人は、例えるのならば桜である。
花を咲かせるのは、ただほんのひと時だけ。
散った後に残るのは、ただの醜い皮芽のみ。
……これは一体、誰の言葉だったろうか。
「最悪、だな」
過剰なほどに整備された白い建物を見上げながら、そんな台詞が俺の口を衝いて出た。
こんなに気分が悪いのは、生まれ変わった最初の日。
巨大な試験管の中で目覚めた、今の俺のバースデイと。
そして……『あの日』以来。
……俺は、死人だ。正確には、1度死んで再び生まれた身だ。
輪廻転生。元は仏教だか密教だかの用語らしいけど、生憎俺は
けどとにかく、その転生とやらを経た人間であることは間違いないと思っている。
忘れもしない。あの日、土砂崩れに巻き込まれて死んだ前世。
それから碌な間さえ置かず、再び赤ん坊になった。
「あれから、15年と少々」
容姿も変わった。
在り方も変わった。
変わらなかったものなんて、見付かりそうにないくらい変わった。
俺も……世界も。
「インフィニット・ストラトス……」
通称ISとも呼ばれる、大気圏外長期活動用マルチフォーム・スーツ。
……などとは名ばかりの、危険極まりない兵器。その圧倒的技術力により作られた、云わば時代を先取りしすぎた存在。
そして俺から、最後の安寧を奪った
「ちぃっ」
舌打ちのひとつもしたくなる。
ISさえ無ければ、俺は後数年の間に、穏やかに腐り果てて行くことができただろう。
神など信じていないこの身だけれど、もし居るとするなら住処まで乗り込んで、殺してやりたい。
ややこしい真似をしてくれた、死んで詫びろと声高に叫びたい。
お陰で俺は――否。
居もしない存在に文句を言ったところで、壁に怒鳴るのと同じだ。
そんな無駄な事、してもしょうがない。
結局のところ、俺のこの非力な腕では何も出来ないのだから。
「…………」
分かり切っている。
もう俺に出来る事なんて、何も無いってぐらい。
「…………時間だ」
腕時計の短針が、そろそろ8を刻もうとしていた。
もう行かないと――初授業に遅れてしまう。
俺はひとつため息を吐いて。
先程から見上げていた建物……『IS学園』に向けて、足を踏み出した。
「最悪、だな」
最後にもう1度、同じ言葉を呟いて。
はらりはらりと、桜は散る。
咲いては散り、咲いては散る。
花びらがひとひら、彼の髪に寄り添って。
砕けるように、バラバラとなった。
それはまるで、彼の心を顕すように。