「俺はコーヒーにでもしよう」
「……じゃあ、私パフェ……期間限定のやつ……」
ファミレスのテーブル席に差し向かいで座り、メニューを見ながら言う2人。
……ウォーターワールドに居た筈の彼等が、何故こうしているのかと言えば。
「それにしても、まさかプールが半壊するとはな。流石に予想外だった」
「予想できる方が……どうかしてるわ……」
そう。2人がウォーターワールドで休みを満喫していた傍ら、ちょうど行われていた水上ペアタッグ障害物レースに参加していたセシリアと鈴が最後の最後で仲間割れ、ISまで持ち出した大喧嘩を始めたのだ。
それにより施設は一部崩壊。遊ぶどころの話では無くなってしまった。
奇跡の産物であるデートに水を差され、楯無は大いに落ち込み。
「あの2人……新学期は覚えてなさい……」
そしてかなり怒っていた。
「まあ、少し楽しかった」
「楽しかったの!?」
「騒動に巻き込まれるのは甚だ御免だが、見てる分には面白い」
クク、と冷たい笑みを浮かべる久々津。
楯無はどうしてこう捻くれた笑い方しか出来ないのかとも思ったが、珍しく彼が上機嫌だったのであえて何も言わない。
「……さて、注文をするか。そこの店員、オーダーを頼む」
「あ、はいっ」
久々津が近くを通りかかった店員を呼び止め、こちらに来させる。
すると。店員の方が、驚いた風に。
「え、あれっ? 久々津君!?」
「……ん? 誰だ」
金髪を後ろで括り、燕尾服に袖を通した中性的な少女。
けれど人の名前と顔を覚えない久々津には、一切の見覚えが無い。
小首を傾げていると、今度は左眼に眼帯をした銀髪メイドが寄って来た。
「どうしたシャルロット、クレーマーでも居たか」
「あ、ラウラ。いやそうじゃなくて、ほら」
「……む」
シャルロットの示す先を見たラウラが、若干顔を顰めた。
まあ久々津は楯無や簪、そして飛竜以外の生徒達からよく思われていないから、これも当然の反応と言えば当然である。
「誰かと思えばサボり魔か。何故ここに居る」
「……馴れ馴れしく話し掛けるな。誰だお前等」
険悪な空気を散らす2人。
間に入ったのは、楯無だった。
「誰ってほら、シャルロット・デュノアちゃんにラウラ・ボーデヴィッヒちゃんでしょ? 貴方と同じクラスで、専用機持ちの」
「……知らん」
「臨海学校の時にも、一応会ってるんだけどね……」
さっぱり記憶に無い。
久々津がIS学園の生徒で顔と名前を一致させている面々など、担任の織斑と副担任の山田、そして
腕組みをして記憶をさらっている彼をよそに、シャルロット達は楯無に目を向ける。
「えっと……それで、貴女は?」
「あは、おねーさんの名前は更識楯無。学園の2年生よ」
「やはり思い出せん」
ひらひらと手を振る久々津。
決して記憶力は悪くないのだが、興味の無い事は脳が覚えないらしい。
「とにかく注文だ。ブレンドをひとつと、期間限定パフェをひとつ。持ってきてくれ」
「あ、うん。ごめんね、デートの邪魔して」
伝票に注文を書きとめ、厨房へと去って行くシャルロット。
ラウラも最後に久々津をひと睨みして、接客に戻った。
「でもあの子達、どうしてバイトしてるのかしら?」
「知らん、どうでもいい、興味無い」
「ホント、辛辣ね……」
どうしてこう毒ばかり吐くのだろうか。
もう少し口調を優しくすれば、学園でもさぞやモテるだろうにと楯無は思う。
ああでも、それはそれで困る――
「(……どうして? どうして困るの?)」
ふとこぼれた感情が、自分でもいまいち理解できない。
こんな
頭の中を埋め尽くしそうになるそれを振り払い、楯無は考える。
「(……そうよね。考えてみれば、辛辣にもなるわよね)」
久々津は改造人間だ。
彼が如何な人生を送って来たか、楯無は知らない。けれどその道程は、きっと想像を絶するほどに辛いものだったろう。
そんな経験が、彼の優しさを心の奥底に閉じ込めてしまった。
だから辛辣になる。だから悪を演じる。
そんな生き方しか、彼は知らないのだろうから。
「…………」
ちょうどいい。今、確かめよう。
私の中で確かなものになりつつある真実の仮定を。
決意して、思考を言葉として口に出すために、息を吸い込んで――
「全員、動くんじゃねえ!」
この上ないタイミングで入って来た強盗達に、遮られた。