IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

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その出会いは

 

 

 

 

 

 

 

 

 学生寮1013号室。

 そこには今、1人のバカが居た。

 

 

「お・れ・は・ブルース! ラララララー!!」

 

 

 椅子に腰かけ、エレキギターを掻き鳴らしている茶髪の男。

 彼の名は銀崎飛竜。久々津及び楯無にちゃんと名前を覚えて貰えない、不幸極まりし転生者である。

 

「ジャンジャンジャンジャジャーン!!」

「…………」

 

 

 ベッドに横になりつつ本を読んでいた久々津は、調子外れな飛竜の演奏に気分を害する風も無く、我関せずとばかりに読書を続け――

 

 

「イエーイ! ベイビー!!」

「うるさい」

 

 

 ――ていたと思いきや、徐に立ち上がって彼のギターを一瞬で蹴り壊した。

 

 

「うぎゃあああああ!?」

「この下手糞が。さっきから聞くに堪えない演奏しやがって、死ね」

「だから練習してたんじゃん! 壊す事なかったじゃん! どうしてくれんだよ俺のレスポール!!」

「無駄に高級品なんざ使ってるからだ。お前みたいな、センスの欠片も無いカスに使われるギターが哀れ極まりない。壊した方がまだ救われる」

 

 

 久々津のその言葉に、飛竜が床へと崩れ落ちた。

 

 

「お、おぉお……相も変わらず人の心を的確に抉り取る辛辣発言……そんなだから友達できねえんだよ!!」

「別に要らん。とにかく読書の邪魔をするな」

 

 

 言いたいだけ言って、彼は先程と同じ位置に戻る。

 飛竜はしばし「ギター……ギターが……」と落ち込んでいたが、やがて気を取り直したかの様にぶんぶんと首を振り、久々津に近付く。

 

 

「ところでさっきから何読んでんだ? 人間失格?」

「失せろ」

 

 

 ちょっとした意趣返しのつもりでニマニマしていたら、目潰しが飛んできた。

 

 

「目がぁッ!? 目がぁぁぁぁッ!!!」

「黙れ」

「おぼろばッ!?」

 

 

 寝転がったままの久々津に人外脚力で蹴り上げられ、そこから空中コンボを決められた飛竜は、ポンポンとピンボールが如く部屋中を跳ね回る。

 機嫌が悪いのか、余り手加減されていない。

 

 

「あ、あががが……ちょっと、お花畑見えた……」

「チッ……頑丈な奴」

 

 

 頭上で星を回しながらも立ち上がる飛竜に、忌々しげな舌打ちをする久々津。

 

 

「ったく……で、ホントに何読んでんの? 夏目漱石?」

「……ガンスリンガー・ガールだ」

「何故に!?」

 

 

 先日楯無が持って来たものである。

 ある意味ぴったりなチョイスだった。

 

 

「あー成程……そう言えば楯無さん、色々この部屋に持って来てたな」

「ここに移住でもする気か……あのバカは」

「それマジ嬉しい! もう大歓迎!」

 

 

 興奮極まれり、と言った感じではしゃぐ飛竜。

 そんな風に騒ぐものだから、またも数発久々津に殴られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋だと飛竜が煩いので、久々津はいつものあの場所に向かう事にした。

 あそこを知っているのは自分以外だと楯無だけだし、その楯無も昨日から実家に帰っていて今は居ない。

 

 ……思えば、最初からそうすれば良かった。

 

 

「それにしてもあの女……本当にどういうつもりだ」

 

 

 寮の廊下を歩きつつ、久々津はぼそりと呟く。

 あの女、とは当然楯無の事である。

 

 

「毎日毎日付き纏って来やがって……」

 

 

 再三だが、仕合う事は構わない。

 俺の落ち度であるし、何より言い出したのは俺自身。口約束でも約束は約束。約束(それ)を破る様な事は、もう2度としたくない。

 だが……それ以外の事で付き纏われるのは迷惑だ。

 

 

「…………」

 

 

 あいつは、苦手だ。

 顔はそこまで似ている訳じゃない。性格もどちらかと言えば逆。

 けれどあの髪、あの瞳。

 

 そして何より娘であると言う事実が、あいつと揚羽を連想させる。

 腹立たしい事この上ない。

 

 

「…………」

 

 

 いっそ真実を教えてしまおうか。

 そうすればあの女も俺に付き纏わなくなるだろうし――

 

 

「……チッ」

 

 

 そこまで考えて、我にかえった。

 教えてどうする。教えてどうなる。それで何が解決するんだ。

 何をしたところで、俺があの女を揚羽と重ね合わせてしまっている事実は変わらないし、それに対して感じている罪悪感も消えない。

 ああ畜生。どうすればいい。

 あの女の所為で俺の『闇』が乱される。俺自身を隠していられなくなる。

 

 どうすれば、この乱れと揺らぎは消えるんだ。

 どうすれば、どうすれば、どうすれば――

 

 

「きゃあっ」

「ッ」

 

 

 思考の波に溺れていた俺は、何かに当たった。

 どうにも、角を曲がったところで鉢合わせた女子生徒とぶつかったらしい。

 ドサドサと、そいつの持っていたらしき本の山が床に落ちる。

 

 

「チッ……何処見て歩いてやがっ!?」

 

 

 苛立っていた俺は、咄嗟にその女子生徒に怒鳴ろうとして。

 視線を向けて……絶句した。

 

 

「な……」

「…………?」

 

 

 床に尻餅をつき、首を傾げてこちらを見上げる女子生徒。

 

 綺麗な水色の髪。物憂げな紅の瞳。

 全体的に線が細く、気弱そうな印象を受ける顔立ち。

 あくまで「面影を感じる」程度の更識楯無とは、根本から異なる。

 

 ――まるで同じ。

 そう思うぐらいに、俺がそう思ってしまうぐらいに。

 目の前の少女は。

 

 

「あげ……は……」

 

 

 まるで揚羽と、瓜二つであったのだから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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