久々津・オテサーネクが、更識簪と予期せぬ出会いを遂げて数日。
「おねーさん、参上!」
「帰れ」
たった数日で実家から戻ってきた
「おお、楯無会長! いつ戻ったんですか!?」
「ふふふ、今日よイャンクッ君」
「飛竜です!!」
……一生戻ってこなくて良かったんだが。
口に出すのも億劫な気持ちで、久々津はバカ2人を冷めた目で見据える。
「久し振りね久々津君。おねーさんと会えなくて寂しかった?」
「寝言は寝て言え、痴女」
「な!? わ、私のどこが痴女なのよ!」
「…………」
「そこで黙らないでよ!」
戻って来たばかりだと言うのに、やたらハイテンションな楯無。
飛竜も飛竜でいつもよりテンションが高く、正直久々津は相手にしたくない。
けれど毎度の事で楯無が付き纏って来て、その所為で飛竜まで付いてくる始末。
いっそ2人纏めてぶん殴って、気絶でもさせてやろうかと半ば本気で思った。
「ところで久々津君、制服白にしたのね。最初に見た時おねーさんびっくりしちゃった」
「……文句でもあるのか」
「どうして? 似合ってるじゃない」
黒も良かったけどと笑う楯無。
「…………」
多分こいつが先日の更識簪と同じ事を言っても、俺は制服の色を変えたりはしなかっただろう。
黒は気に入っていたし、他人に言われて改める気など毛頭無い。
けれど……揚羽と同じ顔で、同じ声で、同じ事を言われて。
その結果が
……情けない。
「けどどうして? IS学園は制服の規定が殆ど無いから、別に黒でも違反じゃなかったのに。イメチェン?」
「いや、教えてくんねーんですよこいつ」
真実などこいつ等に知られてたまるか。
それに以前、更識楯無は妹と不仲だみたいな事を
その話が事実なら、妹経由で姉に真相が行く事も無いだろう。
どうせ更識簪とはクラスも違うし、俺自身授業になど出ないのだから。
もう会う事も無い――
「……あ」
「ん? どうしたんスか楯無会長」
久々津が思案する中、ふと楯無が声を上げる。
「ご、ごめんなさい! ちょっとだけ匿って!」
「あ?」
「え、ちょ、どうしたんスか!?」
何故か慌てた様に、テーブルの下に隠れてしまった楯無。
そしてそのまま脚へしがみ付いてきたので、久々津は舌打ちして振り払おうとした。
だが。
「あ……久々津君」
「っ!?」
背後から聞こえた声に、その動きが止まる。
ギギギ、と壊れた人形の様な動きで首だけを振り返らせると、そこには。
「……更識」
もう会う事も無いだろうと思っていた少女が。
食事を終えた後だろうか、空の食器を盆に乗せていた簪が居た。
彼女はとてとてと久々津に歩み寄り、その格好に目を見遣る。
「……制服……白に、したんだ」
「あぁ……悪くは無い」
「うん。やっぱり……似合ってる」
「…………」
似合ってると言われた瞬間、久々津の髪が熱くなる。
だが外見に取り立てて変化は無かった為、彼の異変に気付いた者は皆無――否。
「…………(じぃ〜)」
テーブルの下から、楯無がジト目で久々津を見ていた。
どういう事だ説明しろと、隠れている立場にも拘らず無言の抗議を送っている。
けれど割といっぱいいっぱいな久々津は、全く気付いていない。
「え、なになに!? 久々津、この子と知り合い!?」
「べ、別に知り合いって程でも……ある」
「あるんかい!」
久々津が『ない』と言おうとして、一瞬悲しげな表情を見せた簪。
故に彼は、反射的に180度真逆の事を言ってしまった。
「ふん。今日も整備室か?」
「……うん」
「ご苦労なことだ……重荷を運ぶ時はちゃんと台車を使えよ」
「うん……ありがとう」
「……礼など、言われる筋合いは……ない……」
尻すぼみな声で、ぼそぼそと言う久々津。
その後幾らか言葉を交わし、最後に手を振りながら簪は整備室へと向かって行った。
直後。
「どー言う事だ久々津この野郎! 簪さんと何故あんな親しげなんだ!」
「別に親しくは無い」
ぎゃあぎゃあと喚き立てる飛竜。
そしてずっとジト目だった楯無が、テーブルから這い出てくる。
心なしか、機嫌が悪そうであった。
「ふーん……そっかぁ、久々津君は簪ちゃんと仲がいいんだ」
「だから、別に親しくは――」
「嘘だっ! さっきの簪ちゃんの口振り、貴方が制服を白に変えた理由は簪ちゃんね!? さあ吐きなさい、簪ちゃんとはどんな関係!?」
「先日荷物運びを手伝っただけだ。何度も似たような事を言わせるな」
「荷物運びを手伝った!? お前が!?」
まるで宇宙人でも目にしたかの様な顔で、久々津を見る飛竜。
それもそうだ。普段の彼から考えれば、そんな事をするとは思えないのだから。
「……ずるい」
「はぁ?」
「ずるいずるいずるいずーるーいー! 久々津君だけ簪ちゃんとイチャイチャして!」
「意味が分からん……」
床に転がってじたじたし始めた楯無を見る久々津の目は、困惑の一色である。
と言うか下着が見えている。写メろうとした飛竜が蹴り飛ばされた。
「ガキかお前は。さっさと立て」
「うぅ……だってだって」
拗ねながらも、立ち上がる楯無。
「俺が何してようと俺の勝手だろうが。何でお前が怒る」
「……そうだけど」
続いた彼女の言葉は、如何な意味を持っていたのだろうか。
それは、久々津にも分からない。
そして今の彼には、分かろうとする気も無かった。
「そうだけど……なんか……つまんない」