「お前が何をしに来たかは、大体分かってる。そしてそれを踏まえた上で言おう、諦めろ」
月光に照らされる中投げ掛けた、呟きのような久々津の言葉。
それに対する楯無の答えは――
「あり得ないわ。力尽くでも、貴方からお母さんの情報を吐かせる」
「……当然、か」
やれやれとかぶりを振るその姿は、とてもではないが気乗りしている様には見えず。
けれど次の瞬間、無機質な瞳で彼女を睨み付けた。
「いいだろう。1番分かり易い方法でケリをつけてやる」
拳を前に突き出し、久々津は言葉を続けた。
「何をしてもいい。俺に膝をつかせれば、揚羽のことをすべて教えてやる」
「……それだけ?」
「なんだ? もっとレベルを落として欲しいのか?」
どこか投げ遣りな彼の態度に、楯無はほんの少し眉根を寄せる。
「……自己紹介が遅れたわね。私は更識楯無、このIS学園で最強を意味する『生徒会長』よ。それを知った上で、貴方は同じことを言うの?」
「あ? よく分からんが、俺の言うことは同じだ。それで、他にハンデが欲しいのか?」
「っ……後悔しても知らないわよ!」
刹那、と言うべきであろうか。
5メートル程あった間合いをすり足で詰め、一気に楯無が久々津の眼前に現れる。
古武術の奥義、『無拍子』と呼ばれる移動法……とてもではないが、10代の子供に修められる技術では無い。
そして反応出来ていないのか、久々津はその場から動かない。
貰った。楯無はそう確信し、彼の肺に向けて双掌打を打ち込んだ。
だが――
「なぁ、どっちだ。要らないのか?」
「なっ……!?」
確かに手応えがあった。
けれど久々津は息を詰まらせるどころか、平然とその場に立っていたのだ。
楯無は一瞬だけ驚きで目を見開くも、今度は鳩尾に蹴りを突き刺す。
ずがんっと響く音。
常人が喰らえば、呼吸停止どころか肋骨が数本粉砕するような一撃だった。
しかし、それでも。
「……無しでいいんだな?」
「うそ……」
手応えは十分あった。防がれた様子もない。
けれど、久々津はまるで何事も無かったかのように、こきこきと首を鳴らしていた。
「どうして……どうして効いてないの……!?」
「? 簡単な話だ。単にお前の拳や蹴りよりも俺の身体の方が堅いだけだが」
滅茶苦茶な理屈だが、現に効いていない事を見れば嫌でも認めざるを得ない。
打撃蹴撃は、効かない。そう悟ると、楯無は彼の袖を掴んだ。
――それなら、投げてしまえばいい!
「非力だな……お前」
「きゃあっ!?」
投げ飛ばそうと力を込めた瞬間、楯無は逆に投げられていた。
それでもくるりと空中で体勢を立て直し、着地する。
久々津はと言えば……欠伸の最中だった。
「くっ……!」
歯噛みする楯無。
けれど焦燥を振り払い、冷静に分析を始める。
「(あり得ない……急所への攻撃がまるで効かない事も、あんな細腕で私を軽々と投げ飛ばす事も……そんな事、人間の膂力で出来る訳……っ!?)」
思い至るひとつの結論。
彼女は油断なく構えつつ、久々津に問い掛けた。
「まさか貴方……
「……半分正解。正確には遺伝子強化を受けた
説明しつつ、彼は屋上の手摺りを掴む。
金属製のそれが――ひしゃげて折れた。
「さて……見ての通り化け物なんでな。うっかり加減を間違えて殺しかねない。それでもまだやるか?」
「っ……当然よ! 化け物だろうと怪物だろうと、私は絶対に諦めない! やっと見付けた手掛かりなんだから!」
「……やれやれだ」
様々な武術の技を織り交ぜ、向かってくる楯無。
それらを圧倒的な膂力でいなし、抑え、撥ね退けながら。
久々津は思う。
「(慕われてるな、揚羽……お前の真実を教えない事は、俺の我儘なのか……?)」
2人の攻防は、月が真上に昇るまで続いた……。