「なあ……お前ら、あいつのどこがいいんだ、ん? 言ってみろ」
ビールをゴクゴクと呷りながら、眼前で横並びに座っている女子達……右から篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの5人に向け、そう尋ねる千冬。
彼女の両脇には、何処かげんなりした茶髪に赤眼の男と、無表情な赤髪黒眼の男。
銀崎飛竜と久々津・オテサーネクが、それぞれ腰掛けていた。
「…………」
一見無表情な久々津だったが、内心では大分苛立っている。
訳も分からず部屋に引き摺り込まれた挙句、いわゆる『ガールズトーク』に巻き込まれたのだ。
彼の眉間にほんの少し皺が寄っている事には、誰も気付いていない。
……何でこんな場に呼ばれたんだ?
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」
「……織斑先生は『あいつ』としか言ってないのに、真っ先に一夏の事が思い浮かぶ時点で黒だよ箒ちゃん……」
「なっ!? う、煩いぞ銀崎! 箒ちゃん言うな!!」
手にしたラムネを傾けながらの箒の言葉に、力無く意見した飛竜が怒鳴られる。
けれど実際その通りなので、怒鳴り方にもやや覇気が無い。
「あたしは、腐れ縁なだけだし……」
ぷいと顔を背けながら言う鈴。
……事情を殆ど知らない久々津だったが、取り合えず目の前の5人が自分にバスの中で散々話し掛けて来たうざい男……世界で最初の男性IS操縦者、織斑一夏に対して好意を抱いている事はすぐに分かった。
と言うか、こんなあからさまな態度で分からない方がどうかしている。
だが……話を聞くに、当事者である織斑一夏は彼女らの気持ちにまるで気付いていないらしい。
病院に行った方がいいんじゃないかと、率直に思った。
「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりして欲しいだけです」
これまた分かりやすい態度で、ツンと言い放つセシリア。
久々津は心底馬鹿らしく思ったのか、内心で嘆息する。
「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」
「「「言わなくていいです!」」」
千冬の言葉に態度を一変させ、一斉に詰め寄る3人。
もしこれを伝えられでもしたら、あの世界屈指の唐変朴の事だ。絶対言葉通りに受け取るに決まっている。
ただでさえ上手く行っていないのに、これ以上話をややこしくしたくない。
それが、彼女等の共通見解だった。
「僕――あの、私は……やさしいところ、です……」
そんな中でぽつりと、しかし真摯な声音でそう言ったのは、シャルロットだった。
「あいつは誰にでも優しいぞ」
「そうですね……そこがちょっと、悔しいかなぁ」
あははと照れ笑いする。
千冬は最後に、今までひと言も発していないラウラへと視線を向けた。
「で、お前は?」
「……つ、強いところが、でしょうか……」
びくりと身をすくませながらも、そう彼女は言葉を紡ぐ。
「いや弱いだろ」
けれど千冬は、にべもなくそう返した。
それに対し、ラウラが食ってかかる。
「つ、強いです。少なくとも、私よりは」
「ふむ……まあ強いかはともかくとして、あいつは役に立つぞ。家事も料理も中々だし、マッサージだってうまい」
確かに一夏は、つい先程も千冬とセシリアにマッサージをしていた。
ラッキースケベな技能持ちやがってと飛竜は声に出さず憤慨し、久々津は苛立ちを通り越して退屈になって来たのか、顔を背けて欠伸する。
「と言う訳で、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
千冬の言葉に、5人全員が反応した。
「「「「「く、くれるんですか!?」」」」」
「やるかバカ」
くくくと笑う千冬。
そのまま2本目のビールを開け、口にした。
「女なら、奪うぐらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」
そう、実に楽しそうに言う。
久々津はいつ話が終わるのかと、若干待ちくたびれていた。
そんな彼と、すっかり蚊帳の外で落ち込んでいた飛竜に……
「それで、お前等はどうなんだ? 気になる女の1人でも居ないのか、
話題を振られ、軽く舌打ちする久々津。
飛竜の方は対照的に、漸く相手にして貰えて嬉しそうに勢いよく立ち上がる。
少女達も、貴重な異性の意見に耳を傾けた。
「今は楯無会長LOVEッス! あの人マジ女神ッス!」
「……更識か。これはまた難儀な相手だな。手強いぞ、あれは」
「そっすね、いつもはぐらかされてメアドも聞き出せてないッス」
「…………」
ちなみに久々津は楯無のアドレスを持っている。
持っていると言うか、何時の間にか携帯に入っていた。
「ああでも、飄々としてるあの人も女神……」
「……さっさとくっ付け馬鹿が……いっそ襲え」
「んな事したらラスティー・ネイルで細切れにされっからね!? 早々どうにかなる相手じゃないんだよあの人は!!」
「役立たずが……いっそ
「ダメぇぇぇぇぇぇぇッ!! あの天然フラグメーカー
「…………」
なんだこいつ。
無機質で冷たい久々津の瞳が、口よりも正確にそう言っていた。
「銀崎も必死だな……それでお前はどうなんだ、不良生徒」
「……チッ」
舌打ちすると、久々津は徐に立ち上がった。
正直これ以上付き合っていられない。
彼は……関わりを拒むのだから。
「あ、おいコラ久々津! 何処行くんだよ、聞き逃げは許さんぞ!お前も気になる女子の1人ぐらいゲロッてけ!」
「…………」
ドアノブに手をかけ、背を向けたまま。
淡々とした声音で、久々津は告げた。
「……お前達が騒ごうが喚こうが勝手だがな……俺を巻き込むな」
久々津は最後に少しだけ振り返り、部屋に居た全員を睨み付け。
そして、その場を後にした。
部屋に戻った久々津は、明かりも点けずにベッドへと横たわる。
薄く光を残す宵闇が、彼を包んだ。
「…………」
俺が愛する者。
それは今も昔も、たった1人だ。
愛する女と、仲間3人。それだけが俺の世界だ。
それ以外は全て、どうでもいい有象無象でしかない。
それが、俺だ。
「……それでいいよな――
――揚羽」