡扱い』とした。
警察側は捜査打ち切りについて政府側に不服を申し出たが、扱いを面倒がった政府によって事実上の死亡扱いの処理を行った。
また、離縁届の傍らには、ワープロ打ちの束のメッセージも置かれており、箒の勘当に同意するという旨が記されていた。

これにより、篠ノ之夫妻に娘は篠ノ之 束、ただ一人だけという扱いになった。
篠ノ之 箒の引っ越しなどに使用される金銭で水増し請求などを繰り返し、私腹を肥やしていた汚職議員は、懐に金銭が入って来なくなった為、渋っていたが、それすら摘発されており、次々と逮捕されている。


第94話 皇風 蒼を見上げて

「千冬、さ…ん…?

な、なにを、わけのわからぬことを」

 

私の言葉に箒が狼狽え始めた。

動揺は当然だ、受け入れがたい話だろうとは思う。

 

「だが、」

 

「事実です」

 

扉の向こう側から聞こえてくるのは真耶の声だった。

 

「篠ノ之箒さん、貴女のご両親ですが、死亡確認(・・・・)がされました」

 

「待て真耶、そんな話は…今するべきでは…」

 

「最新の情報です、貴女が起こし続けた問題に心を苦しませたご夫婦は、滞在先から夜中に逃げ出し、山中での投身自殺を図ったとのこと。

部屋の中には遺書と、離縁届のコピーが置かれていたそうです」

 

柳韻さん達が、自殺した…。

そんな、それでは私が何度も電話しても反応しなかったのは…電話を受け取る相手が既にそこに居なかったからなのか…?

そうだ、私はそれを悟る事程度出来ていた筈だったというのに…。

 

「遺体は発見されませんでしたが、山中にお二人の靴が発見され、その付近には血痕と指輪が発見されています。

なお、致死量を遥かに上回っていたとの事でしたので、死亡確認となったそうです」

 

「嘘だ…!」

 

その声が私のものか、箒のものかは判断が出来なかった。

 

「あなたが篠ノ之博士の身内ではなくなった以上、貴女が犯してきた犯罪行為についても裁判が執り行われるでしょう。

新宿の爆撃テロ、学園壊滅を招いたテロ、それらを意図的に招き、なおも愚行を繰り返そうとする貴女には情状酌量の余地もないでしょう」

 

「わ、私は何もしてない!

新宿を攻撃したのも、学園を攻撃したのもテロリストの連中で…」

 

「そのテロリストにウェイル君の名前と顔写真の情報を露見させ、多くの人を巻き込むテロを招いたのは貴女です」

 

あの真耶が、普段とは別人のように冷徹に告げている。

扉の向こう側の彼女はどんな表情をしているのか、想像も着かない。

 

「『外患誘致』、国家、その国民の生活と生命を危険に追いやり、戦争を起こすような危険な勢力を意図的に国内に呼び込む犯罪。

その刑罰は、たとえ初犯であったとしても『死刑』とされています。

貴女が日本全国で起こしてきた暴行・傷害事件の後に新宿と学園のことについての裁判が行われるでしょう」

 

「う、嘘だ!私は何も悪い事なんてしてない!」

 

「貴女は…貴女が傷付けてきた人達の顔と名前を憶えていますか?」

 

「し、知らない!そんな連中なんて逐一覚えていない!」

 

だろうな。

その程度の事など私も察しがついていた、先の会話でおよそ悟るくらいは出来ていた。

箒は、人を人として見ていない。

理由こそ知らないが、私と全輝と自らを中心にして、それ以外に人を見ない(・・・・・)

世界に人間といえるものは自分達だけ、それ以外は人間とすら見ていない。

だから平然と傷つける、暴力を振るえる。

 

「…ああ、そうか…」

 

イタリアが危惧していたのはこれだったのだと、今になって気付いた。

だが何故、イタリアは見た事も無い箒をそこまで危険視出来た…?

 

「…だとしたら、あの映像を届けさせた『ラニ・ビーバット』とは何者なんだ…?」

 

「貴女がご存じないとは驚きですね」

 

真耶の後ろに現れる人物。

その声の主はラウラと同じような相貌を持つ少女、クロエ・クロニクルと名乗った少女だった。

 

「何が言いたい?」

 

「その程度で篠ノ之 束博士の親友を名乗っていたというのがあまりにも滑稽(愚かの極み)だと申しております」

 

「貴様!」

 

箒が立ち上がろうとするが、四肢を拘束されており、立ち上がる事すら出来ない。

全輝も同じような状態だった。

 

「貴女もでしたね、それでよく今まで身内を名乗ってこれましたね。

今の様子からすれば、滑稽どころか無様ですが、フフ…」

 

閉じられたかのような双眸からは私達の姿も見えているのだろう。

 

「ラニ・ビーバット博士は篠ノ之 束博士の師(・・・ ・・・・・)ですよ。

彼女はビーバット博士に頭が上がらない関係です。

ウェイルさん本人は知りませんが、彼はビーバット博士のお気に入りですから、今回のことに怒り心頭でしたよ」

 

ラニ・ビーバットは束とは別人?

 

だが、私はそんな人物など知らない。

束は、私にすら秘匿していたのか…!?

 

いや、そんなことはどうでもいい!

もうすぐ一夏が帰ってくる筈だ、その時には迎えよう。

私達は…家族なんだ、そうだ、だから、今までのことだって水に流してくれる筈だ…!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

波の音が聞こえる

 

日常に溶け込んだ、懐かしい音色

 

その音を耳にしながらどれだけの回数眠りにつき

 

どれだけの夜明けを繰り替えしただろう

 

 

「     」

 

この光景は何だろう

 

見渡す限りの青の中

 

赤黒い何かがこぼれながら

 

水面を貫く光が俺を見下ろしてくる

 

 

この光景を、どこかで見た覚えがあった気がする

 

 

手を伸ばす

 

 

赤黒い何かはすり抜け、光ばかりが目を焼いてくるようだ

 

 

『居場所が欲しかった』

 

誰かの声が聞こえた

 

 

『居場所になりたかった』

 

 

誰かの声が流れ込んでくる

 

『弱くてごめんな…』

 

誰かの後悔が聞こえてくる

 

『諦めるのか?』

 

聞いた覚えのない声が聞こえた

 

だけど、聞いた事があるようにも思えた。

 

「……何処だ、此処は…?」

 

見渡す限りの…海底のようだ

 

上を見上げれば、確かに海面が見える。

そこから貫いてくるであろう陽光が眩しい。

周囲を見れば、そこには青に染まっている。

珊瑚が生い茂り、図鑑で見た覚えのある魚達が泳ぎ回っている。

その中に

 

水中を…ウミネコが飛んでいた。

 

「お前は…」

 

そのウミネコは珊瑚の枝に降り、翼を休める。

なんというか、非常識な光景だ。

 

海中なのに、息ができて、こうして声も出せる。

海中なのに、ウミネコが羽ばたき、珊瑚に降り立つ。

とてもじゃないが現実とは思えない。

 

「ともなれば、死後の世界か?」

 

『否』

 

声は、ウミネコから聞こえた。

 

『我、お前に問う。

一つは安全だが長い道、一つは険しいが短い道。

お前はどちらの道を往くのか、答えよ』

 

禅問答、というものだろうかとも思う。

深く考えそうになるけど、それは

 

どちらも選ばない(・・・・・・・・)

俺は技術者だ、道を選ばされるのではなく、道を創るものでありたい」

 

『………』

 

答えを返したが、帰ってきたのは沈黙だった。

心なしか、ウミネコの翼が茜色に染まったようにも見えた。

 

『道を創る、か。

お前がか?過去から逃げ、未来などという幻想へと逃げようとしたお前が?』

 

「何を言っ……っ!?」

 

痛い

 

頭が痛い

 

傷跡が疼く…!引き裂かれるようだ…!

 

「なに、を…!?」

 

 

流れ込んでくる

 

違う

 

あふれ出している

 

 

見たことのない景色

 

 

見覚えのあるような光景

 

それらが濁流のように押し寄せ、零れ、溢れ出してくる

 

『問おう、道を創ると吠えた者よ…お前は誰だ?』

 

「俺は…!」

 

見覚えのない景色と光景を見せられて、初めて…俺が誰なのかが揺らいだ

 

茜に染まるどこかの部屋で誰かを見上げる瞬間を…見て、思い出してしまったから。

 

黄昏に染まる…心を奪われるかのような儚い笑顔を…

 

あれはきっと、ウェイル・ハースに向けられたものではない。

記憶を失う以前の俺に…織斑 一夏(イチカ オリムラ)に向けられたものだからだ。

 

こんな…こんな形で思い出すなんてな

 

オ マ エ ガ ワ ル イ ン ダ ゾ

 

そして、その言葉は両者に向けられた言葉

 

時折見る悪夢を思い出す

 

逆光の中に移る繊月のような嘲笑と、侮蔑の言葉

 

理不尽な暴力と、不条理な迫害

 

あんな悪夢に引きずられるなんてもう嫌だ!

 

それでも、あの笑顔だけは

 

それでも、今の家族だって…!

 

だから…!

 

「俺は…俺は、ウェイル・ハースだ!

後になって与えられた名前だとしても、俺にはそれ以外の誰にも成れないんだ!」

 

俺に名前を与えてくれたのは姉さんだった。

姉さんは常に俺を見てくれていた、教えてくれた、支えてくれた、肯定してくれた、叱ってくれた。

俺が俺として生きられる世界で、常に導いてくれた。

 

『偽りの名であってもか?』

 

「名前に偽りも本物も無いだろ。

俺は今の名前で生きていられることに胸張っていられるからな。

まあ、昔の名前が惜しくないかと問われたら…妙な気分だけどな…」

 

失ったとしても、掴めるものはきっと在る筈だから。

 

『最後の問いだ。

お前は自らの宝を何者かに奪われる。

お前は略奪者を追い奪い返すか、それとも、諦めて他のもので満足するのか?』

 

「失ったものは取り返す、先に得られるものは掴み取る。

俺の答えはコレだよ」

 

『強欲だな』

 

「失っちゃいけないものがあるって気づかされた…いや、思い出した、かな」

 

あの笑顔が俺に向けられたものでなかったとしても…あの時の俺の思いだけは本物だから…。

 

「それに、これは『欲』じゃない、『希望』だ。

誰だって当たり前に持ってるものだ」

 

 

周囲の海が一瞬にして消える。

 

 

 

目が、醒めた…。

見上げれば…視界を埋めるのは星の光だった

 

「…ッ!く…は…っ!?」

 

突然に訪れる激痛。

これだけで眠気など一瞬にして吹き飛び、それどころか…声すら出せねぇっ!

 

ホロモニターが勝手に展開される。

左肩から右脇腹までの巨大な裂傷と、それによる大量出血、オマケとばかりに体温低下。

 

「あの…クソ野郎…!

それに…あの女は…最初から俺を殺す気だったのか……!」

 

槍を展開し、杖の代わりにして立ち上がる。

焼けるような痛みと、氷を突っ込まれたような寒気が体を苛んでくる。

激痛の最中に思い出す。

あのヤロウ…!

俺を、敵機とまとめて斬りやがった…!

その記録はリンク・システムを通じてメルクへ、作戦本部にも伝わっている筈だ。

こうなる可能性が考えられたから俺は作戦への参加を拒否していたってのに…!

参加を余儀なくされた以上、俺はいくつもの条件を提示した。

そのうえで、戦闘には参加しないと表明した。

だが、あの女、織斑千冬が所持を強要してきた兵装が、その全ての条件を蔑ろにし、俺を無理矢理に戦闘に参加させるに至った。

その結果はどうだ、あのブレード一つだけで俺は戦闘手段の全てを奪われた。

戦う事も、身を守る事も、戦闘領域から離れる事も出来なくなった。

あの女は、最初から俺を殺すつもりで戦闘に参加させようとした。

俺がこの戦闘で死ななければ、メルクたちを軍法会議で制裁を下すという悪辣な手段をとってまで…。

 

「そこまで、俺が目障りだったんだな、アンタは…いや、何年も前から知っていたじゃないか…その程度のこと…」

 

新たにモニターを追加で展開させる、今居る場所は…戦闘領域の遥か南東、潮の流れに随分と流されてたらしい。

 

「来い、嵐影(テンペスタ・アンブラ)

 

普段通りにコールし、機体を展開しようとする。

だがブレスレットは応えない。

『そうではない』と声が聞こえた気がした。

そして告げられる、その新しい名を、俺は口にした。

 

「…いや、『嵐皇(テンペスタ・アウグスト)』!」

 

俺の声に応え、機体が展開される。

普段よりもその速度は早く、一瞬の刹那だった。

装甲のカラーはそのままだが、背面翼が普段と勝手が違うように感じる。

スペックデータを即座に確認

 

第二形態移行(セカンドシフト)か…まさか、本当に起きるとはな…それもそうだが、フルマニュアル制御が解除されてる…?」

 

普段からは機体の殆どの動作制御をフルマニュアル操作していたが、どういう訳か今はそれが解除されている。

新たにイメージインターフェースと擬似的に似たシステムが勝手に増設されていた。

その名を『完全同調(シンクロ)システム』。

そして単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『皇帝特権』なるものまで発現していた。

 

「使い方は…なるほど、そういう事か」

 

これらは、俺が考案し、アンブラとミーティオに搭載された『リンクシステム』の延長線上に存在する上位互換のもの。

それが把握出来た。

 

システムとスペックの全てが把握し終わり、改めて北西の方角に視線を向ける。

微かに燐光が見える、自然のものではない。

望遠機能を使い、モニターに拡大表示をさせる。

 

「……皆が居る、戦っているのか…?」

 

敵機は、見覚えがある。

姿が多少変化しているが、白銀の福音だ。

 

形態移行(シフトチェンジ)しているのか…?

だとしたら…」

 

砲撃が余程脅威といえるそれなのか、鈍重な機体のラウラは牽引してもらいながらの回避行動をしている。

鈴もメルクに牽引されている姿が見えた。

重量型の機体では、高い機動性を持つ機体が相手では分が悪い、さらに相手は中遠距離攻撃型の兵装を搭載しているから隙が無いのだろう。

シャルロットのラファール・リヴァイヴであっても、射撃攻撃を繰り出そうと事前に予測されて射線から回避され、近接攻撃に切り替えれば間合いに近づけない。

 

「…学習されているな」

 

全員の攻撃を見て学び、短いスパンでそれを自身に反映させている。

もとから軍用機だからか、その性能は高いのだろうとは思う。

戦いが長引けば、それだけ不利になるのかもしれない。

なら、最適手段は手を変え品を変えながらの翻弄か、学習させる時間を使わせない短時間決戦だろう。

皮肉にも、織斑教諭の立てた愚策は最適手段だったのかもしれない。

だとしても、それを行う人物の人選が最適ではなかったということだ。

 

「なら、最適の手段は…」

 

高機動に対応できる機体は

メルク:テンペスタ・ミーティオ

ティナ:ファング・クェイク

簪:打鉄弐式

シャルロット:ラファールリヴァイヴ・カスタムⅡ

 

こんな所だろう。

だが、それがどうした。

対応出来ないからと、引っ込んでいろなど俺には言えないし、言いたくもない。

それでは、昔の俺と同じ境遇を、俺以外の誰かに押し付けようとしていることに変わりない。

 

「なら…」

 

フルマニュアル制御を各所に有効化させていく。

だが、スラスターと外装腕に関してだけはそれができない、その代わりのシステムが導入されているようだ。

スペックデータに関しても、各所の改められた機能も、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)にしても、そして戦況の把握も完了した。

なら、もうこれ以上この場に留まる理由はない

 

「いくぞ、『嵐皇(テンペスタ・アウグスト)』!」

 

脚部装甲が地を離れ、一瞬にしてスラスターが最大出力へと上昇し、尋常ならざる速度にまで至る。

だが、この速さが心地いい!今までにない速度に、俺の心は戦況そっちのけで躍動していた。




ラニ・ビーバットは篠ノ之 束の師匠である点について
無論、大嘘である。
視線を逸らすために考えたしごく単純な言い訳みたいなものである。
一応程度のごまかし方だ、至極適当すぎるのではないだろうか?

今回は自家用車にて兵庫県にまで来てます。
ホカホカの明石焼きをハグハグしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。