IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

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一方的な三竦み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁッ!!」

 

 

 楯無はゆらゆらと緩急をつけた動きで、見事久々津の背後を取った。

 そしてその後頭部に、手加減ならぬ脚加減無しのハイキックを叩き込む!

 

 

「ッ」

 

 

 それにより、ほんの少し。ほんの少しだが、久々津の体勢が崩れた。

 これを好機とばかりに、楯無は追撃を図るが――

 

 

「……そいつは悪手だな」

「きゃんッ!?」

 

 

 それよりも早く、久々津が彼女の額を指で弾く。

 いわゆるデコピン……だが、化け物染みた彼のそれはまるでハンマーのような威力であり、楯無は脳が揺さぶられる様な衝撃に襲われた。

 脳震盪には至らなかった様だが、数歩たたらを踏む。

 

 そんな、決定的な隙を見せた。

 

 

「飛べ。空高く」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 久々津は楯無の襟首を掴み、そのまま垂直に上へと放り投げた。

 4、5メートルは飛んだだろうか。頭へのダメージで受け身を取る事もISを起動させる事も出来ず、彼女は悲鳴を上げながら地面に落下する。

 そして、パニックに陥ったまま頭から衝突してしまわんとした寸前に。

 

 

「……お帰り」

 

 

 久々津に今度は足首を掴まれ、事無きを得るのだった。

 

 

「うぅっ……」

 

 

 半ば放心状態の楯無。目が漫画のようにぐるぐると回っている。

 それでもスカートを押さえている辺りは、流石と言うべきなのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……とにかく、またしても彼女の敗北であった。

 既にあの屋上での戦い……否。戦いとさえ呼べなかった、一方的な蹂躙から数日。

 全身疲労からの全身筋肉痛のコンボでまともに動く事も出来なかった翌日を除き、連日久々津へと挑む楯無だったが……。

 

 

「今日でお前の5連敗だな」

「うぐっ」

 

 

 聞いての通り、結果は惨憺たるものだった。

 打撃も関節技も投げ技も効かない。素手では到底敵わないと見て木刀や薙刀を持ち出し、昨日などは弓矢まで使った。

 

 けれど、どれも惨敗。

 改造人間特有の異常なタフネス。この5回の戦闘で、楯無は未だ彼に有効な1撃すら入れた事が無い。

 殴った拳の方が痛むなど、どんなふざけた身体だ。

 

 

「……まだ頭が少し揺れてるわ……ただのデコピンでここまでされるなんて、おねーさん驚きよ……」

「それは貴重な体験をしたな。人生何事も経験だぞ」

「誰の所為よ誰の!」

 

 

 すっとぼけた事をのたまう久々津に、額がくっ付きそうな勢いで迫る楯無。

 彼は相変わらず何を考えているか分からない無機質な瞳で、じっと楯無を見ていたが。

 

 

「……その、なんだ。顔が近い、照れる」

 

 

 そう言って頬を軽く染め、ふいっと視線を逸らした。

 表情や感情に欠ける節のある久々津のそんな行為に、楯無も少し慌てる。

 

 

「え? あ、ご、ごめんなさい……」

「まあ嘘だが」

 

 刹那、頬の赤みなど何処に行ったのか、けろりと一瞬前の無表情に戻る久々津。

 ……嵌められた!

 普段は専ら嵌める側である彼女は、こうも簡単にからかわれた事に対して言いようの無い敗北感に襲われる。

 

 舌戦でも肉弾戦でも、彼の方が数枚上手らしい。

 

「……あの楯無会長が手玉に……て言うか久々津、お前ってそんなキャラだったのか」

「概ね。初対面の人間に対して辛辣な態度を取るのは、人間社会での常識だろうが。非常識だなお前……えっと……十島?」

「銀崎だよ! なんだよそのあり得ない間違え方は!? つうかどんな常識だよ!! 何処の異星人の常識だよ!!」

 

 

 久々津の横に座り、喚いている銀崎。

 そう。何故かこの3人で食堂の一角に陣取り、昼食を共にしているのだ。

 

 

「しかしまあ……どうしてお前と会長がバトッてるんだよ。しかも会長全敗って……久々津何者だよって話だぜ」

「馴れ馴れしく話し掛けるな屑が。お前を連れて来たのは、単にこいつの相手をさせる為だ。俺とじゃなくこの女と話せ」

「辛辣なのは何ひとつ変わってねえし! 俺は引き摺られてきた被害者なのに!!」

 

 

 更に喚き出した銀崎。けど内心では、楯無と共に食事ができて狂喜乱舞している。

 ……要するに、負けた後も自分についてくる楯無を鬱陶しく思い、適当な奴に相手をさせようと思った久々津が一夏達と一緒に居た銀崎を偶々見付け、有無を言わさず引き摺って来たのだ。

 

 その際に一夏が「俺も一緒にいいか?」と尋ねて、乙女達に理不尽な制裁を受けたのは余談である。

 

 

「くすんくすん……久々津君が冷たくて、おねーさん泣いちゃう」

「元気出して下さい楯無会長! 話し相手なら俺が!」

「あらありがとう……えっと……木村君?」

「銀崎です。下の名前は飛竜です」

 

 

 久々津が手玉に取れないので、仕方なく銀崎をからかい始めた楯無。

 ……それが彼の狙いであり、寧ろまたしても手玉に取られているのは気付かないふりである。

 

 

「うん、飛竜君ね……イャンクック?」

「せめてリオレウスでお願いします!!」

「分かったわ、イャンクッ君」

「分かってないし!?」

 

 

 からかいやすい相手にシフトして、調子を取り戻したらしい楯無。

 パッと広げた扇子には、『復活』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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