IS ただ、それだけを知りたい   作:カーテンコール

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守れなかったその生命

 

 

 

 

 

 

 

 かつて久々津には、仲間が居た。

 己自身より大切で愛おしい、家族の様な仲間が居た。

 

 言葉遣いは少々ぶっきらぼうだけれど、根は素直で女の子らしい『蜘蛛』。

 年の割に大人びていて、とても賢い子だった『蛇』。

 無口だけれど感情豊かで、好奇心旺盛な『蠍』。

 

 そして『揚羽』。

 久々津……蚣にとって、彼女達は宝だった。

 5人で過ごした幸福な日々。

 自分の寿命が尽きるその時まで、この幸せが続いて欲しい。

 

 ……けれど、彼のそんな願いは。

 

 

「蠍……蠍ッ!!」

 

 

 あまりに脆くあっさりと。崩れ去った。

 

 

「……むか、で」

「喋るな! 今手当てする!」

 

 

 何者かに襲撃を受け、半壊した研究施設。

 技術者や研究者はその殆どが死亡。生き残った者達も、重傷を負っていた。

 

 

「蠍……大丈夫だからな、蠍……」

 

 

 そしてその中には、愛しい家族。

 蠍の姿もあった。

 

 腹部に風穴が開けられ、生きているのが不思議なくらいの状態。

 それでも意識を保ち、蠍は蚣を見上げていた。

 

 

「……むかで……もう、いいよ……」

「良くなんかない! 絶対に助ける、絶対に……」

 

 

 けれど、内臓が欠けてしまっている彼女にしてやれる事など、せめて出血を止めるぐらいしか出来ず。

 刻一刻と冷たくなって行く蠍を抱きしめ、蚣は己の無力を呪った。

 

 

「畜生……畜生、畜生畜生!」

「蚣……」

「何がキメラだ! 何が最強の人間兵器だ! 家族1人救えないで……何が……」

 

 

 今この場には、蚣と蠍しか居ない。

 他の3人は襲撃の際散り散りとなり、行方さえ分からなかった。

 どうする事も出来ない。自分には、どうする事も。

 

 

「俺は……無力だ……!」

「……そんな事……ない。蚣は、ずっと……蠍達を、守ってくれたよ……」

「蠍……ッ!!」

 

 

 砕かんばかりの勢いで、床を殴りつける。

 感情の昂りで制御の利かなくなった眼が、金色になっていた。

 

 

「……蚣。ごめんね」

「……蠍……? 何で、何でお前が謝るんだ?」

 

 

 謝らなくてはならないのは、他の誰でも無い自分だと言うのに。

 空気が漏れるような幽かな声で、蠍は言葉を続ける。

 

 

「……あのね……蠍ね。揚羽が、嫌いだった」

「え……?」

 

 

 ぽろぽろと、涙をこぼして。

 揚羽が嫌いだったと、蠍は言った。

 

 

「大嫌いだった……蚣を横取りした揚羽が……殺したいくらい嫌いだった」

「……蠍」

「ごめんね……蚣は、揚羽が好きなのに……ごめんね……」

 

 

 大好きな人が好きな人を、好きになれなくてごめんなさい。

 自分の最期が近い事を悟っていた少女は、その心情を吐露する。

 

 このまま何も告げずに死にたくは、なかったのだ。

 

 

「大好きだよ……蚣……死んでも、ずっと……」

「蠍ッ!? 死ぬなんて言うな! お前が死んだら……俺は……ッ!」

 

 

 つう、と。蚣の金瞳から、雫が落ちる。

 そして――

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 突然の爆風。火が何かに引火したのだろう。

 近過ぎたそれに、蚣は吹き飛ばされた。

 

 

「チィッ……!? 蠍!? 蠍!!」

 

 

 すぐさま起き上がり、蠍の名を叫ぶ。

 けれど、その声に返答は無く。

 

 

「蠍ッ! さそ……り――」

 

 

 黒煙が晴れ、蚣が見たものは。

 

 

 

 

 

 爆発をまともに受け、原形を失いバラバラとなった蠍の亡骸だった。

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――ッ!!!?」

 

 

 全身から血の気が引く。

 一瞬前までその腕に抱いていた蠍の温もりが、失われる様だった。

 

 蚣の視界が、赫く染まる。

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああ――――ッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 喉を引き裂くような、蚣の悲鳴。

 それは何処までも響き渡り、止む事さえ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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