駅前のファミレス、@クルーズに押し入ってきた3人の強盗。
揃いも揃ってジャンパーにジーパン姿、顔には覆面、手には銃。
背中のバッグからは紙幣が覗き見え、まるで80年代のギャグ漫画辺りから飛び出して来たような風体の連中だった。
「『あー、犯人一味に告ぐ。君達は既に包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す――』」
「……なんか」
「……警察の対応も」
「……古……」
「その内『お母さんも泣いているぞ〜』とか泣き落としにかかりそうだな」
状況のあまりな古臭さに、人質である客の数名が呟く。
ちなみに最後のは、久々津の発言である。
「ど、どうしましょう兄貴! このままじゃ、俺達全員――」
「うろたえるんじゃねえっ! 焦る事はねえ、こっちには人質がいるんだ。強引な真似はできねえさ」
リーダー格であろう、体格のいい男がそう告げる。
その言葉で、逃げ腰だった他の2人も自信を取り戻した。
「へ、へへ、そうですよね。俺達には高い金払って手に入れたコイツがあるし」
強盗の1人が、硬い金属音を響かせてショットガンのポンプアクションを行う。
そして次の瞬間、威嚇射撃を天井に向けて放った。
「きゃあああっ!!」
「大人しくしてな! 俺達の言う事を聞けば殺しはしねえよ」
小気味良さそうに笑う強盗達。
その一方で、シャルロットは冷静に彼等の戦力を分析しており。
ラウラは既にそれを終え、制圧に向かおうとしていた傍ら。
「さて、また面白くなってきた。どうなるか見物だな」
「…………」
すっかり見物客気分の久々津と、俯いて何かを呟いている楯無。
そして――
「……久々津君……ちょっと待っててね」
「ん? ああ」
すっとテーブル席を立ち、ゆらゆらと楯無は歩いて行く。
向かう先には――強盗達が居た。
程無く彼女に気付いた強盗のリーダー格が、楯無に銃を向ける。
「なんだ、お前。大人しくしてろってのが聞こえなかったのか?」
「…………」
楯無は俯いたまま、何も喋らない。
後ろの方で、出遅れたラウラとシャルロットが、どうする気だと視線で訴えている。
久々津はと言えば、コーヒーを飲んでいた。
「おい、聞こえないのか!? まさか、日本語が通じねえのか?」
「……そんな訳無いじゃない」
「だったらさっさと床にでも伏せて――」
リーダーの言葉を止めたのは、手下の男だった。
「まあまあ、いいじゃないッスか兄貴! どうせだからこの子を人質にしましょうよ! こんな可愛い子、滅多に居ませんし!」
「お前な……」
「お、俺も賛成!」
2人揃って笑う手下。
リーダーは、ひとつため息をついた後「まあいいか」と呟いた。
「確かに、逃げる時にも1人ぐらい連れて行った方がいいな。おいお前、こっちに来い」
「…………」
楯無に銃を向けたまま、手招きするリーダー。
……さて。今回の事で、彼等にとって最も不幸だった事とは何であろうか。
駅前のファミレスに立て篭もった所為で、すぐに警察に囲まれた事?
それとも、そのファミレスでたまたま生身で軍人とも戦えるIS国家代表候補生が、2人もバイトをしていた事?
どちらも否である。
「……よくも」
「あ?」
彼等にとって何よりも不幸だったのは。
「よくも、よくも――」
現役ロシア代表にして、IS学園の長たる生徒会長。
「よくも――邪魔して――くれたわね」
更識楯無を、怒らせてしまった事だろう。
「――へ?」
一瞬だった。
リーダーの拳銃が蹴り上げられ、楯無の手に収まり。
ガジャッ
バラバラに分解され、床に部品が散らばったのは。
「フィールド・ストリップ? ザ・ボスかよ」
ぼそりと久々津が呟く。
「ひ、ひいいっ!!」
ショットガンを持った男が、悲鳴を上げながらそれを楯無に向けるが。
「遅いのよ」
「ぐべっ!?」
7発。それも関節や鳩尾などの急所ばかりを殴打され、ついでにショットガンも分解される。
立ちながらも既に失神している男が倒れるのとほぼ同時に――
「がっ!?」
何時の間にか彼女が手に持っていた角砂糖を、残りの1人に投げつける。
それは男の眉間に命中し、途端に砕け散った。
角砂糖が爆散するほどの威力に耐え切れる筈も無く、男は倒れる。
「こ、この――」
最初に銃を蹴り上げられたリーダーが、懐から銃を抜く。
そしてその引き金を引こうとした刹那――
「往生際の悪い事だ」
「うぎゃあっ!?」
後ろに居た久々津に蹴り飛ばされ、リーダーは窓ガラスを突き破って外へと放り出された。
「あら、ありがとう。久々津君」
「別に……それよりさっさと逃げるぞ。警官に囲まれたら面倒だ」
「そうね、裏から行きましょう」
ざっと踵を返し、裏口へと向かう2人。
その背に、シャルロットとラウラが呼び掛けた。
「待って下さい! あ、貴方達は……いったい……」
「……何者だ?」
彼女等の問い掛けに少しだけ足を止め、楯無が振り返る。
その顔には、いつもの笑顔が浮かんでいた。
「私に関しては、その内分かると思うわよ?」
「……行くぞ」
颯爽と身を翻し、久々津と楯無は消えるかのように去って行く。
霧を纏った、魔女の魔法のように。