IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

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重なる記憶

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みに突入し、生徒の半数以上が帰省しているIS学園。

 人気の無いその敷地内を、肩を並べて歩く2人の男女が居た。

 

 

「……あ……ありが、とう……本、運んでくれて……」

「……あぁ」

 

 

 白い制服を着た、水色の髪の女子生徒。

 黒い制服を着た、赤色の髪の男子生徒。

 男子生徒は1冊1冊が電話帳の様に分厚い本を10冊近く抱えているにも拘らず、軽々とした足取りであった。

 

 

「何故台車を使わなかった。これだけの重量、女の腕力では無理がある」

「……忘れて、たの」

「そうか」

 

 

 申し訳無さそうにしながら、男子生徒……久々津の横を歩く少女。

 彼女の名は、更識簪。あの更識楯無の妹であった。

 

 

「…………」

 

 

 前も見えなくなるほど大量の本を抱え、歩いていた彼女にぶつかった久々津。

 彼は呆然としつつも簪を助け起こして、ぶつかってごめんなさいと頭を下げ、再び本を抱えて運ぼうとしていた彼女のそれを半ば無理やりに奪い取り、何処まで行くのかと尋ねた。

 簪は渋ったが、やはり自分では持って行けそうにないと認めたのか、消え入りそうな声で「IS整備室」と呟き……そして今に至る。

 

 

「(何をしてるんだ、俺は……)」

 

 

 久々津は、己のとった行動を後悔していた。

 別に助け起こす必要も無ければ、こうして本を運んでやる必要も無かった。

 適当に怒鳴り、舌打ちでもして立ち去れば良かったのだ。

 なのに余りにも揚羽に似過ぎている彼女を見て気が動転し、つい手を貸してしまった。

 

 だが、幾ら後悔しても後の祭りである。1度手を貸してしまった以上、途中でそれを投げ出すのは久々津の望むところでは無い。

 約束は、守るものなのだから。

 

 

「(とにかく、さっさとこれを運んでしまおう)」

 

 

 整備室まで行ってしまえば、最早付き合う義理も無い。

 そう考え、久々津は歩を早めようとするが。

 

 

「……あの……久々津、君?」

「なんだ」

 

 

 この上ないタイミングで、簪に声を掛けられる。

 

 

「やっぱり……自分でも、少し持つから……」

「ッ……要らん。よちよち歩かれる方が迷惑だ」

 

 

 口調はいつも通りの冷たいものだったが、彼の内心は穏やかでない。

 簪の声も、喋り方も、何もかも。

 楯無の妹である以上、当然血縁上の母にあたる揚羽の生き写しだったのだから。

 辛うじて表面上の冷静さを取り繕いつつ、久々津はなるべく簪を見ずに歩く。

 

 ……凝視してしまえば、今の状態さえ保てないと確信していた。

 

 

「悪いと思うのなら……今度から、台車か何かを使え。今回の様に、都合良く手伝う奴が居る事はあまり無い」

「うん……分かった。ありがとう」

「…………」

 

 

 その仄かな笑みは、揚羽そのものだった。

 

 久々津の体温が上昇し、髪がまた少し熱くなった。

 改造人間である彼は汗をかかず、その髪の毛で余分な体温を放熱する。

 彼の髪が異様に長いのはそれが理由であり、故にキメラにとって髪は急所でもあった。

 

 

「……どうしたの?」

「別に、何でも……」

 

 

 同様を悟られないように。

 彼は、淡々と歩を進めて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々津にとって苦行とも言えた数分を終え、2人はIS整備室の前で足を止める。

 

 

「ここでいいな……帰りはちゃんと台車を使え」

「うん……あの、ありが――」

「礼はもういい。ここに来るまで散々聞いた」

 

 

 そしてその度に、髪が少し熱くなった。

 

 

「……それじゃあな」

 ボロが出る前にこの場を後にするべく、久々津は踵を返す。

 だがその背に向けて、簪が呼びかけた。

 

 

「あ……ね、ねえ……久々津、君」

「なんだ」

 

 

 くるりと振り返る久々津。

 簪は気付かないが、彼の髪からはゆらゆらと微かに陽炎が立っており、常時に比べ体温がかなり上昇していることを示していた。

 

 

「……えっと……最後にひとつ……聞いて、いい?」

「構わんが……早くしろ」

 

 

 ああ、冷水を浴びたい。いっそ凍えるまで。

 久々津がパンクしそうな頭の中で、そんな事を思っていたら。

 

 

 

 

 

「どうして……制服、黒なの?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 結構な数の生徒が疑問に思いつつも、結局誰も聞けなかった不思議をあっさりと聞いてきた。

 更識簪、割と侮れない子である。

 

 

「……趣味だ」

 

 

 事実はただの趣味だった。

 

 

「その……似合って……ない、よ?」

「ぐはぁ!?」

 

 

 簪のひと言に、見事ノックアウトされる久々津。

 その場に膝をつき、胸の辺りを押さえている。

 そう。楯無にさえ出来なかった事を、簪はやってのけたのだ。

 

 ……それを彼女が自覚する事は、生涯無いだろうが。

 

 

「う、ううぅ……」

 

 

 ついでに言えば、別に似合っていない訳ではない。

 むしろ逆。けれど簪には、そう見えなかった。

 そして――

 

 

「……白の方が……似合うと、思うよ……?」

「……ッ!?」

 

 

 何気無いものであったろう、簪の言葉。

 その言葉に、久々津の時が止まった。

 

 ……それは。

 それと同じ事を、かつて。

 

 

 

 

 

『ねえ。やっぱり貴方には、白の方が似合うわ』

『そうか……?』

『うん、絶対そうよ』

 

 

 

 

 

 かつて、揚羽が……

 

 

「久々津君?」

「…………ぁ」

 

 

 放心していた久々津を、心配そうに簪が見ていた。

 彼はかぶりを振って立ち上がると、すっと簪から目を逸らして。

 

 

「……考えておく」

 

 

 どうにかこうにか言葉を絞り出して、逃げるように立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 

「へ? 制服白にしたの?」

「ああ、どう思う櫛寺」

「銀崎だっつの! ……ぶっちゃけ、無いわ」

「…………」

 

 

 数分後、全身を殴打されて半死半生の状態で廊下に転がっていた飛竜の姿が、生徒によって発見されたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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