原作とは異なる事件。
福音を操り喜劇を作り上げた『魔女』。
飛竜は戸惑い、先を予見した蚣は笑う。
幕を開けるのは、誰も知らない影の戦い。
「では、現状を説明する」
大座敷に集められた教師陣と、俺達専用機持ち。
俺はワクワクしてた。この臨海学校で待ちに待ってたイベントがついに来たんだからな! 心躍らない方がどうかしてるぜ。
「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型軍用IS『
一夏達が泡食ってる中、俺だけは内心でテンションを上げまくってた。
福音事件来た! ナターシャさんのフラグチャンスがキター!
……ゴホン! いかんいかん、平常心平常心。
周り見てみろよ。一夏と箒はともかくとして、代表候補生の面々は真剣そのものよ? 俺だって一応、母さんが重役やってるシュライ・キサラギ社のテストパイロットで日本代表候補生なんだからほら、キリッとしてないと。
HAHAHA――
「そして情報によると、『銀の福音』は突如現れた正体不明のISに全システムを乗っ取られたらしい」
「……なんですと?」
なにそれ。福音を乗っ取った?
そんな展開、原作に無かったぞ!?
「アメリカ政府は、この正体不明の機体を『
やっぱり。聞いた事のない機体名だ。
どうなってる。まさかこんな所で原作改変なんて。
「その後『魔女』は反応を完全にロスト。だが福音は衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事となった」
「ち、ちょっと待って欲しいッス! ロストしたって、その『魔女』ってのは一体なんなんスか!?」
「……分からん。今判明している事は、軍用ISさえも掌握できるほどの高いハッキング能力を有し、ハイパーセンサーをもすり抜ける完全光学迷彩を搭載した、隠密性に優れた機体である事だけだ」
どうすんだよそれ。厄介なんてもんじゃねえぞ。
向こうの位置は分からない、けど下手すりゃ俺達の専用機まで乗っ取られちまう。
一夏の野郎はいまいち分かってないみたいだけど、他の皆はその危険性に気付いてるのか一様に渋い顔だ。
……大丈夫なのか?
「だが、少なくともISにハッキングする際はステルスを解除している姿が確認されている。存在が分かっていれば、対処のしようはある」
「……そッスか」
「それに魔女は武装を積んでいないそうだ。今は直接危険のある福音を対処する」
……大丈夫の筈だ……どうにも改変してるところがあるけど、今回の件は篠ノ之束さんが箒に晴れ舞台を用意する為、裏で糸を引いた事件の筈。
だったら、ぶつけてくるのはたぶん福音だけだ。それを暴走させる手段が変わっただけだ。
平気平気、対処できる。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当して貰う」
っしゃあ! 魔女だか何だか知らんけど、やったるぜ!
「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」
こっからは暫く原作通りの展開だ。
さーて、腕が鳴るぜ。この俺、銀崎飛竜とその専用機『牙神』の見せ場が――
「…………ん?」
ちょっと待て。ちょっと待てちょっと待て。
俺の専用機名は『牙神』。ISは人型であると言う固定概念を捨てた、世界初の4脚型IS。
そんで、現行IS内では最も巨大。機動力もそれ相応に低い。
つまり飛行能力も低い。
と、言う事は。
「すんませんッス織斑先生。今回の俺の役目は?」
「……『牙神』では福音に追い付けん。お前は万一に備え旅館付近の防衛だ」
……やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!
駄目じゃん俺! 考えてみれば今回の戦場海の上だよ!
『牙神』ぶっちゃけ空戦能力凄い低いよ! 何で狼型にしたんだバーカ! 開発者のバーカ! ハゲちまえ!
「ふーん。ここをこーして、あれをこーしてっと。うんうん、これならすぐに『紅椿』の調整終わっちゃうね、やったね束さん!」
ああ!? なんか俺が専用機に絶望してる間にも、何処からともなく現れた束さんが既に紅椿の調整を始めてる!?
もう俺完全に蚊帳の外じゃん! 最近こんなのばっかだよ!
チクショー! こうなったら俺も一夏に高機動戦闘のレクチャーしてるセシリアを邪魔したる!!
「あとは通常時よりも相対的な速度が上がっているために、射撃武器のダメージが大きいんですよ。当たり所が悪いと、1発でアーマーブレイクになったりしますから、気を付けて下さい」
「山田先生まで! ああもうっ、どうして皆さんわたくしの邪魔をしますの!?」
「一夏ぁッ! 分かってるとは思うが、高速戦闘状態で変な曲がり方すんじゃねえぞ! 下手すりゃ装甲が空中分解するからな!」
「……銀崎さんまで……」
うはははは! もう知った事かよ!
どーせ一夏はいっぺん落っこちるんだかんな!
……再戦の時、俺の出番あるといいけど。
「……へぇ」
大座敷の、扉1枚隔てた先。
扉に背を傾け、静かに目を閉じていた青年。
一部始終を耳にしていた久々津は、にやりと口の端を上げた。
「暴走ISに、世界屈指の大天才の登場か……これをただの偶然と捉える奴は、余程頭の中身が腐っているだろうな」
ククと、声無く笑う久々津。
「さぁて、何を企んでいる? 世界を狂わせ、間接的に俺の余生を狂わせた、調子に乗ってるうさぎさんは」
音も気配も何も無く、久々津はその場から歩き去る。
そして――窓の向こうに視線を遣った。
無機質な黒ではない、燦然と輝く『金色』の瞳で。
「クク……うさぎさんの
彼の視線の先には。
歪な姿をした、1機の赫いISが居た。
「感謝しろよ愚図ども……『魔女』の相手は俺がしてやる」