夏休みと言う事もあり、雑多な賑わいを見せる町並み。
その中を軽快な足取りで歩く、私服姿の楯無が居た。
「♪♪♪」
鮮やかな水色の髪がきらきらと陽光を跳ね返し、絶えず人目を集める。
そして彼女の群を抜いた美貌に、男女問わず見惚れていた。
「ふふっ」
この上なく嬉しそうな笑みをこぼす楯無。
くるりとその場で1回転し、やや丈の短いスカートの裾が優しく舞う。
「おい見ろよ、ほら。すっげえ美人」
「どっかのモデルかな?」
雑踏から聞こえるそんな声は、しかし楯無には届いていない。
今、彼女の思考を埋めているのは、今日これからの事なのだから。
ちらと、腕時計の針を確かめる。
「(10時ちょうど位には着くわね……少し早く来すぎたかしら?)」
待ち合わせの時刻は10時半。30分も早く来てしまった。
だがそれも仕方ないと、楯無は思う。
何せ駄目元での誘いがOKされたのだ。急くなと言う方が無理。
……正直、絶対来てくれないと思っていた。
『プールか。塩水よりはマシだな、いいだろう』
ふと思い出す、昨日の彼の台詞。
これは多分奇跡に近い。そう巡っては来ない奇跡だ。
彼は私と一緒だと、いつも迷惑そうだから。
「…………」
きっと嫌われてるんだろう。
そもそも好かれる理由が無い。出会い自体は悪くなかったけどその後は最悪だったし、私自身も最初は彼を半ば敵扱いしてた。
だけど。
『訳が分からないって顔してるな。要するに、またチャンスをやるって言ってるんだ』
あの日、彼と初めて出会って。戦って、手も足も出せずに敗北した日。
お母さんへの手掛かりを得る事に必死で、退かなかった私に彼はチャンスをくれた。
その時の彼の顔を、私は決して忘れない。
ほんの少しだけ、笑っていて。
それでいてどこか泣きそうだった、彼の顔を。
「……ん」
私もバカじゃない。
彼がお母さんの事をひた隠しにする理由は、なんとなく見当がついている。
そしてそれが正しいのなら――
「……だから、それを」
今日、確かめよう。
勝負には勝っていないけれど、きっと彼は教えてくれる。
だってあの人は、皆が思っているよりも、そして多分彼自身が思っているよりも。
ずっとずっと、優しいのだから。
「…………」
確かめたい事は、もうひとつある。
そっちはまだ心の中で蓋をして、その時までしまっておこう。
「うんっ♪」
確認。それが今日の目的の半分。
ちなみに、もう半分は。
「久々津君の、し・ふ・く〜♪」
……彼の私服姿と水着姿だけど、文句あるの?
ジャスト10時に、待ち合わせ場所であるウォーターワールドのゲート前に到着した楯無。
するとそこには、既に久々津が居た。
「……来たか」
建物の壁に寄り掛かって目を閉じていた彼は、楯無が近付くと声を掛ける前にその双眸を開く。
流石気配に敏感だと、彼女が感心したのは言うまでも無い。
「……早いのね、久々津君」
「久し振りの外出だ。朝飯を外で食べていた」
普段何も言わないが、やはり外に出られないのは結構なストレスなのだろう。
久々津の声音がいつもより少しだけ機嫌良く、楯無はそれだけでも今日誘った甲斐があったと内心で喜ぶ。
「私服、素敵ね」
「……適当に買った安物だ」
紺のダメージジーンズと、薄手の黒い長袖シャツ。
シンプルだが、彼の細身と長い手足がマッチして、良く似合っている。
と言うか美形は何を着ても似合う。
「さ、行きましょう?」
「……あぁ」
微笑みかけ、顔を赤くしながら。楯無は久々津の手を取る。
彼は少しだけ眉間に皺を寄せ、酷く迷惑そうな様子だったが。
それでも、振り払おうとはしなかった。
「セシリア、よく聞きなさい。一夏は来ないわ」
「はい? ええと……なぜ? と言うか、どうして鈴さんが……?」
「今日、あたしとあんたがデートすんのよ!」
「え……ええ!? わ、わたくしは一夏さんに誘われてここに――」
「だから!そのチケットは元々あたしが用意したの! わかる!?」
久々津達が建物に入った少し後。
ゲート前で怒鳴りあっている、2人の少女が居たとか。